テレビの前でリモコンを握りしめる女性

 

 

 

記者会見が続く中、携帯が鳴った。気がつかない彼女の代わりに携帯探す。

 

「雪さん、携帯が鳴っています。」

 

「えっ、あっありがとう。」

 

 

 

「もしもし!雪!テレビ見てる?」

 

「見てる。」

 

「あれは雪のことでしょう。」

 

「えっ、どうして・・・。」

 

「なんでって言われてもね。」

 

「千佳知ってたの?」

 

「薄々はね、妊娠した時期がちょうどあの頃だったから。もしかしたらって思っていたわよ。言うべきか迷ったけど頑なに相手のこと言わないから、無理に聞いても仕方ないと思って言わなかったの。涼先輩と会って話したの?」

 

「うん、昨日会社の前で待ってたの。」

 

「そう、それで公表することになったわけ?」

 

「ううん、知らなかったの。」

 

「えっ、何も相談なしに公表したの?」

 

「うん、でもこれからすることは私達2人のためだから信じて欲しいって言われた。」

 

「なるほどね。それで葵ちゃんには連絡した?」

 

「まだしてない。葵には何も知らせてないから。」

 

「うーん、でもね。たぶん今頃大喜びだと思うけど。」

 

「えっ?どういうこと??どうして?」

 

「この前、病院で涼先輩に会ったでしょう。あの時、雪の様子が変だから私に相談しに来たのよ。もしかしたら、パパかもしれないって。私に確認したかったみたい。でも私も確証がなかったから、わからないって答えたけど。葵ちゃんは確信してるようだったわよ。きっとパパだと思うって、もしそうだったら嬉しいって言ってた。」

 

「本当に?」

 

「ええ、本当に。」

 

「どうして葵はそう思ったの?」

 

「私も不思議に思ったから聞いてみたの。そしたら、指輪だって言ってた。」

 

「指輪?」

 

「涼先輩とお揃いの指輪持ってるでしょう。」

 

「えっ、・・・。」

 

 

私は思い返していた。先輩から貰った指輪。でもスポンサーから貰ったものだから気にしないでいいと言っていた。あの指輪、お揃いだったなんて・・・そんなこと知らなかった。

 

 

 

「あれ特別な物なの?」

 

「そうらしいわ、ファンの間では有名でペアーリングだって話よ。もう1つの指輪を持っている人が森本涼の最愛の人だってみんな知ってるし。その女性に向けた曲がいくつか作られていて、コンサートでその話を時々していたらしいわ。」

 

知らなかった。指輪のことも忘れていた。・・・葵はその指輪で確信したのだろうか?

 

「そう・・そうなんだ。」

 

「うん、さっきも言ったでしょ。今頃大喜びよ、でも誰にも言えなくてウズウズしてると思うけどね。早く電話してあげて。」

 

「わかった。ありがとう。」

 

「どういたしまして。それよりお泊まり?今ユイ君の家でしょう。」

 

「えっ?あっ、うん。でも、、何も無いから私たち!」

 

「そんなこと聞いてないわよ。ピンポンしても出てこないし。また倒れていたらと不安になって中に入ってみたけど、誰もいなかったから。それで電話したの。」

 

「心配させてごめんね。」

 

「いいのよ、それより早く電話してあげて。」

 

「わかった。」

 

 

電話を切る。全てを察したようにユイ君が頷く。

 

「大丈夫ですよ。葵ちゃんならきっと大丈夫。でも安全のために迎えに行った方がいいと思います。今日でも明日でもいいですし、僕が一緒に行きますから。」

 

「ありがとう。葵に電話してみる。」

 

 

 

 

ソファに座って電話をかける。ユイ君は部屋へ入っていく。

 

「もしもし、ママ?」

 

「うん、今話せる?」

 

 

「ちょっと待って・・・・。はい、いいよ。」

 

 

「テレビ観てた?」

 

「うん、今観てるよ。森本涼でしょ。」

 

