「あの日 あの時 世界の街角で」バカブンド -2ページ目

「あの日 あの時 世界の街角で」バカブンド

ブラジル移民から世界放浪 若い頃にフラッシュバック
消せないアルバムの話。

昨日のお酒が残ってる朝 ピン〜 ポ〜ン 

 

「こんな朝から誰だ」

「おはよう」「あっ おはよう どうしたの?」

「昨日はありがとう 楽しかった」

昨日の夜、遅くまで飲んで遊んだ女の子だ。

「コルネットを一緒に食べよう」

 

ローマの朝はコルネットにカプチーノ、昨日の話で時間が過ぎた。

 

彼女の住んでいる寮はすぐ側。少し昨日の余韻が戻る時間。

 

「あの時はどうしたの?」

「えっ 忘れた」「ずるいね」「昨日の夜の私は 別の私」

「日本の彼氏 思い出した?」

「ねえ 今はその話はいい」

「わかった。そうだ 俺はローマの友達の約束したんだ」

「そうだ 約束は守ってね」その時の彼女は俺の友達。

 

二人で部屋を出て散歩、近くにシルクマッシモがあり歩いた。

 

「ここは映画のベンハーを撮った所 知ってた」

「可愛い」思わず呟いた。

「ずるい」昼のローマはどこもカップルが多い」

「俺たち どう見えるかな」

「どう見えたい どうしたい」

「う〜ん 今ここじゃ言えないよ」彼女が手をつないで来た。

 

夏のローマは暑い。

 

若いカップルの様に話が尽きない「お昼しよう」

 

シルクマッシモ近くのトラットリアでランチ。

 

「これ恋だね 楽しい」

「ローマの恋 忘れないよ」

 

世界で見て来た夏色々。

 

「あの日のあの時の夏は特別」

 

蝉の声 西瓜の香り 青い空「ナストラアズーロを飲んで 会話あれこれ」

 

「不思議だな 一語一句がメロディ 会話は今も続いている」

俺のローマ恋物語。

皆んなテレビの前に釘付け、山荘に警察が鉄球をぶつけている。

 

赤軍派が立て篭り人質をとっている。

 

世の中が騒然としている時、俺はブラジル移民に向かった。

 

「特に大きな目標もなく、家にいるのが嫌だった」

「ラグビー強豪校で全国大会まで出て、大学も決まっていた」

「なのに親父が警察に捕まり、全てが終わった」

 

地獄の様な練習の毎日「全てが無駄な青春」

「俺だって赤軍派の様に暴れたい、俺の青春を返せ」

 

船に乗る時間が来た。荷物を持ちぞろぞろと乗船。

 

研修所での仲間が来ていた「頑張れよ」

「何が頑張れよだ」自分達は移民を挫折して行かないくせに。

 

ドラが出発の合図を鳴らす、遠くに親兄弟の顔が見える。

 

「頑張れよ 頑張れよ」親兄弟が叫んでいる。

「好きでブラジルに行くじゃない、大学に行って青春したかった」

親父の顔が憎らしく見えた「さよなら 当分会う事もない さよなら」

 

「船って中々出ない」ゆっくりと横浜港を移民船が出る。

 

「これからどうなるかな、俺の人生」

ガンガンガン! あの時のガラ音は今でも頭にある。

 

ブラジル丸は次の停泊する港にベレンに向かった。

 

そこはアマゾン川の河口にある港「研修所から一緒だった沢山の友達が降りていく」

「いやだな、行きたくない」どんどん船が進むが、気持は反対なっていく。

「着くな」弱虫な自分の気持ちとは関係なく、アマゾンに向かっている。

 

小雨の降る中、ベレンに着いた。

 

港が浅瀬の為に、沖にしか停泊出来ない港だ。

日本からずっと一緒だった仲間達は「ここでお別れ」

研修所で喧嘩した奴、ホノルルで一晩夜を明かした人、ハリウッドに一緒に行った人。

「皆ここで降りて行く」「寂しさが、胸一杯にこみ上げてきた」

 

タグボートのような船で、ピストン輸送で人を送って行いく。

「がんばれよ! 元気でな!」何度も何度も繰り返して怒鳴った。

 

全ての人が降りたら、船は無情に動き出した。

 

岸の向こうには、ジャングルの様な茂みが見える。

「降りた仲間達は、今日からこの未開発地との戦い」

「自分の目には、売られて行く様にしか見えない」

「どうして、移民なんかしようと思ったのかな」とてつもない不安が襲ってきた。

 

次の港がリオデジャネイロ。そして、最後の港がサントス。

 

そこで自分も降りる「本当に行くのがいやになって来た」

「でも、後には引けない、行くしかない」

 

アマゾンの地で降りた多くの仲間とは、ここ別れて以来会ったことがない。