観た、『独裁者』 | Joon's blog

Joon's blog

どんな傑作にも100点を、どんな駄作でも0点を与えないのが信念です

『独裁者』を観ました。

 

第1次大戦、真っ只中の1918年。

トメニア国の一兵卒であるチャーリーは、傷付いた上官を救出するが、自らも負傷し記憶を失ってしまう。

戦争は休戦し、敗戦したトメニアではヒンケル政権が樹立、執拗なまでにユダヤ人を排斥しようとする。

その頃、チャーリーは病院を抜け出し、自らが営む床屋に帰宅するが、街ではヒンケル配下の突撃隊によるユダヤ人迫害が行われていた。

突撃隊とトラブルを起こしてしまったチャーリー=床屋は、かつて自分が救出した上官シュルツと再会、命の恩人である床屋に恩義を感じているシュルツのおかげで、事なきを得る。その騒動の中、床屋は隣に住むハンナと仲を深める。

ヒンケルの、ユダヤ人に対する憎悪は日に日にエスカレートし、それを諫めようとしたシュルツは逮捕され、その巻き添えを食った床屋共々、収容所に送られてしまい……といったお話。

 

チャールズ・チャップリンさんの作品と言えば?と聞かれれば、コメディと即答する人がほとんどだと思います。

本作もコメディには違いないはずなんですが……扱っている題材が重いので、正~直あんま笑えません

随所にギャグをねじ込んでますが、あんな憎まれ口を叩くヒンケルがズッコケたところで、サッパリおかし味を感じないんですよ。

まぁ、そう感じるのは後半においての話で、序盤における背面飛行のシーンとか、『ドリフの大爆笑』の洗礼を受けた世代としては、お約束ギャグが多めで楽しめましたが(笑)。

お笑い要素を含みながら歴史の勉強もできるという意味で、小学校高学年、もしくは中学生あたりの授業の一環として見せてあげるといい作品だと思います。

 

反戦映画は星の数ほどあるし、本作もその中の1作ですが、本作が抜きん出ている点は公開のタイミングです。

公開されたのは1940年で(製作が始まったのは1939年との事)、つまり第2次世界大戦の真っ最中

ドイツが世界共通の敵とされていた頃に、圧倒的多数が目の当たりにできる映画という手段を以て、現在進行形で行われている政治(的な暴挙)を批判するのは、もはや勇気です。

勿論のごとく妨害や嫌がらせに遭ったとは言え、今よりは武力行使も容易に行えたであろう時代、そんな恐怖に屈する事なく完成させようとしたチャップリンさんや、本作に携わった人々の気概には脱帽です。

あくまで本作に登場するのは架空の国として描いているから、フィクションだと言い張れるものの、あの国のあの人ってのは一目瞭然だよねぇ…(笑)。

 

チャップリンさんの長編作品にはロマンス要素は欠かせませんが、当時の現状を鑑みると、愛だの恋だの考えている場合じゃないという思いがあったようで、本作におけるそれは、やや抑え気味。

クライマックスの演説の終盤はハンナ一個人に向けたメッセージになっていましたが、自分の犠牲によって他人を幸せにしたいという、これまでのチャップリンさんの作風を踏襲してもいるんですよね。

あのエンディングの後に2人が結ばれる事はおろか、再会すらしないと思います。

床屋はもう床屋ではいられなくなるのだからと考えると、本来ならハッピーエンドながらも、ちょっと切ない終わり方ですね。

 

ところで……日本において、総理大臣が強引な政策を施行しようとする際、要は独裁的だとでも言いたいんでしょうね、“まるでヒトラーだ”と喩える政治屋のコメントを稀に見知りしますが、もうバカの一つ覚えでみっともないですね。“独裁”というワードが、たった一つにしか直結していない見識の狭さよ。

ああいう連中はヒンケルのモデルは分かっても、後半に登場するナパローニを見たところで全くピンと来ないでしょうね。クライマックスの大演説ですら、大あくびで見てるかも…。

 

***************************

***************************

***************************

Blu-ray版の映像特典には、本作のカラー版のメイキングが収録されていますが、天然色で見るチャップリンさんにはチト違和感(笑)。チャップリン作品をカラーライズする企画がこれまでにないのは、そう感じる人が多いという証左なのかもしれませんね。

 

さらに吹き替え音声も収録されていますが、チャップリンさんを担当するのは山寺宏一さん=やまちゃん。

ヒンケルの、字幕でも対応できない(笑)デタラメっぽいセリフがどうなっているのかと、断片的に吹き替え音声を聞いて見たんですが……もう圧巻です

オリジナル音声をキチンと解釈した上で日本語に訳したそうですが、セリフとして読むだけでも大変なのに、これができる俳優って皆無に等しいんじゃない? やまちゃん、さすがだぜ。

アニメ声優を目指す人には関係ないけど(笑)、声優も含んだ俳優になりたいと思っている人は、本作における山寺さんの芝居のセンスと声量(もしくは肺活量)に着目して、一見すべき教科書だと思います。