ステロイドによる「酒さ様皮膚炎」
こんにちは。橋本です。
ステロイド外用薬を長期間塗り続けると、顔面に赤みやほてりが目立ってくることがあります。
これを、酒さ様皮膚炎(しゅさようひふえん)、口囲皮膚炎(こういひふえん)、ステロイド潮紅(すてろいどちょうこう)などとよんでいます。
こういった酒さ様皮膚炎などは、ステロイド外用薬を適切に使うことで、通常、防ぐことができます。
また、異変に気づいた時は、診察を受け、酒さ様皮膚炎に早めに気づくこと、早期発見も大切です。
酒さ様皮膚炎とは?
酒さ様皮膚炎とは、おもにステロイド外用薬を長期連用し続けた場合におきる、顔面の赤みやほてりのことです。
両ほほが赤くなりブツブツもできはじめる、というのが典型的な、酒さ様皮膚炎です。
症例写真:酒さ様皮膚炎
酒さの「さ」は、常用漢字ではないため、ひらがなで表記することが多いです(漢字で表記すると「?」、へんが「査」で、つくりが「皮」の漢字)。
酒さ様皮膚炎は、基本的に、ステロイドを塗り続けていた部分にあらわれます。
つまり、酒さ様皮膚炎は、ステロイド外用薬によって誘発される副作用のひとつです。
酒さ様皮膚炎のような副作用を出さないためには、顔のアトピー治療には弱いステロイド外用薬を使うのが基本です。
参考記事:
顔面では、ミディアムクラスのステロイドなら、適切に使えば、酒さ様皮膚炎はおこらないといわれています。
口囲皮膚炎とか、ステロイド潮紅は違うの?
このようなステロイド外用薬の不適切な使い方によってあらわれる顔面の赤みは、
・ 口囲皮膚炎(こういひふえん)
・ ステロイド潮紅(すてろいどちょうこう)
と表現されることもありますが、酒さ様皮膚炎とは別の症状というわけではなく、ほぼ同じものを指しています。
ステロイド外用薬を口の周りに塗っていたのなら、赤みが口の周りだけに出てしまうこともあるので、その場合は「口囲皮膚炎」とよばれるわけですね。
症例写真:口囲皮膚炎
潮紅(ちょうこう)は、海の潮(しお)の流れにたとえて、血がのぼって赤みを帯びること。つまり、赤らむことを意味しています。
そこから、ステロイドの連用によって顔面が赤らんでしまうことを「ステロイド潮紅」とよぶこともあるんですね。
「ステロイド外用薬によるもの」ということを強調する意味で、酒さ様皮膚炎を「ステロイド酒さ」とよぶこともあります。
「酒さ」とは違う
酒さ様皮膚炎は、その名のとおり「『酒さ』のような皮膚炎」をあらわしています。
つまり、ステロイド外用薬の副作用によっておこる「酒さ」のようなものが、酒さ様皮膚炎。
「酒さ様皮膚炎」は、「『酒さ』のような皮膚炎」であって、「酒さ」とは違います。
「酒さ」は、顔面の赤みやほてりが、長く続く、慢性的な症状です。
酒さ様皮膚炎と同様、30代~60代の中高年の女性に多くみられます。
酒さは、白人の中高年女性でとくによくみられる、特徴的な赤ら顔の現象です。
顔が赤らみやすくなり、顔面の中心部の赤みがなかなか消えず、ヒリヒリした感覚を感じることも多いようです。
この赤みは血管の拡張によるもので、進行すると赤みに加えて、赤いブツブツが鼻、ほお、額、あごなどにあらわれます。
重症になると、鼻やほおの毛穴の開きが目立つようになり、皮膚が脂ぎって見えるようになることもあります。
さらには、ニキビのような吹き出物ができてくることもあります。
酒さの原因は、ホルモンバランス、自然免疫、ニキビダニなど様々なことがいわれますが、まだはっきりとした原因はあきらかになっていません。
肌が刺激に敏感な人に出やすい傾向はあるようで、肌への刺激は「酒さ」を悪化させます。
酒さ様皮膚炎の原因は?
