どうして女の子とのキスは怒るのよ?
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「あー面白かった!」

カップをゴミ箱へ捨てる。



エマはいつも通りだった。まるで何もなかったように普通だ。

「そうだ!本屋に行きたいの思い出した。本屋行って帰ろう。ねぇ、さゆり、聞いてる?」

肩を揺さぶられはっとする。



「う、うん。」

「まだ、映画の余韻が残っているみたいね、大丈夫?」


「大丈夫だよ。」

さっきの出来事が夢でないかと錯覚する。あれは、夢だったの?そんなはずがない事は分かっていた。唇がヒリヒリするし現実だ。



エマはどうして何も言わないのだろう。そっとその横顔を見る。本を手に取り迷っているその姿は取り繕っている様子がなく、自然体のエマだった。
 
 
 

「これにしよ!」


レジで支払いを済ませたエマは袋から本を取り出し手渡した。

「はい、これプレゼント。」

「えっ、いいよ。貰えないよ。」


「いいから、わたしのも買ったの。2冊あっても意味ないし。」

「ほんとにいいの?」


「うん、読んでほしくて買ったから。あー、そうそうそれ恋愛本じゃないから。さゆり恋愛ものって苦手でしょ、映画も時々ウトウトしてたし。」

「そんなことないよ。確かに映画館では恋愛ものはあまり見ないけど、家では普通に観てるし恋愛本も読むよ。」


「いつもはどんな映画見るの?」

「どちらかと言えばサスペンスものかアクションものが多いかもしれない。」


「じゃ、次はさゆりの観たい映画にしようね!じゃ、私これから用事があるからもう行くね。今日はありがとう。」

「うん、こっちこそチケットありがとう。」

手を振って歩いていった。じっと本を見つめる。開いてみると自己啓発本だった。意外で驚く。てっきり小説だと思っていたから。本を閉じる。




あれは一体なんだったのだろう。


私はモヤモヤしたままバス停へ歩き出した。







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「ユリ、聞いてるか?」

「えっ、何?」

不意に腕を揺さぶられ驚く。


「だから、お昼ピザでも取ろうかと思うけどどうする?」

「うん、いいよピザで。」


「朝からぼーっとしてるけど、どうした?最近、ずっとこんな感じだよな?」

「ううん、なんでもない。」


「なんでもない訳ないだろ、とりあえずピザ注文するから。」

隼人が手際よくピザを注文する。今日は家デートの日。朝から隼人の家にいる私。ゲームをしてても集中できなくて途中から見ているだけだった。注文を終えた隼人が私の顔を見る。




「それで、どうしたんだよ。」

「ううん、何にもないよ。」


「この前から、それしか言わないな。」

「・・・。」


「じゃ、言わせるしかないな。」

そう言って私を抱きしめたかと思ったら、急に横腹をくすぐりだした。



「ちょっと、あはは隼人やめて。あはははっ、くすぐったぃ。」

「じゃ話してくれる?」


「だからなんにもないって言ってるでしょう。」

「いや、嘘だね。絶対に何か隠してる。言わないなら。」


「あはは、嫌だあははっ、くすぐったいよ。」

「じゃ、言う?」


「もう!・・わかった。でもピザ食べてからでいい?」

「いいよ。」


しばらくしてピザが届いた。大きなピザを頬張る。美味しい。チーズが好きな私の為にダブルチーズのトッピングがされている。しかも大好きなアップルパイまである。久しぶりのピザはとにかく美味しくて満足だった。

 
宅配の美味しそうなピザ





「ねぇ、コーヒー飲む?」

「いいね、俺入れるよ。」


「いいよ、まだ食べてる途中でしょう。私がするから。」


棚からコーヒーを取り出す。フィルターに粉を入れてセットする。どうしよう。エマとのこと話しても怒らないかな?この前のこともあるし・・今回の相手は女の子だし大丈夫だよねきっと。隼人の方へ目をやるとテレビを観ていた。もう食べ終えたらしい。箱が綺麗に折りたためられ袋に入っている。こういう細かいところも好き。
 
