やはり不夜城的な怪しさ充満 ~歌舞伎町「上海小吃」の中国社会~
「B級グルメとはどんなモンなんですか?」
と良く聞かれる。
私の定義では
1.ただならぬ雰囲気を持つ店
2.インパクトの強い料理
3.怪しい店主
この3つの要素のどれかがあれば、「B級グルメ」と認定している。
もちろん、このすべてを兼ね備えた最強のB級グルメも存在しているわけで、
そんな店に巡り会えたときはなんともいえない感動があったりする。
歌舞伎町の小さな路地の入り組んだ場所にある「上海小吃」も、1のただならぬ雰囲気だけなら、界隈きっての店ではないだろうか。
私がこの店を訪れることになったのはいまから10数年前のことであるが、
その時の印象が未だに脳裏にこびりついている。
ただでさえ怪しい歌舞伎町…その中でさらなる怪しい小さな路地を入っていく…
何が起きても不思議ではなく、一般ピープルなら決して足を踏み入れないような場所である。
まさに上海の裏路地を彷彿させる雰囲気…おどろおどろしささえ感じるさびれ感がたまらない。
ただならぬ妖気が漂う中、「上海小吃」はようやくその姿を見せるのである。
(昼なお怪しい店の前。夜はもっと怪しい…)
店の前ではじゃぶじゃぶと食器を洗っている店員がいる…
この店は細長い4階建てのビルになっているが、おそらく洗い場のスペースがないのであろう…
店の前で食器を洗う風景なんかは観光客がほとんど訪れない上海の路地でよく見かける。
そして店のトレードマーク的存在となっている1組のカップル人形、中国で言うところの童男童女が入り口に鎮座ましましている。
店に入ると壁一面にメニューがベタベタと張られているのに驚く。
とにかく数が多い。聞いてみたところによるとざっと600種類ほどのメニューがあるとのことだった。
蛙なんてのはかわいい方で、蜂、うさぎ、豚の脳みそ、犬、はてはサソリの唐揚げなんてものもある。
中国でよく見かける酔っぱらいエビもあった。
(壁一面に並ぶメニュー。ようわからんです)
これは生きたエビを紹興酒に漬け込んだもので、中国では目の前で実演される。
ボールのに入ったエビの上からジャバジャバと紹興酒がかけられ、ふたを閉められる。
ボールの中で狂ったようにエビがバシャバシャと飛び回る姿はまさに断末魔のごとし。
あまりの狂気に見ているだけで痛々しい限りだが、なにごともなくその断末魔エビを食す人々もGREATそのものに映った。
今日は鍋物をいただくことにした。
ご存じ麻辣火鍋。激辛&スパイシーな2色のスープが入った鍋にいろいろしゃぶしゃぶして食べるという代物だ。
(なぜか、みな辛い方のスープをつけたがる)
料理を待っている間、ふと入り口でなにやら揉め事が起きている。
どうも予約をした団体が席がないと怒っているようだ。
確かに席は満席であった。
近年、いろいろな雑誌で取り上げるようになって一般ピーが恐れずに来るようになったみたいだが、
10数年前には考えられないことである。
と、さらに予約客がやってきて、席がないことに腹を立てて帰ってしまった。
うーむ、この店に予約なんかをいれても無駄、ということだ。
確かに食事は予約をしていくもの、などと思っている輩のが来るような雰囲気の店ではない。
予約がちゃんと取れてないと言って文句を言うなんてのはまさに論外。
雑誌に取り上げられたからといって、普通の店だと思ってもらっては困るのである。
さて、鍋物は牛、豚よりも羊が気分。
具は野菜、海鮮類、練り物などが多数あり、いろいろな具が楽しめる。
普通の人は白菜だとかネギだとかエビだとかイカだとかを注文することだろう。
さすれば美味な鍋が楽しめる。
が、メニューには珍しい具、というコーナーがあって、
スッポン1匹、牛のペニス、かえる1匹、豚の脳みそなんてものがある。
私はチャレンジャーではあるが、ちとこの具には考えてしまう。
見ると鮮中鮮鍋というものもあって、
それはすっぽん、上海蟹、蛙、田うなぎなどの特製鍋とあった。
これは見た目のインパクトが強烈だ。
B級グルメの2の用件も満たしている。
(この具の取り合わせは強烈だ。特にカエルが…)
なかなか美味な上海テイストの家庭料理が味わえる店だけに普通に使いたい店なのだが、
やはりこういう店には怪しさを一緒に堪能できる人間と来たい。
「わー、こういう雰囲気のお店、おもしろーい」とか「こういう店ってスノッブだよね? とか、わーきゃー&したり顔系の人間とは来たくない。
B級グルメを楽しむにはB級グルメに対する心構えを持った人間と来るに限るのである。
●「上海小吃」
東京都新宿区歌舞伎町1-3-10
電話:03-3232-5909
営業時間:18:00~5:00(月~土)
18:00~2:00(日・祝)
定休日:無休
変わりゆく百軒店商店街に残るおやじの味 ~渋谷「串徳」の哀愁~
私の愛してやまない百軒店商店街がやばい。
もう相当にやばい
なにがやばいかというと風俗店の巣窟と化してしまっているからだ。
「ムルギー」やら「名曲喫茶 ライオン」やら「喜楽」に行こうと思うとその道すがら必ず原色ベタベタな知能が低そうな風俗店の看板なんかを見なくてはならない。
正直、これはとても悲しい…いや激しく虚しい…
男の愚かな欲望を満たすためだけにこの素晴らしき百軒店が犯されるとは…
憎い、憎すぎる、風俗野郎なんてクソくらえだ!
