【小説】Seesaw‐overlap1
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しのぶさんに一時間ほど前にメールして、喫茶店の窓際に陣取っていた。
コーヒーの香ばしい香りは、なんとも心が落ち着く。
ラックにあった小説は、古びたものが多かったけど、好きな作家の初期のものに惹かれて、久々、本の中にのめり込んだ。
コンコン。
ふと目線を上げると予想もしない人物。
“誰?”
可愛らしい感じのピンクワンピとウェーブヘア。
???
ん?あ…総務の?
記憶を手繰り寄せる。
親しげに手を振る彼女は
“そっちに行きます。”と勝手にジェスチャーして、入って来た。
「こんにちは。」
「こんにちは。君、確か総務の…」
「わぁ嬉しい。覚えていて下さったんですかぁ。そうです、若宮文香ですぅ。」
というと、彼女はあっさり前に座る。
おいおい。
こいつ…自分がどうすれば可愛く見えるか知ってるな。
クルクルしてる巻き髪を
弄りながら、上目遣いな若宮にイラッとする。
見え見えなのは、苦手だ。
「あのさ…。」
「どうして、中澤さんこんなとこにいらっしゃるんですかぁ?地味な駅なのにぃ。こんなとこで会えるなんて、運命かなぁ。」
知るか。こういうタイプには、はっきり言った方がいいな。
「いや、ここの駅は彼女の実家の近くなんだ。出掛けようと思って待ち合わせ。」
一瞬顔が曇ったが、すぐ笑顔になる若宮。
「やっぱり。そうですよねぇ。中澤さん素敵だから、彼女いらっしゃいますよねぇ。」
「あぁだから、悪いけど席外して貰えないかな?彼女に余計な心配掛けたくないんだ。」
「素敵!中澤さん、本当に彼女、大切にしてらっしゃるんですねぇ。」
ふと窓から視線を感じる。
そこには少し遠くから淋しそうに笑って、立ち止まるしのぶさんが居た。
***********
「妬いてんの?」
黙って吊り革に掴まるしのぶさんに、わざとおどけて声をかける。
「なにを?若宮さんと一緒だったこと?」
優しい声で口を開くしのぶさん。
「うん。さっきから黙ってるからさ。」
「そんなことないよ。」
ぎこちなく笑うしのぶさんの表情が、そんなことなくないって言ってる。
「本当に可愛い子だね、若宮さん。あたしが彼女にしたいくらい。中澤くん、もったいないよ。」
しのぶさんの強がりって分かってても、ちょっとイラッとした。
「そうかな。俺、ああいう見え見えなタイプ苦手だ。」
語気が強くなる。
それを分かってて諭すような、ゆったりとした口調で話すしのぶさん。
「好きな人に可愛く見られたいって思うのは、自然な事だよ。見え見えなのも可愛いじゃない。私はツボだわ。」
あ~ガキだ、俺。
「じゃ、俺も可愛くしようっと。」
「残念でした、女子限定。フフッ。」
「なんだよ、いいじゃん。」
やっといつもの調子に戻って、ホッとする俺。
気付かなかったんだ、まだこの時は。
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しのぶさんに一時間ほど前にメールして、喫茶店の窓際に陣取っていた。
コーヒーの香ばしい香りは、なんとも心が落ち着く。
ラックにあった小説は、古びたものが多かったけど、好きな作家の初期のものに惹かれて、久々、本の中にのめり込んだ。
コンコン。
ふと目線を上げると予想もしない人物。
“誰?”
可愛らしい感じのピンクワンピとウェーブヘア。
???
ん?あ…総務の?
