大人女子の恋愛小説 -3ページ目

【小説】Seesaw‐overlap1

***********


しのぶさんに一時間ほど前にメールして、喫茶店の窓際に陣取っていた。


コーヒーの香ばしい香りは、なんとも心が落ち着く。


ラックにあった小説は、古びたものが多かったけど、好きな作家の初期のものに惹かれて、久々、本の中にのめり込んだ。



コンコン。



ふと目線を上げると予想もしない人物。




“誰?”


可愛らしい感じのピンクワンピとウェーブヘア。


???


ん?あ…総務の?


記憶を手繰り寄せる。

親しげに手を振る彼女は



“そっちに行きます。”と勝手にジェスチャーして、入って来た。


「こんにちは。」


「こんにちは。君、確か総務の…」


「わぁ嬉しい。覚えていて下さったんですかぁ。そうです、若宮文香ですぅ。」


というと、彼女はあっさり前に座る。


おいおい。


こいつ…自分がどうすれば可愛く見えるか知ってるな。
クルクルしてる巻き髪を
弄りながら、上目遣いな若宮にイラッとする。

見え見えなのは、苦手だ。


「あのさ…。」


「どうして、中澤さんこんなとこにいらっしゃるんですかぁ?地味な駅なのにぃ。こんなとこで会えるなんて、運命かなぁ。」

知るか。こういうタイプには、はっきり言った方がいいな。


「いや、ここの駅は彼女の実家の近くなんだ。出掛けようと思って待ち合わせ。」


一瞬顔が曇ったが、すぐ笑顔になる若宮。

「やっぱり。そうですよねぇ。中澤さん素敵だから、彼女いらっしゃいますよねぇ。」


「あぁだから、悪いけど席外して貰えないかな?彼女に余計な心配掛けたくないんだ。」


「素敵!中澤さん、本当に彼女、大切にしてらっしゃるんですねぇ。」


ふと窓から視線を感じる。


そこには少し遠くから淋しそうに笑って、立ち止まるしのぶさんが居た。


***********



「妬いてんの?」



黙って吊り革に掴まるしのぶさんに、わざとおどけて声をかける。



「なにを?若宮さんと一緒だったこと?」

優しい声で口を開くしのぶさん。


「うん。さっきから黙ってるからさ。」


「そんなことないよ。」


ぎこちなく笑うしのぶさんの表情が、そんなことなくないって言ってる。


「本当に可愛い子だね、若宮さん。あたしが彼女にしたいくらい。中澤くん、もったいないよ。」


しのぶさんの強がりって分かってても、ちょっとイラッとした。



「そうかな。俺、ああいう見え見えなタイプ苦手だ。」

語気が強くなる。



それを分かってて諭すような、ゆったりとした口調で話すしのぶさん。


「好きな人に可愛く見られたいって思うのは、自然な事だよ。見え見えなのも可愛いじゃない。私はツボだわ。」


あ~ガキだ、俺。


「じゃ、俺も可愛くしようっと。」


「残念でした、女子限定。フフッ。」


「なんだよ、いいじゃん。」


やっといつもの調子に戻って、ホッとする俺。


気付かなかったんだ、まだこの時は。



***********

【小説】Seesaw‐sideしのぶ

***********



土曜日の電車。

下りの車内は人も疎らで、空気も清々しい。


実家を出た私はそれでも、年老いていく親を思うと遠くへは越せず、片道30分の場所を選んだ。



中澤くんと付き合うようになってからも、平日に帰ったりして、様子を見に行っていた。




その度に


「いい人いないの?」
「あんたもいい年なんだから、早く結婚しないと。」
「子供だけでも産んで頂戴。」


などなど、独身の女子への風当たりの強さを感じる日々だった。



“そろそろ、母さんに中澤くんのこと話そうかなぁ”


でも…


別に将来を約束したわけじゃないし…


変に期待させて、もし…ダメになったらね。



今までの経験を思い出して、後ろ向きな自分が顔を出す。


『しのぶさんと、ずっと一緒に居られたらいいのに。』

『早く一緒に暮らせるといいね。』



中澤くんのふとした言葉が、頭を過ぎる。


だからって、ちゃんとプロポーズしてもらった訳じゃないし。


別に彼がいい加減な人だという訳ではない。独りよがりにフライングしてはいけないのだ。


…止めとこう。


慌てない、慌てない。

どこか、落ち着いた気持ちで、電車を降りた。


***********

「やっぱり美味しいね、秋子おばちゃんの野菜。」


「随分、沢山持って行くのねぇ。」


「うん、最近自炊してるから助かるんだ。」



「食べさせてあげる人でも出来たの?」


「だといいけどね。残念ながら。」



「なにがいけないのかしらねぇ。」



ごめんね、母さん。
もう少し待って。



近所の話や、親戚の話を延々と話す母に相槌を打つ。


…これも親孝行だよね。




「じゃあね。」


「夕飯食べて行けばいいのに。」


「歯医者予約しちゃったから。また来るよ。」


嘘も方便?


「そう。気をつけてね。」



「うん、じゃあね。」



駅に向かって歩き出す。



携帯を開くと、中澤くんからメールが入ってる。


『駅前の喫茶店で待ってるよ。』


え?


えぇ!?


もう一時間も前だ。

私は嬉しさとともに駅へ急いだ。


***********

【小説】Seesaw‐side奏太

***********



なんとか終電に飛び乗った。


今週しんどかったなぁ。でも、これで来週から少し仕事も落ち着きそうだ。



都会の終電は週末を謳歌した酔っ払いと、仕事に疲れたサラリーマンがラッシュさながらに詰め込まれる。


窓際に立った俺は、ふと窓の外に目をやる。




ネオンの狭間の住宅らしき窓には、明かりがちらほら点いている。



“しのぶさん寝てるかな。”



寝ないとお肌に悪いとか言ってるけど。
本当は起きて居られないんだよなぁ、しのぶさん。



「フッ。」


やべっ。電車ん中でニヤケちった。



でも…そのお陰で、寝顔が見られるのは嬉しい。


親しくなって初めて知る恋人の意外な面。


“明日、起きたら電話しよう。”


そう思うと、深夜帰りも少し和らいだ。


***********




「あ~よく寝た。」



時計は11時を指している。


携帯にはメールが一件。



『おはよう!昨日は遅くまで仕事お疲れ様でした。ちょっと実家に行って来ます。夜には会えるかな?メール待ってるね。しのぶ』



なぁんだ。出掛けちゃったのかよ。



“声聞きたかったのに。”



夜まで待ってたら、すぐ襲いたくなっちゃうじゃんか。


“そうだ!”


俺は身支度を整えて、家を出た。



“実家の駅前で待ってたら、びっくりすんだろうな”




あの時は、あんな事になるなんて思いもしなかった…。


***********