みんな歌舞伎町に行っちまえ!
と、心から思ったりする。
京都の先斗町も風俗店に侵略されているが、こういう場所に男の欲望ギラギラの店を開かせておくなんて、世界中でも日本だけ何ではないかと思ったりする。
ホントにやめてください。
というわけで、最近、私は百軒店に行く道すがらは目をつぶって、バカ風俗案内を見過ごすように努めている。
これからウキウキする店に行くというのにレベルの低い風俗なんかに邪魔されたくない、という思いがある。
とはいっても、百軒店には太古の昔から「道頓堀劇場」というストリップ小屋があったりする。
私が高校生の頃(昭和の頃)はそれもまたドキドキする良い経験であった。
「オレはムルギー二行くんだもんね」という訳のわからない自己弁明をしながら、道頓堀劇場をチラ見したりなんかして、それはそれで素敵だったわけだ。
が、いまはヒドイ。
あの一帯だけ歌舞伎町化してしまっている。
その大きな原因は無料風俗案内所だ。
あれはウザイ。さらにキモイ。
あのいやーな派手さ加減にホント、気が滅入ります。
このままでは百軒店の素晴らしい店たちがにっちもさっちもいかない状態になるのではないかと本気で心配しているのです。
悪霊退散!
アホ風俗退散!(もちろん、道頓堀劇場は退散せんで結構です。ありゃ、ひとつの文化です)
前置きが甚だしく長くなりましたが、そんな百軒店の危機同様、別な意味で危機を迎えている百軒店の老舗へと行ってみた。
店の名前は「串徳」。
ここは百軒店ではそこそこ老舗に入る部類の店である。
もうかれこれ30数年の営業になるというが百軒店の歴史はさらに深い。
百軒店はその昔は渋谷の文化の中心地でもあった場所である。
戦後はいまの西武や109がある場所は焼け野原。
そこで、映画館やジャズ喫茶や百貨店やらがこぞって百軒店に移動してきた、と物の文献には記されている。
その頃にはムルギーもライオンも栄華を誇っていたに違いない。
いまや渋谷風俗の中心地。
嘆くしかないですな。
そんな陰鬱な気分をかみしめつつ、数少ない百軒店の生き残り、「串徳」へと出掛けてみた。
ここはB級というのにははばかられる串揚げの優良店である。
普通に美味である。
でもって、百軒店にあって落ち着く店である。
あのいまいましい風俗のあほネオンを忘れられるホッとできる店だでもある。
メニューはコースのみ。
客がSTOPをかけなければ延々と串が出されるタイプの店だ。
関東の串揚げ、関西の串カツ、B級テイストでは圧倒的に関西の勝利だが、なにかジャンジャン横町で串焼きを食べている気分にさせられる。
そう、百軒店はジャンジャン横町テイストを味わえる、数少ない東京の牙城であったのだ。
いまや風俗横町…
ジャンジャンはあいかわらずオヤジの牙城であるからして、うらやましい限りである。
まさか、あそこが風俗に染まることはないだろう。
一応、食べブログなので、味を解説をば。
今回は友人Tと二人で串を46本食べた。
1人23本、なかなかやります。
中でも変わり種をば紹介を。
(エビの姿が凛々しい一品)
エビはこの他にも2種類ほど出てきた。
(トマトの串揚げ。ジューシーです)
トマトの生っぽい感じがジューシーでいけます。
(最終盤にはモチが登場。腹にズシリと響きます)
モチはこの店のオリジナル。なんでも揚げ物になるのだなぁと感心します。
(〆にはバナナの串揚げ。串焼きにはない世界だ)
でもって、最後はバナナで〆。子供の頃に食べた焼きバナナをちと思い出して、懐かしくなった。
まぁ、こんな感じでいろいろな素材が味わえる。
なかなかに満足だ。
だが、私が言いたいのはこの店の行く末なんである。
ここのオヤジさんはガンコ者としてならしていた強者だ。
百軒店に店を構えて30数年…ガンコ一徹にやってきたわけだ。
が、そろそろ弱気になってきている。
寄る年波には勝てない、ってやつだ。
で、実は息子さんがいる。
かつては一緒に店で働いていた。
当時は、オヤジと息子の漫才のようなトークが大いにうけていた。
しかし、息子曰く「オヤジの傲慢さに我慢できなくなった」とのことで、息子は店を出て渋谷で別な店を始めてしまった。
これが数年前の話。
当初、オヤジは強気で「出て行きたい者は出て行けばいい」と言い放っていたが、
ここにきて弱気になってしまったのだ。
「できれば息子に戻って欲しい…」
そうでなければ串徳の灯は消えてしまうことになるのだという。
つまり、オヤジの気力が続かない、というわけですな。
なんとかこの店を息子に継いで欲しい。
しかし、息子もいまは自分の店があり、客もいる。
一度は仲違いして店を出たが、オヤジも串徳も見捨てるわけにはいかないと思い、いまでは週に数日、仕込みの手伝いをしに来ているという。
よかった、これで百軒店の灯は守られるかもしれない。
あとどれくらい風俗の侵攻をしのげるかはわからない。
でも、私の心の拠り所である百軒店の灯は決して消えて欲しくないと心から思っている。
●「串徳」
東京都渋谷区道玄坂2-21-3 サンエイトホテル1F
電話:03-3461-6669
営業時間:17:30~23:30
定休日:日曜・祭日
オムライスとオムレツライスは違うんである ~人形町「小春軒」のこだわりとは?~
この間、人形町界隈をプラプラと歩いていたら、やたらと妊婦の姿が目についた。
すぐそばにある水天宮に安産祈願に来た人々であろうが、
それがものすごい数なんである。
日本は本当に少子化に悩んでいるのか?
