前回は、花卉園芸新聞がとりまとめた2023年の花き市場取扱高(114市場)が3,605億円、前年比1.1%減であったことを紹介しました。
取扱高3,605億円は、切り花類(葉もの・枝ものを含む)、鉢もの類、花木類(いわゆる植木など)、資材その他の合計。
今回のお題は、日本農業新聞(2024年7月15日)の記事を加え、切り花と鉢ものの市場取扱高の変化から花農家の経営を考えます。
2023年市場取扱高は、
切り花が2,636億円、前年比0.2%増、
鉢ものが873億円、前年比4.6%減(表1)。
切り花と鉢もので明暗が分かれました。
表1 2023年花き市場流通調査まとめ(花卉園芸新聞 2024年7月15日)
図1は、切り花と鉢ものの取扱高の推移。
切り花は、コロナ禍の2020年に底を打ち、その後は増加に転じました。
鉢ものは、コロナ禍のステイホームで、プチ園芸ブームがおこりましたが、瞬間風速的な伸びで終わり、22年からは再び下降がはじまりました。
それでもコロナ前の19年よりは増えています。
花き卸売市場協会のデータを宇田作図
図2では、切り花と鉢ものの取扱高の前年比の推移を示しました。
切り花は、2020年には前年比8.9%減、コロナ禍で大きな痛手を負いました。
その後はV字回復で、23年もなんとか続いています。
21年8.3%増、22年7.9%増、23年0.2%増。
卸売市場協会のデータから宇田が計算し作図
取扱高合計では、花卉園芸新聞見出しは「3年連続増ならず」でした。
しかし、切り花だけならかろうじて「3年連続増」。
日本農業新聞(2024年7月15日)の見出しが、実体をよく表しています。
花き卸取扱高伸び一段落
23年1%減 家庭需要は定着
鉢ものは、需要が消失した切り花をしり目に、コロナ禍の2020年にもかかわらず0.2%増、21年には脅威の12.6%増。
22年、23年にはその反動により、2.3%減、4.6%減。
「山高ければ谷深し」です。
鉢ものは、コロナには勝ったが、物価高騰に負けたようです。
物価高騰で消費者の財布のひもが堅くなりました。
さらに、鉢ものは、生産資材高騰で生産者が減り、生産量=市場入荷量が減りました。
鉢ものは入荷数量11.5%減(図3)。
鉢ものは、切り花はのような助っ人(市場、花屋さんにとって)がいません。
鉢ものには、国産の減少を補う輸入がありません。
図3 切り花と鉢ものの2023年卸売市場の入荷量、取扱高の前年比
卸売市場協会のデータから宇田が計算し作図
反対に、切り花には輸入があるていど国産の減少を補ってくれます。
その輸入切り花が23年には6.4%増。
輸入のカバーで、切り花の入荷量は2.6%減で収まった。
結果、品薄単価高で、なんとか取扱高が0.2%増。
鉢ものは、少々単価高になったとしても入荷減が大きすぎるので、取扱高がマイナスにならざるを得ない。
市場の取扱高は、生産者の花を販売して、花屋さんから受取った金額。
花屋さんにお金を支払ったのは、消費者=エンドユーザー。
したがって、市場の取扱高は、家計調査の切り花、園芸用植物(鉢もの・苗ものなど)の支出額と連動する。
図4は、切り花の家計支出額と切り花取扱高の関係。
家計支出額が増えると、市場取扱高が増える。
赤丸は、2020年の異常な事例。
家計支出額の理論値より圧倒的に市場取扱高が少ない。
それは、家計支出額≒家庭用の花(ホームユース)であり、
家計支出額に含まれない業務需要が極端に減ったことが市場取扱高を下げたと考えられます。
コロナにより、コンサートやイベントが激減したことの影響がいかに大きかったかがあらためてわかります。
総務省家計調査、花き卸売市場協会のデータを宇田作図
鉢もの(図5)も同じで、2020年の赤丸が取扱高の理論値より極端に少ない。
それも業務需要が極端に減ったためでしょう。
総務省家計調査、花き卸売市場協会のデータを宇田作図
市場取扱高を増やす=生産者の売上げを増やすためには、家計支出額を増やすことです。
すなわち、消費者の財布のひもをゆるめることです。
それは、切り花マーケットの7割は個人消費(家庭用・自分用の花)だからです。
2024年6月23日「切り花の高品質・高単価マーケットは3割しかない」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12857037344.html
そのためには、品薄単価高を解消しなければなりません。
単価高でもヘビーユーザーは、切り花、鉢ものを買ってくれます。
しかし、購入回数を減らして、年間の購入額を抑えようとします。
図6は切り花。
市場単価は東京都中央卸売市場花き部6市場、購入回数は総務省家計調査のデータを宇田作図
市場単価(青棒グラフ、東京都中央卸売市場花き部6市場の平均価格)は、品薄単価高で着実に上がっています。
生産コスト上昇には追いついていないかもしれませんが、価格転嫁ができています。
単価上昇に反比例して、消費者の年間の購入回数は減っています。
コロナ前の2019年には8.8回でしたが、2023年には7.5回に減りました。
この間、単価は15円アップ、購入回数は1.3回減。
図7は鉢もの。
市場単価は東京都中央卸売市場花き部6市場、購入回数は総務省家計調査のデータを宇田作図
切り花とおなじように市場単価は毎年アップしました。
単価アップにもかかわらず、購入回数はコロナ禍の20年には5.3回から5.8回に増え、21年、22年は5.8回を維持しています。
これがプチ園芸ブームの効果でしょう。
値上しても鉢ものを買いたい、そばに置いていたい、そういう空気だったのでしょう。
さすがに23年にはブームが終わり、もとの5.3回に逆戻り。
24年以降、財布のひもを締め、さらに購入回数が減ることが予想されます。
切り花の消費に占めるホームユース、家庭用の個人消費は7割以上あります。
その個人消費は価格に敏感です。
高品質・高単価で経営を続けられる生産者はひとにぎり。
高品質・高単価のいす取りゲームでいすに座れなかった生産者は、市場では高品質でありながらホームユース価格で取引されてしまいます。
それが、花をつくっても儲からない原因です。
花農家として生き残るためには、これまでどおり高品質・高単価マーケットで戦いつづけるか、大きなホームユースマーケットの「ホームユース規格・お手頃価格」に軸足を移すかを考え、なければならないでしょう。
今回も、図表が多い長文駄文でした。
宇田明の『もう少しだけ言います』(No.438. 2024.7.21)
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