『新幹線大爆破』を観ました。
9時48分発、ひかり109号は定刻通りに東京駅を発車した。
その直後、国鉄公安本部に掛かってきた一本の電話。先ほど発車した109号に爆弾を仕掛けたというもので、時速80キロを超えると起動し、増速の後、80キロ以下になると爆発するというのだ。
乗客1500人を乗せた前代未聞の危機的状況下、新幹線の運行管理をする指令長である倉持と、109号運転士の青木の丁々発止のやり取りが続く。
一方、爆弾を仕掛けた男たちの計画は徐々に綻び始め、主犯格の沖田も警察の手により追い込まれて行く……といったお話。
日本映画史におけるパニック映画ベスト3には確実にランクインしていいと思える作品です。
危機的状況に怯える乗客、乗客を救うべく奔走する国鉄(公安)、その状況を作った犯人という三者の意思が錯綜するドラマは実にスリリング。
お客が劇中のタイムリミットを共にカウントするような、現在進行型のアトラクションでもあるんですよね。それ故、トイレに行きたがろうが眠くなろうが、なるべく中断せずに体感として楽しみたいところです。
おそらく当時の日本国民にとっては憧れの乗り物だった新幹線を恐怖劇の舞台に使ってしまう気概にも拍手です。“悪影響”という言葉ばかりを優先する、近年の腑抜けたエンターテインメントも見習おう?
80キロに達した際にスイッチが入り、減速して80キロ以下になると爆発する爆弾という事で『スピード』を思い出すと同時に、パクりorパクられについて強弁する連中が必ずいるんだよね。
何をパクっただの原作と違うだのを強弁しているのを見ると、映画初心者丸出しでみっともなくないですか? まぁ、根っこにあるのはもっと低次元な、俺は物知りなんだぞ的アピールでしかないんですが。
『スピード』に比べると本作の深刻度は遥かに高く、何より国として対応せざるを得ないという一大事です(国鉄時代の話ですしね)。
残念ながら万策が尽きてしまえば、“109号を停車させる”という案が浮上してしまうのも当然でしょう。人口密集地で爆発させるわけにいかないし、大の虫を取るか小の虫を取るかってヤツですね。
これのみならず、総じて本作の登場人物って、やってる事や言ってる事の全てが完全に正しくなければ悪くもないんですよね。気持ちは分かる、でも……と思わせるキャラが多いというか。
乗客の命には代えられないという意思により要求を飲んだ国鉄(正確には政府)は早い段階で金を用意し、割と早めに事件が解決するかと思いきや、様々なトラブルやアクシデントにより109号はなかなか停まれません。
引っ張って引っ張って、犯人と国鉄側の駆け引きで観客をヒヤヒヤさせたいのは分かりますが、ちょっと繰り返しの度を過ぎています。
何しろ、警察のドジが多すぎて時間を食っちゃってるんですよね。
「どうしてもっと慎重におやりにやらないンですか!」と倉持がキレるのは、観ている我々も含めた総意です(笑)。喫茶店の件も、もういい加減に楽にさせてやれよと思うくらい。
本作の尺は約2時間半で、正直、2時間弱くらいが適切に思えました。海外版は2時間未満だそうで、どうスリム化したのかも興味が湧きますね。
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こういうのは余興みたいなものだし、Blu-rayの映像特典扱いくらいが丁度いいんだよね。BSプレミアムあたりでやってくれるとありがたいけど、こっちはなぁ…。
パニック映画の側面が色濃いという事であれば、乗客もある意味の主役です。
予定地で降りれない事に困ったり怒ったりしていたものの、爆弾が仕掛けられていると知った途端、それらが焦燥に変わります。パニックに陥る乗客たちが乗務員に詰め寄るシーンもありますが、身勝手な真似をして混乱を大きくするようなお騒がせキャラがいないのもいいですね。
とは言え、雑多な客が乗車していた割に、目立つ客が皆無だったのは惜しかったかな? 歌手とテレビクルーも存在感ゼロだったし。
主犯格の沖田を演じるのは、高倉健さん。
今に思えば「健さんが悪党…?」と思いますが、まだキャリアも浅くヤクザ(に近い)役のイメージを脱却できずにいる頃というのもあり、悪役は悪役でも感情移入しやすい、どこか哀しい役です。
沖田を含めた犯行グループは世間に負けた者たち。そんな彼らの悪あがきと言ってしまえばそれまでですが、大金を手に入れるのは詭弁に過ぎず、弱者だからこそ何かしらの形で勝利した気分に浸りたかったんじゃないでしょうか? 勝負の方法を見誤ってしまったのが彼らの誤算であり、不幸だったのです。
悪事には違いないものの、“いいね!”ごときが欲しくて社会悪に堕ちて行く昨今のバカたちとは志が違うんだぜ!
スーパー余談ながら、本作はごくごく一部の間で、関根勤さんの物真似でも有名です。
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↑にも本作の一人物真似が収録されています。千葉真一さんと宇津井健さんは関根さんのレパートリーの中でも上位に入りますしね。
そーいや、関根さんが『烈車戦隊トッキュウジャー』に出演、しかも車掌役と知った時、これ絶対にやるだろうと察した人は少なくないと思います(笑)。
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Blu-ray版の映像特典、は特報と予告編のみというショボ仕様。
…が、この予告編を見る限り、本編にはないカットが多々存在するようです。いわゆる未公開シーンとかあるのかな?とも思いますが、他の映画から拝借したカットの可能性が高そうです。この頃は、そんなテキトーな事をよくやってるイメージがあるし…(笑)。
余談ながら、本作をもう少し深く知りたいと思う人には、こんなものがあります。
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本作のシナリオが掲載されていますが、斜め読み程度に見たところ、完全な採録ではなさそうです(映画ではカットされているシーンも多そう)。
聞き取りにくかったセリフを補填する手段の一つとしてオススメです。
☆ 追記 ☆
海外版を観てみましたが、差し替えやら辻褄合わせのための追加シーンもなく、単純に不要なシーンを切っただけでした。
別作品に感じるほどの印象もないので、国内版でいいと思います。