カップを両手に隣に座る。

「はい、コーヒー。」

「ありがとう。」

カップを受け取り一口飲む。そのカップをテーブルへ置いたあとこっちを見た。


「それで、何に悩んでいる?」

「・・・。」


「なんか言いにくそうだな。それ、俺が嫌がることか?」

「うん。」


「他に好きな人ができたとか?」

「何言ってるの、そんな訳ないでしょ!」


「分かった怒るなよ。それで、何があった?」

私はうつむく。言っていいのかな。だって相手は女の子だけどキスはキスだし。どうしよう。ため息がでる。




「そんなに言いにくいことなのか?まさか、また誰かに告白された?」

「うん。」


「やっぱりそうか。ふふっ、なんだよ。そんなのいつも事だろ。そんなに悩むって事は・・・相手は誰?」

「・・・。」


「俺の知ってる人?」

「うん。」


「それで、誰なの。」

「エマ。」


「えっ!?今なんて言った?」

「エマって言ったの。」


「うそだろ、女の子か。」

「うん。」


「それ、マジな好きってことか?ほら高校の時もいただろ。ユリのこと大好きで追っかけしてた友達があんな感じだろ。」

「わかんない。」


「わかんないって、それよりなんでそんなに悩んでるんだよ。」

「・・・。」



私の様子が変なことに気づいた隼人の顔色が変わった。

「何かされた?」

「・・・。」




顔を近づけ低い声で問いただす。

「何されたんだ。」




もう言わなきゃ。



「キ・・キスされたの。」

「キスってどこに?」


「口に・・・。」

目を見開いたままじっと見つめていた。


すると突然ピザの袋を取って立ち上がる。キッチンへ行きゴミ箱へ入れる。その様子を見守る私。戻ってきた隼人は隣に座ってゲームを始めた。




これって
怒ってるよね・・たぶん。


その日エマの話はもう出てこなかった。ゲームをした後借りてきたDVDをみた。隼人はいつも通りだったから怒っているのか分からなかった。私は何も聞く事もできずそのまま帰宅した。







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あれから5日が過ぎた。メールしてるけど会ってはいない。忙しくて会えていなかった。
 
 
 
避けられているのかな?やっぱり怒ってる??よくわからなかった。とりあえず、陽介に聞いてみよう。素早く打ち込み送信ボタンを押す。



:隼人は?
:いるよ。
:どんな感じ?
:何が?よくわからないけど、普通だよ。
:怒ってたりしない?
:いや普通だけど。なんで喧嘩でもしたのか?
:そうじゃないけど。
:いつもの隼人だよ。

陽介のメールからはいつもと変わらない隼人の様子がうかがえる。やっぱり気にしすぎなのかな?





:そういえば、エマって女の子の事聞いてきてたよ。

ウソ、、なんで陽介に。あっ、前に陽介に聞いてみるって言ってた。





:それで何か分かったの?
:英文科で彼氏なし入学して3人告って振られてる。どうやら好きな人がいるらしい。性格はサバサバしててそこが今どきの女の子とは違って人気らしい。高校は女子高で英語が得意。お兄さんがいて超ヤバいらしい。シスコンだって噂だ。


シスコン?
なんて・・ことなの。


食堂での先輩の態度を思い出していた。エマの顔を見た時の先輩の恐怖の顔、、あれは普通じゃなかった。そんなに怖いお兄さんなんだ。そのエマが私にキスをしてきた・・・って言うことはマズイよね私。お兄さんに殺される?





:お兄さんて何してるの?
:この大学に通ってるらしいよ。


えっ、、でもエマと先輩の会話だとこの大学じゃないって。。




:他の大学でしょ。
:うちの大学の体育学部だって。自衛官目指してるらしいよ。
 


体育学部・・あったような気がする。たしか卒業したら教師や警察官、自衛官になる人が多い学部。うちの大学は規模が大きい、敷地も他の大学に比べると広い。だからって先輩たちが知らないなんて。学科が違っても3年も通っていれば絶対に会ってるはずだし。何かが変。



:何年生?
:そこまではわからないよ。

浪人して合格していれば2年、いや1年もあり得る。まさか、、1年じゃないよね。




:喧嘩したなら早く仲直りしろよ。隼人が爆発したら俺がとばっちりを受けて大変なんだから。
:喧嘩してないから大丈夫だよ。ありがとう。


エマのお兄さんがこの大学に通ってる。体育学部ってどの棟だろう。携帯で学内図をチェックすると驚いたことに隣だった。頭が痛いとはこういうことだわ。エマがお兄さんに話しているとは思えないし考えるだけ無駄のような気がする。ばったり合わないことを祈るしかない。

午後の授業を終えた私は、レポートの為に借りた大量の本を返しに図書館へ歩いていた。前から大声で話しながら歩いてくる4,5人の先輩たちを避けようと左へ寄る。すると話に夢中だった先輩の手が本に当たり足元に崩れ落ちた。



「痛ったぁ!!」

「すいません!」


「なんだよ、この本。」

「すいません!」


「どこ見て歩いてるんだよ。うわー、マジ足痛い!」

「本当にすいません!」


「大丈夫か?」

「大丈夫じゃないよ、指に直撃だよ。痛いな!クソッ。」

急いで本を拾い集める。皆がこっちを見ていた。なんだか視線が痛い。最後の1冊を誰かが拾ってくれた。



「ほら、これ。」

「すいません、ありがとうございま・・。」

顔を上げると隼人だった。どうしてここにいるの?


