チューリップ切り花の潮目が変わった | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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水泉動
「すいせんうごく」 

または 「しみず あたたかをふくむ」
 

大寒、

冬真っ盛り、
しかし、日がしだいに長くなり、地面の下では凍った水が少しずつ動きはじめる。

春の支度が進んでいます。



画像 わが家では、10月中旬にプランターに植えたチューリップの球根が芽をだしました

 

一方では、

厳寒のこの時期に、公園では恒例のチューリップ祭りが始まっています(画像)。

 


画像 冬咲きチューリップショー

    地元の公園で1月13日から始まりました

 

1年で一番寒い時期に、春の花であるチューリップが、温室ではなく戸外で咲く。
不思議でも何でもありません。
チューリップ祭りの公園の横にはイオン。
その花屋さんにはチューリップの切り花が花盛り。
これは生産者の温室で咲いたチューリップ。
おなじように、温室で咲いたポット植えのチューリップを公園に運んできただけ。
驚くことは、生産者の暖かい温室から、厳寒の戸外にだしても、寒さに耐えられることです。

花産業の方々には、チューリップが冬に咲くことは不思議でもなんでもありません。
球根の温度処理と低温貯蔵、あるいは南半球の球根をつかうことで、夏にでも咲かせることもできます。
1年中咲き、出荷できるから、チューリップが1年中売れるというわけではありません。


図1は、全国主要7市場の月ごとのチューリップの入荷量と単価(日本農業新聞ネットアグリ市況)。
出荷は11月から4月まで。
メインは12月から3月。

 

図1 チューリップ切り花の月ごとの入荷量と単価(平年)

   日本農業新聞ネットアグリの市況を宇田が作図

   平年:過去5年間の平均

 

5月から10月まで、気温が高い時期の出荷はない。
咲かせることができないのではなく、
咲かせても茎はペラペラで、お辞儀をしたチューリップ。
コストに見合う単価がつかない。
それよりも、消費者のイメージにあわない。
消費者のイメージ、
言いかえると、

日本人の身体にしみついた、「旬」、あるいは「季節感」。

花が売れなくなったのは、

花に旬、季節感がなくなったかたといわれている。

旬や季節感とは、漠然としたイメージでしかない。

商品としての花にとっては、
旬、季節感はセールスポイントであり、また弱点でもある。

 

なぜなら、

季節限定商品では量が売れない。
1年中いつでもあって、季節に関係なく、安定供給できる花が多く売れる花。
いわば、メジャーリーグ級の花。
わたしが決めたメジャーリーグは年間生産量が1億本以上の花。

国産の切り花が激減しているので、この基準を下げる必要がありそう。

3割打者、20勝投手がむずかしくなっているように。

さて、そこでチューリップ。
1995年の生産量が1億本、
ピークの97年には1.1億本。
間違いなく、メジャーリーガー。


そこからは下り坂。
2000年には9,300万本。
2006年に7,000万本にまで減って、マイナーリーグ降格。

どういうことか?
農水省の公式統計から外れた。
以降、農水省の公式データからチューリップ切り花は姿を消した。

生産面積、生産量などが調査されなくなった。

 

生産者にとっては、

自分がつくっている花が、メジャーリーグに属していようが、

マイナーリーグだろうが関係ない。

その花が超マイナーなら、オンリーワンの人間国宝生産者。

全国の市場から注文が舞いこむ。

なぜチューリップ切り花は激減したのか?
①花屋さんが売りたくない、店に置きたくないから。
店に置いているうちに花首がのびる。
ろくろ首。

消費者に売る前に、花店で寿命を終える。

チューリップが一番きれいなのは、市場でのせりのときといわれている。

注文以外では、店に置きたくない。


②もともと12月から3月までの4か月で1億本を売ることは物理的にムリがあった。
花屋の店頭がチューリップばかりになる。

花屋さんが売りたくない花の筆頭であったチューリップですが、潮目が変わった。
もともと日本人が好きな花は、桜、バラ、チューリップ。
オランダ人が知っている花は、チューリップ、バラ、ヒマワリの3つだけという調査もある。

(花の写真を見せて、70%以上の人が名前を知っていた花)


幼児に花の絵を描かせたら、かならずチューリップかヒマワリになる。
チューリップは春の花壇の定番で、消費者にもっとも身近な花。
チューリップ切り花は季節の先取り。
部屋に飾ると、早春の気分。
秋には早春のイメージは求められていない。

抜群の知名度と早春のイメージとともに、前処理技術で花首の伸びを抑え、日持ちが長くなった(画像)。
前処理技術は、カーネーション、スイートピー、デルフィニウム、カスミソウなどとは真逆。
これらの花はエチレンで老化をするので、エチレンの働きを抑える薬剤を吸わせている。
チューリップはエチレンで花首が伸びるのをおさえる(クリザールBVBエクストラなど)。



画像 チューリップ切り花の前処理剤の効果

   右:出荷前に前処理(クリザールBVBエクストラ)を吸わせた

   左:無処理

 

新しい技術ではない。
1985年、
新潟県の技術者 嘉部博康氏が開発。
それからチューリップ切り花生産者が取り入れるまでに30年。
チューリップ生産者は地元技術者をリスペクトしていなかった。
チューリップには、たね、苗ものの花にはない球根農協がありながら、ダイアモンド技術を見逃してしまった。

技術革新なくして成長なし。
新技術をとり入れる、とり入れないは、生産者のアンテナ感度。

図2は、日本農業新聞ネットアグリ市況。
図1とおなじ全国主要7市場での入荷量と単価の推移。
切り花全体では、コロナ禍後の2022年、23年は品薄単価高。

多くの花は、出荷量が減りすぎて、品薄単価高。


チューリップは入荷量が増えて単価もアップ。

供給増単価高。

需要が増えている。
昨年2023年をコロナ前の2019年と対比、
入荷量18%増、単価15%増。

図2 主要7市場におけるチューリップ切り花の入荷量と単価の推移

   図1におなじ

 

ピークの1997年以降、入荷量(生産量)は右肩下がりで、単価をなんとか維持から、
コロナ後には入荷量、単価ともアップに転じた。
潮目が変わった。
遅きには失したが、チューリップ切り花は花屋さんの信頼がある程度回復し、消費者の季節感先取りに応えられているのでしょう。

 

1月31日は「愛妻の日」
愛妻の日はチューリップを贈る日。

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.411. 2024.1.14)

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