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「コクラン」ってなに?…誰もが本当に効果のある最善のケアにめぐり会えるように


こんにちは。橋本です。


健康に関する情報を耳にする、目にする機会というのは、ここ最近、年を追うごとに増えているのも、すでに多くの人が実感しているかと思います。


普段何気なく目にするブログの記事にしてもそうですよね。


だだし。


その内容に関しては、いい加減な中身のものから、しっかりしたものまで、情報の質はバラバラ。


情報の受け手としては、できれば、しっかりした、たしかな中身の情報を選んでいきたいものですよね。


そこで、質の高い情報を得るために出てくるキーワードの1つに、「コクラン」というものがあります。


なかなか聞き慣れない、この「コクラン」とは、いったい何なんでしょうか?


コクラン:ニュース


 


「コクラン共同計画」とは


コクランというと、山歩きが好きな人は、黒い蘭(ラン)…小さな黒い花を咲かせる野生のコクランを思い浮かべるかもしれません。


黒蘭:野生に咲く花


しかし、健康、医療の世界で「コクラン」というと、コクラン共同計画(The Cochrane Collaboration)のことを指します。


人間が生まれてから存在しているであろう医療の長い歴史の中でも、「コクラン共同計画」ができたことは、ある意味「最大の革命」といってもいいくらいのこと。


それぐらい「コクラン共同計画」ができたことは、重要な出来事だったんですね。


「コクラン共同計画」とか、堅苦しい専門用語で「なんだか難しい話だなー」と思ってしまいますが、なんのことはない。


「コクラン共同計画」とは、ひと言でいえば…


様々な健康法、治療法、薬などが「本当に効果があるのか?ないのか?」正しい評価をして、その結果を世界に伝える


という国際的なプロジェクトのことです。


つまり、・・・


コクラン共同計画すべての治療法・健康法の信頼性をひとつひとつ検証するための国際研究組織


であるわけです。


「今、治療の選択肢にある、この治療法に効果があるのか?ないのか?」


その裏づけとして、現場のお医者さんたちが最も信頼しているもののひとつ。


それが、コクラン共同計画です。


「コクラン共同計画」は、日本語に訳した名称ですので、英語のままストレートに「コクラン・コラボレーション」(The Cochrane Collaboration)とよばれることもあります。


コクラン共同計画がはじまったのは、1992年。


当初は、イギリスの国民保健サービス(National Health Service:NHS)…日本でいうところの国民健康保険の組織に付属する形で、実験的に立ち上げられました。


 


「アーチー・コクラン」が夢みたプロジェクト


コクラン共同計画の「コクラン」は、人の名前に由来しています。


「コクラン」は誰の名前かというと、アーチーボールド・コクラン(Archiebald Cochrane, 1909~1988)。


一般には名前を縮めて、アーチー・コクランとよばれているイギリス、スコットランドの医師です。


アーチー・コクラン


このアーチー・コクランが提唱して立ち上げられたプロジェクトなので、「コクラン共同計画」と名付けられたわけです。


「治療の判断材料になる科学的根拠をあきらかにして、その結果を世界中に届ける」


アーチー・コクランが夢見たこの夢を現実させようというのが、コクラン共同計画のスタートなのです。


コクラン共同計画の本部はイギリス、オックスフォード大学。


現在では世界13カ国15カ所にコクランセンターが設立。


日本も含め世界中100か国以上、28,000人以上のボランティアによって運営されています 1)


 


メンバーはボランティアで参加する


組織の最大の特徴は、いわゆるNPO(えぬ・ぴー・おー:Non Profit Organization)とよばれる、独立した「民間非営利団体」の形をとっていること。


