エンジョイ立ち飲み 笑顔の絶えない陽気な酒場 ~渋谷「富士屋本店」はお気楽天国~
立ち飲み屋という場所に気軽に入れるようになったのはいつのことだろう?
10代で酒を飲み始めて以来、様々な飲み屋へ足を踏み入れた。
敷居の高い会員制割烹、ガンコ親父が仕切る店、競馬場付近の飲み屋…
それなりに緊張したり、おどおどしたこともあっただろうが、それも経験の一つ、とでも思っていたのではないだろうか。
ただどうしても入りにくい店というのがあった。
それが立ち飲み屋である。
若い身空ではどうにも居心地が悪く、場違いだという思いが強かったからだ。
それになにか怖い。
どんなに経験値を積んでも、立ち飲み屋だけは大人の聖域。
いつの日かは立ち飲み屋に、との思いを胸に抱いて生きてきたわけだ。
しかしながら、いつの間にか立ち飲み屋が怖くない場所になっていた。
これはちょっとしたカルチャーショックである。
たとえば、子供の頃、相撲の横綱というのはとてつもなく偉大な存在、と思っていた。
輪島に北の湖…
北の湖は嫌いだったが、輪島は贔屓。
黄金の左に一喜一憂していたのを思い出す。
それがである、気がつくといつの間にか自分が横綱よりも年齢が上になっていた。
貴乃花、若乃花の時代。
自分も大人になったんだなぁ、としみじみと思ったものである。
立ち飲み屋にすんなりと入れるようになった自分にも同じことを感じる。
「オレも大人になったんあだなぁ…また一つ階段を上ったなぁ」と。
そんなわけで、一人でふらりと立ち飲み屋なんかに行くことが増えたわけだが、中でも気に入ってるのが渋谷の「富士屋本店」。
ここは立ち飲み屋にありがちな閉鎖的な雰囲気がなく、オープンな感じで、一人でボッと過ごしていても結構、楽しめる。
(オープンで和やかな立ち飲み屋)
立ち飲み屋というとどうにもうらぶれた感の強いオヤジたちの巣窟、といったイメージがあるが、
ここ富士屋本店は、渋谷にありながら地元色が強いというか、多種多様な人々がいて人物観察をしているだけでも楽しめる。
まだ立ち飲み屋デビューしていない人はまずこの店から始めると気後れしなくてすむのではないだろうか。
なにせ広い。
そして、地下という立地のせいもあるのだろうが、渋谷の喧噪とは無関係で、なにかオヤジのための楽園的なムードにあふれている。
若者がいないだけでこんなに安心するようになるとはそりゃ、立ち飲み屋にも気後れしなくなるわけだな、とふと思ったりした。
メニューはほとんどが200円から300円台。
名物メニューはマグロの中落ちにハムカツ、ハムキャ別などなど…
ちなみにハムキャ別とはたっぷりの千切りキャベツの上にこれまたたぷりのハムを乗せたという一品で、量がかなりある。
(名物のマグロ中落ち。量も十分で安いっす)
面白いのは支払いシステムで、立ち飲み屋にありがちなキャッシュ・オン・デリバリーは普通にしても、
たいがいの客が1000円札を1枚ないし2枚にぎりしめている。
おつりをそのままテーブルの上に置いて、それを使い切ったら食べ飲み終了と決めているようだ。
ので、テーブルの上には硬貨がそこかしこで積まれている。
私の予算も今日は1000円。
この後、渋谷で友人たちと飲む予定なのでその前に軽く一杯、というわけだ。
立ち飲み屋の正しい使い方であろう。
生ビール(450円)、中落ち(350円)、ハムカツ(200円)の3品で締めて1000円という寸法だ。
(なぜか懐かしい味のするハムカツ)
さっと飲んでさっと立ち去っても良し、
仲間とまったり過ごしても良し、
立ち飲み屋には立ち飲み屋の人生が、
そして、オヤジどもにはオヤジどもの人生があるってもんだ
ねぇ、お客さん
と懐かしのモカ を思い出す。
オヤジの楽園が渋谷の地下にあるのである。
●「富士屋本店」
〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町2-3 B1F
電話:03-3461-2128
営業時間:17:00-21:30迄(21:00L.O)
定休日:日・祝・第4土曜
回転寿司サイト、オープンしました
最近、回転寿司関係の仕事がちょこちょことあったので、この際だからと回転寿司サイトを作ってみました。
名付けて「回転寿司PARADISE」。
回転寿司の歴史やら、愉しみ方やら、ネタ番付やら、ジャンル別ランキングやらいろいろとあります。
回転寿司屋選びの参考にしてみてください。
ちなみにサイトオープンに当たり、このところひたすら回転寿司ばかり食べてました。
感心するのもあれば、いただけないものもあり。
ラーメンとかだと味の好みというのがあって、個人的な美味い、まずいの評価で片付けられないところがありますが、回転寿司の場合だと良い店、悪い店、普通の店がかなり明らかになっているのかなと。
あとは安い店がいいか、種類豊富な店がいいか、少々高くてもいいネタが食べられた方がいいか、ファミリーで利用しやすい店がいいか…といった客側のニーズが大きなポイントになる。
そんなあたりを踏まえて、回転寿司のジャンルというのを作って、さらに店のランキングをしてみました。
ゆったりとした空間で飲みながらつまみたいという方には「高級志向・居酒屋割烹系」
とにかく味、という方には「素材重視系」
やっぱり楽しくなくっちゃとい方には「エンタメ系」
安さ一番、という方には「激安・均一価格系」
といった感じに。
何を基準に選ぶかで店選びも変わってくるのではないでしょうか?
