変わりゆく百軒店商店街に残るおやじの味 ~渋谷「串徳」の哀愁~
私の愛してやまない百軒店商店街がやばい。
もう相当にやばい
なにがやばいかというと風俗店の巣窟と化してしまっているからだ。
「ムルギー」やら「名曲喫茶 ライオン」やら「喜楽」に行こうと思うとその道すがら必ず原色ベタベタな知能が低そうな風俗店の看板なんかを見なくてはならない。
正直、これはとても悲しい…いや激しく虚しい…
男の愚かな欲望を満たすためだけにこの素晴らしき百軒店が犯されるとは…
憎い、憎すぎる、風俗野郎なんてクソくらえだ!
みんな歌舞伎町に行っちまえ!
と、心から思ったりする。
京都の先斗町も風俗店に侵略されているが、こういう場所に男の欲望ギラギラの店を開かせておくなんて、世界中でも日本だけ何ではないかと思ったりする。
ホントにやめてください。
というわけで、最近、私は百軒店に行く道すがらは目をつぶって、バカ風俗案内を見過ごすように努めている。
これからウキウキする店に行くというのにレベルの低い風俗なんかに邪魔されたくない、という思いがある。
とはいっても、百軒店には太古の昔から「道頓堀劇場」というストリップ小屋があったりする。
私が高校生の頃(昭和の頃)はそれもまたドキドキする良い経験であった。
「オレはムルギー二行くんだもんね」という訳のわからない自己弁明をしながら、道頓堀劇場をチラ見したりなんかして、それはそれで素敵だったわけだ。
が、いまはヒドイ。
あの一帯だけ歌舞伎町化してしまっている。
その大きな原因は無料風俗案内所だ。
あれはウザイ。さらにキモイ。
あのいやーな派手さ加減にホント、気が滅入ります。
このままでは百軒店の素晴らしい店たちがにっちもさっちもいかない状態になるのではないかと本気で心配しているのです。
悪霊退散!
アホ風俗退散!(もちろん、道頓堀劇場は退散せんで結構です。ありゃ、ひとつの文化です)
前置きが甚だしく長くなりましたが、そんな百軒店の危機同様、別な意味で危機を迎えている百軒店の老舗へと行ってみた。
店の名前は「串徳」。
ここは百軒店ではそこそこ老舗に入る部類の店である。
もうかれこれ30数年の営業になるというが百軒店の歴史はさらに深い。
百軒店はその昔は渋谷の文化の中心地でもあった場所である。
戦後はいまの西武や109がある場所は焼け野原。
そこで、映画館やジャズ喫茶や百貨店やらがこぞって百軒店に移動してきた、と物の文献には記されている。
その頃にはムルギーもライオンも栄華を誇っていたに違いない。
いまや渋谷風俗の中心地。
嘆くしかないですな。
そんな陰鬱な気分をかみしめつつ、数少ない百軒店の生き残り、「串徳」へと出掛けてみた。
ここはB級というのにははばかられる串揚げの優良店である。
普通に美味である。
でもって、百軒店にあって落ち着く店である。
あのいまいましい風俗のあほネオンを忘れられるホッとできる店だでもある。
メニューはコースのみ。
客がSTOPをかけなければ延々と串が出されるタイプの店だ。
関東の串揚げ、関西の串カツ、B級テイストでは圧倒的に関西の勝利だが、なにかジャンジャン横町で串焼きを食べている気分にさせられる。
そう、百軒店はジャンジャン横町テイストを味わえる、数少ない東京の牙城であったのだ。
いまや風俗横町…
ジャンジャンはあいかわらずオヤジの牙城であるからして、うらやましい限りである。
まさか、あそこが風俗に染まることはないだろう。
一応、食べブログなので、味を解説をば。
今回は友人Tと二人で串を46本食べた。
1人23本、なかなかやります。
中でも変わり種をば紹介を。
(エビの姿が凛々しい一品)
エビはこの他にも2種類ほど出てきた。
(トマトの串揚げ。ジューシーです)
トマトの生っぽい感じがジューシーでいけます。
(最終盤にはモチが登場。腹にズシリと響きます)
モチはこの店のオリジナル。なんでも揚げ物になるのだなぁと感心します。
(〆にはバナナの串揚げ。串焼きにはない世界だ)
でもって、最後はバナナで〆。子供の頃に食べた焼きバナナをちと思い出して、懐かしくなった。
まぁ、こんな感じでいろいろな素材が味わえる。
なかなかに満足だ。
だが、私が言いたいのはこの店の行く末なんである。
ここのオヤジさんはガンコ者としてならしていた強者だ。
百軒店に店を構えて30数年…ガンコ一徹にやってきたわけだ。
が、そろそろ弱気になってきている。
寄る年波には勝てない、ってやつだ。
で、実は息子さんがいる。
かつては一緒に店で働いていた。
当時は、オヤジと息子の漫才のようなトークが大いにうけていた。
しかし、息子曰く「オヤジの傲慢さに我慢できなくなった」とのことで、息子は店を出て渋谷で別な店を始めてしまった。
これが数年前の話。
当初、オヤジは強気で「出て行きたい者は出て行けばいい」と言い放っていたが、
ここにきて弱気になってしまったのだ。
「できれば息子に戻って欲しい…」
そうでなければ串徳の灯は消えてしまうことになるのだという。
つまり、オヤジの気力が続かない、というわけですな。
なんとかこの店を息子に継いで欲しい。
しかし、息子もいまは自分の店があり、客もいる。
一度は仲違いして店を出たが、オヤジも串徳も見捨てるわけにはいかないと思い、いまでは週に数日、仕込みの手伝いをしに来ているという。
よかった、これで百軒店の灯は守られるかもしれない。
あとどれくらい風俗の侵攻をしのげるかはわからない。
でも、私の心の拠り所である百軒店の灯は決して消えて欲しくないと心から思っている。
●「串徳」
東京都渋谷区道玄坂2-21-3 サンエイトホテル1F
電話:03-3461-6669
営業時間:17:30~23:30
定休日:日曜・祭日