第14回 『ありありの嫉妬』
image
 
辺りは静まり返っている。
 
誰もがエマとルカの様子を伺うように見つめていた。
 
 
 
こちらを見つめるその瞳が私を脅かすには充分だった。睨んでいるようにも見えるし、ただ見つめているだけにも見える。どちらとも言えないその眼差しに困惑する。視線を逸らすことさえできない。
 
 
始めは拒否していたエマも諦めたように肩をすくめていた。
 
 
そんな様子に満足したように、彼は意味ありげに微笑んでエマの耳元で何かを囁く。
 
 
女性の耳元で話しかける男性
 
 
 
その笑顔はまるでアイドルのトレカのように美しく完璧だ。(トレカとはトレーディングカードの略。クレジットカードサイズにカットされたアイドルの写真。)そしてほっぺに軽くキスをする。外国で挨拶を交わすような軽いキスだったが、この場の雰囲気には合っていなかった。
 
 
 
「まったく、会う度に抱きついてこないでよ。」
 
「だって久しぶりの生エマなんだもん。」
 
 
「だからって抱きつかないでちょうだい。」
 
「それは無理。今でもボクはエマが大好きだし。」
 
 
「あのね、そういう事言っていいわけ。こういう行動は慎むように注意されているでしょ。」
 
「そうだけど、いいよ今日は。だってここにいるみんなは、ボクの友達だもん。」
 
 
「そんなこと言ってると足元すくわれるわよ。」
 
「そしたら引退する。」
 
 
「バカじゃないの!そんな甘い考えなら辞めればアイドル。」
 
「うーん、今は契約してるから無理。でもエマが辞めて欲しいなら辞めてもいいよ。そしたらボクと付き合ってくれる?」
 
 
「ばっかみたい。ルカと話してると疲れてくるわ。絶対付き合わないから!ほら、ちょっと離れてよ。」
 
 
 
 
どうやら彼はアイドルのようだ。
 
エマは組まれた腕を離そうと上半身を動かすが、その行動が更に彼を刺激したようで嬉しそうに抱きついて離しそうにない。
 
 
 
「はあーぁ・・。」
 
天井を見上げてため息をつくエマ。そんな様子を気に留めることなく彼が聞いてきた。
 
 
 
 
「ねぇ、その子誰?なんで連れてきたの?」
 
 
 
 
その言葉に反応したエマが横目で彼をみた。少し怒っているようだ。
 
 
「大学の友達よ。」
 
「彼氏連れてくるって言ってたじゃん。やっぱりあれ嘘だったんだ。ボク凄く落ち込んだんだよ。。今は毎日一緒にいれなくてただでさえ寂しいのに。そんな嘘もうつかないでね。ねぇ?」
 
 
 
絡ませた腕にすがるように見つめている。その様子にため息をつく。
 
「はぁ、わかったから。」
 
「それで、なんでこんな子連れてきたの?」
 
 
「こんな子って失礼な、いい加減怒るよ。」
 
「ごめん、怒らないで。ちょっと意外で・・なんか感じ悪いから。」
 
 
「どこが?・・感じ悪いのはルカでしょ。」
 
「だったらその手を離してよ。なんでその子の手をずっと握ってるの!」
 
 
その言葉に驚いて思わず離そうと手を引くと、サッと腕をつかむエマ。
 
 
 
 
痛い!!
 
 
 
その力は強かった。
 
絶対に離さないというエマの強い意思がみえる。そして彼を睨むようにエマが言った。
 
 
 
 
「ルカは私のこと好きでしょう。わたしは『ユリ』のことが好きなの!」
 
 
 
 
この一言に会場内がザワついた。
 
 
腕を振り払おうとするが更に強く掴まれる。周囲の興味深い視線が私の羞恥心を削いでいく。
 
 
誰か私を隠して。
 
 
 
両手で顔を隠すしぐさの女性
 
エマの言葉に彼は動揺していた。腕がスルッと抜ける。少し驚いたような表情で立ちすくしていた。
 
 
 
「それって友達として?でしょ。」
 
瞬きをしながら様子を伺うように見つめている。
 
 
 
 
マズイ!!これはマズイでしょ!
 
 
 
 
 
エマが息を吸い込んだ瞬間、私は慌てて彼の前にでた。
 
 
「こんにちは、私はユリです。エマさんの大学の友達なんです。今日は私が無理言って連れてきて貰ったんです。」
 
その言葉に、開きかけた口を閉じるように含み笑いをするエマ。その様子をみた彼は何かを感じたのか一瞬鋭い視線で私を見た。
 
 
 
また睨まれた!
 