つまり、活動によって利益を求めないため、特定の団体、利権による圧力に左右されないような運営方式になっているのです。


同じく健康に関する世界的な組織として有名なWHO(だぶる・えいち・おー:世界保健機構)でさえ、裏では政治的なかけ引きが影響しているとも言われています。


それに対し、コクラン共同計画は、そのような政治的なかけ引き、さらには、どんな団体にも左右されない。


だからこそ、完全に中立な立場でモノが言える。


コクラン共同計画は、本当の意味で正しく「健康法」「治療法」「薬」といったものを評価できる組織なんですね。


「国が文句を言ってくるから、正しいことが言えない」


「製薬メーカーにとって都合の悪いことは公表しない」


こんなことがおこらないような仕組みに、そもそもなっていますよー、というわけなんです。


このあまりにもまじめすぎるほど正確さを追求していることによって、世界の医療関係者から絶大な信頼を置かれている。


それが、コクラン共同計画です。


コクラン共同計画のおもな活動は、コクラン・ライブラリを構築することです。


 


「コクラン・ライブラリ」とは


コクラン・ライブラリは、直訳すれば「コクラン図書館」、コクラン共同計画が発行しているデータベースです。


データベースとは、「整理されたデータの集まり」のことで、誰でもアクセスできるようにインターネット上に公開されています。


データベースの中心はコクランレビューCDSR:Cochrane Database of Systematic Reviews)とよばれる、コクラン共同計画により作成されたシステマティックレビューです。


つまり、「コクラン・ライブラリ」は…


コクラン共同計画が作ったコクランレビュー(科学的根拠の頂点である「システマティックレビュー」の方法で作ったレビュー)を膨大に集めた図書館


というわけです。


システマティックレビューは…


1) 1つの治療法やケアに関する論文をすべて集めて、

2) 質の悪い研究は除外し、質の高い研究の結果をまとめて、

3) 結論を出す


…という作業で作られる論文です。


これがじつは、想像以上に手が掛かったりします。


1件のコクランレビューを作るのに、ときには何千件の論文、何万ページの論文の内容を読んでデータを解析していくという作業をしなければいけないことも。


これをボランティアでやるんですから、すごいとしか言いようがないですよね。


データベースは、現在では1か月に一度更新されるようになり、レビューの数もどんどん増えています。


総数は、2012年12月の時点で7,626件にもなっています。


コクランレビューは、現場の医師が絶大な信頼を置くぐらい厳密なもの。


そのため、日本では数多くの大学や病院が、コクラン・ライブラリと法人契約を結んでいます。


登録している関係者には、全文(フルテキスト)がダウンロード購読の形で販売されています。


「じゃあ、素人はレビューの内容を読むことはできないのか」というと、そうではありません。


それぞれのレビューの要約 (アブストラクト) については、コクラン・ライブラリのサイトやPubMed(ぱぶめど:医学論文検索サービス)を通じて、広く一般に無料で公開されています。


 


コクラン共同計画のロゴ


コクラン共同計画のロゴは、独特の奇妙なデザインをしています。


コクラン共同計画:ロゴ


このロゴには具体的な意味があって、あるレビューをデザインにしたものなのです。


あるレビューとは、「早産になりそうな妊婦にステロイド薬を投与すると、新生児の呼吸不全を予防できるかどうか?」というもの。


その予防法を検証する複数の研究データをまとめて解析(メタアナリシス)した結果をグラフにしたものが、ロゴの中心になっています。


このグラフを、コクラン・コラボレーション(Cochrane Collaboration)の2つの「C」で囲んだデザインが、コクラン共同計画のロゴです。


 


常に「最新にバージョンアップ」


コクラン・ライブラリは、レビュー作成後も常にその内容を見直す作業を行っています。


なぜかというと、どんなに正確に、厳密にレビューを作っても、その後におこなわれた研究や試験で、新たな事実がみつかったりすると、結論が変わってくる可能性があるからなんですね。


新しい研究がおこなわれれば、その内容も追加してレビューを更新する。


そうした、「つねに最新化する」ことにこだわっているのも、コクランレビューの特徴です。


コクラン共同計画は、いつでも新しいエビデンス(科学的根拠)を探し、それをレビューに組み込み続けているのです。


1) レビューを「つくり」、

2) 「手入れし」、

3) 「誰でも読めるようにする」


ということを繰り返しているのが、重要なコクラン共同計画の活動です。


 