 

「うん、そう。」

 

「あの人、葵のパパだよね。わかってたよ。病院で会った時パパかなって思ってたから。」

 

 

「今まで言えなくてごめんね。」

 

「いいよ、大人の事情ってことでしょ。」

 

 

「うん、そうだね。」

 

「ママ、パパに会える?」

 

 

「会えると思う。聞いてみるね。」

 

「ママ、私大丈夫だよ。凄く嬉しいから。」

 

 

「あのね。パパのことは誰にも言えないの。それは今までと変わらないかもしれない。」

 

「そんなのわかってるよ。あゆみちゃんにも言っちゃダメってことでしょう。」

 

 

「そうね。」

 

「お兄ちゃんは知ってるの?」

 

 

「えぇ、知ってるわ。」

 

「良かった。千佳ねぇは_?」

 

 

「知ってる。」

 

「じゃ、大丈夫だよ。言える人ママだけじゃないし。」

 

 

「パパと話したい?」

 

「うん!話したい!!」

 

 

「じゃ帰ってきたら電話してみようか。」

 

「オッケー!」

 

 

「ユイくんと一緒に迎えに行く予定なんだけど、今日と明日どっちがいい?」

 

「うーん、明日でいいよ。あゆみちゃんと約束してるし。」

 

 

「そう、ただ外には出ないで欲しいの。状況が把握できていないから。」

 

「わかった。家にいるようにする。」

 

 

「じゃ、明日迎えに行くね。」

 

「うん、じゃねママ。」

 

 

電話が切れる。

 

突然すぎて気持ちが追いついていなかった。記者がここを見つけるのも時間の問題かもしれない。長年不安だったことが消えてホッとしていたら、また別の不安がわき起こってくる。葵の学校も心配だった。通学途中で接触してくる記者がいたら、どう対処したらいいか分からない。不安は計り知れなかった。

 

 

「雪さん?」

 

振り向くとユイ君が立っている。

 

「どうでした?」

 

「明日、一緒に迎えに行ってもらってもいい?」

 

「わかりました。パスタ冷めてしまったのでレンジで温めますね。」

 

キッチンへ歩いていく。もう食欲がなくなっていた。

 

不安で仕方なかった。気がついた時には記者会見は既に終わっていた。涼先輩にメールを打つ。葵が会いたいと言ってる事と、葵が明日の夜電話したいとメールする。すぐに返信がきた。電話はいつでもいいと言う。会う日は日程を調整するから連絡待ちになり、記者会見の説明と今後の安全の確認をしたいから今日の夕方に迎えの車を送ると返信がきた。驚いたことに先輩はユイ君も一緒に来て欲しいという。やっぱりユイ君のことを知っていた。

 

 

「雪さん、食べましょう。」

 

 

 

食欲がなく半分も残してしまう。

 

「僕が食べますよ。」

 

そう言って彼は私のお皿を受け取る。

 

「ユイ君、今日の夕方予定ある?」

 

「いいえ、ないです。どうかしましたか?」

 

「涼先輩がユイ君も一緒に話がしたいって言ってるの。」

 

のく予想していたんだと思う。すぐに返事をしてくれた。

 

「わかりました。場所はどこですか?」

 

「迎えの車が来るらしいの。」

 

「じゃ、雪さんの家に車置いて行きましょう。」

 

「ええ、でもいいの?」

 

「大丈夫ですよ。僕は雪さんの友人ですから。」

 

胸が痛かった。彼は私の友人。そんな事を確認しなきゃいけないなんて。なんて残酷な事を言わせてしまっているのだろう。

 

 

 

 

 

 

玄関の鍵を開ける。あと20分で迎えが来る。急いで着替えなくては・・憂鬱だった。ユイ君を呼んだということは何か話したい事があるのか、何か聞きたい事があるからだと思った。心配だった。ユイ君をこれ以上傷つけたくなくて。セーターを着てジーンズに足を入れる。ユイ君の服装に合わせた。どこに行くのか分からない以上、恥をかくなら2人一緒がよかったから。

