第15回 『うわっ、神』 
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「どこに座ろうか?」
 
エマが辺りを見渡す。
 
「あった。あそこ空いてる!」
 
 
 
奥を指差してそそくさと歩き出すエマ。その後ろを離れないようについていく。先程までの静まりかえっていた会場が嘘のように騒がしい。あちらこちらで大きな笑い声と手を叩く音が響いていた。
 
さっきのはなんだったんだろう。
 
 
まるでテレビの中のドラマを見ているようで、その場の雰囲気もキャスティングも驚くほどに完璧。あの人、男の子だったんだ。エマに飛びついてきた時一瞬女の子かと思ったけど、声を聞いたら完全に男の子。同級生に男の子って言うのもなんだけど、あまりにも可愛すぎて男子とか男性とか言う表現では今一ピンとこない。芸能人だからなのか、とにかく彼はどこにいても浮いているような気がする。いやあれは浮いていると言うよりオーラを漂わせながら周囲を翻弄していると言った方がピッタリかもしれない。すでに彼の周りには女性が集まっていて、写真を撮ろうと人だかりができていた。
 
二クラス合同のクラス会は、優に100人は超えている。流石に卒業して数カ月しか経っていないから和気あいあいとしていた。どうやら同伴者の殆どは恋人ではなく友人のようで、会場はさながら大型コンパへ変わっていた。スマホでIDを交換してる姿も見える。急にエマが大きな声をだして私の肩を揺らす。
 
 
 
「あ!!ローストビーフが出てきた。私取ってくるね!ユリも食べる?
待っててね。」
 
 
 
 
美味しそうなローストビーフ
 
 
返事を聞かずにエマは歩いていく。そこへ翔が近づき声をかけてきた。
 
 
 
「ユリちゃんてさ、彼氏とかいるの?」
 
「えっ。」
 
 
 
あまりにも唐突な質問にポカーンとしているともう一度聞いてきた。
 
 
 
「彼氏いる?」
 
「いるよ。」
 
「だよね。」
 
 
 
プツンと途切れた会話。その後が続かなくて・・・なんか普通に気まずい。いつもなら彼女はどんな人って聞くけど、さすがに彼氏ってどんな人?って聞いていいのかわからない。
 
 
 
「俺も彼氏いるよ。」
 
 
 
想像していなかった返しに驚く。私は意を決して触れてみた。
 
 
 
「彼氏と一緒にいなくていいの?」
 
「アイツどこにいても女が群がってくるから、一緒にいると面倒くさいんだ。」
 
「でも、今・・凄く困ってる感じだけど。」
 
 
 
 
視線を流すようにそこを見る。
 
どうやら連絡先を聞こうと携帯を手に女の子たちが話かけている。彼は困ったように両手を合わせている。
 
 
 
「まったく、断ればいいだけなのにさ。アイツ優しすぎるんだよ。」
 
 
面倒くさそうに言うその言葉とは裏腹に目は怒ってない。そこへちょうどエマが戻ってきた。
 
 
 
「はい、ユリ!」
 
「ありがとう。」
 
 
 
ローストビーフの入ったお皿を渡して私に微笑んだ後、エマが翔君に声をかけた。
 
 
 
 
「ねぇ翔、あんた彼氏ほっといていいの?すっごい女子が集まってるよ。てか、なんか可哀そうなんだけど。めっちゃ、困ってる感じ。」
 
「あぁ、いつもなんだよアイツ。気が弱いからさ、女子に押し包められるんだよね。ほんと面倒くさいヤツ。」
 
 
「なんでもいいけど、早く迎えに行ってあげなよ。」
 
「あぁ、わかったよ。」
 
そう言って頭をかきながら歩いていく。そこへレオが走ってくる。
 
 
 
 
「エマ!一緒に食べよ。」
 
「嫌だ。」
 
 
「なんでだよ。」
 
「レオといると追っかけがついてくるから。」
 
 
「大丈夫だよ。で翔は?」
 
顎でそこを差す。
 
 
 
 
「彼氏?彼、凄くモテるよね。でもさっき翔がお試しって言ってたよ。」
 
「ふーん、でもあれきっと初めての本命。」
 
 
「えっ、なんでそう思うのエマ?」
 
「翔はいつも付き合ってる子の自慢ばかりするじゃん。でも、あの子だけ面倒くさいって言いながら放ったらかしているように見えるけど、実はチラチラと常に居場所を確認してるし。あれはたぶん翔から告ったくちだと思うよ。」
 
