先週の土曜日、7月10日にさいたまスーパーアリーナでDREAM15を観戦してきました。

メインイベントにて行われた青木真也選手VS川尻達也選手のライト級タイトルマッチですが、この両者の対戦については賛否両論あったものの、何だかんだで直前になると盛り上がりを見せていたと思います。

特に試合前に両者の煽りVが流れると、会場のボルテージが否応無しに高まるのを感じました。

試合の方はご存知の通り、青木選手が試合開始一分半程度でアキレス腱固めによる一本勝ちを収めました。青木選手が川尻選手から圧勝ともいえる勝利をものにしました。

元々、両者の対戦が決定した時点で、川尻選手への期待が寄せられる一方、“青木選手の方が、ファイターとしては格上。実績を考慮しても川尻選手は勝てないのではないか。”という声は挙がっていました。

川尻選手への期待は、ギルバート・メレンデス選手が青木選手を完封したような戦法を、フィジカルの強い川尻選手であれば実行出来るのではないかというものでした。しかし、川尻選手は何も出来ずに負けるという厳しい結果となってしまいました。

もちろん試合結果から青木選手の方が、川尻選手よりも強かったということはいえるのですが、これは青木選手の方がファイターとして“格上”ということなのでしょうか。

“青木選手の方がファイターとして格上。”ということに関しては、現時点で私はほぼ同意しています。

今までの実績を見ても青木選手の方が優れているのですが、青木選手と川尻選手とのファイターとしての差は戦績云々ではなく、“極め”があるかどうかだと思っています。この“極め”があるかどうかというのが、ファイターとしての圧倒的な差になっているのだと思います。

“極め”を持っている選手は、やはり強いです。その“極め”の部分にさえ持ち込めば、どんな選手にも勝つことが出来ます。それ故、“極め”を持つことが一番になれる選手の条件ともいえます。逆に“極め”が無い選手は、トップクラスの選手にはなれても、一番の選手になるのは難しいような気がします。

青木選手のグラップリングは、その“極め”の部分です。そこに持ち込めば、極める、すなわち試合を終わらすことが出来ます。打撃でいうと最近の記憶で新しいのはSRCのマルロン・サンドロ選手でしょうか。彼のパンチも当たれば試合を終わらすことが出来る、“極め”の技といえます。以前のミルコ選手の左ハイキックなどは、その“極め”の象徴でした。

川尻選手には、そこに持ち込めば試合を終わらすことが出来る“極め”というものがないのです。青木選手はその“極め”を持っており、川尻選手との試合で、まさにその“極め”で勝利を収めました。両者のファイターとしての“極め”の有無が明暗を分けた試合だと思いました。

既に指摘されていることですが、川尻選手は実力差のある相手に対しては一本やKOで勝つこともあるのですが、トップファイターが相手になってくると勝っても押さえ込んでの判定勝ちが多くなります。チャンピオンクラスの選手が相手ですと、善戦はするのですが、最後に負けてしまいます。川尻選手の黒星の試合だけは名勝負とまで言われています。

これは、川尻選手に“極め”がないことが一つの原因として考えられます。クラッシャーという川尻選手の代名詞の由来ともなっているパウンドも、“極め”と言えるほど相手選手にとって脅威ではないのです。

この“極め”となるべく技を持てるかどうかの部分が、川尻選手のファイターとしての課題だと思います。


この敗戦にて、DREAMにおける川尻選手の今後のストーリー作りは難しくなってきました。ある程度の期間をおいたうえで考えられるストーリーは、敢えていうのであれば、青木選手へのリベンジマッチを賭けたSRCの廣田選手との対戦でしょうか。

以前ブログにも記載させていただきましたが、DREAMの主催者側としては、青木選手と川尻選手のどちらが勝っても良かったのだと思います。これにて、打倒ストライクフォースというアングルに一直線に向いていけるので、川尻選手も怪我が治って復帰した後は、ストライクフォースの選手と戦っていくという方向で良いのかもしれません。



川尻選手との試合終了後、青木選手の左目は腫れ上がっていました。これは川尻選手がアキレス腱固めを耐えた中で放った踵での蹴りによるものだと思います。このとき、既に川尻選手の足首は骨折していたようです。青木選手の左目の腫れは、川尻選手の意地という名の牙が、青木選手に残した傷跡です。

川尻選手がこの青木選手との試合の敗戦により、評価を落としてしまったことは事実です。ただ、川尻選手は負けてから強くなれる選手です。川尻選手の復帰、そしてストライクフォースで勝利する姿に期待したいと思います。

そして、もちろんこのような結果になった以上、青木選手にはストライクフォースのベルトを奪取することを期待したいと思います。



昨日行われたUFC116のメインイベントにて大盛り上がりを見せた、レスナー選手VSカーウィン選手。

周知の通りレスナー選手が1Rの大ピンチを凌ぎきり、2Rで肩固めによる逆転勝利をものにしました。

このレスナー選手VSカーウィン選手は元々注目度の高いカードでしたが、更に注目を集めることに寄与したのは、おそらく前週のストライクフォースでのヒョードル選手の敗戦だと思います。

ヒョードル選手に黒星がついた今、ヘビー級最強のファイターがいるところはUFCに他ならないというような風潮すら一部で見られました。

それに関して今回のレスナー選手VSカーウィン選手の試合を受けて、2つに意見が割れています。

やはり今はUFCのヘビー級が最強。ヒョードル選手はレスナー選手や他のUFCヘビー級のトップランカーには歯が立たない、という意見。そして、ヒョードル選手やアリスター選手であれば、レスナー選手など簡単に倒せてしまう、という意見です。