 

チャイムが鳴り急いでインターホンにでる。下へ降りるとユイ君が立っていた。運転手さんがドアを開ける。

 

 

運転手さんが後部座席のドアを開ける

 

 

 

 

車の中でも彼は落ち着いていた。実家は病院を営んでいるから運転手付きの車で外食することにも慣れているのかもしれない。私だけがなんだか落ち着かなくて、膝の上で手を握りしめていた。そんな私の不安を感じ取ったのか彼はそっと手をにぎる。視線は前を見つめたままで。

 

 

車の中で女性の手を握る男性

 

 

 

温かい彼の手。

心まで温かくなってくる。そういう気遣いのできる彼が好き。いつも私が不安な時に必ず手を差し伸べてくれるそんな彼の手は私の安らぎだった。

 

車が停まった。

 

降りると大きな壁が建っていた。どこに入口があるのか分からない、そんな建物だった。すると壁が横にスライドした。そこからドアが現れる。「どうぞ中へ」と声をかけられる。ユイ君は私の背中に手を添えて中へ入った。とても広いホールだった。上には大きなシャンデリアがキラキラしている。中央の壁には美しい水彩画が飾られていた。

 

 

 

高級レストランの美しく大きなシャンデリア

 

 

 

 

スーツを着た若い男性がこちらへ歩いてくる。「ご案内します。」扉を開けたその先に、涼先輩が立っていた。そして、ユイ君の前に立つ。

 

 

「初めまして、森本涼です。」

 

「初めまして。星野唯一です。」

 

挨拶をして握手をする。二人のスマートな挨拶に不思議な感じがした。

 

「ゆき?」

 

二人がこっちを見ている。ドキドキする。なんか変な感じ・・・だった。

 

そこへノックの後、先ほどの男性が入ってくる。「お客様がお見えです。」「お通しして。」男性は頷き戻っていく。再び扉が開いて入って来た人物に私は驚いた。どうして・・・なんで彼がここにいるの。彼は涼先輩の前に立った。

 

 

 

「初めまして、森本涼です。」

 

「初めまして、青木蓮です。」

 

握手を交わす二人。蓮だった。蓮は私に笑む。そしてユイ君を見て

 

「久しぶり。」

 

「お久しぶりです。」

 

と挨拶を交わす。ユイ君は驚いてなかった。予想していたのかは分からない。この予想もしていなかった出来事に私は動揺を隠していた。

 

「蓮、どうして・・。」

 

「千佳さんから今朝聞いたんです。それで森本さんから連絡をもらって来ました。驚かせてしまったようですね、大丈夫ですか雪さん?」

 

その様子を見ていた涼先輩が説明をする。

 

「彼はずっとゆきを支えてきたと千佳さんが言っていたから、来てもらったんだ。一言話しておくべきだったかな。すまない、ゆき。」

 

「いいえ、大丈夫です。少し驚いただけですから。」

 

「じゃ、とりあえず座ろう。」

 

正方形のテーブルに4人で座る。私の右にはユイ君。左には蓮。正面には涼先輩が座っている。食事が始まった。涼先輩を中心に蓮が話をする。ユイ君は時々相づちを打つ。私は聞いていた。話の中心は葵だ。葵の話を聞く先輩はとても楽しそう。それを聞いているユイ君も楽しそうに笑う。不思議な時間を過ごしていた。変な感じだった。私の大切な人たちが集まっている。

 

コーヒーが運ばれてきた。

 

 

 

コーヒーを持ってくるウエイター

 

 

 

 

 

「じゃ、早速本題に入ろう。今日きてもらったのは、言うまでもない雪と葵の護衛についてと、お二人の今後の行動にどのようなことが起こり得るのか話をしたいと思う。」

 

 

