悪女になった私
田中君との恋が終わってから、私はさらに壊れていった。
いつも心の片隅に残る元彼への報われない恋を
どうすれば良いかわからない・・・。
私は彼を求めれば求めるほど寂しくなり、その寂しさを
紛らわせるため、色々な男性とつきあった。
取引先の人や、同級生、それに友達の紹介などで
出会った男性たち。でも、それは長く続かなかった。
そんな生活だったので、職場の女子行員からは
影で遊び人や悪女とか言われていた。
そんな時、職場の配置換えがあり私は違う部署に移った。
やっと、あの中年の男性と離れられると思うと少し安堵したのを
覚えている。
新しい部署で佐藤君と一緒に仕事をすることになった。
彼は、30近いのだが、まだ独身だった。
誰にでもやさしいのだが、そのやさしさが職場では
優柔不断な男と呼ばれていた。
そんな佐藤君と一緒に仕事をするようになり、
すぐに仲良く話しをするようになった。そして会社が終わると
お茶や食事に誘われるようになり、私は毎日のように
彼と会っていた。彼は、とてもやさしかった。
会う度に
「君は可愛いよ、好きだよ」 と言ってくれた。
私はそんな甘美な言葉に酔いしれた。
元彼は一度もそんな事は言ってくれなかった。愛さえ感じなかった。
彼と私はそのうち、男と女の関係になった。
「可愛いよ、君の体は最高だよ。今までの女性の中で君が一番いい・・・」
抱く時はいつもそう囁いていた。
私は彼を好きになったのかもしれない・・
気持ちは揺れていった。
そんな時、彼から思いもよらない話をされた。
「僕、結婚することにしたんだ。相手はお金持ちのお嬢さんで
もう外車を買ってもらったんだ」
自慢そうにそうつぶやいた。
「そう、良かったわね」
私は顔色を変えずそう言い放った。
もう泣くのはこりごりだし、悪女のままいたかった。
そしていつものように寮まで送ってもらった。
ちょうど4月になったばかりで道には満開の桜が咲いていた。
「もう会わないよ、辛いから・・ やっぱり私あなたが好きだったみたい・・」
こらえていた涙が出てしまった。
彼は、
「ごめんよ、ごめん、君の気持ち知らなかった。
遊びだと思っていた・・・。もっと早くに知っていたらお見合いなんて
しなかったのに・・」
「もういいよ・・・、終わりだから」
私はぽつりと呟いた。
そして涙をふいて、歩き出した。
振り返ると肩を落としながら小さくなっていく佐藤君の姿が見えた。
そして、風に揺られて桜の花びらがひらひらと落ちてきた。
まるで、恋の終わりを告げるように・・・・。
短すぎた憧れの恋愛
そんな自暴自棄な自分をもてあましている時に
田中君に出会った。
毎朝の通勤の途中、駅までの道でよく会うようになった。
ある日田中君から声を掛けてきた。
「毎朝、よく会いますね」、と
私は、「そうですね、」と返事をした。
それからの日々は毎朝、おはようと声をかけあうようになり
私たちは一緒お茶を飲む関係になった。
私は会うたびに、田中君に惹かれていった。
会って話をするのが、ただ楽しかった。そして
手をつなぎ、送ってもらうだけの関係。
それは、ずっと私が憧れていた恋愛の形だった。
そして、ある日、いつものようにお茶を飲んだあと、
帰り道、はじめてキスをした。
それは、本当に軽い、中高生のようなキス。
私はとても嬉しかった。
そして、この幸せがいつまでも続くと信じていた。
ところが、ある日
いつもの喫茶店で・・・
「ごめん、僕には以前から付き合っている人がいるんだ。
7歳年上でもう待たすことはできないし、これ以上君といると
彼女を裏切っていくようで、怖いんだ。もう会うのはやめよう」
私は言葉を失った。そして涙がこぼれた。
「ひどいよ、彼女がいるなんて、何故それなら声を掛けたりしたの?」
「・・・・。僕が悪いんだ。君を選べなかった・・・」
「さよなら」私はそう言い残して店を飛び出した。
そしてそこにはつないでくれる暖かい手はどこにも無かった。
冬の寒々とした北風だけが私の涙を吹き飛ばしていった。
変貌~悪女へ
彼とそんなどうしようもない関係になってから
私の心は空しかった。休日も一人で過ごしているのは
年頃の寮生の中でただ一人だったように思う。
そんな時、同室の先輩が同じ支店の人と付き合うように
なったので、同期の人と一緒に遊びに行くことになった。
わたしは八木君と同じ店だったので、一緒に過ごした。
八木君は、私に
「今度飲みに行こうよ」
と誘っってきた。
私も暇だったので、いいよと言った。
そして、とある和風の店で会ったのだ。八木君はお酒をすすめて
きたので、私は飲んだことの無いお酒を飲んだのだった。
そして酔ってしまった。八木君に送ってもらったのだが
ふらふらして、たいへんだった。そして酔った勢いで
どこかの公園に連れていかれたのだ。
その時のことはあまりよく覚えてないのだか
キスをして、体を触られたように思う。
それで私は運悪く門限に間に合わなかったのだ。門限を破ったので
支店長に報告され、私と八木君の仲をとがめられたが
八木君は、それから私と付き合うようになった。
しかし、当時は社内恋愛がご法度であり、私は大きな店に転勤になったのだ。
そして、その大きな店こそが私を変貌させることになろうとは思ってもみなかった。
それから何回か八木君と付き合ったが、肝心な時に八木君は
何もできなかった。私の口が悪いのか、八木君のそれは
いつも萎えていたのだ。好きなのにできない・・そんな風に言った時
に私はまたさらに毒を吐いたのだ。
そして、私は八木君に別れを言い、彼を奈落に突き落としたのだ。
以前の私のように・・・。
それから八木君は私を恨みながら、酒に溺れたそうだ。
そして私は新しい店に配属になった。
新しい職場で私は、またたくまに上司たちから可愛がられるようになった。
若さと、素直さ、可愛らしさが人生で一番の時代だ。
そして私は少しづつ変わっていった。
流行の服、カリスマ美容室、海外の化粧品など
身を飾ることにお金を惜しまなくなった。そんな状態なので
毎月の給料は、すべておしゃれ代に消えていった。
女は化粧、髪型、服装で変われるという事を実感した頃でもあった。
そんな時、同じ職場の中年の男性川村ととよく話しをするように
なった。川村は、私と同じくらいの歳の娘がいた。
私は高校の時に父を亡くしたので、父と話をするような
感覚で安心感があったのかもしれない。
よく仕事が終わってから、ご馳走してくれるようになった。
ある日、川村が車で送ってやると言うので私は何の疑いもなく
ついて行った。
車で、ちょっと高価な店で食事をしたあとに、車はあらぬ方向に
走っていった。そこはラブホテルだった。
「入ろうか?」「・・・うん」
当時の私は、彼に会えない寂しさで悶々とした日々を過ごして
いたので、その寂しさを紛らわす為、相手は誰でも良かったのだ。
そこで、お決まりのコースをたどった。
中年のその人は、そんな若い娘を抱いては満足だったのに違いない。
それからもよく私を誘ってきた。
私はその事でかなり自己嫌悪に陥り、その人が近づくだけで
鳥肌がたつほど嫌だった。早くどこかに行ってほしかった。