今年の甲子園はサウスポーの好投手が多い。


その中でも東邦高校の下平将一投手に注目している。

地方大会から知っていたわけではなかった。

8月11日の清峰対東邦を見て、そのピッチングスタイルに凄みを感じたのだ。


細身のサウスポー。

見た目はスタミナ豊富とは思えない。

しかし一試合を投げ切る体力、精密な制球力、多彩な変化球、そのひとつひとつに非凡さを感じさせる。

何よりピンチでの強気な攻めと冷静な投球――これが下平投手の真骨頂だろう。


バッテリーを組む山田祐輔捕手の存在も見逃せない。

投手の特徴をよく理解した配球、そしてもうひとつの魅力は打棒だ。

キャッチャーで一番を打つ選手は珍しい。

しかしその位置を任されている理由は、彼のバッティングを見ればすぐに納得できる。

先頭バッターホームランも期待できる長打力を秘めた力強い打球。


彼が初回に塁に出ることで東邦打線にスイッチが入る。

今年の東邦は打撃好調だ。

初戦は15得点、2回戦も5得点。

その起点となっているのが山田捕手のバッティングなのだ。


下平投手の話題に戻ろう。

……思い起こさせるのである。

二年前の夏、あの斉藤佑樹投手のクレバーなピッチングを。

ピンチに動じず、なおかつその場面で最高のボールを抛れる。


その精神力。

そして終盤になるほど、厳しいコースに制球できる力。

きっと彼は三振を取るとき、ボールを投げる前から、打者の空振りが見えているのである。

それはつまりイメージ通りの場所にボールをコントロールできる自信に因る。


今年の甲子園優勝候補として、東邦が静かに浮上し始めた気がする。

物心ついた頃、私は野球好きになった。
まずは中日ドラゴンズのファンになったのだが、プロ野球だけでなく、すぐに高校野球も好きになった。


小学4年生の夏、あの高校との出会いがあった。
校名にアルファベットが入っている。
当時はそれだけでどことなく違和感を憶えたものだ。
甲子園に似合わない。
日本の高校野球の聖地に黒船が姿を現した……そんな気さえした。
何故なのか。
それは憎いくらいに強かったからである。


PL学園、清原・桑田1年生の夏である。


それまで圧倒的な強さを誇っていた、水野の池田高校に準決勝で7-0の完封勝利。
決勝も三浦の横浜商業に3-0の完封勝ち。


他のどの高校も手も足も出なかった強豪に対し、一度もホームも踏ませない圧倒的な勝ちっぷり!
この甲子園の地で、いったい何が起こっているのか……そんな気持ちになった。


この年の私は準決勝では池田を、決勝では横浜商を応援していた。
どこかこのPLを止めてくれ!
そう願っていたのである。


だから細かな試合内容は憶えていない。
共に1年生である桑田のピッチング、清原のバッティングに注視していたわけではなかった。


しかしその2年後、彼らが3年の夏――私は絶対にPL学園に優勝してほしいと願っていた。
どこでどう変わったのか、ブラウン管を通し、相手として見ていたPL学園が、味方――応援する対象に180度変貌を遂げていた。
変わったのは彼らではない。私の見方が変わったのだ。


どこまでも野球に対し真摯で一生懸命、なおかつ強い!
そんなPL学園、清原・桑田に心を奪われたしまったのである。


この夏の決勝は決して楽な試合ではなかった。
PL学園と宇部商業、どちらに勝利の女神が微笑んでもおかしくない試合展開。
それでも僅差の勝負をサヨナラ勝ちで制したのはPL学園だった。


この瞬間が私の“甲子園のバイブル”になった。


 天は、持って生まれた才能を人に与えることがある。
 しかし才能だけでは大成できない範囲内で与えるのである。
 そこに努力を継続できる才能が加わり、はじめて実りとなる。
 自ら感動を得、人に感動を与えられる人間になる。


それを教えてくれた、桑田・清原の高校最後の夏だった。

199勝目をあげた山本昌投手に、落合監督は厳しい。

去年、今年と甘い言葉をかけたことはないんじゃないかな。

そういう態度に疑問を投げかけるファンも多いだろう。

これだけの貢献者、もっと配慮があってもいいのでは……と。


そこにはまた落合マジックが隠れている気がしてならない。

もちろん昌にはっぱをかける意味はあるだろう。

絶対に200勝させたいからこそ、このベテランに改めて野球の恐さを教えている。


でも山本昌であり立浪であり、この20年ドラゴンズを支えてきた男たちは、

それを一番肌で感じていて、理解もしている人間だ。

何よりこの二人の努力、野球に対する真っ直ぐで真摯な姿……。

それは中日ファンならずとも感じ取っているはずである。


この二人が驕ることはない。どこまでも謙虚だ。

では何故、落合監督がベテラン二人(井上選手も含めれば三人か)に対してここまで厳しいのか。

昌を二軍に落とし、和義をレギュラーから外し、一樹に開幕二軍を命ずる……。


それは、ここまで野球に真摯で手を抜かない選手にこそ厳しく接する監督の姿を若手に見せつけるためだ。


実績もある、経験もある、人間性も兼ね備えている――そんな彼らも野球の恐さからは逃れられない。

年齢から来る体力の衰えとは正面から対峙しなければならない。


自分に甘さを見せないベテランに監督がとことん厳しい目を向ける意味……。


それを見た若手が何かを感じ取らなければいけない。

もちろんそれは自分のために……。自分の選手寿命を一年でも伸ばすために。


実績・経験で大きく離されていて、努力でもベテランに負けていたら、若手がレギュラーを獲れるわけがない。

もちろん将来性では勝っているだろう。

でも二、三年のうちにレギュラーになれればいい――なんてことを考えていたら、ずっと二軍で燻ることになり兼ねない。

今年も来年だって新人が入ってくるのだから。


山本昌、立浪、井上に見せる監督の厳しい目は、その先にまで通じ、若手全員に向けられている。


堂上兄弟、森岡……。もうそろそろ大器の片鱗を見せても良い頃だ。

オリンピックの期間、彼らのうち誰が一軍に上がるのか。

最大のチャンスである。

一年間一軍で闘える体力を二軍の試合でつけ、夏のワンチャンスを活かす。

そういう意味で今年は若手にとって恵まれているのかもしれない。


そしてベテランに厳しい落合監督は、山本昌、立浪、井上にそれぞれの役割そしてチャンスを与えている。突き放しているように見えないこともない日々もあったが、見捨てることは決してない。