先輩の話は明確だった。私の近くにいる男性はマークされる。ここにいる3人の住まいはすぐに記者に嗅ぎつけられるという事。そして四六時中張りつかれることになる。隙を見せるとそれが週刊誌のネタになると先輩はいう。基本はいつも通りで問題ないが注意するべきは異性関係だという。私と会う時は二人で合わないように念を押していた。必ず三人以上で会うこと。送迎などの二人だけの同乗も危険だという。二人は真剣に先輩の言葉に耳を傾けていた。

 

「ゆき。君と葵は送り迎えをしたいと思っているけど、どう思う?」

 

急に名前を呼ばれ慌てる。

 

「あっ、あの電車ではダメですか?」

 

「どこに記者がいるかわからないんだ。その不安に耐えらる?送り迎えはずっとではない。今はこの話題で持ちきりだけど、それよりも大きな出来事が必ず報道される日がくる。そのすれば人々は少しずつ忘れていく。段々と普通の生活に戻っていけるようになる。ただ時間が少しかかるんだ。それと周りの協力も必要になる。学校と職場には説明する必要があるんだ。よければ俺が全てを手配したいと思っているけど、どうかな?」

 

なんて答えていいのか分からなかった。自分に起こるであろう非現実的な話だ。どこまで備えればいいのか分からなかった。

 

口火を切ったのはユイ君だった。

 

「雪さん、まずは身の安全を確保することが1番の安心になるはずです。それさえ確保できれば、後のことは我慢できる範囲内に収まるはず。何よりも自分の安全と葵ちゃんの安全を優先してはどうでしょうか?」

 

ユイ君の言葉が私の心にスーッと入ってくる。その言葉が背中を押した。

 

「涼先輩にすべてお任せします。」

 

「良かった。早速、学校と会社には弁護士が行くように手配しよう。それから、車と運転手は専属をつける。変更がある場合は俺が直接君たちに電話するから。」

 

「わかりました。」

 

「それとしばらく、家の警備もつけようと思う。記者の中にはひつこい人もいるんだ。あと家の防犯設備も必要だけどいいかな?」

 

「はい。わかりました。」

 

「ゆき、すまない。しばらく、頑張ってもらえるかな?」

 

「大丈夫です。心配しないでください。」

 

全然大丈夫じゃなかった。不安でいっぱいだった。ユイ君ともしばらく会えないかもしれない。それが1番の不安だったのかもしれない。

 

涼先輩は蓮を見送った後、最後にユイ君と2人で話をしたいと言った。私は待つしかなかった。何を話をしているのか心配で仕方なかった。

 

 

 

 

車の中でユイ君に聞いてみた。

 

「なんの話だったの?」

 

「二人で会う時の方法を教えてくれたんです。」

 

「そうなの・・。会えるの?」

 

「はい、大丈夫です。陸と二人で行きます。陸は千佳さんの家に僕は雪さんの家に帰りも一緒に帰ります。そうすれば、大丈夫だと彼が教えてくれました。」

 

「何か言われたり聞かれたりしなかった?」

 

「いいえ、それ以外何もありません。」

 

「そう、良かった。」

 

彼女は心からホッとしていた。

 

 

 

 

 

 

彼女には言わなかったことがある。

 

 

 

 

 

 

最後に森本涼が言った言葉。

 

 

「私は彼女を愛している。

私は彼女の心が振り向くのを待っている。彼女が私を求めるなら彼女を二度と離さない。君はどうかな?」

 

 

 

森本涼の言葉は彼の人生そのものだと思う。確か彼は40歳前後、僕よりも一回り以上も上だ。その言葉の重みがわかる。彼は雪さんの高校の先輩。雪さんに年齢を聞いたことはなかった。思っていたよりも上だったことに驚いたが、それは障害にはならない。もし俺にとって障害になることがあるとすれば、それは彼女の拒絶だけだ。

 

僕からその手を離すことはないのだから。

 

 

 

 

 

 

男女が仲良く手を繋ぐ姿

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、『ただ彼だけが欲しくて』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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