(ちなみにIE以外のブラウザだとみにくくなってます。すんません)
100回記念特集その② 高嶋政伸 ナポリ・ピザを食べ歩く
100回目特集第2弾は世界のB級グルメ王を目指す、友人Tこと高嶋政伸氏のナポリピザ食べ歩き紀行。
私は同行していないのだが、ナポリから戻ってからというもの、毎日のようにピザを食えピザを食えと呪文のように唱えるので、仕方なく食べに行くことにした。
氏曰く、その店のピザはナポリで食べるピザと同じ味だそうだ。
だからその店のピザを食べればナポリのピザのことがわかると言われたわけだ。
なんのこっちゃ?
でまぁ、氏ご推薦の「ピッツァ・サルバトーレ白金店」へと赴く。
シロガネーゼらしき物体がが優雅にランチをしていたりする、もちろんB級とは一切無関係の店である。
ホントにB級店にしか行かなくなってしまったので、この手の店に来るのは久しぶりだ。
何の感慨もない…やはり私のDNAはB級モノにしか反応しないようだ。
ナポリのピザと同じ味というマルゲリータのお味は「へぇー」。
もちょっと詳しく言うと45へぇーくらいか。
これが世の中で一番美味いピザだと言われても55へぇーくらいなものです、ハイ。
というわけで、いよいよ本題。名付けて「ナポリを見てから死ぬか、ピザを食ってから死ぬか!by高嶋政伸」
そんなわけで、7/8スタートの「人生はフルコース」(NHK)で、元帝国ホテル料理長・村上信夫役を演じている高嶋氏であるが、どうしてもナポリを見てから死にたいとのことで、イタリアへと旅だった。
さて、ナポリに着いた氏は早速、ピザを食べに行ったそうな。
その店の名は「ダ・ミケーレ」。
(「ダ・ミケーレ」前にて)
その店は、ナポリピッツァ協会に入っていないが、ナポリではキング・オブ・ピッツァと言われるほど有名な店らしい。
メニューはマルゲリータとマリナーラの2種類のみ。
この2種類だけでナポリっ子のハートをがっちりと掴んでいる、というのだからただもんじゃない店なのだろう。
氏はこう言う。
「ナポリのピザを食わずしてB級グルメは語れない、と思ったわけだ。
これがB級グルメの集大成。
あー、ピッツァ、ピッツァ、ピッツァ。ピッツァ イズ マイライフ。
ナポリのピッツァを食べずして、B級グルメは語れないのだよ、ヨネバラくん!」
いや、わたしゃ、ヨネバラではないんですが…と酔いの回った氏の演説を聞きながら氏のピッツァ人生に思いを馳せたもんだ。
こりゃ、帰ってきたら、ピッツァ話を大盛りで聞かされるなと。
(これが奇跡のピッツァである)
で、念願叶って、ナポリピッツァとのご対面となったわけだが、
氏はナポリピッツァの味をこう評す。
「それはね、なんかこうパンチが効いてるってのかな?
さすがナポリ、って味なんだな。
生地はもっちり。
このもっちりがたまらんのだけど、東京でもこのもっちり感を味わえる店はあるわけよ。
でも、ナポリだと何かが違う。
何が違うんだろう…
結局、東京でも美味い沖縄料理は食べられるけど、沖縄で食べる沖縄料理はひと味違う。
あの夕日を見ながらのんびりとビーチでつつく沖縄料理は最高なわけですよ。
それと一緒かな…
いきつくところは現地で食べるものには叶わない、ってことなんだけどね。
ちなみにピッツァを彩る具はシンプルもシンプル。
トマトとバジルとチーズだけ。
高温でさっと焼いただけだから、実にフレッシュなんだ。
フレッシュ、フレッシュ、フレッシュ、思わず「夏の扉」を口ずさみたくなるね。」
とかなんとか言っていたわけだ。
ちなみにナポリピザとはどういうピザかというと
その1 生地に使用する材料は小麦粉、酵母、塩、水
その2 生地は手だけを使って延ばす
その3 釜の床面にて直焼きをする
その4 釜の燃料は薪もしくは木くず
その5 仕上がりはふっくらとして「額縁」(周りの盛り上がってるところ)
その6 上にのせる材料にもこだわる
(以上、高嶋調べ)
だそうである。
「サルバトーレ」のピザも同じ味なんだが、ナポリのピッツァにはナポリならではのパンチがあるらしい。
日本だとピザ、ナポリだとピッツァ。
それが気分というモノ。
日本で気取ってピッツァなんていうとなんか背伸びしすぎのような期がして気恥ずかしいが、そんな気分的なモノなんじゃないかと思う、結局のところ。
(ナポリではごくノーマルの「ジュリアーノ」の
ピッツァだがむっちりのもちもち)
そんなわけで、氏はピッツァを食べ続けた。
ナポリ中央駅前のなんてことはないピッツェリア「ジュリアーノ」でさえ美味だった、という。
「さえないおっさんピッツァユーロが焼いてくれたんだけど、でも意外や意外、うまいんだな、これが。ナポリピッツァのレベルの高さを思い知らされたね」(発言のまま)
折しも、その日はちょうど日本サッカー界がオーストラリアサッカーのレベルの高さを思い知らされた時だという。
なんてこったい。
(「ジュリアーノ」でちょっと焼く真似をさせてもらいご満悦の氏)
そんなこんなで2週間、ひたすらピッツァを食べ続けたと言うが、でも、ナポリの最高はピッツァではなかった、らしい。
どういうことですか?
「いやね、ナポリは魚がうまいんだよ。タコ、イワシ、鮭、シメサバ…いやー、美味いね、魚フライいけるねー。だからあれが美味いんだよな…」
あれって何?