と疑問に思うくらいうじゃうじゃと妊婦様がいらっしゃる。
どうも今日は戌の日で、安産祈願にうってつけの日らしい。
この妊婦様たちほどではないが、あいもかわらず「玉ひで」の行列は凄まじい。
夏の暑いさなか、ゆうに1時間以上は並ぶであろう行列の最後方に並ぶ人間の気持ちがどうもいまひとつわからない。
おそらくはわざわざ遠征してきた人々なのであろう。
たとえ、どれだけ並ぼうが絶対に食べたい!という意欲に燃えた人だ。
きっと3時間待ちのビッグサンダーマウンテンの行列にだって並ぶことであろう。
私は大行列に並べる人というのは、強固な精神力の持ち主か何も考えていない人だと思っている。
30分くらいならまぁ、許容範囲だとしても1時間はとてもじゃないけど待てない。
これを逃したらもう二度と食べられないかもしれない、と思えば並ぶかもしれないが、
普通であれば次回にチャレンジ、ってなことで他の店を探す。
このときに、いかにいろんな引き出しを持ってるかが大事なんだなぁ、とつくづく思う。
他によい店がわからなければやはり行列に並ぶしかない、ってなことになってしまう。
幸い、人形町界隈には良い店が多く、店選びには苦労しない。
「玉ひで」のすぐ隣にある、洋食屋「小春軒」を訪れることにした。
この店は明治45年創業の界隈でも老舗の洋食屋である。
現在のご主人で4代目。
小春軒という名前も初代主人の小島種三郎氏と奥方の春さんの名前をあわせてつけたというほほえましい店でもある。
小春軒の歴史を記した額の中には「気取らず、美味しく」という小春軒のポリシーが掲げられている。
まさに「気取らず、美味しく」の素朴な料理がいろいろと並んでいる。
(ひっそりとした佇まいの小春軒)
本日はオムレツライスをオーダー。
が、ついいつものクセで「すんません、オムライス、お願いします」と言ってしまった。
するとすかさず4代目おかみさんに「ごめんなさい、うちにはオムライスないのよ」と言われた。
一瞬、「へ?」と思った。
「うちにはオムレツライスしかないの」と言われて、なーると納得。
「すみません、オムレツライス、お願いします」と言い直した。
ご存じのようにオムライスとは卵の中にご飯がくるまれている代物であり、オムレツライスはオムレツはオムレツ、ライスはライスと別々に出される。
カレーライスのカレールーが最初からかかっているか、それともアラジンと魔法のランプのような銀の器に入れられてくるかの違いなような物か…
いや、もっと違う料理だな、オムライスとオムレツライスは。
というくらいに違う料理であるからして、おかみさんの言うこともごもっとも。
出された料理はやはりオムレツとはまったく違う物であった。
(シンプルながら味わいのあるオムレツ)
オムレツのように味が付けられたライスとハヤシが掛かった卵を一緒に食べるのも良いが、
オムレツは純然たるオムレツとして食べるのも本来の味を堪能できてよい。
卵を切ったときに中からじゅわっと流れ出る具やら半生の卵なんかが良いのである。
このシンプルさ…いかに小春軒が素朴な洋食屋かがわかる。
まさに「気取らず、美味しく」なんだんぁ、と実感した。
(こちらも素朴なドンカツ)
毎日食べても飽きの来ない味…、
「玉ひで」のように大行列をしてまで食べたい、というインパクトはまったくない料理だが、
その分一度食べれば満足、というものではなく、ふとした時にまた食べたくなるタイプの料理だ。
B級料理とは無縁の存在ではあるが、「玉ひで」に大行列するよりも幸せになれるのではないかと思った次第である。
●「小春軒」
東京都中央区日本橋人形町1-7-
電話:03-3661-8830
営業時間:11:00~14:00、17:00~20:00 (月~金)
11:00~14:00(土)
定休日:日・祝日
東北道 ご当地ラーメンの旅 ~影の薄いご当地ラーメンを求めて~
お盆の時期、ちょいと東北方面へと出掛けてみる。
微妙に時期をずらしたおかげで行きも帰りもスイスイだったが、
東北道は渋滞の名所・矢板インターを抱えており、対向車線は大渋滞。
地獄のような行列が続いていた。
そんな中で憩いとなるのがサービスエリアの売店関係。
アメリカンドッグなんかは特に腹が減っていなくてもつい食いたくなってしまう。
で、最近はサービスエリアのメシが充実の一途をたどっており、土地土地の名物が人気を集めている。
ちなみに全国で一番人気があるのが、東名高速海老名SAのメロンパンである。
なんでも日に4000~5000個売れるらしい。
メロンパンねぇ…なんか高速だと気分じゃないですな。
二番人気が東北道佐野SAの佐野ラーメン。
影の薄いご当地ラーメンと言われる佐野ラーメンが2位とは驚きだが、メロンパンよりもラーメンの方が高速らしい。
というわけで、佐野SAに寄り道して、佐野ラーメンを食べてみた。
(このシンプルきわまりないラーメンが高速の2番人気)
そもそも佐野ラーメンとは新興のご当地ラーメンである。
昔から栃木県佐野市はラーメン屋が多かったらしいが、18年前に町おこし的に佐野ラーメンというブランドを確立したらしい。
青竹打ちという独特の麺製法で作られた麺に特徴があり、日本名水百選に選ばれた湧き水で作れたスープと相まって、味わい深い、となっているようだ。
さすがに高速SAの二番人気だけあってラーメン売り場には行列が出来ている。
どうやって客をさばくのかなと見ているとなんと1回に12杯分のラーメンを作っている。
ほほぉ、かなりの数をさばきますな。
しかし、盛りつけ担当1人ではノビノビのラーメンになるのも致し方なしか。
(ちょっと悲しいラーメンの作り方であったりする)
味はSAにしちゃまぁ良くできてる方か。
作り方からして期待していなかったが、「ほうこれが佐野ラーメンね」とわかるくらいの味であった。
しかし、自慢の青竹打ちの麺はノビノビでいまひとつ…つまりは影の薄いご当地ラーメンということなのだが。
気を取り直して、もう一つの東北の影の薄いご当地ラーメンを訪ねて福島県の白河へと。
ここにも白河ラーメンなるご当地ラーメンが存在している。
ここも那須連山の清流水をスープに使い、麺は手打ちの縮れ麺。
スタイル的には佐野ラーメンと似たものがある。
訪れたのは「田中屋」という老舗のラーメン屋。
手打ち麺にこだわるご主人がいる、とのことで訪れることにした。
福島県というとなんといっても喜多方ラーメンがあるだけに白河ラーメンの影は薄い。
町全体がラーメン村の喜多方に対して白河はシャビーだ。
そのシャビーさが味にもあらわれている。
なんというのかな…地味な喜多方ラーメン風、とでもいうのか
ま、これはこれでアリだと思うんですが、何か?
