観た、『殺人狂時代』 | Joon's blog

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どんな傑作にも100点を、どんな駄作でも0点を与えないのが信念です

『殺人狂時代』を観ました。

 

テルマという婦人の行方が知れず、家族は心配顔。テルマの預金は下ろされていて、先日結婚したばかりの男性とも連絡が付かない。

その男とは、アンリ・ヴェルドゥ。裕福な女性から騙し取った金をを元手に株を買い占め、富裕紳士に成り済ましているだけでなく、大金をせしめた後に殺してしまうという殺人鬼で、テルマもヴェルドゥの毒牙に掛かった一人だった。

ヴェルドゥは妻子を持つ良き夫でありながら、出張と称して家を空けては、方々で餌食になり得る女性と関係を持ち、重婚に近い生活を送っていた。

しかし、そんな生活も長くは続かず、徐々に運に見放されて行くヴェルドゥは……といったお話。

 

映画の王様として君臨していたチャールズ・チャップリンさんも、前作である『独裁者』では、それまでのサイレント方式を止め、トーキーとして声を発さざるを得なくなりました。

そして今作では、例の放浪者ファッションをも捨ててしまいます。

盛者必衰、これまで築いてきた伝統を少しずつ捨てて行くのは、チャップリンさんの黄金期の終わりを告げるようで、“悲しい”というよりは“寂しい”ですね。

 

『独裁者』でも、チャップリンさんは一人二役ながらも悪人を演じていましたが、今作では結婚詐欺師であり殺人鬼でもあるという、完全なる悪人を演じているのが衝撃的。

やっている事は最低最悪、鬼畜に近しい所業なんだけど、チャップリンさんが演じている時点で、少なからずの愛嬌や人の好さを感じてしまうのも事実。

かつては30年も働いていた銀行を、不況を理由に真っ先にクビになってしまった過去がありますが、これまで演じてきた浮浪者“チャーリー”の愚直さを思い出すと、それも頷けてしまいます。

 

殺人というシチュエーションはあるものの、それを直接的に見せられなかった時代背景もあるでしょうが、むしろその方が空恐ろしく見えますね。冒頭の、焼却炉が(3日も)煙を吐いているシーンとか、軽く寒気がしますよ。

映像特典でも、フランスの映画監督でもあるクロード・シャブロルさんも言及していましたが、アルフレッド・ヒッチコックさんの作風を想起します

殺人鬼というもう一つの顔を持ちながら、そんな残忍性を丸出しにしたヴェルドゥの表情を一切見せないのも不気味です。

 

「1人殺せば悪党で、100万人だと英雄です。数が殺人を神聖にする」

今の時代になっては聞き飽きた感すらあるセリフですが、その原点たるものが本作のコレです。

ただ、映画(や娯楽全般)とは、現実の苦しさから目を背けるための時間と考えている俺ッチとしては、映画人としてのチャップリンさんは純粋に尊敬できるんですが、映画という娯楽の世界に政治を持ち込む点は好きじゃありません。

そう感じるせいか、終盤で戦争がどうこうとか言い出すのは唐突、かつ強引な気がします。ヴェルドゥというキャラの背景に不況はあっても、戦争はあまり関連していないじゃないですか。まぁ、戦争が原因となり不況に陥るのは分からなくもないけど、チト間接的すぎやしないかな?

 

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ありゃ、本作は配信版はないんだね。

Blu-ray版は、映像特典がチャップリン作品のシリーズとして一貫していますが、静止画が多めなんですよね。

俺ッチは静止画はほとんど見ないんですが、撮影時のセットの見取り図が収録されていたのは興味深かったかな。