「ナポリで出会った人生最高の味はなんといってもボンゴレね。あんなに美味いボンゴレを食べたことはかってないね。特にねツイ・テレーサって店が最高ですわ、実際のところ」
(氏の人生最高のボンゴレです)
ピッッアだけではない、ナポリの真髄に触れて帰ってきたわけだから、これで心おきなく死ぬことが出来るな…と言ったところ、氏はほくそ笑みながらこういうのであった。
「今度はどこを見てから死のうか…ブエノスアイレスかロッキー山脈かルバング島か…いずれにせよ、とりあえず日本的には宮城湯入って死ね、ってことだろうね」と氏がお気に入りの銭湯でのんびりすりことを夢見て今日も酒を傾けるのであった…
●「Da Michele ダ・ミケーレ」
住所:Via Sersale 1-3-5-7
電話:081-5539204
営業時間:11:30~24:00
定休日:クリスマス、復活祭、日曜と8月の第二、三週
祝100回記念 世界最強のビアホールで憩う ~浅草「正直ビアホール」はふれあい酒場~
そんなわけで、めでたく100回目を迎えました。
ご贔屓にしていただいている皆様、ありがとうございます。
記念すべき100回目だけにここはひとつ、SPECIALな店で。
その名も「正直ビアホール」。
名前を聞いただけで思わずB級魂がうずく、浅草の外れにある素敵な店である。
(正直ビアホールの看板が燦然と輝く)
ビアホールといってもカウンター8席のみの小さな店だ。
昭和23年創業時の面影が残り…というか、そのまんまの風体を保っている。
店のそこかしこにみられる器具やら置物やらには58年くらいの年月が感じられ、それが心地よい空間作りに一役買っている。
なんというか、妙に落ち着くんですね。
いにしえのものに囲まれると人はなぜ落ち着くのか?
これからの研究課題である。
店を訪れるのは4年ぶりになるか。
当時も日韓ワールドカップで盛り上がっている時期であったのを思い出す。
時間は18時過ぎたばかり。先客は2人いた。近所の常連らしく、世間話に花を咲かせている。
小さなテレビからは巨人-楽天戦が流れている。
先代のご主人が大の巨人ファンで、ナイターを見ながら一喜一憂していたのを思い出した。
壁には年代物の巨大な長島の羽子板やら王のポスターやらが掛かっており、それもまたいい感じにひなびている。
そうそう、この店を初めて訪れたのが、15年ほど前。
無骨だが人のよいご主人が差し出すビールのうまさと和気藹々とした店の雰囲気に魅せられて、気が向くとよく足を向けていた。
当時のご主人は数年前に他界され、いまは奥様が3代目の主人として切り盛りをされている。
「ビール、お願いします」
60代とおぼしきおかあさんは顔にしわ一つなく、薄化粧も粋な感じだ。
サーバーは一つのみ。年代物のサーバーはいまどき珍しい氷で冷やすタイプの優れもの。
風流な寿司屋なんかだとネタを氷で冷やしているところがあったりするが、まさにこの店も風流なビアホール。
(これが伝説を生み出すビアサーバーである)
ビールなんてものはキンキンに冷えていればいい、と思っている方も多いことだろうが、ところがどっこい、正直なビールを飲んでしまうと本当に美味なビールとは気配りなんだと思い知らされる。
極薄のグラスにおかあさんは丁寧に何度も何度も泡を切っては注ぎ直す。
その手間と愛情が極うまのビールを生み出すのだ。
まずはこの極上ビールを一杯いただく。
泡のきめ細かさなんかは、ちょっとビールの注ぎ方を習ったくらいの、なんとかマイスターなんかとは比較にならん。
適度に冷えたビールがゴクゴクと喉の奥へと消えていく。
うまい…なんというかしみじみとうまい。
あっという間に一杯目を飲み干す。
メニューはビールのみ。
おつまみはチーズやら乾き物やらがビール1杯につき2品つく。これで600円。
2杯目をいただいているとまた常連のおかあさんがやってきた。
ママ、ママと呼ばれているからどこかの店のマダムなのだろう。
マダムはお手製のおつまみを持参してきた。
ジャガイモとザーサイの和え物だ。
(マダムお手製のお総菜。ビールにピッタリの美味な一品でした)
先代の頃はおつまみに自家製のおでんがあったが、いまはなくなっている。ので、常連さんなんかはタッパに自家製のおつまみを持参してくるのである。
もちろん、見ず知らずの客にも振る舞ってくれる。
あたたかい…店もあたたかければ人もあたたかい。さすが正直者のビアホールだけのことはある。
いつの間にか私も話の輪の中に加わっていた。
常連さんたちが自然に話の中に引き込んでくれるのだ。
このあたりも実にあたたかい。
先代の頃はちょくちょく寄らせていただいてました、というと昔話に始まり、次から次へといろいろな話題が飛び出てきた。
興味深かったのは北野武のスポンサーの話。ダヴィンチコードの話から北野映画の話になって、スポンサーの話に飛び火した。某劇場の女主人やら某漁船の船長やらががっちり囲っていて、ちょくちょくたけしも顔を見せるとのことだった。
気がつくと2時間が経過し、ビールも5杯目が空になりかけている。
なんと居心地のよい店なのだろうか…
普通、ビールなんてものは1リットルも飲めば腹が一杯になって違うものが飲みたくなるものだが、ここのビールはホントに何杯もいける。
私も2リットル以上、飲んだ計算になるが、まだまだ飲み足りない、そんな感じだった。
実に不思議である。
ビール自体のうまさももちろんあるが、天下無双の居心地の良さも大きな要因であることは間違いないだろう。
帰り際にマダムは「お兄さん、表情がだいぶ優しくなったわね。最初はもっと険しい顔してたもの」と言って笑った。
