感作(かんさ)ってなに?…アレルギーのスタート準備段階だからこそ
こんにちは。橋本です。
アレルギーについての話を聞いていると、よく「ダニに感作する」とか「スギ花粉に感作する」とかいう言葉を耳にします。
アレルギーを持った患者さんの相手をする病院、またはアレルギーを研究するような世界では、このように「感作(かんさ)」という単語をごく当たり前に使うんですね。
つまり、「感作」というのは、医学的な専門用語です。
まあ、感作という言葉の意味を知らなくても、
というようなニュアンスは感じ取ることができ、それもあながち間違いではありません。
だから、「『感作』なんて小難しい言葉、いらねえだろ」と言われれば、それまでなんですが。
でもじつは、「感作」という現象は、アレルギーを象徴する、独特な現象。
「感作」がおこらなければ、アレルギーは始まらないのです。
初めてアレルゲンが侵入すると……
アレルギー症状が出ている多くの人は、はじめてアレルゲンを食べたり、触れたり、吸った時、すぐにアレルギーをおこすわけではありません。
最初に、体内にアレルゲンが入っても、アレルギー反応をおこすことはないんですね。
アレルギーを発症する、ひとつ前の準備の段階。
それが「感作(かんさ)」とよばれる状態です。
アレルギーをおこすもと……アレルゲンと言ったり、抗原(こうげん)と言ったりしますが。
この抗原が最初に体内に侵入すると、免疫細胞(めんえき・さいぼう)がそれを発見し、「ヘンなものが来た!」と認識します。
すると、免疫細胞は、この異物を「追い払うべきものかどうか」を判断し、「追い払うべし!」と判断すると、それぞれの抗原に合わせたIgE抗体(あいじー・いー・こうたい)を作ります。
そして、体内で作られたIgE抗体は、血液に含まれる細胞成分、マスト細胞(肥満細胞)とよばれる細胞にくっつきます。
マスト細胞の表面には、IgE抗体がはまり込むための受け皿みたいなものがあるので、そこに抗体がはまり込んでいくわけです。
「わらび餅」のように、まぶされる
アレルギーをおこしやすい人のマスト細胞には、通常の人よりも、このIgE抗体がいっぱいくっついていることがあります。
マスト細胞の表面が、IgE抗体でまぶされた感じ。
わかりすい表現でいうと、「わらび餅にきな粉がまぶされている」……そんなイメージです。
ただ、厳密にいうと、血液中に流れるIgE抗体はごく微量なものなので、あくまでも「こんなイメージだよ」、という程度でおさえてくださいね。
このような「マスト細胞がIgE抗体でまぶされた状態」を医学的に、「感作」とよんでいます。
アレルゲンに感作されていなければ、マスト細胞の表面は、IgE抗体でまぶされていないですよー、というわけですね。
この感作という状態を経て、初めて、アレルギー症状が出ることになるのです。
感作はアレルギーの「スタンバイOK状態」
花粉症、鼻炎、蕁麻疹(じんましん)、食物アレルギー、あるいは、喘息(ぜんそく)、アトピーといったものまで。
アレルギー症状が引き金になっているような症状は、この「感作」という段階を通らないことには、発症しません。
感作が成立すれば、アレルギー反応がいつでもおこる「スタンバイOK」状態になっているということです。
そして、アレルギー反応がおこる
では、感作された後、再びアレルゲンが体内に侵入してくるとどうなるか?
マスト細胞の表面にくっついたIgE抗体にアレルゲンがキャッチされると、マスト細胞が刺激され、細胞内からヒスタミンなどの化学伝達物質がまき散らされます。
このまき散らされた化学伝達物質によって、炎症がおこり、クシャミが出たり、「かゆいー」となったり、湿疹ができたりするわけです。
感作しても、「いつ発症するか?」はわからない
ただし……。
感作したとしても、アレルギーの発症が「いつからおこるのか」は、知ることができません。
じつは、これが難点なんですね。
「すでにスギ花粉のIgE抗体がマスト細胞にくっついていても、花粉症を発症しない」
そういったケースも、意外と多いのです。
血液検査でアレルゲンを特定できない理由
たとえば、アレルゲンに対するIgE抗体を調べる血液検査。
この検査で、特異的IgE(とくいてき・あいじー・いー・けんさ)とか、ラストクラスとかいわれる数値がわかるわけですけれども……。
これで、「卵アレルギー」という結果が出ても、実際には、卵を食べても、まったくアレルギーが出ませんよ、という子どもも多いんですね。
こうしたことがおこってしまう理由も、「感作しても発症するとは限らない」という事実があるからなのです。
血液中のIgE抗体の存在は、「アレルギー反応をおこしている状態」を意味しているのではありません。
アレルギー反応をおこす準備ができている……つまり、「感作されている」ということを意味しているわけです。
アレルギーって、なんて不公平なんだ!
あくまでも、「感作」と「発症」は別もの。
「感作」しても、いつ発症するかはわかりません。
すぐに発症しはじめるかもしれないし、あるいは反対に、「感作したのにずっと発症しないまま」というケースもありうるのです。
スギ花粉に感作しているのにもかかわらず、「死ぬまで一生、花粉症とは無縁だった」なんてラッキーな例も、実際にはありうることなんですね。
花粉症になってしまった人から見れば、「なんて不公平なんだ!」と叫びたくなります。
でも、アレルギーとは、こういう不公平さがある病気。
どんなきっかけで発症するのかは、残念ながら、まだはっきりとはわかっていないのです。
だったら、「感作されてる状態」をなくせばいいんじゃねえの?
では、こうしたメカニズムを聞くと、単純に、「だったら、一度感作した状態をリセットする、なくす方法はないの?」って思いますよね。
「感作」は、アレルギーの準備段階ともいえる状態なので、そもそも、その感作された状態がなければ、アレルギーはおこらないよね、という発想です。
しかし、これもまた残念ながら、一度アレルゲンに感作してしまった状態を、元に戻す方法は、まだ標準治療としては確立していなくて、まだ問題点があるというのが現状です。
とはいうものの、「感作された状態をリセットする方法」というのは、なんとかできないものかなー、と昔から試行錯誤して研究が続けられています。
こういった方法は、人間が生きていくうちにできあがってくる「免疫(めんえき)」というシステムを何とかコントロールしよう、という方法なので、「免疫療法」とよばれたりもします。
とくに最近では、
といった治療法が、一部の病院で、安全性を確認しながら研究的におこなわれています。