といった感じなのである。
(地味なご当地ラーメン THE白河)
味はまぁどうでもいいちゃどうでもいい。
なにせ影の薄いご当地ラーメンなのである。
微妙な美味さを狙っているのかもしれないが、記憶に残らないラーメンであることには間違いない。
全国ご当地ラーメンランキングなんてのがあったら、佐野と白河はいいライバルになるであろう、下位を争う部で。
しかし、田中屋のラーメンにもいいところがある。
チャーシューワンタン麺をオーダーしたのだが、ワンタンの出来がなかなかよかった。
ラーメンの味云々よりもワンタンが良かったなぁというのも影の薄いご当地ラーメンならではのものであろう。
(ワンタンは素敵な田中屋のラーメン)
ご当地ラーメンというからには、この影の薄いラーメンが白河の町のそこかしこにある。
バラエティ感やオリジナリティなんてのはほとんどない。
似たようなラーメンばかりがあるのみ。
「わざわざ食べには来ないよなぁ…」という影の薄い味だけにご当地ラーメンとしても細々と生きながらえていくことだろう。
ふと、影の薄いクラスメートを思い出した。
あぁいたいたあんなヤツ、でも名前なんだっけ…
そんな感じのご当地ラーメン。
きっと何十年かして「そういや、その昔、白河ラーメンとかいうの食べたっけなぁ…」と思い出すであろう。
しかしながら、あえて会いたいとは思わないのが彼らの存在感といえよう。
●「田中屋」
福島県白河市横町21
電話:0248-22-3054
営業時間: 11:00~14:00、15:30分~19:00
定休日:不定休
築地場内市場に漂うなんともいえぬピリピリ感 ~築地「豊ちゃん」のアタマライス~
築地という場所はいまだに緊張する数少ない場所である。
なにかプロの町、という気がして、素人風情がうろちょろするのは忍ばれたりする。
場外の昭和通りに面している店なんかはまだ入りやすかったりするが、
ちょっと1本裏通りにはいるとそこはまさに職人の世界。
THE築地な風景が続くことになる。
場外市場の迷路のような道をうねうねと歩いていると
いたるところでメシをかきこんでいる人々を見かける。
おおむねは市場関係者のような感じだが、中には私と同じ素人風もチラホラといる。
どの店も小さく、市場独特の猥雑な感じと活気に満ちている。
マグロ丼をはじめとする刺身丼を売りにした店が多く、だいたいが800~1000円くらい。
ボリュームもなかなかのもので、いかにも築地らしいランチである。
が、今回は場外よりさらに緊張度が増す場内へと行ってみる。
場外を奥へ奥へと進んでいくと築地市場の入り口が見える。
ここから向こうはホントのプロの世界。
勝手に入っちゃっていいのかと思うくらいピリピリとした雰囲気が漂っている。
で、訪れたのがこの店。
アタマライスで有名な「豊ちゃん」である。
(アタマライスで有名な豊ちゃん)
アタマライスとはカツ丼のカツの部分とゴハンの部分が別々に出されるもので、
なぜ別々に出すのか、なんのために別々に出すのかは不明だ。
きっとものすごい理由があるのだろう。
ちなみにカツの脂身が嫌いな人は「ないアタマ」、好きな人は「あるアタマ」と注文する。
豊ちゃんの呪文である。
(ジューシーなアタマ)
しかし、今回注文したのはオムハヤシライス。
ハヤシカレーの上にオムレツを乗せた、いかにも洋食屋らしいメニューだ。
ハヤシライスが食べられて、しかもオムレツも食べられる。
このお得感がなんともいえずに良い。
場内の食堂は場外の店よりもさらにせわしない感じがする。
ゆっくり味わって食べたりしている場合じゃない、
ガッツリと腹一杯食って、さっさと仕事に戻れ、ってな感じだろうか。
力仕事の現場ならではの食堂、といった感じだ。
(オムカレーもあるが、やはりハヤシが気分)
オムハヤシにはキャベツが添えられている。
このキャベツのシャキシャキ感を味わいながら、ハヤシとオムを掻き込むのがなんともいい。
特に朝の仕事がひけた市場関係者が集まる7時くらいの活気が素晴らしい。
この雰囲気の中で一仕事を終えたいかつい野郎共と一緒に食事をするのはなんとも緊張する。
素人風情がこんなところにまで入ってきてよ、と沈黙のうちに言われている気がひしひしと伝わってくる。
こんなプレッシャーの中でメシを食うなんて早々体験できるもんではない。
ピリピリメシ、とでもいうのだろうか。
かといって決して居心地が悪いわけではなく、楽しい食事の時間を十分すぎるほど堪能できる
ここに来るたびに「己もまだまだ未熟者だな」と感じる。
まだまだ世界は広く深いんである。
●「豊ちゃん」
東京都中央区築地5-2-1
東京中央卸売市場関連棟1号館
電話:03-3541-9062
営業時間:5:30~13:30
定休日:日・祭日、市場定休日
熱海に行ったら初島へ行こう ~初島のところてん食堂「山本」の夕陽~
悪あがき、とはこういうことを言うのであろうか?