なるほど…表情の優しくなる店か…愛川欽也チックなCMっぽいが、まさにこの言葉にすべてが集約されているような気がした。
後ろ髪が引かれる思いで店を後にしたが。また近いうちに店を訪れたいと思う。
今度は、店のお母さんやお客さんたちと同様のもっとよい笑顔が出せるだろう。
(すんません、少し飲んでしまいました。
極上の泡をお見せできなくて残念)
正直者のビアホールは下町人情にあふれた素敵なお店なのである。
●「正直ビアホール」
住所:東京都台東区浅草2-22-9
営業時間:18:00頃から23:00頃まで
定休日:無休
ラーメン二郎に名前を譲った男の作る麺料理とは? ~雪が谷「麺でる」の異色麺~
mixiのフォーラムなんかでも「ラーメン二郎」コミュが盛り上がっていたりするが(会員数:6月7日現在6502人)、本家・三田ではなく、分家筋が好きだという者も多数いる。
というか、最初に食べたのが本家以外の直系店や旧二郎系(二郎フーズ系)、亜流店であったりするとそれが「ラーメン二郎」の味だと思いこんでしまって、本家の味も知らずに「二郎うまい」と公言する者も多いことだろう。
しかし、二郎フーズ系や直系各店舗に関しては、ほとんどの店が「二郎風ラーメン」というべきか。
そもそも二郎フーズ系は2年ほど前までは「ラーメン二郎虎ノ門店」とか名乗っていたわけであるが、ラーメン二郎という名前が使えなくなって、いまや旧ラーメン二郎系とくくられている。
なんかご家庭でできるラーメン二郎、みたいなノリがいただけない。
味がね、決定的に違うんですわ。
その点、直系筋の二郎の中には、二郎テイストに近いものを感じるが、評価しているのは目黒、仙川あたり。
直系の中でもいただけない店は多々あるし、中には激怒せざるを得ない店もある。
直系にしろ旧二郎系にしても修行は一応、本店の厨房で働くのだが、そのシステムは自己申告制で3日でも3ヶ月でも本人が納得したら終わり、というものであった。
そのくらい適当なわけだから、味のばらつきもあって当然か。
特に麺なんかは自家製麺を義務づけているので、ひどいところになるととても二郎とは思えない店もある。
スープや具、盛りも個性的であるが、まずは麺が二郎でなければ話にもならない。
よって、やはり二郎は三田で食べなければ…と思ってしまうが、亜流店になるとこれはもうラーメン二郎という名前を使っていないので、どう料理してくれてもかまいません。
しかし、亜流店の中でも特に麺に強烈な個性があるという店があると聞いて重い腰を上げてみることにした。
店の名前は「麺でる」。ここは麺以外にも仕掛けがいろいろあるという。
「麺でる」の入り口には『ラーメン二郎という名前は私が三田の店長に懇願されて譲りました』という張り紙と共に商標登録が飾られてあった。
確か二郎のオヤジに「昔、ラーメン二郎という名前を商標登録しようとしたら却下されたよ、ガハハハ」なんて話を聞いた気がする。その後、「ラーメン二郎」のオヤジがほっぽといたのをいいことに「麺でる」のオヤジが商標登録をしてしまたのだろう。
真性ジロリアンである私からすれば、なんと姑息な…という感じだ。
でもって、ラーメン二郎という名前は使えなくなりかけたのだが、ラーメン二郎愛好の慶應法曹関係者が動いて、商品登録を譲渡させたと聞く。
その後、名前を譲ってしまった関係で長い間、名前がないまま営業していたのだが、ついに「麺でる」と決まったといういきさつがある。
自動発券機は新札が使えないため、とまどっているとオヤジがすかさず旧千円札を手渡ししてくれた。
「新札は使えないから、これ使って」
なかなかに愛想の良いオヤジだ。
二郎の商標問題からして、小難しい偏屈オヤジをイメージしていたのだが、どうもそうではないらしい。
しかし、まだ心を許すわけにはいかない。なにせ相手は二郎の名前を奪おうとした男なのだ。
メニューは二郎のように大、小で選ぶのではなく、チャーシュー麺やスープなしのまかない麺、それに爆弾なるトッピングもあった。
麺の盛りに関しては1/2、2/3、普通、多め、限界盛りとあって、どれでも値段は同じだという。
とりあえず、ノーマルラーメンの普通盛りをオーダー。
出てきたのはいわゆる二郎スタイルのラーメンだった。
(盛りが自由自在な麺でるラーメン)
チャーシューに関してはまったく別な代物だが、味はどうか?
ふむ、スープは二郎よりまろやか…というか深みが足りないというか、ま、直系のダメ店舗よりはマシといったところか。
で、こだわりの麺だが何にこだわっているのかと思ったら味ではなくてその形状であった。
つまり、普通の麺は1本のつるっとした麺なのだが、ここは日によって麺の形状が違うのだ。
1本の日もあれば、 3本の麺が横に繋がった3本麺、5本麺、7本麺といくつかあってなんと14本麺まであるという。
あーた、14本横に繋がった麺なんて口に入りませんよ。
今日はあいにく1本麺の日であったため、ノーマルな麺を食すに留まったが、いずれまた14本麺を食べに来なければならないだろう。麺の数は月末に向かって徐々に増えていくという。
他にも唐辛子が詰まったにぎりめしサイズの固まりが入る爆弾や真っ黒麺の日があったり、二郎風ではあるが、いろいろと工夫はしているようだ。
(真っ黒麺はこんな感じ)
で、麺同様、オヤジもなかなかに個性のある男であった。
私が初めてこの店を訪れたことを感づくや、いろいろと話しかけてくる。
「お客さん、二郎好き?この間、鶴見の二郎行ったけどスープがぬるいし、盛りも少なくてさ、あれはちょっとヒドイね」
「量。普通でいいの?足りなかったら言って」とか。
いやいや、じゅうぶん足りてますから結構です、とかなんとかいいながら食べきった。
どうもここのオヤジは麺の量に異常なる執着を燃やしているらしい。
