その夜は暑く、いつもの様の洗濯物干し場に涼みに登った。
家の中で、俺の一番のお気に入りの所。
空の星は綺麗に見え、東京タワーも見えた。
一人で空を見ていると、皆から先生と呼ばれている人がここに登って来た。
「君も暑いのか」「うん」先生は、少し酒臭かった。
「勉強はしているか」「うん」俺はあまりこの人とは話したくなかった。
先生だっただけに、勉強の話が好きで色々と聞いてくる。
その時、もう一人上がって来た。「ケイゾウさんだ」
その日はお酒あまり飲んでいなくて、普通に先生と話しをした。
ケイゾウさんは、田舎の夏祭りの話をした。
田舎は東北の秋田で、夏祭りの楽しい思い出を語った。
するともう一人、鳶のケンちゃんも来た「狭い物干し場は結構いっぱいになった」
ケンちゃんは、物干し場の隣の屋根に座った。
「みんな他人だけど、この家で寝泊りしているので家族見たい」
「何も語らなくても話が通じる」
その時、下の方で声がした「そっちに行った」「反対に回れ」
物干し場から下を見ると、警察の人達が何人もいて騒いでいる。
俺は先生に「何かあったのかな」「ドロボーでも入ったじゃないか」
「怖いね」「大丈夫、ここには来ないから」
「何で」「この家じゃ盗む物もないし、ここの住民を見て逆に怖がるよ」
「家が貧乏だから、ドロボーも入らないのか」
他の人達から見れば、ここの住民は怖いおじさん達かもしれない。
そこへお父さんが来た「ここから、変な人間が見えなかったですか」
「皆、誰も見えなかったと答えた」お父さんは慌てて降りて行った。
入れ違いに人がきた「この人は、家に来て間もない人で名前もよく知らない」
「暑いですね、ドロボーが近所に入った見たいですよ」
先生は「そうなの」「世の中が貧しいから、そんな人間が出来る」
下の方で警察の人達の声が聞こえてきた「この辺のどこかに隠れている、捜せ」
すると、俺の隣に座っていた最近に来た人が「ヤベー」とつぶやいた。
さっと屋根に方に走り、隣の家の屋根からあっと言う間に下に降りて行った。
警官の人の声が「ここにいたぞ」笛がピーピーと鳴った。
「家の住民の人がドロボーだった」
今までいて話していた人がドロボーなんて、怖いようだけど何となく興奮した。
先生は落ち着いて「俺達にはなんにもしないよ、同じような境遇の人間だから」
お父さんが又来た「何にもなかったですか」「大丈夫」と先生が言った。
「彼がここに上って来た時、足の裏が真っ黒だったので、こいつがドロボーだとピーンきたよ」
すると、お父さんは「お前、いつまでも起きていないで寝なさい」
「明日になると、今夜のドロボーの話が学校でいっぱいだろうな」
友達から聞かれても「ドロボーは、家の住民とは言えない」
でも、ドロボーと捕まる前まで隣に座り、話していたと自慢したかった。
そうした長い夏の夜も、佐久間荘にはあった。
あの時の貧乏は「ドラマ見たいな昭和の裏舞台」