一時期、友人Tと私はしばしば熱海の温泉に訪れていた。
豪勢な温泉宿に泊まって、うまい食事をし、温泉に浸かって日々の疲れをいやす…
なんてことをよくしていた。
(一番幸せな時間。それは瞬く間にすぎていく…)
でまぁ、着いた日はのんびりと酒でも飲んで過ごしているからいいが、問題は宴がはけた翌日である。
簡単に言うとすることがない、のである。
じゃ、さっさと帰ればいいじゃないか、と人は思うかもしれない。
しかし、温泉気分で幸せな気持ちが満たされているというのにこのまま帰るのはなんだなぁ…
みたいな気分が生じるのも確か。
そこで、我々は悪あがきをするのである。
まず旅館を出てから熱海の街をウロウロとする。
商店街でワサビソフトクリームを食べ、意味もなく海辺をぶらつき、時には海辺のプールで泳ぎ、
はたまた世界一短いという噂のあるロープーウェイに乗って、これまた世界一くだらないと噂の秘宝館に行ってみたり…
これを悪あがきといわずになんと言おうか。
その仕上げが初島詣で、なのである。
熱海港から観光船に乗って初島へは約30分。
潮風は心地よく、観光気分は盛り上がる。
そもそも初島とはバブル期には夢の島、と業界関係者に言われていた楽園であった。
会員制のリゾートホテル、エクシブ初島にはD通やらTV局やらの業界関係者が、おねえちゃん同伴で来るのにバッチリなロケーションであった。
そもそも小さな島で、これといったアミューズメントもなく、ダイビングをするか、ホテルに籠もってなにかひみつめいたモノをするか、しかなかったのである。
もちろん、業界関係者はホテルにお籠もりされて秘め事に従事されていたに違いない。
そういう意味で楽園であったわけだ。
聞くところによると朝食時のレストランは知り合いが多数いたりして、大変気まずいムードの中、黙々と食事をしていたらしい。
バブル崩壊後はそんな業界人も大幅に減少し、エクシブ初島も平穏な場所になっている。
平穏になりすぎてエクシブ初島に違和感さえ覚える。
なにせごく普通の小さな島なのである。
港に食堂が十数軒あるくらいで、観光スポットといえばうらぶれたアミューズメントらしきものがあるだけ。
ホントにダイビングくらいしかすることがない場所だ。
ちなみに島民は約150人で、ホテル関係者は200人くらいいるというのだから、ホテルに占領された島でもある。
よって我々も初島ですることはまったくない。
なんとなくブラリとして、結局、食堂でメシを食って酒を飲む、くらいである。
我々が愛用しているのが、港の右端にある「山本」という食堂。
ここなら出発間際の船に飛び乗ることが出来るので良いのである。
ほとんどの食堂はおかあさんが賄っている。
お父さんは漁業、おかあさんは食堂、でもって家族で民宿経営、というのがこの島のスタイルのようだ。
よってメニューはどこもかしこも似たり寄ったりなのであるが、店によって微妙にオリジナリティが反映されているようだ。
ちなみにどこの店にも「ところてん」が名物料理として存在している。
初島は自家製ところてんの名産地でもあるのだ。
毎年、ゴールデンウィークにはところてん祭りなどというものも開催されている。
刺身をつつき、ビールを飲みながら、短かった旅のことを思う。
友人Tはこうつぶやく
「青春だったなぁ……」
そんな感じでまたーりとした時間が過ぎていく。
平日の夕方、客はいつも我々しかいない。
漁港の刺身定食は美味だ。
(初島定食。刺身をつまみビールを飲めば至高の時間が)
(活アジ丼も新鮮で美味です)
サザエの刺身なんかも注文してみる。
夕陽は傾きかけ、最終便の出航時間が近づく。
友人Tはポツリと言う。
「泊まっちまおうか…」
「むむっ」と私は思う。
まだ悪あがきは終わっていないのかと。
しかし、冷静になって考える。
この小さな島でどのように夏の長い夜を過ごせというのだろうか。
エクシブ初島以外に民宿が何軒もあるが、民宿に素敵な温泉はない。
食事はいま食べている定食が出されるにちがいない。
居酒屋もなく部屋でおとなしく酒を飲むしかないのだ。
そこに考えが至って、「やはり無謀だな…」というところに考えが行き着く。
最終便の出航まであとわずか。
人々はみな乗り込んでいる。
我々は渋々、という感じで立ち上がり、船へと向かう。
これでいつものごとく熱海一泊ツアーが終わりを告げる…
そして熱海。
新幹線に乗り込む前に友人Tはやはりこうつぶやく。
「な、もう一泊してかない?」
我々の悪あがきは決して終わらないのである。
●「山本」
電話:0557-67-1490
夏の番外編 真夏のバーベキューは命懸け ~地獄の多摩川CUPの思い出 その3~
そんなわけで、数分間にもわたる怒濤の放尿を終えて会場に戻るとなにやら騒がしいことになっている。
どうも酔っぱらった男どもが川に飛び込んで泳いでいるらしい。
チラと川を見ると2,3人の男がパンツ一丁になって川の中腹に向かって歩を進めていた。
酔っぱらいが川にはいるとどういうことになるか?
