「あの日 あの時 世界の街角で」バカブンド -5ページ目

「あの日 あの時 世界の街角で」バカブンド

ブラジル移民から世界放浪 若い頃にフラッシュバック
消せないアルバムの話。

冬の始まりの草津、朝と夜は可成り寒い。

 

この街に来て数ヶ月過ぎた「温泉はいいけど 狭い街だ」

 

働いているホテルには、色々な人達が流れ着く。

 

訳ありの人種は過去を話さない「昔話は聞いても嘘が殆ど」

 

東京からの派遣で来た俺は、期間限定の仕事で気楽だが「朝が早いのがきつい」

 

夜は仕事上がり早いので、温泉と酒の毎晩「その時の話が嘘と本当のてんこ盛り」

 

ある日、少し仲良くなった板前と昼飯時の事、見かけない若い中居が一人で食事してる。

 

板前の彼が「いい女だな なんか影あり気になる」「声かけてみたら」「え〜 ちょっとな」

 

「夜の酒飲みでも誘ったら」「行ってみますか」彼はそっとそばに近づいて行った。

 

「ダメ 全然話しならないよ、無視だよ」「ぶっきら棒に声かけたからじゃないの」

 

「じゃ行ってみてよ」「まっ その内ね」俺はそこまで興味が無いので、話の相槌程度。

 

何日だったか、通路で彼女とすれ違った時「お疲れ様」と言って来た「あっ お疲れ」と返した。

 

「どう仕事慣れた」「少しは慣れたけど 未だ疲れる」「その内慣れるよ 気楽にね」

 

「ありがとうございます」俺は背を向けて歩き始めた「もう仕事は上がりですか」

 

「そうだけど」「お茶しません」「えっ 俺と」「東京から来ているでしょ 私も同じ」

 

「どうして解るの」「言葉使いで解りますよ」湯畑のそばの店で待ち合わせる事になった。

 

板前の彼には黙って合う事にした「何か話したいのかな」

 

先に彼女が来ていた「中居の姿とは違い、若い女子って感じ」「ごめん 待った」

 

「うん〜ん 全然 寒いね」「そうだね 暖かい物食べようか」「お茶じゃなくてもいい」

 

「もちろんよ それと熱燗もね」結構気さくな感じでいい。

 

酒も進み、何となく過去話「東京でOLしていたの、失恋して流れて来た」

 

「何で俺に声かけたの」「食堂での話しが楽しいそうだから」「東京の人の方が話やすいので」

 

「中居さんの中にもいるでしょ」「ここの女は曲者だらけ だから怖い」

 

話も合うので時間が過ぎるのが早い「明日も朝が早いので帰ろ」「そうね帰ろうか 楽しかった」

 

「ねえ 又付き合ってもらってもいい」「いいけど 変に噂されても大丈夫」

 

「ここに真ともな人もいないから大丈夫、ねえ いつまで草津にいるの」「雪が降る前まで位かな」

 

「それまで よろしくお願いしてもいい」「何がよろしく?」「それは又次の時ね」

 

そんな感じで話し友達の様な時間が動き始めた。

 

草津で季節の変わり目を、彼女とドラマみたいな時間で迎える事になるとは。

万博の仕事が終わり帰国に。

 

途中ロスに寄り前泊「多くの連中は有名地観光に前日からそわそわだ」

 

「ロス観光はいらないな」「秋のベニスビーチでもうろつくか」

 

そんな俺の行動に気がついた女子がいた「私も暇な時間を観光には行かない」

 

「明日 どうするの?」「ベニスビーチに行って、太陽でも浴びる」「ふーん」

 

この女子は、ニューオリンズ万博で一緒の仕事仲間「見た目 ラテン風の女子」

 

何回か夜遅くまで飲んで事もあった「ちょっと乗りのいい女子だ」

 

「皆んなと観光に行かないの?」「私 昔ここロスに住んでいたの」「へ〜」

 

「じゃ 今更 観光はないね」「でも 皆んなを案内でもしたら」「面倒」

 

要は彼女は俺と時間を潰したいんだ「じゃ ベニスビーチにでも行く」「行く」

 

翌日 朝早くから海に向かった。カフェで小腹を満たし、ベニスビーチまでそぞろ歩く。

 

「二人でこんな所を歩いている私たち、どんな関係」「成田までの友達」「それでいい?」

 

「今はいいじゃない、楽しもう」秋のベニスビーチは未だ日が強い。

 

何組かのカップルが日焼けしている。彼女もビキニになったいる「スタイルいいね」

 

「成田で本当にいいの」「うん〜ん 」可愛い女子だ。

 

「お腹空いたね」「そろそろランチしようか」「シーフードがいいね」

 

ビバリーヒルズの小洒落た店でランチ。店のお客はセレブに見えた「いい店だね」

 

もう何時間も彼女といるのに話が尽きない「気楽に楽しい時間」

 

記憶は少し鮮明で、少しロマンチック「夜はどうするの」彼女が聞いてくる。

 

「美味しいご飯とワインで、アメリカの余韻を味合うかな」「私は?」

 

「成田までの友達か」「私、大人の雰囲気の店知ってるよ」「どうしたい」

 

「もちろん 一緒にいたいよ」睨む様な目の彼女が大人に見えた。

 

アメリカのラストナイトは、長い無駄話とワインで朝まで。

 

ニシシッピー川の河川敷を歩いた時の青草の香り、俺の記憶の香りは消えない。

暑い夏も少し和らいだローマ。

 

「秋には早いけど皆んなステキなる」イタリア人は季節感がいい。

 

仕事終わりの時「明日 なにか用事あります」「なければ 私に付き合ってもらってもいい」

 

「急にどうしたの 別にいいけど」「なんか変だな 今日でもいいけど」

 

「ダメ 明日じゃないと」「いつものコロッセオ近くのバールで待ってて」

 

「時間は10時でお願いします」気にする事なく了解した。

 

次の日は日曜日、朝から蝉が鳴いている「まだ暑いな」

 

バールでカフェフレッドを注文「もう10時か」

 

彼女がやって来た「私も同じ物飲もう 待ちました」「いや別に」

 

相変わらず可愛い服装だ「これからどうするの」

 

真面目な顔になって「コロッセオの周りを一緒に回って」「ええ〜 この暑いのに」

 

「その間 私がいいって言うまで声を出さないで」「それって何」

 

「守ってくれたら トレビの泉のお願い事を教えあげる」うなずいた。

 

何かあったなと感じながら歩き始めた。

 

一周が終わり二周目に入った時「あそこのベンチ座ろう」急に彼女が話した。

 

「もういいのかい」「実は私 日本に帰るの」「えっ そうなんだ」

 

「日本の彼が帰って欲しいみたいで」彼女の目を感じる。

 

「そーか よかったね」「本当にそう思ってる」「当たり前じゃない」

 

「トレビの泉のお願い事言うね」じっと彼女を見た「泣いている」

 

「このまま時間が止まれ いつもお願いしてた」「こんな楽しい時なかったもん」

 

「もっと早く会いたかったよ」胸の中で泣いている。

 

何も言えず青い空を見ていた「幸せになってね いや 幸せになれ」精一杯の一言。

 

あの日のコロッセオ、忘れられない時間と風はマイ アルバム。

 

「ローマ恋物語 今も心にある」