資源をムダなく


コクラン共同計画の目的は、「できる限り多くの命を助ける」「できる限り多くの人が健康な生活が送れるようにする」ことです。


エビデンス(科学的根拠)のレビューがシステマティック(適切・公平な形式にしたがって)におこなわれ、つねに更新される。


もし、このようなコクラン共同計画の役目が達成されないと、ヘルスケア…治療法や健康法の効果は適切に知らされず、ヘルスサービス(医療など)は、間違って提供される可能性が多くなってしまいます。


ともすると、効果があやふやな治療をしたり、高価な薬を多用したりしてしまうことにもつながりかねない、というわけですね。


医療にかかわる人材、それから医療にかけられるお金…そういった、医療にかけられる「資源」には限りがあります。


その限りある医療資源を大切に、ムダなく使うためにも…


「安価で実際の役に立つものを使う」


医療をこの方向へ導くようにサポートするのも、コクラン共同計画の大きな役割です。


たとえば、2012年10月のレビューでは、「一般健康診断には効果がない」と結論づけられ、国民医療費にも大きな影響を与えかねない健康診断の必要性に疑問が投げかけられています 2)


もちろん、何を検査するか目的を持って健康診断をすることは、重大な病気の早期発見につながることは、いうまでもありません。


医療費:削減


 


医療の質を向上させるために


こういう話を聞くとよく「つまり、コクランの最終目的は、医療費削減なんですね」と思う人もいます。


じつは、これは誤解で、コクランがもっと優先しているのは、「医療の質」です。


人間には、自然治癒(しぜん・ちゆ)という、「何もしないのに病気が治ってしまう」という力が生まれながらに備わっています。


必要のない治療や薬をほどこすことによって、この人間の治癒力を邪魔してはいけない、という考えが「アーチー・コクランの夢」の根本にあります。


ただ、病気や症状によっては、治療や薬をほどこさないと、えらいことになってしまうことも、当然ありますよね。


必要な時に、必要な治療をする。できる限りムダな治療はしない。


それが、より適切な治療、質の高い医療というわけです。


EBM(いー・びー・えむ:科学的根拠に基づく医療)は、「患者に少なくとも害を与えない」のを、まずは最低限の目標としています。


つまり、一方では「必要以上の検査・治療を避け」て、一方では「十分な検査・治療をおこなう」のが、科学的根拠に基づいているよね、と言っているわけなんです。


言うのはカンタンだけど、このさじ加減は微妙で難しいもの。


そこへ適切な判断材料を与えようというのが、コクランレビューの役割です。


お医者さんにとって、患者に対してより良い医療を行うための1ステップが、「コクランレビューを利用する」ことでもあるのです。


 


コクランレビューの例を挙げると


治療法を検証するランダム化比較試験の実施数は、年々、うなぎ昇りに増えています。


検証する治療法、薬、健康法の種類も様々。


それだけ、そのような比較試験をシステマティックレビューとしてまとめる立場であるコクランレビューも、どんどん増加しています。


そうすると、当然のように、コクランレビューの発表を伝えるニュースも、数多くなってくるわけですけども。


コクランレビューは重要なものが多く、その例を挙げていくとキリがありません。


なので、ここでは、2つだけコクランレビューの例を挙げてみます。


 


1) タミフルの効果と安全性に疑問あり


1つは、2012年1月18日に新聞で報道されたコクランレビューです 3)


医学研究の信頼性を検証する国際研究グループ「コクラン共同計画」(本部・英国)は17日、インフルエンザ治療薬タミフルが重症化を防ぐ効果を疑問視する報告書を発表した。


