切り花の高品質・高単価マーケットは3割しかない | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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前回は、花の個人消費と業務需要の比率を検証しました。
2024年6月16日「切り花の「個人消費」は3割「業務需要」は7割と教科書に書いてあった」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12856218099.html


農水省の「花きの現状について」(2024年3月)では、花の国内消費1.1兆円のうち、個人消費8,813億円(77%)、業務需要2,688億円(23%)。
それにもかかわらず、MPSジャパン(株)松島社長やわたし、多くの花業界のひとは、「個人消費3割・業務需要7割」という数字が頭にしみついています。

なぜか?
花き園芸の大家の教科書(的書物)にそう書いてあったから。
というのが、前回のおはなし。

そのデータの出典は、農林省農蚕園芸局(当時)の「生花の消費動向調査」。
1970年には、店売り、仕事花、稽古花がほぼ1/3ずつを占めていました。
その後、稽古花が激減し、店売りが増えて、今日の個人消費が8割になったようです。

花の生産者は、

個人消費だろうが業務需要だろうが、

花が高く売れさえすればおかまいなし、

どうでもよいとお考えでしょう。
しかし、

需要の動向、マーケットを無視した生産はありえません。
さらにいえば、

生産者は、消費者に感動を与える高品質な花をつくり、市場出荷しているつもりです。
それなのに、

再生産価格がえられず、花づくりから撤退する生産者が続出。
それは、マーケットを無視した生産をしているからです。

消費者に感動を与える花をつくる、それは生産者として崇高な生き方です。
その前提は、

「消費者ってだれ?」です。
それを知るために、個人消費と業務需要の比率が重要です。

前置きが長くなりました。

今回のお題は、

花の個人消費と業務需要の比率を深掘りし、マーケットの現状を知り、生産目標がマーケットに対応できているかを検証します。

花の個人消費の比率について、整理が必要。


①農水省データは、切り花だけか、鉢ものを含んでいるのか?

農水省「花きの現状について」(2024年3月)の、国内消費1.1兆円は鉢ものを含めた総金額。
したがって、

個人消費8,813億円、業務需要2,688億円には、鉢もの、植木などすべてが含まれています。

前回報告した農林省農蚕園芸局の1970年、1990年調査は、切り花だけのデータですが、同時に、鉢ものも調べられていますので、紹介します(図)。

図 切り花と鉢ものの消費動向調査(1970年)

  農林省農蚕園芸局が日本生花通信配達協会に調査を委託

  調査データを宇田作図

 

1970年の店頭売りは、切り花では34%でしたが、鉢ものでは76%。
おなじように、1990年の切り花では店頭売りが50%でしたが、鉢ものでは80%。
このように、鉢ものは切り花より店頭売りが圧倒的に多く、業務需要が少ない。
それは昔も今も大きなちがいがないでしょう。
そのため、鉢ものを含めると、切り花だけより店頭売り(個人消費)の比率が高くなります。

②個人消費とはなにか?

 個人消費にはギフト(贈りもの)が含まれているのか?
 

園芸探偵 松山誠氏は看破しています。
松島さんがいっている個人消費とは、ギフトを含まない「家庭用=ホームユース」のことでしょうと指摘。
わたしがイメージしている個人消費もホームユースで、ギフトを含んでいません。
なぜなら、

ホームユースとギフトでは、求められる品質、価格帯が違うからです。

現在の農水省データでは、店売り=個人消費で、ギフト(贈りもの)を含みます。


個人が、知り合いのひとが店を開店したので、花屋さんに花輪、あるいは胡蝶蘭を注文したら、「個人消費」になります。

総務省家計調査の「切り花」にも、ギフトの花が含まれています。
購入場所は、花屋、ネット、スーパー、直売所など問いません。

さらに、用途も自宅用、ギフト(贈りもの)など問いません。

切り花を購入したら、品目分類の「切り花」にカウントされます。

反対に、

中学生や高校生が、

花束を買って卒業式の先輩に贈ったら、「切り花」にはカウントされません。
世帯主以外の「こづかい(使途不明)」になります。

3人の花き園芸の大家のうち、大川先生は、個人消費を家庭用(いまでいうところのホームユース)に限定しています。
個人が家庭に飾って楽しむ花。
オランダのように、誕生日に飾る花、結婚記念日に飾る花、お客さまをもてなすために飾る花、日常のテーブル花・・のイメージ。
現実には、日本では仏花、墓花、神棚の榊が主ですが・・。

以下、面白くない計算です。

めんどうな方は、最後の結論部分にジャンプしてください。


科学的な調査データ、エビデンスはとくにありません。
わたしが知りうる資料、各方面の方々の肌感覚をお聞きして推定した数字です。

また、農水省の公式データではありません。

農水省データの個人消費8,813億円のうち、切り花の推定金額は?
切り花は2/3
鉢もの・苗ものは1/3と推定します。

切り花:個人消費8,813億円×2/3=5,875億円
切り花の個人消費は5,875億円

そのうちホームユースは70%、ギフトは30%と推定。
5,875億円×70%=4,100億円(ホームユース)
5,875億円×30%=1,960億円(ギフト)

業務需要2,688億円はすべて切り花とします。

(農水省データでは、お祝いなどに贈る胡蝶蘭鉢は店売り=個人消費)

そうすると、切り花消費額は、
ホームユース4,100億円(47%)
ギフト1,960億円(22%)
業務需要2,688億円(31%)

ざっとですが、

切り花消費のうちわけは、ホームユースが5割、ギフトが2割、業務需要が3割になります。
あくまでわたしの推定値ですが。

個人消費は、ホームユースに限定すると5割です。
生産者が、

高品質をつくり、高単価を期待できるのは、

「婚礼需要 372億円 + ギフト 1,960億円=2,330億円」です。
切り花消費の3割弱しかありません。

 

この3割弱のマーケットに、日本中の切り花生産者が参入、乱入しています。
少ないいすを取りあっているいす取りゲーム。
いすに座れずゲームオーバーになる生産者が多くでるのはあたり前。

画像 切り花消費の3割しかない「高品質・高単価」マーケットに切り花生産者全員が参加

    多くの生産者はいすに座れずに退場、お手頃価格のホームユースに売られるので儲からない    

 

今回の結論です。

切り花の高品質・高単価マーケットは3割、お手頃価格のホームユースは5割。
3割の高品質・高単価マーケットをターゲットにして、切り花生産者みんなが経営を成りたたせるのはムリ。

ホームユースにも目を向けなければ切り花生産は減るばかりです。

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.434. 2024.6.23)

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