私も大いなる酔っぱらいであったが、そんなことは考えなくてもわかる。
溺れる、だ。
川べりはそれほど流れが速くないが、川の中腹当たりは流れは速く、かなり深い。
「戻って来い!」
「危ないから戻ってきてー」
など怒号や悲鳴にも似た叫び声が響き渡る。
が、酔っぱらいのバカ共は一向に気にせず、チャプチャプと水遊びをして喜んでいる。
そのときだった!
一人のバカがついに流され始めた。
川の流れは速く、みるみるうちに下流へと流されていく。
流れに乗って泳いでいる、とはどう見ても見えず、あきらかにアップアップしながら流されているようだ。
「やべ」
そういうと傍らにいた友人Tが真っ先に川へ飛び込んでいった。
Tは幼少の頃より水泳には長けており、水の中では無敵を誇る強力スイマーである。
しかしだ。
Tも大いに酔っぱらっている。酔っぱらった分を考えると強力スイマーから標準スイマーくらいまでの格下げが必要だろう。
それでもTはもがくように泳いでいった。
そして我々の視界から消えた…というか下流にどんどんと流されていった。
これは本格的にヤバイ。
皆もそう思ったのか、比較的酔い度の低い者が軽く体操して何人かが救助に向かった。
私もこうしてはいられない。
さっきまで地獄のようにビールを飲んでいたことなど忘れ、服を脱ぎ去ると川へと向かった。
「おい、あんまり大勢で行っても流されるだけだぞ」と誰かが叫んでいたがもう遅い。
見ると2次遭難者も続出し始めた。
もうこなると収拾がつかなくなってくる。
私の中ではすっかり酔いが覚めていたので、川へと飛び込んだ。
が、ほどなく流され始めた。
「やっぱり流されるんだ…」
そんなことを思ったかもしれない。
一緒に流されていたヤツなぞは流されていることを楽しんでいるかのようだ。
そう、酔っぱらいにとっては恐れなどというものはない。
なんでもかんでも楽しんでしまうのだ。
そんなこんなで私は流された。
数百メートルは流されただろうか。
なんとか浅瀬にたどりつき命からがら生還できた。
そのあたりに先に流された者立ちも溜まっており、どうやら皆無事のようであった。
良かった良かった
そんなことを思いながら会場に戻ると案の定、場の空気は怪しい。
「なにやってんだよ」と怒る者もあれば「みんな無事なのか」と心配する者もいる。
しかし、この大人数では全員の安否を確認する術はない。
なんとなくみんないそうだ、ということで、このバカげた乱痴気騒ぎは尻すぼみな感じで幕を閉じた。
で、環八沿いにある「エル・アミーゴ」というメキシコ料理屋に移動して有志で二次会。
店に行くと「E気持ち」の故・O.H氏がたまたまいらっしゃった。
O氏と友人Tは「姉さん、事件です」でおなじみのドラマで競演していたとあって既知の仲。
気心しれた少人数での飲み会、ということもあり、和やかに場は進むはずであった。
そう、あのバカ男Mがリターンするまでは…
(いまだ健在の「エル・アミーゴ」。古さに磨きがかかってます)
またここでも焼きそば事件のバカ男Mがしゃしゃり出てくるのである。
「結局さ、あそこで川に飛び込んでいったやつらはバカだ、愚か者だね」とのたまいだしたのである。
私は数々のいきさつもあり、我慢の限界。
バカ男Mに向かって「あそこで助けにゆこうとすら思わなかった人間がとやかくいうんじゃねぇよ」と噛みついた。
するとどうだ、このバカ男Mは「あそこでは助けに行かない方が賢者で、飛び込んだヤツは愚か者。おまえは愚か者だ」とかシャーシャーと言うのである。
「殺す…」
その日何度目かの殺意が芽生えた。
こいつのエラそうな態度は昔から気にくわなかったが、これほど人に不愉快さをもたらすヤツもいないんじゃないかという思いもあって、世のためにもこのバカ男を成敗しなけりゃいかん気になった。
そもそもこのバカ男は人をムカツカせることに関しては天下一品。
とにかく、なんでもかんでも人を批判するのである。
人を批判する賢者がどこにいるというんだ、まったく。
私に言わせればそれすらわからぬバカ男、ということになるのだが。
結局、賢者・愚か者論争は店だけにとどまらず、友人Tの家にまで持ち越された。
時間は丑三つ時をとうに越えている。
それでもバカ男Mは「オレが賢者だ」と吠えている。
しかし、誰もそんなことは思っちゃいない。
そるとついに自称・賢者のバカ男Mはしびれを切らして私に手を出した。
私はただひたすらこのときを待っていった。
先にこのバカ男に手を出させて、結局暴力に走る愚か者だとみずから認めさせるのだと。
そして、遠慮なく袋だたきにしてくれようと。
さすがの友人Tも呆れたのか、このバカげた論争にいい加減怒りがわいてきたのか、
「殴り合いするなら表でやれ」とブチ切れた。
のぞむところよ、と私は即座に家を出た。
バカ男Mもしぶしぶ続いてくる。
深夜の道ばたは人影もない。
さぁ、おもいきり叩きのめしてくれるわい、と思ったそのときである。
「やっぱり、ケンカなんか愚か者のすることだから、やめない?」
と言い出しやがった。
「コ、コイツは…」
私は絶句をし、と同時にこんなバカ男をまともに相手にしたら本物の愚か者になっちまうなと感じた。
まったく煮ても焼いても食えない男とはこのバカ男Mのことを言うのであろう。
