6月20日、SRC13を会場観戦してきました。

大澤選手、真騎士選手、そしてサンドロ選手の3選手が印象に残りました。

まずは、大澤選手についてですが、戸井田選手との試合の決着の仕方が波紋を呼びました。戸井田選手の膝によるボディ攻撃が効いたのか、それともボディへの膝蹴りの際にスネが股間に当たったのかという2つの見解に分かれました。

以前から戸井田選手を応援して来たファンが多かったためか、会場では大澤選手がボディへの膝蹴りのダメージをごまかすために、股間へのダメージを主張しているとする意見の方が多かった印象です。

ただ個人的には、やはり股間にも当たってダメージがあったのではないかと思っています。というのも、ボディへのダメージをごまかすために、股間へのダメージを主張するような姑息さを、大澤選手はまだ持ち合わせていないと思うからです。

結果は戸井田選手の反則負けとなりましたが、大澤選手はこの結果に納得のいかない一部のファンからの反感を買った模様です。

大澤選手の派手な入場の記憶が戸井田選手のファンの反感を助長したと思います。私もその入場を見て、大澤選手の実績やキャリアを考慮すると、まだそこまでやらなくても良いのではないかと感じました。

本人の意向なのか、もしくは大澤選手を売り出していきたいSRCの大スポンサーであるドン・キホーテの意向なのかは定かではありませんが、あまり効果的な売り出し方とは思えませんでした。今は地道に実績を重ねていく時期のような気がします。


次に真騎士選手ですが、SRCのライト級では強豪外国人ともいえるホドリゴ・ダム選手を一蹴してしまいました。真騎士選手はそもそも身体能力の高い選手ですが、何より当て勘が凄いと思います。一瞬の隙を見逃しません。

次はSRCのライト級のトップ選手である、北岡選手、横田選手、光岡選手、廣田選手らと戦わせたいという意見が出ていますが、逆に彼らでないと相手にならないというレベルまで真騎士選手は来ていると思います。

まだ真騎士選手は底を見せていないので、非常に楽しみな選手です。次戦ではグラウンドに持ち込まれた時の対応も見てみたいです。


全身のバネを活かした、真騎士選手のパンチも脅威ですが、この日のサンドロ選手の残したパンチのインパクトはそれを凌駕するものでした。

この日のメインイベントで金原選手は自身の保持するフェザー級のベルトを賭けて、サンドロ選手の挑戦を受けました。挑戦を受けたのには、同僚の鹿又選手の仇討ちの意味も含まれていました。

ところが試合開始わずか38秒、サンドロ選手の右のアッパーにより、金原選手は失神KO負けを喫しました。奇しくも、そのパンチは同僚の鹿又選手がKO負けを喫したパンチと同じものでした。

試合のフィニッシュとなったサンドロ選手のパンチが金原選手の顎を捕らえ、金原選手が前のめりに倒れた瞬間、会場が静まり返りました。サンドロ選手のパンチはそれほどのインパクトを残しました。

もはや、単純に“パンチ力が強い”という言葉で、サンドロ選手のパンチの表現は片付けられないと思います。サンドロ選手のパンチは神が宿っているかのようなパワーを発揮しています。前の試合と今回の試合でのフィニッシュブローとなったアッパーは、死角から入ってくるのか、鹿又選手も金原選手も全く見えていなかったようで、相手選手にとっては非常に脅威です。

プロ初黒星を喫した小見川選手との試合では、サンドロ選手のパンチにアッパーのバリエーションは無かったような気がします。小見川選手に負けたのがよほど悔しかったのか、あのアッパーカットはより強くなるために身につけたフィニッシュブローなのかもしれません。下からのアッパーであれば、潜り込んでパンチを打ってくる小見川選手にも有効に作用しそうです。今思うと、昨年大晦日にサンドロ選手が怪我をしたことで、対戦が予定されていたDREAMの所選手は命拾いをしたのではないでしょうか。

ただ、ここまでサンドロ選手のパンチが強いと、今後の対戦相手は相当サンドロ選手のパンチを警戒すると思います。特にアッパーをもらいたくないので、打撃での接近戦は徹底的に避けられるような気がします。そのような展開になったときに、サンドロ選手が他にどのような引き出しを見せるのかは興味深いところです。



吉田道場勢が抜けてしまったことなど、心配な話題も多いSRCですが、SRCの抱える真騎士選手とサンドロ選手の今後は非常に楽しみに感じたSRC13でした。



昨日、UFC115のセミメインにてミルコ・クロコップ選手がパット・バリー選手と対戦しました。

ミルコ選手にPRIDEの頃のようなパフォーマンスをもはや期待出来ないというのを認識しつつも、今回はあの頃を彷彿させてくれるようなパフォーマンスを見せてくれるのではと心のどこかで期待していました。