一方、酒さ様皮膚炎の原因は、ステロイド外用薬の長期に渡る連用です。
ステロイド外用薬によるホルモンバランスの変化が大きな原因だといわれています。
さらに、皮膚萎縮や毛細血管拡張などの、ステロイドによるほかの副作用も、少なからず悪化に影響しているとみられています。
また、「酒さ」と「酒さ様皮膚炎」は別ですよ、といっても、もともと「酒さ」があるところにステロイド外用薬を塗り続けると、酒さを悪化させる可能性はあります。
酒さ様皮膚炎の治療の原則
そのため、酒さ様皮膚炎の治療の原則は、まずは「ステロイド外用薬をストップする」ことです。
ただ、急にストップすると、今までおさえられていた炎症がぶり返し、顔の湿疹がひどく悪化することが考えられます。
そのため、すぐに使用をストップするか、徐々にストップするか、お医者さんとよく相談して、症状をみながらケアしていく必要があります。
長期連用しているほど、やはりステロイド外用薬をストップしたときの症状の悪化は、ひどくなる可能性があります。
中止すると、しばらくは、皮膚の赤みやはれの悪化が続きます。
目安としては、ステロイド中止後、2週間ほど、赤みやほてり、ヒリヒリ感、むくみ、鱗屑(りんせつ)、ブツブツがひどくなることが多いようです。
しかし、ほかに炎症を悪化させる大きな原因がなければ、ステロイド外用薬をストップしたときの悪化は、一時的なものです。
酒さ様皮膚炎の場合なら、その後、皮膚はゆっくりと時間をかけて回復してくるはずです。
スキンケアも大事
酒さ様皮膚炎は、刺激で悪化しやすいことが知られています。
具体的には、強い直射日光、急激な気温の変化、汗、飲酒、食べ物(香辛料)などですね。
そのため、このような刺激を、できる範囲でさけることも大事です。
また、顔の赤みが気になり、そのままでは外出するのに抵抗があるため、化粧で赤みを隠す場合もあるかと思います。
化粧をするのは、酒さ様皮膚炎にとっていいことではありませんが、酒さ様皮膚炎の回復は時間がかかるものです。
精神的なケアを考えると必ずしも化粧が悪いこととは、一概には言えません。
ただそのあと、1日が終われば、きちんとお化粧などの汚れをきちんと落としてあげる必要はあります。
刺激をさけ、清潔を保つ。
そういうような、ていねいなスキンケアが、酒さ様皮膚炎を治療する上でも大切なんですね。
まれにですが、化粧でかぶれて、酒さ様皮膚炎が急に悪化することもあるので、お化粧の接触皮膚炎(かぶれ)には、気をつける必要もあります。
もちろん、かぶれに気づいた時点で、化粧は中止します。
抗菌薬を内服することも
酒さ様皮膚炎が強く、とくにニキビ様のブツブツが目立つようなケースでは、抗菌薬を内服することもあります。
たとえば、テトラサイクリン系抗生物質といわれる、幅広い菌に効く抗菌薬など。
一例としては、ミノサイクリン(製品名:ミノマイシン)を1日/100~200mgなどですね。
こういった抗菌薬は乱用できないので、2週間や4週間など、期間を区切って効果をみながら、減量するなどして使っていきます。
ほかの病気と鑑別してもらう大切さ
酒さ様皮膚炎は、ほかの病気と取り違えないことも大事です。
顔に赤みがあらわれる病気は、皮膚筋炎など、ほかにもたくさんあります。
ステロイド外用薬を使っているからといって、顔の赤みを「酒さ様皮膚炎に違いない!」「ステロイドの副作用だ!」と思い込んでしまうと、適切な治療を見逃してしまうことにもなりかねません。
化粧品や塗り薬などによる接触皮膚炎(せっしょくひふえん:「かぶれ」のこと)も、酒さ様皮膚炎に似ることがあります。
酒さ様皮膚炎かどうかは、素人には見分けがつきません。
症状を自己判断して、ステロイド外用薬を中止してしまうのは危険です。
問診、視診、触診などの診察をとおして、専門のお医者さんに、しっかり鑑別してもらうのが、やはり確実で安心です。
酒さ様皮膚炎の治療のスタートには、このきちんとした鑑別がかかせません。