『死ぬのは奴らだ』を観ました。
イギリス諜報員が立て続けに殺される事件が発生した。諜報員はカリブ海の小島、サン・モニクの首相カナンガに関して調査をしていたという手掛かりを基に、ボンドはニューヨークへ飛ぶ。
CIAのフィリックス・ライターと合流し、カナンガが滞在するハーレムに向かうが、ミスター・ビッグをボスとする黒人たちの街では、ボンドは手も足も出せない。
その中でボンドは、ビッグの下僕となっている占い師ソリテアと出会う。
CIAで助手をしているロージーと共にサン・モニクに潜入したボンドはソリテアと再会、一夜を共にする。
サン・モニクでケシが大量栽培されている事を突き止めたボンドはビッグに捕まってしまい、その正体と野望を知り……といったお話。
本作のトピックと言えば、もちろんロジャー・ムーアさんがジェームズ・ボンド役に就任した事です。
「ボンドが最も似合うのはショーン・コネリー一択だ、『ロシアより愛をこめて』こそ大傑作!」
「ダニエル・クレイグのボンドはシリアス&ハードでカッコ良い!」
前者は古株の評論家、後者はダニエル版から見始めたくらいの若い世代が言いそうな主張ですが……ええい、ジジイもガキも黙っとけ! 俺たちにとってのジェームズ・ボンドはロジャー・ムーアなんだ!という世代が、そろそろ幅を利かせてもいい頃だと思うんです。
ムーア版ボンドをヨイショしてるのって、あんま見掛けないんですよね。
そんなムーア版ボンドが軽薄なおかげで作品のムードが軽くなったと思われがちですが、まぁ確かに軽いんだけど(笑)、仕事はキチンとこなします。
軽口を叩いている割に大勝利を収められるんだから、むしろ余裕を感じるくらいです。
これと対極的にあるのがダニエル・クレイグさんが演じるボンドで、いつまでもジョークが言えない朴念仁のままというか(笑)、武骨なばかりでスマートさに欠けるんですよね。
コネリーさんが演じていた頃よりボンドは随所でジョークを言うから、決してハードボイルドなキャラではないし(当時としてもそこが新鮮だったんでしょうが)、ムーア版では軽妙洒脱な面がますます色濃くなる反面、冷酷さは薄まりました。
映像特典でもムーアさんが言及していましたが、ムーアさんの演じるボンドは人殺しが嫌いなんだと。コメディ要素が強まったのは、その反動なんでしょうね。
シリーズの方向性として、ややファミリー映画に近付けたかった意思もあったようですが、これは同意はしかねますね。大人が楽しめるコネリー版が好きだった人にとっては、確かにこれはガッカリです。
喩えるなら、本来は成人しか入れないはずなのに、(家族連れとして)子供の来店も歓迎するようなファミレス感覚の飲み屋になってしまったようなものですかね。
そんなムーア版ボンドのデビュー作たる今作ですが、内容はずいぶん異色です。
何しろ、兵器の登場頻度が少ないんですよ。
これまでは兵器の使用により世界を手中に収めようとする悪の親玉が多かったけど、今作のそれは植物。ケシ→麻薬で多くの人を錯乱させた上で市場を独占しようってんだから、スペクターに比べると規模が小さいというか、局地的な(経済的)支配で終わりそうです。
その他、ボンドの障害になるのが宗教や人種や動物だったりと、実にローコストでありつつ兵器以上の怖さも秘めている。それでいて、地球環境にも優しい(笑)。
ハーレムの描写とかも、一歩違えばOO7シリーズと思いにくい雰囲気です。
物語終盤のクライマックスが地味ですが、それ以外のアクションシーンは相変わらず。
この頃のOO7シリーズは、必要以上に目標を高めた強烈なアクションを何かしら取り入れますが、今作におけるそれはモーターボートのシーンですね。
ボートの、水面からの浮き具合から察するに、かなりのスピードが出ているのが分かります。でもなきゃモーターボートは地上は走りません(笑)。ムーアさんがスタントなしで運転しているのが分かるカットもチラホラあって、没入感もあります。
そして最大の見どころでもある大ジャンプは、いやジャンプどころか、もはや空を飛んでます。
あのカットのために17艇ものボートを潰したらしいですが、決して安いものではないし、5艇も潰せば諦めたくなるじゃないですか(笑)。それでも成功するまで止めないんだから、映画バカの根気が通用する良い時代だったんでしょうね。
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DVDの頃からOO7シリーズは、しょっちゅ~マイナーチェンジ商品を発売して市場に溢れ返っているイメージがありましたが、↑を見る限り、そんな時代が終わってしまったのか?と思わせるような価格の高騰ぶりです。おかしいだろ。
そんな数あるOO7シリーズのBlu-ray版、音声解説に主役俳優が登場するのはムーア版ボンド作品だけ! これ、地味に嬉しいですよね。
もちろん吹替は広川太一郎さんでキマリ! コメディ演技のイメージ(の方が印象深い)が強い広川さんは、ムーア版ボンドに似合います。
スゲー少ないと思いますが、小説→映画化された本作を観て、「原作と違いすぎる!」と憤激する人がいましたら、コチラ↓をお勧めします。
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前にも紹介しましたが、さいとう・たかをさんによるコミカライズです。
小説の粗筋を読む限り、実はこちらの方が原作に忠実な内容になっていますね。
あくまで、どちらかと言えばですが。