 
この状況が周囲の興味をくすぶっているらしく完全に浮いていた。そしてその様子を誰もが静かに傍聴している。彼の痛い視線をかわすように思わず微笑み返す。笑ってるつもりだけど、顔が引きつっているのが自分でも分かる。
 
 
 
 
一体どうやってこの場を鎮めればいいの!
 
 
 
 
 
すると後ろから両肩をつかまれ、ビクッと体が反応した。振り返るとそこには長身の男性が立っていた。驚く私を無視してのぞき込むように顔を近づけてくる。
 
 
 
なにこの人、顔近くない?
 
 
 
 
見知らぬ人のボディータッチに硬直し、思わず全身で拒否るようにのけ反っていた。
 
「ほーら、エマもルカもやめなよ。ユリちゃんが困ってるでしょ。」
 
 
 
そう言ったあと、その人はエマの手を優しく離した。赤く跡のついた肌をよく見ると、裏側はエマの爪が食い込んだ跡がありジリジリと痛かった。私は隠すように腕をさする。するとサッとその腕を取りエマに見せた。あまりにも突然だったし、まさかこんな行動をとるなんて予想していなかったから抵抗できなかった。
 
 
「ほら見て、痛そう!エマとルカのせいだよ。可哀そうにユリちゃん、大丈夫?」
 
エマの顔が青ざめていく。
 
私は引きつり笑いをしながら、腕を強く引っ張った。後ろめたそうなエマの表情に首を横に振った。
 
 
 
「大丈夫です。すぐ治りますから。」
 
「ユリちゃんは優しいね。エマの言う通り優しくて綺麗な人だね。」
 
 
 
その言葉にエマが我に返ったように、今度は反対側の腕を引き寄せる。さっきとは違い、ゆっくり掴んで優しく引っ張る感じだった。私の間に入るように立ち、横目で彼を見た。まるで嫌なものを見るようなそんな空気が伝わってくる。エマは息を吐きだした。
 
 
「ふぅ・・・翔、来てたんだ。」
 
「さっきからいるよ。ずっと見ていたけど収まりそうにないし。ユリちゃんが困っているの見兼ねてね。」
 
 
「もう大丈夫だから。それよりユリに近づかないでよ。」
 
「なんでだよ、話してただけじゃん。」
 
 
「翔と話すと妊娠しかねないから。」
 
「うわ、ひっどぉ!それが幼馴染に言うセリフか?なぁ、ルカ酷いよな?」
 
 
 
「てか翔が悪いんじゃん、ボクとエマの間に入ってくるから。」
 
 
 
「なんだよ、お前まで・・幼馴染なんだからさ、お前だけでも俺に優しくしてくれよ。」
 
「めんどくさいな!」
 
 
「そんなこと言うなよ。助けてやったのに。」
 
「どこが?邪魔しただけだろ。翔はいつもさ・・・」
 
 
 
どうやら3人は幼なじみらしい。言葉は悪いけど、じゃれ合っている様子がなんか楽しそうにみえる。それにしても絵になる三人だ。まるでバンドのユニットのように美しい。
 
それを強調しているのが身長で、エマは女性にしては高い方だが二人はゆうに180cmは超えているからそのエマが小さく見える。
 
 
 
翔と呼ばれている彼はグレー色のサラサラ髪で、左耳に垂れ下がっている黒い輪っかのピアスがとても似合っている。上がり目なその瞳が更に魅惑を増していた。
 
 
レオは茶色の髪でゆるッとしたパーマが耳もとで動いていて、白い肌とその大きな瞳が誰もが虜になるのがわかる。その妖艶さを更に引き立てるのがその甘い香り。石鹸とバニラを合わせたようなその香りにふっと引き込まれそうになる。さすが芸能人だ。
 
 
「だから、俺に絡むなよルカ。久しぶりにエマに会ったんだろ?」
 
「そうだよ、だから邪魔するなよ。」
 
 
 
「邪魔なのはルカ、あんたでしょ。」
 
 
 
「ひどいよエマ!ほら、翔のせいでエマに嫌われた。」
 
「それ俺のせいじゃないじゃん。それに拒絶されているの昔からじゃん。なぁエマ?」
 
 
 
「はぁ。。。あんた達二人共めんどくさいから、どこか行ってちょうだい。ねぇユリ!何か食べにいこう!」
 
二人を置き去りにするように速足で歩き出すエマ。その行動に慌てたルカが追いかける。
 
「待ってエマ、ボクも行く!」
 
 
 