そして夜は明けた。
友人Tは真っ先に新聞を見た。
多摩川で溺死した人間の記事は出ていなかった。
私は安堵して帰路についた。
誰が賢者で誰が愚者であったのか、今となってはどうでもいい話だ。
バカ男Mはついに精神世界の方へ召されて、私はB級グルメを食べ続けている。
私は愚者でも一向にかまわないが、いろんなもんを食べられるのがこの上ない幸せである。
(終わり)
●「エル・アミーゴ」
東京都世田谷区上野毛1-3-7
電話:03-3701-1217
営業時間: 18:00~03:00 月~土
17:00~01:00 日・祝
定休日:年始
夏の番外編 真夏のバーベキューは命懸け ~地獄の多摩川CUPの思い出 その2~
そんなこんなで、いよいよ本日のメインイベントがやってきた。
本日のメインイベント…それは大告白大会、なんて甘っちょろいもんじゃない。
「史上最強のイッキ大会」
これが本日のメインイベントである。
D通関係の体育会出身者や業界のイッキ自慢の男どもが50人以上は参加しただろうか。
ルールは過酷を極めた。
全員で一斉にグラスビールをイッキをして、一番遅かった者が一人脱落していく、というものであった。
つまり優勝するには50杯以上もイッキ飲みをしなければならないのである。
しかも素早く、にである。
密かに私は自信があった。
数々の飲み会を制してきた実績と胃袋がモノを言うはずだと。
高校時代、応援部にいた私は下級生時代にイッキで鍛えられた。
体育会対抗イッキ大会では無敵を誇っていた。
大学時代には大ジョッキをわずか5秒で飲み、見る者のド肝を抜いてきた。
序盤は楽勝。
次々とヤサ男たちが脱落していく。
残り20人、既に酒量は5リットルを越えているだろうか…ここからが本当の戦いの始まりである。
虎視眈々と優勝を狙う猛者どもはライバルたちの動向に注目している。
既に周囲は暗く、かがり火の中での戦いになった。
審査員には友人Tの兄、二代目桃太郎侍氏や件のS氏などが厳しい目で見つめる。
グラスの中にビールが残っている、ビールをこぼしている、などが発覚したら即失格になる。
思えばこのときが一番苦しかった。
優勝までの道のりはまだ途方もなく長く、腹はすでにパンパンに張っている。
そもそもこの前にもだいぶビールを飲んでいた。
私はもうやめよう、ここで負けてもいいじゃないか、うんうんよくやったなどと相当弱気になっていた。
長いイッキ人生の中でもかなりの苦行であった。
もし、あそこで自ら負けを選んでいたらいまの私はなかったであろう。
くじけそうになった闘志を再び燃えたぎらせたのは、あのバカ男、Mが視界に入ったからである。
ヤツは「こんなもんに一生懸命になってバッカじゃねぇ」みたいな態度でへらへらと見ている。
「殺す…」
その一心だけでビールを飲み続けた。
気がつくと残り5人。
ここからはコンマ1秒の世界を争うF1の世界に突入する。
腹はたっぷんたっぷん、限界はとうに超えている感じだ。
そんなときだった。
おそろしいくらいの尿意がもよおしてきた。
なんだか3リットルくらいは雄に出そうな尿意である。
「早く終わらせたい…」
もう私の中にはMのことも優勝のことも頭になかった。
とにかくこのバカげた争いに終止符を打って、一刻も早く草むらに駆け込みたい、それしかなかった。
競走馬を見極める格言にこんなものがある。
レースの前にボロ(糞)をした馬は走らない
つまり、レース前にすることをしちゃったら安心しきちゃってがむしゃらに走らない。それとは逆にトイレを我慢している馬は一刻も早くすっきりしたいからレースではがむしゃらに走るのだと。
真偽のほどは眉唾ものだが、このときの私もトイレ我慢の底力が発揮されたのではないか。
もしかしたら、生まれて初めて限界を超えた瞬間かもしれない。
私は大方の予想を裏切って見事に優勝した。
女の子たちの注目を集めているかもしれない。
本来の目的だった合コンのヒーローになれるかもしれない。
しかし、そんなこたぁーどうでもよかった。
とにかく一刻も早く、一刻も早く、草むらへと駆け込みたかった。
私は優勝の挨拶もそこそこに川べりの茂みへと走った。
そして、私が大量の尿を放出した後で、その事件は起きたのである。
(再び続く)
夏の番外編 真夏のバーベキューは命懸け ~地獄の多摩川CUPの思い出 その1~
いまだ東京は梅雨明けしない鬱陶しい天気が続くが、夏本番間近、ということで思い出されるのが多摩川CUPの出来事である。
多摩川CUP…あんなアホみたいなイベントはもう2度とやらんだろうな…と思うくらい正気の沙汰とは思えない出来事であった。
いま思っても若いって素晴らしい…いや思いっきりアホだな、と思う。
これはアホなことに命をかけたバカ男どもの話である。
さて、話は15年くらい前に遡る。(思いっきり古い話でスンマセン)
世間はねるとんだとか合コンだとかで思いっきり盛り上がっている頃であった。
多摩川べりで生まれ育った友人Tとその隣に住むD通マン I 氏は考えた。
「多摩川で巨大合コンをやろうではないか」
D通 I 氏の顔の広さ、友人Tの業界関係者など来るわ来るわで様々な人種が100人近く詰めかけた。