麺が多ければエライ、と少なからずとも思っていることだろう。
「なかなか早いね、次回は限界盛りにチャレンジしたらどう?」と帰り際に親父に言われた。
盛りの量よりも連チャン麺の方が気になります、と言うと「じゃ、今度は月末に来な、14本麺とかあるから」とガハハとオヤジは笑い飛ばした。
ラーメン二郎商標問題はムムムだが、B級な店であることはよくわかった次第である。
●「麺でる」
住所:大田区 田園調布 1-21-2
営業時間:12:00~14:00、19:00~20:00
定休日:水曜
デカイ、厚い、うまいは成立するのか? ~大森の超デカとんかつ「丸一」~
とんかつというものは衣のサクサク感だとか、肉のジューシーさだとか、衣と肉の密着感だとか、いろんな要素がよい出来にないと残念な結果に終わることが多い。
よって、肉の質以外の部分では料理人の技量というのがとても重要になる。
食べたときに肉汁がうっすらと口腔内に広がる柔らかさ、衣と肉の一体感…そんなとんかつに出会ったときはちょっと幸せであったりする。
そんな幸せなとんかつというのは適度なサイズ、というのが常識である。
あまりにも大きなとんかつというのは、揚げる時間が難しく中まで火が通っていなかったり、逆に揚げすぎになったり、衣が肉からポロポロと剥がれてしまったりとがっかりさせることが多く、とんかつ業界ではデカイとんかつに美味ナシ、といわれているくらいなのだが、どうも大森にそんな常識を覆すとんかつがあると聞いて出掛けてみた。
店の名は「丸一」。
どこにでもあるような風体をしたとんかつ屋である。
店はオヤジさん、おかあさん、そしておそらく息子さんの3人で回している。
メニューには170グラムと250グラムのとんかつ定食、ひれ定食と300グラムのロースカツ定食が並んでいる。
170グラムでも普通に十分な量である。いや、普通のとんかつ屋からすれば一回り以上、デカイだろう。
デカイ=美味くない、という図式がふと頭に浮かび、様子見のため170グラムのとんかつ定食にしてみた。
肉厚、デカイだけに揚げ時間も10分以上たっぷりかかるとのことで、お新香とビールで一杯やりながら待った。(とんかつが揚がるのを待つ間の一杯が幸せであったりする)
待ちながらカウンター内のオヤジさんの仕事をなんとなく見ていた。
まず、6、7センチはありそうな分厚い肉を2つに切る。
おそらくこの元の肉が300グラムなのであろう。
次に肉の隅の方に鉄串を通す。
鉄串に串刺しにされた肉に小麦粉をさっと付ける。
そのまま卵の中に浸し、油の中に放りこむ、といった感じだ。
で、大きな鍋の中でグツグツと何枚ものとんかつが揚げられている。
あまりに大量のとんかつを同じ鍋で揚げているので、繊細、というものからはほど遠い感じがする。
むしろ大雑把といってもいいくらいの揚げ方である。
「大丈夫か…」
ジューシーなとんかつを揚げるためには繊細さが要求されるのではないか、
揚げすぎると衣が焦げ焦げになるのではないか、などとちょっと不安になってみる。
そして、ついにとんかつが揚がった。
デカイ…
(これが170グラムのとんかつ定食)
隣のビールの入ったコップと比べてみればわかると思うが、一番デカイ真ん中の肉などはゆうにコップの大きさを越えている。
果たしてどんな味なのか…
箸で肉をつまむ。
ダメなとんかつはこの時点で衣がポロポロと肉から剥がれ始める。
おっ、衣はピシリと肉についている。まずは合格だ。
味はどうか?
ムムム…なかなかにジューシー。
雄に4,5センチはあろうかという肉厚ながら肉はうっすらとピンクがかり、しかも噛みごたえが柔らかい。
ぱさついた感じがしないのだ。
肉質の良さも伺える。
定食には豚汁と大きなお茶碗、いや小さめの丼に山盛りのご飯が付いている。
しかもこのご飯は釜炊きをしているので、ごはんにつやがあって美味。
とんかつ屋というところはご飯とかキャベツのお代わり無料の店が多いが、この店ではおかわりなど必要ないくらいの量が既にある。
これで1300円か…安
ふと、つれのとんかつを見ると焼き色が違うことに気がついた。
やはり焼きかたが大雑把なのかもしれない。
あれだけ大量に鍋の中にとんかつが投入されている状況では、こんなことがあってもおかしくはないのだろう。
注文を受けたからと言うよりもむしろお客さんが来ることを見越して、次々に揚げている節もあったから、それはそれで納得してしまう。
(肉厚、ピンキーなロースかつ)
別の考え方をすれば、焼き加減が違う2つのとんかつを味わえたことになるからこれはこれで幸せである。
ソースはノーマルな濃厚ソースに、辛口の2種類あり、どちらもさっぱりとした味わいである。
2×2で4倍美味しい…ってことはないはな、さすがに。
しかし、こんな肉厚でどデカとんかつをここまで美味に食させてくれるならば文句はない。
こんなに量が多くなければちょくちょく食いにきてもいいのだが…
やはり大きすぎるとんかつは難敵なのであった…
●「丸一」
住所:大田区大森北1-7-2
電話:03-3762-2601
営業時間:11:30 - 14:00 / 17:00 - 21:00(但し、8時くらいには売り切れになる)
定休日:水曜日
モツは刺身で、マッコリは生で ~新宿「赤ちょうちん」は生々天国
モツとは焼くものである、と思われている方はかなり多いんでないかと思う。
レバやセンマイ、ガツなんかの刺身は普通にあるが、シビレ(膵臓)やホルモン、コブクロなんてものは焼いて食べるもの、というのが一般相場ではないかと思う。
が、モツだって新鮮ならば刺身で食べられる。
ハラミだってタンだって刺身で食べられるのだ。
