観た、『ライムライト』 | Joon's blog

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どんな傑作にも100点を、どんな駄作でも0点を与えないのが信念です

『ライムライト』を観ました。

 

帰宅したカルヴェロは、同じアパートで暮らすテレーザの自殺を阻止する。

テレーザ=テリーは意識を戻すも、ストレスから脚が動かなくなっていた。バレリーナを目指していながら挫折し、厭世的になっているテリーを必死で説得するカルヴェロ。その姿はまるで、過去には芸人として名声を得ていたものの、今では老いて落ちぶれた自分に喝を入れるようでもあった…。

カルヴェロの励ましによりテリーは回復し、半年後には舞台に出演どころか、プリマドンナに抜擢される。そこでピアノを担当するのが、かつて顔馴染みだったネヴィルである事に驚くテリー。

しかしテリーは、カルヴェロに対し厚意以上の感情を抱くようになっていた。

どうにか端役に起用されたカルヴェロだったが、芸人としての夢を諦めきれず……といったお話。

 

チャールズ・チャップリンさんの作品ですが、主人公がコメディアンというだけで、作品自体にコメディ要素はもはや皆無。

↑の粗筋を読んで分かる通り、盛者必衰を描いたお話です。

最近観た作品だと『LOGAN/ローガン』にも通じるようなお話ですね。

 

かつてチャップリンさんは、映画がトーキーになりつつある時分にも、限界までサイレントの作風を貫きました。その際に、「声は僕を平凡な俳優にする」と漏らしていたそうです。

時代の流れには逆らえず、意を決してトーキー作品に移行しますが、チャップリンさんの映画に対する執念は変わる事なく、トーキーになっても名作を次々に発表していきます。

が、この転換こそがチャップリンさんの一つの終わりです。

そんなチャップリンさんが、黄金期を過ぎた老芸人を自身で演じるんだから、自虐というかセルフパロディ(若い頃のカルヴェロは放浪者を演じていたらしい)というか、どうにも切ない気持ちになりますね。

 

おそらくチャップリンさんは晩年になっても、時代遅れと揶揄される事はあっても、落ちぶれた時代を過ごす事はなかったと思います。

仮にカルヴェロのように落ちぶれたとして、チャップリンさんだったらどうしていただろう?という疑問が湧きますね。

現代のようにサイドビジネスを掛け持つような人ではなかったように思えるし、あれだけ作品作りに執心した人だから、もしかしたら自殺を選んでいたかも…?とか邪推しちゃいます。

 

悲哀や哀愁ばかりが漂う印象が強い本作ですが、それはカルヴェロ=老人に目を向けた際の話。

人生に絶望した若者=テリーを励ますカルヴェロの言葉には、未来への希望や可能性を信じさせる力を感じさせてくれます。

今ではうらぶれた生活を送り、本当なら自分こそが励ましてもらいたいのに、自分よりも他人の幸せを願うような、役名は違えどチャップリンさんが演じるのは“優しさ”を超越した“愛”さえ感じさせるキャラが多いんですよね。

昔は「ったく最近の若い連中と来たら…」とか思っていたクチの俺ッチでしたが、歳を取るごとに、若い人とは希望ある未来の象徴と思うようになってきています。大袈裟だけど。

それ故、“ゆとり”だの“老害”だのと罵り合っているネットの書き込みを見るとガッカリしますね。

 

本作のカルヴェロもそうですが、とっくにオジサン(以上)になっても、若い女子と親密になるのはチャップリンさんの演じる役あるあるです(笑)。

世の中には歳の差カップルに憧れるスケベジジイもいますが、そんな連中とカルヴェロとでは、人間としての品格に差がありすぎます。

見れば分かるように、カルヴェロが与えるのは無償の愛であって、下心なんか1ミリもないんですよね。テリーからの愛を拒むのも、テリーの未来を鑑みた上でのカルヴェロなりの愛なんです。

お互いを愛し合っているはずなのに、方向性が違うが故の悲しい両想いが胸を苦しくさせますね。

 

本作は我々のような一般人以上に、特にチャップリンさんと同じような、笑いを届けるお笑い芸人を生業としている人にとっては身につまされる内容だと思います。

“一発屋”なんて言葉が示唆するように、目まぐるしいスピードで世代交代が行われるエンターテインメントの世界とは水物です。

カルヴェロのように、世間を笑いで覆うようなエンターテイナーだった頃がありながら、老いや時代の流れと共に忘れられたお笑い芸人は大勢います。

これと対極的に、俳優業ならまだしも、お笑い芸人というステータスを過去のものとし、テレビ番組で文化人を気取って薄っしぃコメンテーターとかやってる連中の、なんと志の低い事よ。

 本作の、かつては劇場をドッカンドッカン沸かせていた時代がありながら、酒場で投げ銭を貰うような生活を送るようになっても、それでも芸や矜持を捨てないカルヴェロの姿がどう見えるだろう?

 

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相変わらずBlu-ray版の映像特典は満載。

中でも、テリーを演じたクレア・ブルームさんのその後の映像が見れるのは貴重ですね。

あくまで個人的にですが、ようやくチャップリンさん作品のヒロインに美人が抜擢されたと感じさせる人です(笑)。

 

近頃のテレビ番組は、ちょっと面白い事を言う奴がいる井戸端会議程度の番組が多すぎませんか?

日本のエンタメ界は、お笑い芸人をハイブランド化→神格化しているように見えて、気味悪く感じます。あと声優。

蛇足ながら、こんな時代にキチンとコント番組をやっていた『ノギザカスキッツ』は、実はお笑いジャンルとしてもっと評価されて良かったんじゃないかな。