「痛いな!膨れ上がりそうだよ。」

「先輩も悪いと思いますよ。話に夢中で前を見てないからぶつかったんです。」

隼人が言い返した。その言葉にすぐに反応した。


「なに!?お前誰だよ。1年だろ。」

「そうです、1年です。」


「おい、止めろよ。」

先輩の隣にいる友人が制止する。


「被害者は俺だぞ。」

「わかったから。お前は言葉がキツイから誤解を受けやすいんだよ。君、医学部でしょう。」

「そうです。」


「医学部が何だって言うんだよ!」

「お前、この顔見て気が付かないのか?彼は杉浦先輩の弟だよ。そうだよね?」

「そうです。杉浦隼人です。でも今は兄とは関係ありません。今回はよそ見していた先輩が悪いと思います。」


「なに!お前。」

「おい、止めろって。こんなことで喧嘩するなよ。お前も悪いんだからさ。」


「なんでだよ、ケガしたの俺だぞ。」

「とにかく、そこの君もごめんね。」


「いいえ、私こそすいませんでした。足大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃなーよ。」

隣にいる先輩にわき腹をつつかれる。


「わかったよ。もういいよ。」

頭を上げると先輩たちは歩きだしていた。周りの人たちも何事もなかったかのように動き出す。隼人を探したけどもうどこにも見当たらなかった。








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:家で待ってるよ。


ただ一言だけのメールだった。





きっとエマの話だと思う。廊下でのことならメールで済むし。でもどうして隼人があんな場所にいたのだろう。不思議だった。普段なら通らないはずだし。もしかして私をさがしていた?でもそれならメールすればいいし。あっ、でも怒っててメールできなかったとしたら・・・考え始めるとキリがない。やめよう。会って話すのが一番だわ。


チャイムを鳴らす。鍵を開ける。靴を揃えて中へ入っていくと隼人の鞄があった。でもどこにも見当たらない。奥のドアを開けるとベットで寝ている隼人がいた。




「隼人?」
 


声をかけるけど動かない。ぐっすり寝ているようだった。少し考えてから、鞄を床に置いてゆっくりとベットに横になる。隼人の背中を見つめる。怒っているのかな?でも、今日私を助けてくれた。その大きな背中にくっつくように抱きつき、腕を前へ通す。隼人の匂いについホッとする。そして、あっと言う間に私は夢の中へ落ちていった。







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目が覚める。隣にいたはずの隼人はいなかった。居間からテレビの音がする。そっとドアを開けると彼はソファに座っていた。私は後ろから抱きついた。

隼人は動かない。
 
 
 
 
彼に後ろから抱きつく彼女




「隼人ごめんね。」

何も言わない隼人。




「ごめん。もっと、ちゃんと注意するから。」

それでも何も言ってくれない。



悲しくなってきた私は隼人から手を離す。すると、手をつかまれた。


「悪いって思ってる?」

「うん、思ってる。ごめんね。」

隼人はメガネを外しテーブルへ置く。私を横に座らせた。



「怒ってるよね?」

「怒ってないよ。」


「でも、会ってくれないし。メールも短いし。」

「ユリはいつも俺にこんな感じだけど?」


「そうだけど、隼人がすると気になる。」

「怒ってないよ、ただユリには反省して欲しかったんだ。すぐ許しても良かったんだけど、女の子とのキスはセーフだと思われても困るしね。それにユリに隙があったことには変わりがないと思うから。少しお仕置きしたんだ。嫌だった?」


「ううん、悪いと思ってるから。」

「これからは気を付けるんだよ。高校の時のようにいつも俺は側にいてあげれない。それにユリが俺の彼女だってみんな知らないから、トラブルになると歯止めも効かないこともある。今日のことだってそうだよ。」


「うん、わかった。」

「そろそろ元に戻ってもいいんじゃないか?」


「えっ、それは嫌だ。まだこのままでいたいの。ダメ・・かな?」

「いいよ、ユリの好きにすればいい。とにかく気を付けるんだよ。」


「うん。」


優しく抱きしめられる。隼人の胸は大きくて、わたしがすっぽり入ってしまう。温かい温もりとミントの香りがする。不安だったあの時間がウソのように消えていく。。。二人には必要な距離、それがこの距離だった。
 
 
目を閉じて、おでこをくっつけ合う男女
 
 


その後、途中までしか見ていない映画の続きを見てから家へ帰った。









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夕食を食べ終え、部屋でテスト勉強をしていた。携帯が光る。その文面に凍りつく。

ウソでしょ。


それはエマからのメールだった。それもたった一文だけ。







:お兄ちゃんがユリに会いたいって言うの、明日は暇?







これは、、どういうこと?これって絶体絶命だったりする??誰か教えて!!







次回「シスコン兄の嫉妬?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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