というのも、試合前にミルコ選手の口から下記のような発言があったからです。

“ここ1年ほど膝の状態が悪く、満足に蹴りを出すこともできなかった。ただ数回の手術を経て、今は膝の状態も問題ない。以前のようなキックを出せるよ。”

確かに蹴りを出せないミルコ選手など、竹刀を持たない剣道家のようなものです。そして、最近のミルコ選手の試合を見ると、明らかに自身の代名詞でもある左のキックを出すシーンが見られませんでした。上記の発言はそういった意味では納得の出来るものでした。

しかし、試合では1Rにスタンドでバリー選手から2度のダウンを奪われる始末。相手のスタミナ切れと、グラウンド対応の未熟さに助けられ、チョークスリーパーによる一本勝ちで勝利を収めたものの、試合前に宣言していた左のキックはなりをひそめていました。

試合中のミルコ選手の繰り出した蹴り技の中で、目立ったものは右足によるサイドキックと最終ラウンドでみせた踵落としのみ。ミルコ選手の必殺技ともいえたミドル以上の左のキックは、全ラウンドを通じて計5本しか見られませんでした。

しかも、試合中に見せた左のハイキックに、それを当てるための導線のような動きが全くといってよいほど見られませんでした。そのほとんどが、やみくもに放ったように見えました。手術で左足が復活したという期待とは裏腹に、そこで見たものは殺傷能力を失ったミルコ選手の左のキックのみでした。

PRIDEの頃に見せていたミルコ選手の左の蹴りは、相手選手にとって本当に厄介なものでした。頭部にもらえばノックアウト負けは必須で、だからといってガードを上げるとミドルにもらって悶絶してしまうという手のつけられないものでした。その左キックがあったからこそ、ミルコ選手の左のストレートもフェイントとして有効でしたし、対戦相手が肉体的にも精神的にも追い詰められるシーンが観る者にも伝わってきました。

今回の試合では、バリー選手がミルコ選手の左キックに脅威を感じたシーンは無かったと思います。もはやミルコ選手の左のキックは、刃を失った剣となってしまったようです。

そして何より、印象に残ってしまったのが、ミルコ選手がストライカーとしての自信を喪失してしまっているのではないかということでした。

ミルコ選手は最後にチョークスリーパーで一本勝ちを果たしましたが、試合に勝って喧嘩に負けたというのは言い過ぎでしょうか。

良く言うとミルコ選手はより自身の勝ちに繋がる試合運びをしたのですが、2R以降あからさまにグラウンドで勝負をつけようという意識がミルコ選手には見られました。スタミナが切れてきたバリー選手に対してでさえも、“もしかすると、打撃勝負では負けてしまう可能性があるかもしれない”という恐怖が少なからずあったのだと思います。

以前は、例え相手がストライカーであったも、ミルコ選手は無理にグラウンドの状態に持ち込もうとはぜずに、スタンドでの攻防をよしとしていました。

試合に勝つということを優先すれば、ストライカーとしてミルコ選手に敬意を払い挑んできたバリー選手に、グラウンド、グラップリングでいった方がより勝ちが見えてくるという思いがよぎったのは当然のことかもしれません。

ただ、例えば総合格闘技界ではストライカーとして名をはせていたボブチャンチン選手とPRIDEで対戦した時のミルコ選手と、今回のミルコ選手ではストライカーとしての意識の差が歴然としていました。

バリー選手同様に、ストライカーとしてミルコ選手に敬意を払って挑んできたボブチャンチン選手に、ミルコ選手は“真のストライカーは俺だ!”と言わんばかりに必殺の打撃で勝負をつけました。あの時のミルコ選手に、ストライカー相手に打撃以外で決着をつけるという考えはあったのでしょうか。仮に現在と同じレベルのグラウンド技術があったとしても、ミルコ選手はおそらく微塵もそのような考えはなかったと思います。

ミルコ選手はストライカーとして、そして自身の左キックには絶対的な自信を持っていました。そのストライカーとしての自負心こそが、ミルコ選手の格闘家としての強さの源だったと思います。



自らの左足を完治したと言いきり、今回のバリー選手との試合に臨んだミルコ選手。もはやミルコ選手にとって言い訳のできない試合でした。試合後のインタビューでミルコ選手は“コンディションはPRIDE無差別級GPで優勝したころよりも良い”とも言っています。つまり、先日の試合が現時点でミルコ選手が見せれるベストパフォーマンスなのかもしれません。

