窓から見えた建設中の東京タワーの光 時代の夢を膨らませる様に夜空を照らしてた 窓越しの未来 | 「あの日 あの時 世界の街角で」バカブンド

「あの日 あの時 世界の街角で」バカブンド

ブラジル移民から世界放浪 若い頃にフラッシュバック
消せないアルバムの話。

その夜は暑く、いつもの様の洗濯物干し場に涼みに登った。

家の中で、俺の一番のお気に入りの所。

空の星は綺麗に見え、東京タワーも見えた。

 

一人で空を見ていると、皆から先生と呼ばれている人がここに登って来た。

「君も暑いのか」「うん」先生は、少し酒臭かった。

「勉強はしているか」「うん」俺はあまりこの人とは話したくなかった。

先生だっただけに、勉強の話が好きで色々と聞いてくる。

 

その時、もう一人上がって来た。「ケイゾウさんだ」

その日はお酒あまり飲んでいなくて、普通に先生と話しをした。

ケイゾウさんは、田舎の夏祭りの話をした。

田舎は東北の秋田で、夏祭りの楽しい思い出を語った。

 

するともう一人、鳶のケンちゃんも来た「狭い物干し場は結構いっぱいになった」

ケンちゃんは、物干し場の隣の屋根に座った。

 

「みんな他人だけど、この家で寝泊りしているので家族見たい」

「何も語らなくても話が通じる」

 

その時、下の方で声がした「そっちに行った」「反対に回れ」

物干し場から下を見ると、警察の人達が何人もいて騒いでいる。

俺は先生に「何かあったのかな」「ドロボーでも入ったじゃないか」

「怖いね」「大丈夫、ここには来ないから」

「何で」「この家じゃ盗む物もないし、ここの住民を見て逆に怖がるよ」

「家が貧乏だから、ドロボーも入らないのか」

他の人達から見れば、ここの住民は怖いおじさん達かもしれない。

 

そこへお父さんが来た「ここから、変な人間が見えなかったですか」

「皆、誰も見えなかったと答えた」お父さんは慌てて降りて行った。

 

入れ違いに人がきた「この人は、家に来て間もない人で名前もよく知らない」

「暑いですね、ドロボーが近所に入った見たいですよ」

先生は「そうなの」「世の中が貧しいから、そんな人間が出来る」

下の方で警察の人達の声が聞こえてきた「この辺のどこかに隠れている、捜せ」

すると、俺の隣に座っていた最近に来た人が「ヤベー」とつぶやいた。

さっと屋根に方に走り、隣の家の屋根からあっと言う間に下に降りて行った。

警官の人の声が「ここにいたぞ」笛がピーピーと鳴った。

「家の住民の人がドロボーだった」

 

今までいて話していた人がドロボーなんて、怖いようだけど何となく興奮した。

先生は落ち着いて「俺達にはなんにもしないよ、同じような境遇の人間だから」

 

お父さんが又来た「何にもなかったですか」「大丈夫」と先生が言った。

「彼がここに上って来た時、足の裏が真っ黒だったので、こいつがドロボーだとピーンきたよ」

すると、お父さんは「お前、いつまでも起きていないで寝なさい」

「明日になると、今夜のドロボーの話が学校でいっぱいだろうな」

友達から聞かれても「ドロボーは、家の住民とは言えない」

でも、ドロボーと捕まる前まで隣に座り、話していたと自慢したかった。

 

そうした長い夏の夜も、佐久間荘にはあった。

あの時の貧乏は「ドラマ見たいな昭和の裏舞台」