記憶を手繰り寄せる。
親しげに手を振る彼女は
“そっちに行きます。”と勝手にジェスチャーして、入って来た。
「こんにちは。」
「こんにちは。君、確か総務の…」
「わぁ嬉しい。覚えていて下さったんですかぁ。そうです、若宮文香ですぅ。」
というと、彼女はあっさり前に座る。
おいおい。
こいつ…自分がどうすれば可愛く見えるか知ってるな。
クルクルしてる巻き髪を
弄りながら、上目遣いな若宮にイラッとする。
見え見えなのは、苦手だ。
「あのさ…。」
「どうして、中澤さんこんなとこにいらっしゃるんですかぁ?地味な駅なのにぃ。こんなとこで会えるなんて、運命かなぁ。」
知るか。こういうタイプには、はっきり言った方がいいな。
「いや、ここの駅は彼女の実家の近くなんだ。出掛けようと思って待ち合わせ。」
一瞬顔が曇ったが、すぐ笑顔になる若宮。
「やっぱり。そうですよねぇ。中澤さん素敵だから、彼女いらっしゃいますよねぇ。」
「あぁだから、悪いけど席外して貰えないかな?彼女に余計な心配掛けたくないんだ。」
「素敵!中澤さん、本当に彼女、大切にしてらっしゃるんですねぇ。」
ふと窓から視線を感じる。
そこには少し遠くから淋しそうに笑って、立ち止まるしのぶさんが居た。
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「妬いてんの?」
黙って吊り革に掴まるしのぶさんに、わざとおどけて声をかける。
「なにを?若宮さんと一緒だったこと?」
優しい声で口を開くしのぶさん。
「うん。さっきから黙ってるからさ。」
「そんなことないよ。」
ぎこちなく笑うしのぶさんの表情が、そんなことなくないって言ってる。
「本当に可愛い子だね、若宮さん。あたしが彼女にしたいくらい。中澤くん、もったいないよ。」
しのぶさんの強がりって分かってても、ちょっとイラッとした。
「そうかな。俺、ああいう見え見えなタイプ苦手だ。」
語気が強くなる。
それを分かってて諭すような、ゆったりとした口調で話すしのぶさん。
「好きな人に可愛く見られたいって思うのは、自然な事だよ。見え見えなのも可愛いじゃない。私はツボだわ。」
あ~ガキだ、俺。
「じゃ、俺も可愛くしようっと。」
「残念でした、女子限定。フフッ。」
「なんだよ、いいじゃん。」
やっといつもの調子に戻って、ホッとする俺。
気付かなかったんだ、まだこの時は。
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【小説】Seesaw‐sideしのぶ
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土曜日の電車。
下りの車内は人も疎らで、空気も清々しい。
実家を出た私はそれでも、年老いていく親を思うと遠くへは越せず、片道30分の場所を選んだ。
中澤くんと付き合うようになってからも、平日に帰ったりして、様子を見に行っていた。
その度に
「いい人いないの?」
「あんたもいい年なんだから、早く結婚しないと。」
「子供だけでも産んで頂戴。」
などなど、独身の女子への風当たりの強さを感じる日々だった。
“そろそろ、母さんに中澤くんのこと話そうかなぁ”
でも…
別に将来を約束したわけじゃないし…
変に期待させて、もし…ダメになったらね。
今までの経験を思い出して、後ろ向きな自分が顔を出す。
『しのぶさんと、ずっと一緒に居られたらいいのに。』
『早く一緒に暮らせるといいね。』
中澤くんのふとした言葉が、頭を過ぎる。
だからって、ちゃんとプロポーズしてもらった訳じゃないし。
別に彼がいい加減な人だという訳ではない。独りよがりにフライングしてはいけないのだ。
…止めとこう。
慌てない、慌てない。
どこか、落ち着いた気持ちで、電車を降りた。
***********
「やっぱり美味しいね、秋子おばちゃんの野菜。」
「随分、沢山持って行くのねぇ。」
「うん、最近自炊してるから助かるんだ。」
「食べさせてあげる人でも出来たの?」
「だといいけどね。残念ながら。」
「なにがいけないのかしらねぇ。」
ごめんね、母さん。
もう少し待って。
近所の話や、親戚の話を延々と話す母に相槌を打つ。
…これも親孝行だよね。
「じゃあね。」
「夕飯食べて行けばいいのに。」
「歯医者予約しちゃったから。また来るよ。」
嘘も方便?
「そう。気をつけてね。」
「うん、じゃあね。」
駅に向かって歩き出す。
携帯を開くと、中澤くんからメールが入ってる。
『駅前の喫茶店で待ってるよ。』
え?
えぇ!?