UFC115でのミルコ選手の試合は、ミルコ選手の肉体的な限界を最終通告されてしまったと同時に、PRIDEの頃のミルコ選手は本当に強かったことを思い出させるものでした。

ミルコ選手のクロアチアの国旗をベースにしたトランクスにつけられたいた、日の丸のロゴが少し眩しく目にしみました。

桜井マッハ速人選手VSニック・ディアス選手。

DREAM14では、山本KID選手や桜庭選手といったスター選手の出場、もしくはハンセン選手VS高谷選手といった好カードもありましたが、自分の中では上記の一戦に本大会のテーマは集約されていました。

DREAM王者の青木選手がストライクフォースでメレンデス選手に負け、今度はDREAMでストライクフォースの王者ニック・ディアス選手を、日本格闘技界のカリスマ桜井マッハ速人選手が迎え撃つという図式でした。

試合前からマッハ選手の圧倒的不利は容易に想像出来ました。ただ、マッハ選手ならいざという時にはやってくれる。昨年の青木選手との一戦のように。ここぞという時のマッハ選手は強いんだという期待を込めた想いもありました。

しかし、現実は残酷でした。

どうやらカリスマと呼ばれていた選手の過去のシーンをどうしても引きずってしまう傾向があるようです。五味選手がUFCに参戦して敗北した時もそうでした。冷静にその時の実績を考慮すれば、勝つのは困難であるのは分かっていたのですが、試合直前になると過去のシーンを彷彿してしまい、多大な期待を寄せてしまいます。

「マッハさんのペースだよここまで!」

「ここまでマッハさんのペースだよ!」

「マッハさんのペースですよ!」

マッハ選手が敗れた瞬間に解説の青木選手が繰り返していた言葉が印象的でした。青木選手の無念さを表していました。

ただ、ペースを握っていた選手が、あっさりとKOもしくは一本で負けてしまうことは良くあることです。ここはペースを握りかけていたにも関わらずあっさり一本で負けてしまったマッハ選手と、ペースを掴んでいなかったにも関わらず一本勝ちしたディアス選手との間に相当の実力差があったという見方をした方が良いのかもしれません。

私も現状の実力差を何となく理解していたものの、やはりマッハ選手の勝利に期待していた内の一人なので、マッハ選手の敗戦は非常に残念でした。多くの人が同じ想いをしていると思います。


青木選手のストライクフォースでの敗戦を受けて、ストライクフォースへのリベンジというコンセプトで組まれたマッハ選手VSディアス選手でしたが、このマッハ選手の敗戦をDREAMイベントプロデューサーの笹原氏は見越していたような気もします。

笹原氏は大会後の会見にて、このマッハ選手VSディアス選手の一戦に対して「非常に残念な結果だったんですけど、イベントの作り手側の目線からすると、むしろこの結果のほうがまだまだこの先があると思った試合でした。」というコメントを残しています。

確かにDREAMというイベントの今後の方向性を考えると、マッハ選手が今回負けた方が打倒アメリカ、打倒ストライクフォースという方向にイベントを集約出来ます。

マッハ選手が勝てば勝ったで盛り上がってそれも良いのかもしれませんが、イベント側からすると、青木選手の敗戦を受けて盛り上がった“打倒ストライクフォース”の熱が一旦シャットアウトされる形になってしまいます。

そういった意味で今後のDREAMの方向性を位置づける意味では、マッハ選手が負けた方がイベント側には都合が良く、この敗戦は笹原氏の想定内だったのかもしれません。

また、この結果によりDREAM15で決定した青木選手VS川尻選手のその後のストーリーも考えやすくなります。

青木選手が勝てば、「やはり日本には青木選手しかいない。青木選手には何としてでもストライクフォースにリベンジしてもらおう。」という流れになります。

川尻選手が勝てば、「川尻選手ならやってくれるかもしれない。ストライクフォースには川尻選手にリベンジしてもらおう。」という方向になると思います。

DREAM15で青木選手、川尻選手、いずれの選手が勝つにせよ、DREAM15以後のテーマはしばらく“打倒ストライクフォース”となると思います。


マッハ選手は実際に引退はしませんでしたが、引退覚悟でディアス戦に相手の土俵“ケージ”で臨みました。マッハ選手にしてみれば大きなリスクのある戦いだったと思います。

このマッハ選手の敗戦を無駄にしないためにも、まずは舞台がケージでもリングでも良いので、DREAMの選手にストライクフォースで活躍する選手に一矢報いてもらいたいものです。