牛をまるごと生で食べさせてくれる、そんな素敵な店が新宿御苑付近に佇む「赤ちょうちん」である。
今回は事情があってしばし禁酒をしていた友人Tが、「ついに酒解禁日が来た。うまいもの食って、うまい酒をきゅーっといきたい」とのことから、厳選に厳選を重ねた結果、この店に白羽の矢が立てられた。
ごく普通の引き戸をガラガラと開けるとそこにはヤル気が漂う空間が現れた。
この店はやりそうだ…そんな感じがヒシヒシと伝わる。
いや別に故・小渕首相の写真が飾られているとか、有名人が訪れた痕跡が見受けられるからとかそんなことではない。
煙の向こうに何かが見えるのさ、と気取ったところで、早速、ホルモン刺しの盛り合わせをオーダーする。
で、でてきたのがこちら。
(各種生ホルモンが満載のホルモン刺し盛り合わせ)
冒頭に記したモツたちがごっそりと並んでいる。
焼き網があればつい焼いてしまいそうになるが、特製ダレでいただいてみる。
ふむ、なるほど。レバ刺しはプルンとしており、コブクロはコリコリ、ハラミは焼いて食べるのとは違って、ねっとりとした濃厚な味が堪能できる。
ほとんど鮮度が命だけに生の旨味が味わえるのだ。
タレもコチジャン、ニンニク、りんごなどバラエティに富んでおり、好きな味で食べられるのもうれしい。
ホルモンを刺身で食べる幸せをしばし噛みしめつつ、続いてモツ煮込みをいただく。
おぉ、なんか汁が白いぞ。
聞くところによると水だけで煮込んでいるとのことだ。
友人T曰く「博多ラーメンのようなスープだ」と言うくらい、ゼラチン質がスープに良く溶け込んでいる。
(白濁スープが特徴的な煮込み)
ほほぉー、水だけでもつの旨味を引き出すとは中々。
厚切りのモツも食べ出があって、ちょっとうれしくなる。
普通のモツ煮込みのモツの2倍近くはあるだろうか。
ワシワシとした食感と旨味が存分に堪能できるのだ。
そして〆にホルモン焼きのミックスを。
こちらは焼いたからこその旨味が噛めば噛むほどジュワジュワと溢れて口腔内に広がる。
生と焼きの両方を楽しめるのがなんともうれしい。
飲み物はビール、焼酎よりも生マッコリが気分。
作っている酒造が1つしかない貴重なマッコリである。
いわゆるマッコリのまったりとしたテイストはないが、発泡したシュワシュワ感と生モツがよく合うのである。
やはり生には生でいきたい。
まだまだ世の中にはウマイもんがあるねぇ、と久しぶりの酒を満喫した友人Tは、しみじみと噛みしめているようであった。
B級グルメ道の探求に終わりはないんである。
●「出世料理 赤ちょうちん」
住所:東京都新宿区新宿1-18-10
電話:03-3354-7266
営業時間:17:00~23:00
定休日:日、祝日(第2土曜休)
(ウマイもん食って素敵な笑顔の我々)
北陸・みちのく旅情編⑦ ~喜多方ラーメン街で見た毒リンゴ~
さて、 北陸・みちのくの旅もついに最終盤を迎えた。
気仙沼から仙台をめぐり、喜多方へと赴いた。
最後はミーハーに喜多方ラーメンでも食べてみようかと思ったのである。
すでにゴールデンウィークに突入していたこともあって、喜多方の街には結構、観光客がいる。
喜多方ラーメンの元祖系である「まこと食堂」「坂内食堂」「あべ食堂」の御三家を覗いてみると当然の如く行列が出来ていた。
が、他の店にはまったく行列が出来ていない。
「まこと食堂」なんてどうみても1時間30分は待たなければならないだろう。
ウムム…これが観光客心理というものなのだろうか。
せっかく来たんだから有名店に行かなきゃ損だという。
はっきしいって他の120店ちかくある店と劇的に味が違う、なんてことはないはずだが、それが観光客というものなのだろうか。
かくいう私も比較的行列が空いていた「あべ食堂」に訪れてみることにした。
(老舗の風格漂う「あべ食堂」
待っている間に妙に気になる店が目の前にあった。
「めん匠 やまぐち」。
製麺屋が経営しているというこのラーメン屋は喜多方で唯一の卵麺を使用していると書いてある。
しかし、店にはパンを売っていたり菓子を売っていたりもする。
かなり異色の店だが、それだけで引っ掛かっているのではない。
「毒りんごサブレ」という代物が売っているのである。
なにもんだ毒リンゴサブレ…
そうこうしている間に順番が来て店内に。
待つこと10数分、ようやくラーメンが出来上がったが、実に気になることが一つあった。
厨房をのぞき込んだのだが、ラーメンを丼に移してから3分近く盛りつけをしてから出しているのだ。
これではスープも冷めるし、麺も延びるのでは…と危惧していたのだが、なんと出てきたラーメンはスープも熱いし、麺も延びた感じはしない。
不思議だ。
(チャーシューはあまり評価しないが、ベーシックな
喜多方ラーメンの味が楽しめる)
これが喜多方ラーメンの実力なのか…。
うーん、しかし東京で食べるチェーン店の味と大差ないような。
喜多方ラーメンの性質上、あまり差異というのはでないのでしょうな。
だったらこんなに並ばなくてもいいじゃん、と思うのは私だけでしょうか?
さて、食後。
「あべ食堂」の目の前にある「やまぐち」を訪れてみる。
目当てはもちろん毒りんごサブレ。
なにやら効能のようなものが張られている。
・頭の悪い人は頭の上に乗せてから食べると頭が良くなります
・口の悪い人は口に当ててから食べると口が優しくなります
・顔の美しい人は顔に当ててから食べるとさらに美しくなります
・それなりの顔の人は顔に当ててもなおりません
・毎日食べると体の毒を取ります。それを蔵の街では毒りんご定説と呼びます
(本当に蔵の町銘菓なのか疑いたくなるが…)
なめとんのか、とツッコミたくなるのは私だけでしょうか?