 
更にその後を追うように翔がゆっくりと歩きだす。
 
「なぁ、俺を置いて行くなよ二人とも!」
 
 
 
すると止まっていた時間が一斉に動き始めた。何事もなかったかのようにあちらこちらから大きな笑い声が聞こえてくる。
 
 
 
エマから大きなお皿を手渡される。
 
「はいお皿、これ食べる?」
 
「うん。」
 
 
「じゃ、取ってあげるね。」
 
1,2口分をよそってくれる。それを見てレオが皿を差し出す。
 
 
 
 
「ボクもほしい~”。」
 
 
「そう?ほらどうぞ。」
 
 
嬉しそうなレオの顔が直ぐに落ちていく。エマがトングを渡したからだ。
 
 
 
「取って欲しかったのに。」
 
「お皿重いから自分で取ってよ。」
 
 
 
口元をすぼめて無言で受け取るレオ。拗ねてる様子がみてわかる。それを無視するようにエマが私のお皿に次々とのせていく。
 
複数の美味しそうな料理がのったお皿
 
 
 
 
「そういえば、翔は誰と来たの?」
 
エマが尋ねた。
 
 
 
「ボクは一人だよ!」
 
レオが笑顔で答える。
 
 
 
その言葉を無視するようにまた尋ねる。
 
「で、誰と来たの?」
 
「あぁ俺?・・彼氏ときた。」
 
 
「あっ、そう。彼氏できたんだ。」
 
「うん、まあな。」
 
 
「エマー、ボクのも取ってよぉ’’。」
 
 
 
「もう、自分で取ってって言ってるでしょう。」
 
「だってついでじゃん~’’。」
 
 
 
 
「#まったく!ほらこれでいいでしょ!!」
 
 
お皿の半分が隠れるぐらい放り込んだ。
 
 
 
 
「おっ多いよ!!」
 
「だから自分でしてって言ったでしょ。」
 
 
「ズルい~ユリみたいにして欲しかったのに…。」
 
「##ユリ!って呼び捨てにするな!」
 
 
「わかったから、怒らないでよ。ところで翔、彼氏はどこだよ?」
 
怒られたルカはこれ以上叱られたくないのか急に話題を変える。
 
 
 
「あぁー、今?どこだろアイツ、あっいた。あはは、ナンパされてるな・・・。」
 
 
「はぁ?なんだそれ。彼氏でなくてセフレだろ。」
 
「まぁお試し期間だからさ、いいんだよあれで。その方が振りやすいじゃん。」
 
 
「お前、最低だな。ボクみたいに一途でないと嫌われるぞ。ところで前の彼女は??」
 
「あーぁ、別れたよ。」
 
 
「早っ’それマジで?」
 
「あぁマジで。」
 
 
 
二人の会話を無視して私のお皿に綺麗に盛り付けていくエマ。
 
「何飲む?アイスティー?コーラとかがいい?」
 
 
 
微笑みかけるエマ。彼氏&元彼女の会話をまるで天気予報でも尋ねるように淡々と話している翔とルカ。
 
 
 
 
なんなのこの人たち・・・この会話は何!?
 
 
 
 
 
 

突っ込みどころ満載のこの状態に
 
 
 
 
私は言葉を失っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
驚く女性
 
 
 
 
 
 
 
 
次回、「うわっ、神」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

添付・複写コピー・模倣行為のないようにご協力お願いします。連載不定期。

誤字脱字ないように気をつけていますが、行き届かない点はご了承ください。

 

 

沖縄を舞台にした小説です。H大学は架空の大学です。

実在する場所は、紹介していきます。

連載小説「僕の手は君の第1話」

幼い頃に出会った女性を探し続ける大学生。その彼女には幾つもの秘密があった。4角関係、純愛、年上彼女、初恋、イケメン、秘密、スキャンダル、スターとの恋。

 

連載小説「サマーバケーション第1話」

メガネでお団子頭リュック姿の女子大生は、実は美少女だった。何故彼女はその姿を隠すのか。イケメン彼氏とその周りの友人を巻き込む大学生活は。美少女、ツンデレ、イケ彼、逆ハー、変装、胸キュン、モテモテ。

 

ブログ1.5倍速で聞くのがおススメ!

 

【その他の記事】

 

 

 

 

 

 
 
 
 

アメトピに選ばれた記事