 
「まさか、翔だよ?本気になんないよ。」
 
「じゃ見ててごらん。絶対に彼氏の自慢しないから、それどころかチクチクと苛めると思うよ。」
 
 
「好きな子を苛めるって小学生じゃないんだから。」
 
「翔の恋愛は今始まったばかりなの。だから保育園児よ。」
 
 
 
 
 
エマはローストビーフを頬張りながらグラスに手を伸ばす。そこへ彼氏の肩を抱くように翔が歩いてきた。
 
 
 
腕を組む男性カップル
 
 
 
 
「まったくコイツさIDも電話番号も聞かれて断れなくていつの間にか彼女たちの恋愛相談にのってたんだぜ。ありえないだろ。」
 
すると恥ずかしそうに下を向いている彼が小さな声で言った。
 
 
 
 
「だって・・断られると胸がチクチクなるだろ。」
 
「なんだよそれ、他人のことなんでどうだっていいじゃん。」
 
 
「ダメだよ、女の子は俺たちと違って小さなことで傷つくんだよ。だから、なんかいい方法ないかと思って考えていたんだけど。」
 
「それ、いつも考えて結局答え出ないだろ。それにそんな事で傷つくならIDなんか聞いてこねぇよ。」
 
 
「そんなのわかんないだろ。翔とは違うんだよ。女の子は僕たちよりも色々考えているんだよ。」
 
 
 
 
 
おお!!素晴らしい!
良くご存知で、そうだよ女性は小さな事でたくさん傷つくんだから。色々考えて悩むものなのです。
 
 
 
 
 
「はいはい、わかったから。前に助けて欲しいなら呼べって言っただろ。」
 
「うん、でもいつも翔が隣にいる訳じゃないからさ。」
 
 
「なんだよ、今度は俺のせいか。」
 
「ちがうよ!」
 
 
「わかった、わかった。もういいから。なぁ?コイツ面倒くさいだろ。」
 
彼の頭をクシャっと触る翔。
 
 
 
 
「やめてよ、頭触るなよ。」
 
「ストレートなんだからすぐ直るじゃん。」
 
 
「そうだけど、みんな見てるし恥ずかしいよ。」
 
頬をほんのり赤らめて下を見る彼。
 
 
そんな様子をみていて、エマの言う通りかもしれないと思った。これは間違いなく翔君の方が彼にゾッコンのようにみえる。この後の話を聞いて更に確信することになる。
 
 
 
 
「それで、いつ紹介するわけ?」
 
エマが詰め寄る。
 
 
 
 
「あっ悪りぃ!忘れてた。
彼氏の杉浦空。えーっと、こっち二人は幼なじみでレオとエマ。そして彼女はエマの友達のゆりちゃん。」
 
私は軽く会釈する。顔を赤らめたままの空君も軽く頷く。
 
 
 
 
 
「それで、どっちが告ったんだ?」
 
 
 
確信を得たいレオ君がズバリ聞く。
 
 
「なんで、それ重要?」
 
「いいじゃん、減るもんじゃないし。」
 
 
「なんだよそれ!まっ・・いいけどさ、俺だよ。」
 
レオが驚く。エマはほら見ろという顔だ。
 
 
「なんで?ホントに翔が告ったの?」
 
「そうだよ、なんでそんなに驚いてるんだよ。」
 
 
「だって告られた事はあったけど、告ったことないじゃん。」
 
ふと考え込むように黙る翔君。
 
 
 
「・・ああ、そうかもな。」
 
「マジか。」
 
 
「くっ、、くくっ、あはははは。」
 
エマが急に声をあげて笑う。
 
 
「そんなに可笑しいか俺が告ると?」
 
「私は予想通りだけど。」
 
「別に・・俺は・・ただ驚いただけだよ。」
 
 
 
 
 
空君をチラッと見たレオ君。すると急にエマが空君にむかって言った。
 
 
 
 
「空って八方美人なわけ?」
 
 
 