タミフルは世界で広く使われ、特に日本は世界の約7割を消費している。


各国が将来の新型インフルエンザの大流行を防ぐため備蓄を進めており、その有効性を巡り議論を呼びそうだ。


報告書は、製薬会社に有利な結果に偏る傾向がある学術論文ではなく、日米欧の規制当局が公開した臨床試験結果など1万6000ページの資料を分析。


タミフルの使用で、インフルエンザの症状が21時間ほど早く収まる効果は確認されたものの、合併症や入院を防ぐというデータは見つからなかった。


報告書は「当初の症状を軽減する以外、タミフルの効果は依然として不明確」と結論、「副作用も過小報告されている可能性がある」と指摘した。


(2012年1月18日夕刊 読売新聞)※太字強調は当ブログによる


カンタンにいうと、インフルエンザに対しての特効薬と思われていたタミフルの効果には「疑問がある」と結論づけているわけです。


レビューを作成するにあたって、製薬メーカーによる臨床データの提供が非協力的だったこと(都合の悪いデータを隠していないか?)。


それから、多額の費用をかけて、タミフルの備蓄を行う各国政府の取り組みが、予算のムダづかいではないか、といったこと。


こういった問題が、厳格なコクランレビューがおこなわれたことで、初めて明確になったのです。


 


2) いちばん優れた歯ブラシはどんなヤツ?


もう1つ例に挙げたいコクランレビューは、2005年2月16日に発表されたもの 4)


普通にゴシゴシ歯ブラシを使って「手で歯を磨く」のと、「電動歯ブラシで歯を磨く」のと、どっちがいいか?を検証したコクランレビューです。


このレビューでは、3,855人の対象者からなる45件の試験データをまとめています。


結論は…


回転振動型の電動歯ブラシは、手用歯ブラシよりも歯垢と歯肉炎を減少させる


他の形式の電動歯ブラシの場合は、手用歯ブラシに対して優れた効果があるかどうかはわからない、ということ。


歯ブラシの比較に関しては、現在のところ、これがコクランレビューが伝える結論です。


 


デタラメな効果に惑わされないために


ただし、先ほどにもいったとおり、コクランレビューが「完璧」「絶対」というわけではありません。


新しく追加されてくる研究によって、レビューの結論がわずかに変わったり、ときには全く違った結論になってしまうことも考えられます。


また、治療法にこうした科学的根拠があっても、患者さんの症状や置かれた状況によっては、レビューの結論とは違った結果になることも、十分ありえます。


でも、世の中を見渡すと…。


健康や医療に関しての情報(治療法・薬・健康法)は、あからさまにデタラメなものから、事実に沿った正確なものまで、様々なものが存在している。


それが、今の現状じゃないかな、と。


それなりの理屈をつけたり、プラセボ効果があると、ムダな治療でも効果があるかのように思えてしまいます。


そのようなものに惑わされないためにも、最新のコクランレビューを参考にするのも、健康を管理していく上では賢い行動のひとつではないのかなと思います。


コクラン共同研究:利用


 


コクランの意義が理解できれば…


たとえば、●●という治療法をネットで検索するなら、「●●」「効果」とか「●●」「体験談」といったキーワードを使うことも多いかと思います。


そこを、「●●」「コクラン」という検索のしかたをすると、より科学的根拠の高い情報を読むことができるかもしれないですよね。


それから、コクラン共同計画の意義を知っていれば、ニュースの読み方も変わってきます。


ニュースで報道される医学的研究の結果が、「マウスの実験」によるものなのか、それとも「コクランレビュー」によるものなのか?


その差で、耳をダンボにして聞いたほうがいいのか、さらっと流して聞く程度でいいのか?


意味合いが大きく変わってくるわけですね。


 


 


 


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参考文献:

1) Claire Allen, Kiley Richmond: The Cochrane Collaboration: International activity within Cochrane Review Groups in the first decade of the twenty-first century. J Evid Based Med 4(1): 2-7, 2011.

2) Lasse Krogsboll, Karsten Jorgensen, Christian Larsen, et al: General health checks in adults for reducing morbidity and mortality from disease. Cochrane Database Syst Rev. 10: 2012.

3) Tom Jefferson, Mark Jones, Peter Doshi, et al: Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children. Cochrane Database Syst Rev. 1: 2012.

4) Peter Robinson, Scott Deacon, Chris Deery, et al: Manual versus powered toothbrushing for oral health. Cochrane Database Syst Rev. 4: 2007.