『間違えられた男』を観ました。
冒頭で監督であるアルフレッド・ヒッチコックさんが登場(予告編でもないのに…)、これまで恐怖映画を作ってきたが、本作は実話に基づいたものであり、事実とは映画のように奇なるものであると本作の概要を語ります。実話を基にしたお話という事で、“いつもの”ような作風ではないよとでも言いたかったんでしょうね。
けど、やっぱりヒッチさんはエンターテイナーですからね、いくら社会派映画の体を取っていても、その辺のファンサービス(?)は欠かしません。
マニーが監獄に入るシーンでは、警察には無縁の人間が初めて入る世界=監獄への恐怖を上手く表していると思います。ちょっとしたサスペンス描写というか。
ヒッチさんは幼少の頃、警察に怖い思いをさせられたようで、それが生涯のトラウマじみたものになっているらしく、その他の作品においても警察は(一種の)恐怖の対象として描かれています。
不条理に全く抵抗できず全てを受け入れてしまうマニーの姿を見るに、本作ではそれがかなり顕著です。
原題&邦題ともにタイトルが既にネタバレになっているし、“どうせ誰かに間違われているんだろう”という先入観を抱きながら観る人がほとんどだと思いますが、このタイトルを忘れた上で見(返し)てみると、“この善人は何故こうまで多くの人に貶められているのだろう?”といった風に、不条理劇として楽しめると思います。
マニーが犯人ではない事は見ている方も知っている、でも真犯人が一向に出てこないという事はまさか…?という陰謀劇のような風味もありますしね。
多くの人も感じているでしょうが、お金がないというのも一種の恐怖です。“不安ではなく“恐怖”です。
“人間、お金がなくても幸せに生きて行ける”とか”幸せはお金では買えない”という言葉がありますが、特に本作を観て思うのは、そんな綺麗事はお金のゆとりがある人にしか言えないセリフなんだなと実感させます。
そして貧乏人は貧乏を定め付けられ、そこから人生が好転する事は(滅多に)ありません。
ぶっちゃけ、本当にお金のない人とは惨めな気持ちになり、心までもが貧しくなるものです。
性根が逞しい人はお金に卑しくもなれますが、マニーの妻ローズはそうはなれず、惨めな気持ちがさらに加速してしまいます。
ただでさえ苦しい家計の中、夫=マニーが罪に問われただけでなく、保釈金だの裁判の費用だの(もちろん弁護士費用も含んでいるでしょう)と、無限に膨れ上がる負債に押し潰された挙げ句に精神を病んでしまう様は気の毒というか、もはや胸クソ悪いレベルです。
胸クソ悪いと言えば、最終的にはマニーの冤罪が明らかになりますが、それまでマニーを犯罪者扱いしていた面々のイケ図々しさ。
主人公の問題が解決しさえすれば、周囲の問題は完全にスルーしてさっさと終わるのもヒッチコックさんの作風の一つですが、だからって、あそこまでマニーを追い込んだ連中の謝罪や釈明のシーンがないのはモヤッとしますね。
特に、真犯人を発見した後の保険会社のババアのリアクションは100人中100人が殺意を抱きますよ(笑)。
本作は1956年の作品という事で、当時は警察の力が強かったんでしょうね、新聞で今回の事件の顛末が報じられますが、警察の失態に関しては何もなさそうでしたし。
“間違えられた男2”なんてのがあれば、マニーがオコーナー弁護士と共に、彼を貶めた目撃者や警察を徹底的に糾弾する法廷モノになるでしょう(笑)。
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今回はBlu-ray版の吹替版で鑑賞。
マニーを演じるヘンリー・フォンfダさんの吹き替えを担当するのは小山田宗徳さん。
小山田さんと言えば“6番の囚人”を思い出しますが、ここでも理不尽に囚われの身になる役というのが興味深い…(笑)。