『フレンジー』を観ました。
些細な言い争いからパブをクビになってしまったブレイニー。恋人のバーバラも心配顔だ。
親友ラスクに励まされたブレイニーは、結婚相談所を営む元妻ブレンダの元に向かい、軽い口論をしながらもブレンダの施しを受ける。
ある日、ブレンダの元にラスクが相談所にやって来る。特殊な好みのラスクを煙たがるブレンダだったが、強引に犯された挙げ句に、ネクタイで絞殺されてしまう。
そう、犯した女性をネクタイで絞殺した挙げ句に死体を遺棄するという、今やロンドンを賑わせている連続殺人事件の犯人こそがラスクだったのだ。
その後、ブレンダに会いに来たブレイニーは、相談所の鍵が開いていないので、仕方なく帰るところをブレンダの秘書に目撃され、ネクタイ殺人の濡れ衣を着せられてしまう。
バーバラの誤解を解きつつ逃亡を続けるブレイニーを尻目に、ラスクは次の女性に目を付け……といったお話。
『引き裂かれたカーテン』『トパーズ』が空振りとされたアルフレッド・ヒッチコックさんでしたが、本作で名誉挽回を成し遂げたようです(個人的に『トパーズ』は面白いと思うんですが…)。
ヒッチさんのファンとは、そんなに間違えられる男シチュエーションが好きなのか(笑)?
世の中には“悪い人ではないんだけど”と評される人がいます。“だけど”が付いてしまう時点で、ハッキリ言われないながらも心底では嫌われているタイプですね。
主人公であるブレイニーはまさにそんなキャラで、ずいぶんイヤな感じのキャラなんですよ。
まぁまぁの悪人ヅラだし、基本的に態度が大きく、常にイライラしていて怒りっぽく、自分の手落ちを他人のせいにして八つ当たりするような卑屈な男で、こんな奴を主人公として受け入れなきゃならない観客としては、軽く苦痛です。
それ故、コイツが犯人でもおかしくないというか、もう犯人でいいんじゃない?とすら思えます(笑)。
まぁ、お話が進むほど、濡れ衣を着せられる点に関して同情の余地もあるだろう、いい人要素も見えてくるだろうと想像しがちですが、人格に関してはブレる事はないので、やっぱり感情移入はしにくいキャラですね。
そんなブレイニーとは対照的に、いい人キャラの代表選手に見えるラスクが殺人犯である事を、作品の中盤あたりで露呈されるのは意外です。終盤まで引っ張れない事もないだろうに、中盤であっさり犯人を教えてしまうヒッチさんの発想はさすがです。
本性を丸出しにした時の変態的な怖さ(正確にはキモさ)は、映画史上に残れるレベルじゃないですか? 余談ながら、70年代の洋画という共通項で、『ダーティハリー』の“さそり”(もしくはスコルピオ)を思い出します。
ラスクを演じたバリー・フォスターさんも気分が悪い撮影だったと振り返っていますが、確かにブレンダをレイプするシーンは、かなりの嫌悪感を抱きます。
古い作品ほど規制がうるさかった時代だったので、現代の基準で見れば微笑ましいレベルのはずなんだろうけど、俳優の演技力によるところが大きいんでしょうね、あまり何回も見たくないくらいに胸クソ悪いシーンになっています。
自分の嗜好性を世間に誇示したがるような犯人が暗躍する、いわゆる猟奇殺人モノは今でこそ氾濫していますが、1972年という時代においては、やや時代を先走りしている気がします。
何しろ殺人の動機が性癖の延長ってんだから、当時としては、ずいぶん攻めた設定に思えます。
当時の世間の声が大きかったという旨の話が聞こえないのは意外ですね。いや、今の方がもっとうるせぇんだろうな…。
ヒッチさんと言えばサスペンスシーン。
よく練られている凶行シーンは今作でも健在ですが(↑のレイプシーンですね)、似たようなシーンの繰り返しを避けてか、逆にそれを見せずに殺人が行われている(と感じさせる)シーンの方が不気味でした。自室のドアを閉めてから屋外に出て行く1カットですね。
この逆に、ユーモアも欠かしません。
ジャガイモに埋もれた死体というのも奇妙ですが、それと格闘(?)するラスクの姿は滑稽であると同時に、実に惨めにも見えます。そんな情けない真似をしてでも自分の欲求を満たしたいという、一種の執念も感じられますがね。
***********************
***********************
***********************
主役のブレイニーは好感度が低い旨を綴りましたが、↑のBlu-ray版のジャケットは、俺ッチの考えがあながち間違っていない事を物語っています。主役であるブレイニーは左に小さく映っている方ですから(笑)。
特典は吹き替え音声&メイキング的なドキュメント等、標準的なものです。
にしても、このあたりのヒッチさん作品のBlu-rayの画質、異常なまでに良すぎで驚けます。