いかん、いかん、毒づいちまったぜ…口に当てて食べなければなりませんな。
店内には他にもラーメンまんじゅうなんてものも売っていた。
サブレの味は…誠に申し訳ありませんが一口で結構です、といった感じ。
さすがに毒りんごだけあって予想通りのりんごジャムがべったりと。
しかし、これが微妙なお味で、喜多方ラーメンのさっぱり感とはほど遠い代物だった。
これが旅の最後の食事とは…
うーん残念。
口に当てて食べたのだが、ちっとも口が優しくならんことを噛みしめつつ、東京へと車を走らせるのであった。
●「あべ食堂」
住所:福島県喜多方市緑町4506
電話:0241-22-2004
営業時間:7:30~15:00(スープがなくなり次第閉店)
定休日:水曜日
「めん匠 やまぐち」
住所:福島県喜多方市緑町4532
電話:0241-22-0336
営業時間:10:30~18:30
定休日:水曜日
北陸・みちのく旅情編⑥ フカヒレ寿司の真実に迫る ~気仙沼「すし処 谷口」の苦悩~
さて、岩手から秋田、青森と抜け再び岩手のリアス式海岸を南下した後、ついに宮城県に辿り着いた。
目指すは気仙沼港。
知っている人は知っていると思うが(当たり前か)気仙沼はフカヒレの街なのである。
フカヒレじゃなかったら気仙沼ちゃん。
欽ドンではっちゃけていたあの人です。
自慢じゃないが私は気仙沼という土地を彼女のおかげで知った。
気仙沼から来たから気仙沼ちゃん。
快活な女の子でした。(いまは地元で旅館の女将さんをしてるそうです)
そんなわけで、気仙沼ちゃんで有名になった気仙沼だが、いまはフカヒレで町おこしをたくらんでいる。
寿司屋に行けばフカヒレ寿司が、食堂にはフカヒレラーメンにフカヒレ丼、中にはフカヒレソフトクリームなんてのもある。
フカヒレ、フカヒレ、フカヒレですよ。
特に名物といわれているのがフカヒレの姿寿司。
フカヒレ様が握られた美しい姿は実に美しいだろうな、と思いつつ、寿司屋に向かった。
さすがに漁港だけあって、そこかしこに寿司屋がある。
どの店にしようか…
ネットで調査したところ、その日揚がった魚しか握らないというこだわりの店を選んでみた。
店の名は「すし処たに口」。
思えばこれが運命の選択だったのかもしれない。
まずは軽くツマミをいただく。
地魚の刺身に酒に合いそうな肴の数々…
おやじさんの説明を聞きながら、フムフム、なかなかいけますねぇ、などと舌鼓を打っていた。
で、しばらくして出てきたのがこれ。
(なんともいえない滑らかな感触のマンボウ)
マンボウの刺身です。
回転寿司屋なんかではたまに見掛ける魚だが、これほどまでに瑞々しいのは初めて。
食感はまさに水の如し…というかほとんど水のような滑らかさが面白い。
おやじさんに聞くと「マンボウなんてのはほとんど水だからね。揚がったそばからどんどんどんどん水気がなくなっていくから、新鮮じゃないと食べられないんだよ」という。
「ま、こんな魚、地元の人は金出して食わないけどね」と付け加えたのが気に掛かる。
「いや、マンボウはよく網に掛かるから漁港にいけばたくさん落ちてるのよ。だから地元の人はみんなもらって食べてんだ。こんなの出してるからいろいろ言われるんだけどね」
とのたまった。
話を聞いてみるとどうもこの店は気仙沼の寿司組合から毛嫌いされているらしい。
まず他の店より値段がかなり高いということと比較的新参者だということとおやじさんの上昇志向が気に入らないとのことだ。
「そりゃね、私だって出来れば銀座で勝負したいですよ」とオヤジさんは言う。
「気仙沼の魚をそのまま直送すればいい勝負が出来ると思うんですけどね」
うんうん、そうですよ、気仙沼ってところで結構いけるかもしれませんよ、などと調子を合わせているとこの店のオヤジの弟さんがやってきた。
なんでも気仙沼最高料理技術研鑚会というのを兄弟で主催しているらしい。
弟さんはフランス料理のガストロノミー認定料理人だという。
ガストロノミーとはフランス語で美食だとか美味しく食べる術、という意味があるらしい。
在仏8年のフレンチシェフなのだ。
で、弟さんはなんとか気仙沼にフレンチを広めるべく奮闘しているとのことだ。
その名も気仙沼フレンチ。
フカヒレばかりに飽きた地元のおばちゃんの支持をひそかに受けているとのことだった。
漁港にフレンチを、しかも地元のおばちゃん相手に根づかせるのはかなり難しいことと思うが、是非とも頑張ってください。
気仙沼最高料理研鑚会か…気仙沼の食材を使った料理を広めようと講演会などをしていると聞く。新しいチャレンジを試みるということは、他の店の人から見ると「一人だけ目立ちやがって」となりますな。出る杭は打たれる。
が、もっと衝撃だったのは名物のフカヒレの姿寿司をいただいたときのことだった。
(見事なお姿のフカヒレ寿司様)
「いやね、こんなもんホントは握りたくないんですよ。だってこれ加工品ですよ。生の魚がたくさんあるのになんで加工品なんか握らなきゃなんないんだって話ですよ」とオヤジさんは言う。
「一応、気仙沼はフカヒレで盛り上がろう、ってことになってるから握ってますけど、やっぱりお客さんには新鮮な気仙沼の魚を食べて欲しいんですよ」
確かにフカヒレ寿司の味は「ムムム…」であった。
フカヒレの淡泊な味がどうにも酢飯と馴染まない。
フカヒレの味が際だつでもなくあれれ、ってなもんである。
やはりフカヒレはスープで煮てそのスープの味が染みこんだヤツが美味しいのであって、普通に戻しただけの素フカヒレは味がほとんどない。
「ね、美味しくないでしょ?こんなのありがたがって食べてる場合じゃないですよ」とオヤジさんは気仙沼の寿司屋らしからぬ発言を連発する。
これではフカヒレ姿寿司を看板にしている他の寿司屋から嫌がられて当然といえば当然か。