川っぺりでの大宴会は飲めや歌えの大騒ぎ。
各地でバーベキュー職人が肉を焼いたり鉄板焼きをしたりと活躍している。
思えばここまでが平和な時間だったのかもしれない。
(平和な多摩川がこれから地獄絵図と化す)
これだけ大人数がいればちょっとした揉め事も起こる。
鉄板焼きでせっせせっせと焼きそば作りにいそしむS氏。
かれこれ30分近く味付けやら焼き具合やらに注意して作っていた。
周りにはその丹誠を込めて作られた焼きそばを待つ人々であふれかえっている。
「もうちょっと待って。最後の味付けが肝心なんだ」と言うS氏。
ソースやらスパイスやらを注意深く投入していく。
いよいよ完成間近、という段になって、酔っぱらったバカ男Mが乱入してきた。
「焼きそばなんてのは豪快な味付けが一番美味いんだ」とかなんとか言うとそのバカ男Mは飲んでいたビールをドバドバと焼きそばの上にかけてしまった。
「あっ…」
皆が凍り付いた。
ひたすら焼きそば作りに専念していたS氏も何が起こったかわからない様子だ。
そのバカ男は「これでうまくなるぞ」とか得意げになっている。
しばしの沈黙。
そして周りにもわかるくらいにフツフツと沸いているS氏の怒り…
私は思った。
「このバカ男は救いようのないだけでなく、命知らずの野郎だ」と。
S氏は香港映画で主役を務めるほどの肉体派アクションスター、そしてその横にはジムトレーナーも務める旧UWFのレフェリーW氏もいる。
彼らの顔が血走っている。
危険を察知した友人TがS氏をなだめに入る。
しかし、時すでに遅し。
「あいつを殺す…」
静かにS氏がつぶやく…
さすがのバカ男も周りのしらけた視線とただならぬ雰囲気を察したのか、
「なんだよ、せっかくうまくしてやったのによ」と捨て台詞を残し、そそくさと人混みに紛れてしまった。
私も殺す、とそう思った。
そしてそれはもっと後に実現することになる。
そう、生死をかけた地獄からの生還の後に…
(続く)
背脂チャッチャ系がどうにも好きなんである
どうにもこうにも背脂チャッチャ系ラーメンが好きだ。
スープに浮かぶ背脂の華…あの白い物体がたまらなく愛おしい。
特に酒がちょい残っている次の日なんかはたまらなく食べたくなる。
なので、ふとラーメンが食べたい、と思ったときはまず背脂チャッチャ系のラーメン屋を探す。
私の中での元祖は「香月」である。
初めて食したのが高校生の頃だから1980年代ということになろうか。
もちろんその頃、背脂チャッチャ系などというネーミングは存在しておらず、その白く浮かぶ物体が背脂である、と知ったのも随分、後になってからのように思う。
当時、我々の間ではスープの味付けの具として「喜楽」の焦がしネギ、「香月」のあぶら が2大巨頭であったことを思い出す。
そんなわけで、背脂チャッチャ系の店評論なんかをしてみよう。
「ラーメン山手」
(雪のように背脂が降り積もるラーメン)
ここはメニューに「雪」というのがあって、その字のごとく、背脂が雪のようにスープに降り積もっている。
背脂スープをこれほど的確に表現するメニューには感心する。
背脂チャッチャ系の中では比較的ライトな味、という気がする。
「らーめん潤」
(鬼脂が凄まじいワイルド派のラーメン)
新潟三条背脂系というジャンルに属する。
ここはなにがすごいかというと脂の量がすごい。
鬼脂というのがあって、これがドバドバっと背脂が浴びせかけられるようにかかった代物であったりする。
ちなみに鬼脂は「ギドギドなのに食べやすい」のが特徴らしい。
麺は極太、スープは魚介系。煮干しがかなりきいており、これが濃ゆ目の脂をさっぱりとさせているようだ。
ので、見た目ほど脂っぽくない。
どうせならもうどうしようもないくらいに脂まみれになりたいんだが…
「香月」
(脂多めで注文したらどろどろとしたスープになってしまった)
かってのグレートな味は見る影もないが、1年に1度くらいふと確認の意味で食べたくなる。
なんだか丼がだんだんと大きくなっていく気がするが、丼の大きさに味のインパクトが負ける感じだ。
在りし日の香月を思ってしずしずと食べるのみ。
背脂が大量に投入されたラーメンは、ドロドロとして最後の方は背脂でべっとり…ってなことになっている。
ちょっと胸焼けをすることも、のどがからからになることもある。
「背脂マシにしなけりゃよかったぜ…」と思うこともしばしばである。
それでもなぜか背脂チャッチャ系にひかれる。
なぜ、身体があのスープを欲するのか?
実のところ、自分でもよくわかっていない。
それこそがヤミツキというやつなのであろうか。
私のヤミツキ、それは背脂チャッチャ系ラーメンです。
●「ラーメン山手」
東京都渋谷区富ヶ谷2-21-7
電話:03-5453-7290
営業時間:11:30~翌3:00(月~土) 11:30~24:00(日)
定休日:無休
●「らーめん潤」
東京都大田区蒲田5-20-7
電話:03-5714-7255
営業時間:11:00~23:00(月~土) 11:00~21:00(日祝)
定休日:無休
●「香月」
東京都渋谷区恵比寿西1-10-8
電話:03-3496-6885
営業時間:10:00~6:00(月~土) 10:00~4:00(日)
定休日:無休