切り花の「個人消費」は3割「業務需要」は7割と教科書に書いてあった | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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宇田 明が『ウダウダ言います』、『まだまだ言います』に引き続き、花産業のお役に立つ情報を『もう少しだけ』発信します。

今回のお題は、花の個人消費と業務需要の比率を検証、です。

多くの花業界のひとにとっては、個人だろうが、結婚式、葬儀などの業務需要だろうが、花が売れればよいのでしょうが・・。

 

農業であっても、需要を無視した生産はありません。

前回は、婚姻数の減少と、バラの生産について検証しました。

葬儀の簡素化と輪ギクの生産量の関係のように、マーケットの変化に対応した生産が求められています。

個人需要、業務需要の変化に応じた花の生産が必要です。



少し前の「クロスオーバーMPS松島社長のブログ」で、花の個人消費の比率についての話題がありました。
2024年4月19日「花き、個人需要の比率は?」
https://mpsjapan-blog.jugem.jp/?day=20240419

 

その内容
松島社長が、NHKの取材を受けて、次のようにコメントしたら、視聴者から「間違っている」(農水省のデータと違う)と指摘が来たそうです。

そのNHKの番組の内容と松島社長のコメント
NHKweb ビジネス特集「捨てられる花を減らせ」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240404/k10014411281000.html


日本フローラルマーケティング 協会 松島義幸事務局長
日本では、花の需要の7割が冠婚葬祭やイベントなどの業務用で、個人の需要はおよそ3割にとどまっています。
欧米は7割が個人の需要なので、さまざまな規格があり、例えば茎が短い花も流通しています。
そのため生産段階のロス率も、日本と比べて格段に低いとみられています

これに視聴者から「間違っている」(農水省のデータと違う)と指摘が来たそう。
勿論、農水省のデータも見ている。


【農水省】
市場規模:1.1兆円 

個人消費:8,813億円 

業務用需要:2,688億円(葬儀:1,727億円、婚礼:372億円 稽古用0.6億円

松島さんが見た農水省データは、たぶん「花きの現状について」2023(令和5)年11月版。
農水省の公式資料ですが、少々「?」。
業務需要2,100億円
 内訳 葬儀用 1,727億円
     婚礼用 372億円
   
  稽古用 0.6億円??
生け花のお稽古が減ったとはいえ、フラワーデザインも含まれるのだから0.6億円は少なすぎます。
    
案の定、

最新の「花きの現状について」2024(令和6)年3月版では修正されていました。
業務需要 2,688億円
 内訳 葬儀用 1,727億円
     婚礼用 372億円
     
稽古用 392億円

つまり、稽古用 0.6億円→392億円
これで納得、
とはいきません。
今度は業務需要合計が2,491億円にしかなりません。
2,688億円は、どのように積算した金額でしょうか?

お上のデータに長々といちゃもんをつけてしまいました。
数字でしか物事を判断しない研究者上がりの性(さが)、
お許しください。
お題から横道にそれてしまいました。

要するに、個人消費と業務需要の比率。
最新の農水省データ(「花きの現状について」2024(令和6)年3月版)では、
 個人消費 8、813億円
 業務需要 2,688億円(?ですが農水省データをそのまま引用)
合計国内消費 (ざっと)1.1兆円ですから、
 個人消費 77%
 業務需要 23%
農水省データでは、ざっと個人消費8割、業務需要2割になります。
松島さんがコメントした個人消費3割とは大きく異なります。

わたしも農水省データは知っています。
それなのに、

わたしも松島さんとまったくおなじ。

頭の中はずっと、「日本は個人消費3割、業務需要7割」です。
わたしと松島さんは、団塊の世代の同い年(要するに爺さん)。
「日本の個人消費3割を、欧米のように7割に増やすことで、花産業は発展し、日本の家庭は花であふれる豊かな生活になる」と、唱えてきました。
今風にいうとフェーク情報を拡散しつづけていたのでしょうか?

松島さんとわたし、多くの花業界人は、なぜ「個人消費3割」と思いこんでいるのでしょうか?

それは、花き園芸の教科書に、「個人消費3割」と書いてあったからです。
花き園芸の偉大な先生がたの記述の一部を紹介します。

今西英雄先生(大阪府立大学) 
(「日本の花き園芸 光と影」 ミネルヴァ書房 2016年)

1970年の農林省農蚕園芸局の「花きの生産状況等調査」によれば、花き全体で「店売り花」、「仕事花」、「稽古花」がほぼ1/3ずつを占めていた。
店売り花とは、花・植木小売店店頭で販売されるもの、
仕事花とは、ホテル、レストラン料理店への生けこみ、および慶弔用の花束、花輪、花かご等、
稽古花とは、生け花師匠またはフラワーデザイナー等を通じての稽古用。


樋口春三先生(東京農業大学) 
(「観賞園芸」 社団法人全国農業改良普及協会 1999年)

花きの消費形態を見ると、以前は、生け花稽古用に使われる「けいこ花」、冠婚葬祭用の花輪、花かご、パーティー用のテーブルデコレーションに使われる「仕事花」、家庭用、贈答用の「店売り花」がほぼ3等分するような消費構造であった。

今西、樋口先生ともに、(1970年代には)稽古花、仕事花、店売り花が3等分していたことを示しています。

店売り花を個人消費と読みかえることができます。

1970年代以降の花産業の構造改革は、この3等分の消費構造の打破から出発しています。

大川清先生(静岡大学) 
(「改訂版花卉園芸総論」 養賢堂 2009年)

切り花は、業務用(20%)とギフト用(40%)、それに稽古用(10%)、家庭用(30%)に使われており、家庭用の大部分は墓地や仏壇に供えるためのもので、自分のために購入する割合は極めて少ない。
一方オランダは、家庭で楽しむために購入する花の割合が50%を超えている。


(「花卉入門」実教出版 1999年)
わが国における花の消費は、業務用80%、家庭用20%といわれており、オランダとくらべると家庭での消費の割合が著しく低い。
このため、生産・流通すべての段階で、品質がよく、付加価値のつけやすいものが好まれている。
したがって、市場価格・小売店での価格ともオランダの2~3倍になっている。
すでに1兆円産業になっている花き産業の飛躍的な発展は、いかにして家庭で利用する花(カジュアルフラワー)の消費をのばすかにかかっている。


図のように、個人消費3割、業務需要7割の農水省データを記録として残したのが鈴木司さん。
鈴木さんは、農水省の数少ない花のスペシャリストの草分けです。

鈴木司さん (「日本花き園芸産業発達史・20世紀」 花卉園芸新聞社 2019年)

 


図 切り花の消費動向調査(「生花の消費動向調査」)

   農林水産省が社団法人日本生花通信配達協会に調査を委託。

   調査データを宇田が作図

 

1970年には、店頭売り34%、業務用32%、稽古用34%

まさに3者が1/3

20年後の1990年には店頭売りが50%に増え、業務用が26%に減り、稽古用が14%に激減

「その他」の10%は、JFTDの調査ですから「通信配達用」

したがって、その他の10%は店頭売りに加えることができる


今西先生、樋口先生、大川先生の著書にあるように、少なくとも1970年には、個人消費が3割、業務需要が7割でした。
その根拠は、農林省農蚕園芸局(当時)の「生花の消費動向調査」。

ただし、「店頭売り」が個人消費かどうかは、検討が必要です。

 

今回は、わたしがご指導をいただいた3人の先生の著述を紹介しました。
次回は、農水省や総務省家計調査のデータから、個人消費と業務需要を深掘りします。

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.433. 2024.6.16)

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