 
その言葉に驚いたように空君の口がうっすらと開く。私は信じられないエマの質問に目を疑うように顔を向けた。すると翔君がそうなんだよと言いたげな顔ですぐに答えた。
 
「あーコイツさ、人が良すぎてさ。メル友500人いるんだぜ。付き合って始めて分かってさ、驚いたのなんのって。しかも現在進行形の友達ばっかでさ。なんでこんなにいるのかって聞いたら、恋愛相談にのってるっていうんだよ。ありえないだろ。コイツといると一日中女からのメールが鳴りっぱなしでさ、腹立つのなんのって。それを1つ1つ返信してるから、また最悪でさ。」
 
「・・・だって困ってるから、僕はただ・・彼女たちの話を聞いてあげて選択肢をあげてるだけだよ。」
 
 
「友達じゃなくて他人なんだぜ。ありえないだろ?マジでムカついたから、メル友50人に減らさせた。もちろんもう増やさない約束もしてな。」
 
「えっ。」
 
 
 
思わず声が出てしまった。
 
なんて横暴な・・・。でも500人はちょっと多いかもと私も思った。確かに人が良すぎるけど、女子の恋バナ相談にのってるなんて素敵じゃない!しかも男目線のアドバイスでしょう!しかも無償?!それって女子にとっては、空君は・・・神じゃん!!
 
 
 
 
「それで空はいいわけ?」
 
 
まるで昔からの友達のようにエマが話しかける。
 
 
 
「あっ、うん。翔が嫌だって言うから。彼女たちにはメールで断った。」
 
「うわっ、束縛キツイな翔。僕なら許してあげるけどな。そういうのって相手の自由だと思うし。」
 
「恋愛相談にのってるだけで別に浮気してる訳じゃないしね。」
 
 
 
 
レオ君にのっかるように発言するエマに、納得のいかない翔君はわざとらしく目を丸くして訴え始めた。
 
「はぁ?俺の身にもなれよ。一日中携帯がブルってるんだぜ。イラつくのなんのって!何よりもそんなの許してたら俺のメールが埋もれるだろうが!」
 
 
ぁぁ・・そこか。私は苦笑いをする。でもそれって自分の気持ちを押し殺しちゃってるような・・・大丈夫かな空君。私の考えが顔に出ていたのか翔君が補足する。
 
 
 
「50人ていうのは嘘だけどさ、1/3に減らすように言ったのは本当だ。あと追加も極力ダメにした。だってこのままだとあっという間に1000本いっちゃうよコイツ。」
 
 
 
 
恥ずかしそうに彼を見る空君。
 
 
でも翔君の話を聞いて何故か嬉しそうで、結果二人は相思相愛でありそれはただの「のろけ話」だったと言うことを悟った3人。レオ君が更に翔君を問いただす様子を横目に私はエマの耳元で「トイレに行ってくるね」と囁いて席を立った。
 
 
 
 
 
 
 
 
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手を洗いパウダールームでお化粧を直して隼人にメールをする。少し待っていたが既読がつかないため携帯をバックへ戻す。
 
鏡で後ろ姿を確認した後トイレを出た。
 
 
 
 
 
「あの、すいません。」
 
 
後ろから声をかけられ驚く私。振り返るとそこには男性が三人立っていた。
 
 
相手の反応を待つ私。
こっちを見たまま動かない三人。一人の男性が小さな声で「やっぱりそうだよ。」もう一人が「似てるけど、わからん。」と、こそこそ話をしている。緊張の糸がプツリと切れた。三人のその様子に呆れた私は少しだけ横柄な態度を装った。
 
 
 
「あの、何か?」
 
 
すると真ん中の男性が即座に聞いてきた。
 
 
 
「H大のゆりさんじゃないですか?」
 
 
 
 
「えっ。」
 
「違います?」
 
 
その問いに私は戸惑う。
 
 
「僕たちH大なんですよ。さっき、T高のクラス会の会場にいましたよね?エマと一緒に。」
 
 
しまった。。。
 
そうだった。自分の高校でないことをいいことに、すっかり忘れていた。それはそうだ、エマだけがH大に合格しているわけがない。好奇心の方が先行してしまってすっかり自分の状況を忘れていた。ニヤつく男性たち。
 
 
ヤバイ!!
 
 
 
 
いつもエマと一緒にいるのは「さゆり」なのに!!
 
 
 
バレる!!!!
 
 
 
 
頭をかかえる女性
 
 
 
 
 
 
 
 
 
次回、「どんだけ・・・したらいいのよ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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