もう一時間も前だ。
私は嬉しさとともに駅へ急いだ。
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土曜日の電車。
下りの車内は人も疎らで、空気も清々しい。
実家を出た私はそれでも、年老いていく親を思うと遠くへは越せず、片道30分の場所を選んだ。
中澤くんと付き合うようになってからも、平日に帰ったりして、様子を見に行っていた。
その度に
「いい人いないの?」
「あんたもいい年なんだから、早く結婚しないと。」
「子供だけでも産んで頂戴。」
などなど、独身の女子への風当たりの強さを感じる日々だった。
“そろそろ、母さんに中澤くんのこと話そうかなぁ”
でも…
別に将来を約束したわけじゃないし…
変に期待させて、もし…ダメになったらね。
今までの経験を思い出して、後ろ向きな自分が顔を出す。
『しのぶさんと、ずっと一緒に居られたらいいのに。』
『早く一緒に暮らせるといいね。』
中澤くんのふとした言葉が、頭を過ぎる。
だからって、ちゃんとプロポーズしてもらった訳じゃないし。
別に彼がいい加減な人だという訳ではない。独りよがりにフライングしてはいけないのだ。
…止めとこう。
慌てない、慌てない。
どこか、落ち着いた気持ちで、電車を降りた。
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「やっぱり美味しいね、秋子おばちゃんの野菜。」
「随分、沢山持って行くのねぇ。」
「うん、最近自炊してるから助かるんだ。」
「食べさせてあげる人でも出来たの?」
「だといいけどね。残念ながら。」
「なにがいけないのかしらねぇ。」
ごめんね、母さん。
もう少し待って。
近所の話や、親戚の話を延々と話す母に相槌を打つ。
…これも親孝行だよね。
「じゃあね。」
「夕飯食べて行けばいいのに。」
「歯医者予約しちゃったから。また来るよ。」
嘘も方便?
「そう。気をつけてね。」
「うん、じゃあね。」
駅に向かって歩き出す。
携帯を開くと、中澤くんからメールが入ってる。
『駅前の喫茶店で待ってるよ。』
え?
えぇ!?
もう一時間も前だ。
私は嬉しさとともに駅へ急いだ。
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【小説】Seesaw‐side奏太
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なんとか終電に飛び乗った。
今週しんどかったなぁ。でも、これで来週から少し仕事も落ち着きそうだ。
都会の終電は週末を謳歌した酔っ払いと、仕事に疲れたサラリーマンがラッシュさながらに詰め込まれる。
窓際に立った俺は、ふと窓の外に目をやる。
ネオンの狭間の住宅らしき窓には、明かりがちらほら点いている。
“しのぶさん寝てるかな。”
寝ないとお肌に悪いとか言ってるけど。
本当は起きて居られないんだよなぁ、しのぶさん。
「フッ。」
やべっ。電車ん中でニヤケちった。
でも…そのお陰で、寝顔が見られるのは嬉しい。
親しくなって初めて知る恋人の意外な面。
“明日、起きたら電話しよう。”
そう思うと、深夜帰りも少し和らいだ。
***********
「あ~よく寝た。」
時計は11時を指している。
携帯にはメールが一件。
『おはよう!昨日は遅くまで仕事お疲れ様でした。ちょっと実家に行って来ます。夜には会えるかな?メール待ってるね。しのぶ』
なぁんだ。出掛けちゃったのかよ。
“声聞きたかったのに。”
夜まで待ってたら、すぐ襲いたくなっちゃうじゃんか。
“そうだ!”
俺は身支度を整えて、家を出た。
“実家の駅前で待ってたら、びっくりすんだろうな”
あの時は、あんな事になるなんて思いもしなかった…。
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なんとか終電に飛び乗った。
今週しんどかったなぁ。でも、これで来週から少し仕事も落ち着きそうだ。
都会の終電は週末を謳歌した酔っ払いと、仕事に疲れたサラリーマンがラッシュさながらに詰め込まれる。
窓際に立った俺は、ふと窓の外に目をやる。
ネオンの狭間の住宅らしき窓には、明かりがちらほら点いている。
“しのぶさん寝てるかな。”
寝ないとお肌に悪いとか言ってるけど。
本当は起きて居られないんだよなぁ、しのぶさん。
「フッ。」
やべっ。電車ん中でニヤケちった。
でも…そのお陰で、寝顔が見られるのは嬉しい。
親しくなって初めて知る恋人の意外な面。
“明日、起きたら電話しよう。”
そう思うと、深夜帰りも少し和らいだ。
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「あ~よく寝た。」
時計は11時を指している。
携帯にはメールが一件。
『おはよう!昨日は遅くまで仕事お疲れ様でした。ちょっと実家に行って来ます。夜には会えるかな?メール待ってるね。しのぶ』
なぁんだ。出掛けちゃったのかよ。
“声聞きたかったのに。”
夜まで待ってたら、すぐ襲いたくなっちゃうじゃんか。
“そうだ!”
俺は身支度を整えて、家を出た。
“実家の駅前で待ってたら、びっくりすんだろうな”
あの時は、あんな事になるなんて思いもしなかった…。
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