それはウッズに対しても。

中村紀にも彼の入団以来ずっと甘い目を見せてこなかった。

紀は中日で野球ができること(野球の考え方という面で)が本当に嬉しいそうだ。


開幕直後ヒットが出なかった和田は首位打者が射程の距離まで上がってきた。

井端のしぶとさ、怪我に負けない強さはドラゴンズでナンバーワンだろう。

レギュラー陣の中で最も謙虚――それは荒木だと思う。

ここ数年、僕の中で荒木選手の野球の取り組み方はじんじん肌に伝わってくる。

キャンプでの過ごし方、30歳を越えて尚とことん身体を苛め抜く、己の限界に挑戦する――やはりこの姿勢はすごい。荒木選手は野球人という枠を超え、どの業界でも通用する人間としての資質があると思う。彼のプレーから仕草から、人としていっぱい学びたい気持ちだ。

そして脂の乗り切った森野選手――オリンピックでも活躍してほしい。

投手の両輪、川上・岩瀬も同様に。

今日の草野球は弾けたぜ!

打撃は3タコ……全然ダメである。
しかしバッティングは水ものなのだ。
こんな日もあるさ。

その分、守備で頑張った。
相手の四番打者が放った強烈な一塁線のライナーを、
ファーストの僕が横っ跳びでダイビングキャッチ!

……実際には思ったほどは跳んでないだろう。
でも自分では一瞬、空中を浮いたつもりなのだ。

あとはイレギュラーのゴロも、ワンバウンドの送球も、
咽喉と肩と胸を駆使して全部止めた。
……一般的にそれを“下手”とも言う。
巧い選手なら全部グラブでさばくよ。

でも下手なりに後逸することなく、泥臭くもアウトにする。
下手でランナーも生かしちゃ、チームにとっても最悪なんだけど、
不恰好でもちゃんとアウトにすれば、それなりに役に立つのだ。

夏……俺の季節がやってきたか!
いや僕は夏男ではなく秋男だった。
まだ早い。まだ早いが、まいっか。。。
早朝、草野球を行う球場まで1時間の道のりを自転車で進む。
途中ちょうど幼稚園の通学時間に重なってしまい、
僕の進路を30人ほどの幼稚園生の集団が塞ぐ……。
ここでベルをちりんちりんと鳴らすのも可哀想なので徐行していたら、
その中の1人が「はい、ちょっと道空けて~」と前の集団に指示してくれたのだ。
思わず「いいよいいよ、ありがとう」と僕は言ったのだが、
みんなちゃんと左右に寄り、道を空けてくれた。

いやあ、こんな小さい子たちがここまで気遣ってくれるのか。
小さな親切にちょっと感動してしまった。
通り抜けるとき、僕は左の子にも右の子にも「ありがとう」を3、4回繰り返していた。
もちろん一番感謝したのは、声かけをしてくれたその子にである。

ちょっといい気分になり、そのままのテンションで球場に着く。
試合が始まる。
この日のうちのチームの打線は繋がるつながる!
なんと初回に8点も挙げてしまった。
僕も9番打者ながらセンター前タイムリーを打つことができ、
出だし上々だったのだが、そこでこんな壁が……。

大雨の球場

午後まで降らない予報だったのに試合開始と同時に降り始めた雨が、
単なる雨でなく、これでもかというくらいの土砂降りになり、
1回の表が終わった時点で中断――即座にノーゲームになってしまったのだ。
幻の8点、幻のタイムリーである。

雨に濡れる三塁ベース(遠影)  雨に濡れる三塁ベース(近影)

その後も雨は止む気配すら見せず、雷も鳴る中、帰りはまた1時間自転車を漕ぐはめに。
もう濡れるのなんて気にしない。ひたすら漕いだ。
そして家に着いた途端に晴れ間が……。
おいおい、それは出来過ぎだろう。オチつきかい!

とんだ雨男の悲劇だったが、いいこともあった。

ノーゲームになった後、審判員のおじさん(おじいさん?)もすぐには帰れず、
僕らのベンチで談笑が始まったのだ。
その人はなんと長嶋茂雄さんと同じ学年だったそうだ。
立教の長嶋に早稲田の選手として立ち向かったらしい。

そして審判マメ知識の講義が始まる。
日本と本場アメリカでのストライクゾーンの違い。
インフィールドフライを宣言するケース。
盗塁の生死を判定するベストポジションなどなど。
なかなか知り得ない貴重な情報を身振り手振りを交えながら熱演する。
また説明しているときの目が輝いているのだ。
少年時代、学生時代に帰っているようである。

我がチームの大勝を奪った恨めしい雨のおかげで、
野球四方山話をこの胸に刻むことができた。

人生だけじゃあない。野球も山あり谷あり。
今日はノーゲームじゃなくプラスマイナスが入り交じったドローなんだと思う。

雨男の感激は、悲劇となり、喜劇となり、刺激となった。