が、私は断然、「すし処たに口」を支持したい。
話が盛り上がって、気仙沼復興プロジェクトなんて話にもなってしまった。
なので、宣言します。
気仙沼を盛り上げよう!いや盛り上げます…いつか、きっと、必ず…
私のB級グルメ魂を賭けたプロジェクトが今始まろうとしていたのだった…
余談
次の日、漁港の市場をのぞいたら鮫の心臓を見つけた。
気仙沼では有名な食材でモーカサメの心臓を食べさせるモーカの星、という。
(さすがに心臓だけあって、ハート型をしている…結構、デカイです)
一口食べれば精力絶倫、という代物だ。
ちなみにたに口のオヤジさんは「別にウマイもんじゃないからうちには置いてないよ」と言っていた。
気仙沼最高料理研鑚会の主催者はアンチ気仙沼食材の人なのであった…
●「すし処 たに口」
住所:宮城県気仙沼市河原田2-5-12
電話:0226-21-3038
営業時間:11:00~14:00
17:00~23:00
定休日:水曜日
北陸・みちのく旅情編⑤ 盛岡麺の天国と地獄 ~盛岡「ぴょんぴょん舎」の冷麺とわんこそば~
山形では米沢牛をたらふく食べ、小岩井牧場ではソフトクリームとジンギスカンなんぞを食してみた。
「あー、観光客気分満喫だぜい」という軽口も飛び出す始末だ。
そんなわけで、盛岡。盛岡といえば冷麺。
なぜか冷麺を食べなければ損したような気分になる。
他に名物あったけ?と思うくらい頭が冷麺で満たされる。
盛岡の冷麺はうまい。
冷麺だけを食べて満足、ってな感じだ。
が、なぜか東京ではそうはいかない。
冷麺だけを食べに焼肉屋に行く、という習慣がないばかりか、そうしたいという気にさえならない。
冷麺はあくまでも焼き肉を食べた後の〆であり、どうしてもあそこの冷麺を食べたい、と思えるほど素敵な冷麺様にはそう滅多にお目にかかれない。
焼肉>冷麺の図式は変わらないのである。
が、盛岡ではこの図式が真逆になってします。
焼肉屋でもあくまでも冷麺が主役であり、焼き肉を食べたければそれはそれでいいんじゃないか、みたいな感じだ。
いや、実際には焼肉は美味なんだろうと思います。
なにせ周囲はブランド牛ばかりだ。
焼肉食べてもかなり幸せになれることだろう。
しかしである。うまい肉は東京でも食えるが、うまい冷麺は東京では食べられない。
よって観光客的価値観によると盛岡といえば冷麺、となるわけである。
で、訪れたのが「ぴょんぴょん舎」という焼肉屋。
なんともふざけた名前だが、オーナーがピョンさんという名前。なんでも盛岡冷麺というネーミングを考えたのがこの店らしい。
またもや元祖、である。
前回の横手焼きそばの場合にしてもそうだが、元祖というのは往々にしてそれほどのもんじゃない。
むしろ何度食べても食べ飽きない味、つまりジモティに人気の店の方がうまいのが常識であろう。
だいたいガイドブックというのは、メジャーな情報を追うものであるからして、元祖物、観光客に人気の店を載せるのが常である。
よってどんなガイドブックを見ても似たような店が載っているものであり、然るにその店は観光客たちの巣窟になっていたりもする。
観光シーズンになんて行くモンじゃない。
が、いまはGWの前…さらにこのぴょんぴょん舎はガイドブックに載っているような他店とはひと味違う、と聞く。
ならばいくしかない、ということ向かいましたよ。
メニューを見るともちろん焼き肉屋であるからして、いろいろな肉が並んでいる。
しかし、いまはそんなものはどうでもいい。
肉なら昨日、米沢牛を食ったし、昼にはジンギスカンも食べた。
いまは冷麺ですよ。
(やはり麺のツルツル感がたまらんす)
待ちかねた冷麺のスープをまずひとすすり。
やや甘めだが、ほどよく酢がきいており、キムチのピリリ感が引き締める。
コクがありながら、しかもフレッシュな感じだ。
そして麺をいただく。
おぉ、なんという素晴らしい喉越し…
これですよ、これ!
どういうわけかこの素敵な喉越しが東京の冷麺にはない。
ぴょんぴょん舎だけにど根性が入っているのだろうか?
根性、根性、ド根性のぴょん吉様といったところでしょうか。
具はキムチ、ゆで卵、胡瓜、リンゴ、肉、ゴマなど。
麺をすすって、スープ飲んで、具をつまんで…
いいねぇ、盛岡風流。
すっかり満足して、盛岡はやはり冷麺だなぁと独りごちていると訳知りの知人から連絡が入り、
「わんこそばの立場は!」
「ジャージャー麺の立場は!」と突つかれた。
そうそう盛岡の三大麺、わんこそばとジャージャー麺も忘れてはならない。
そんなわけで、続いてわんこそばにチャレンジ。
次から次へと器に蕎麦が盛られていくというあれは一回は体験したいと思っていた。
なぜ、少量ずつ盛らなければならないのか、いっぺんに出せばいいじゃないか、と思わないこともないがそれが盛岡スタイルだ。
ちなみに調べたところによると少量ずつ出すのは、いにしえのおもてなしスタイルからだという。
遡ること江戸時代に、祝い事の時に必ず最後に蕎麦をだしたらしいが、
多くの人に一度に食べてもらえるほど大量の麺は茹でられないから、ゆであがった麺を小分けにして次々に出すようになったのが始まりだという。
で、チャレンジするにはしましたが、はっきしいって厳しいです。
いくら遊び気分といえども途中からはいっぱいいっぱい。
食べるそばからホイホイですからね。
なんとか24杯ほど食べてギブアップ。
いやー、なんとも粋な遊びですわな。
(こんだけ食えばもうたくさんでゴンス)
ちなみに現在の記録は559杯。
世の中には猛者がいるもんです。
盛岡の麺に天国と地獄を見た…
●「ぴょんぴょん舎」
住所:岩手県盛岡市稲荷町12-5
電話:019-646-0541
じかん:11:00~22:30
定休日:無休