こればかしは、実際にやってみなければ分からないのですが、今回のレスナー選手VSカーウィン選手を見る限りは、私は後者の方の意見を支持してしまいます。

試合自体は盛り上がりはしたものの、レベルの高い技術の攻防はなく、内容は大味なものでした。1Rでカーウィン選手のパンチにダウン気味に倒れたレスナー選手の様子は、一流の打撃のディフェンス技術を習得しているとは言いがたいものでした。また、2Rにレスナー選手にテイクダウンを取られた後に、あっさりと首固めを極められたカーウィン選手は、全くといってよい程寝技に対応出来ていませんでした。

確かにレスナー選手、カーウィン選手共にパワーに関してはすざましいものがあると思います。そのパワーの部分ではヒョードル選手も同じヘビー級とはいえ、レスナー選手やカーウィン選手には全く歯が立たないでしょう。

レスナー選手やカーウィン選手達は、もはや100キロちょっとのヒョードル選手と同階級の選手とは見なせないかもしれません。一応UFCでも120キロ超えのスーパーヘビー級というヘビー級の上の階級があるようですが、115キロ辺りにヘビー級の制限を落としても良いのではと思う程、レスナー選手やカーウィン選手の体は巨大です。

ただ例えばアリスター選手でしたらどうでしょう。打たれ弱いという弱点はあるものの、パワーではレスナー選手にも引けを取らないものを持っていると思います。腰も強いので、容易にテイクダウンは出来ないでしょう。K-1でもそこそこ通用する打撃スキルと、アブダビコンバットでも好成績を残せるグラップリングのスキルを持つアリスター選手にレスナー選手は勝てないような気もします。

時にパワーが技術を凌駕することはありますが、昨日の試合を見る限り、レスナー選手やカーウィン選手がヒョードル選手に勝てるとはまだ思えないのです。

ヒョードル選手とレスナー選手のどちらが強いかの論争は、格闘技ファンの間ではしばしば行われることです。ただ、ヒョードル選手がヘビー級であるにも関わらずP4Pに名を連ねるのに対し、レスナー選手はヘビー級最強とは一部で言われるものの、P4Pには決して名を連ねることがないのは、あくまでパワー頼みだというところに由来しているのかもしれません。

UFC代表のダナ・ホワイト氏は、レスナー選手VSカーウィン選手のタイトルマッチが行われたUFC116をUFC史上最高の大会だったとコメントしています。ダナ氏の求める観衆からの盛況は得られたものの、この試合をみてUFCがMMAヘビー級の最高峰だと思った格闘技ファンが何人いたかは疑問符が付くところです。
ヒョードル選手が負けました。

何のアクシデントも不運もなく、ヴェウドゥム選手の三角締めに捕まっての1Rでの一本負け。ヒョードル選手も人間なので、いつか負ける日が来るとは思っていました。ただ6月27日(現地日時26日)がその日になるとは思ってもいませんでした。

また、ヒョードル選手が負ける瞬間として想像していたのは、判定負け、打撃によるTKO負け、もしくはレフリーストップによるTKO負けでした。まさか、サブミッションでヒョードル選手がタップアウトする瞬間を見ることになるとは思ってもいませんでした。

ヒョードル選手の敗北の瞬間は、もちろんショッキングなものでしたが、それほどの焦燥感はありませんでした。一つの時代が終わったとも感じませんでした。

それは敗北を喫した相手がヴェウドゥム選手だったからかもしれません。

この敗戦に関しては、ヒョードル選手が普通に試合をして、普通に負けてしまったという、やけにあっさりとした印象を持っています。

ヴェウドゥム選手は実力のある強い選手ですが、ヘビー級最強のファイターの一人かというと疑問符がつくところです。

今回の敗戦の相手が仮に、ヘビー級最強の可能性があると一部で言われている、アリスター選手やレスナー選手であったら、また印象は違っていたかもしれません。

そういった選手達にヒョードル選手が負ける時は、最強の座を持つ男が、他の一人の選手に最強の座を持っていかれてしまう瞬間です。

ヒョードル選手のいる場で最強の称号が他の選手に移る衝撃は想像に難くありません。

ただ、今回のヴェウドゥム選手はヒョードル選手に勝ちましたが、だからといって最強の座を手に入れたかというと、そうではないと思います。このことが、今回のヒョードル選手の敗戦を受けてファンが抱いている何か煮え切れない感情の原因かもしれません。

では、この試合でヴェウドゥム選手がヒョードル選手から奪ったものは何だったのでしょうか。それは他ならないヒョードル選手の持つ“神話”だと思います。

“ヒョードル選手が油断した。再戦すれば勝てるはず。”

“ヒョードル選手が衰えたのでは?”

“試合間隔が大きすぎた。”

“最近一線級の選手との試合は、やっていないのでは?”

“そもそも、ヴェウドゥム選手との相性は悪いのでは?”

今回のヒョードル選手の敗戦に関して、様々な憶測が飛んでいますが、残ったのは紛れも無い黒星がヒョードル選手に付いたという事実だけです。

ヒョードル選手がまとっていた、“絶対に倒せない”、“無敵”という神話が崩れた瞬間でした。

ヴェウドゥム選手はヒョードル選手の持つ神話にピリオドを打ったのです。


今までヒョードル選手の試合は、ヒョードル選手自身のファイターとしてのパフォーマンス、そしてヒョードル選手の持つ神話がいつまで続くのかという二つの視点で見られていました。

その神話にピリオドが打たれたことにより、これからヒョードル選手はもっと楽な気持ちで、より純粋に自分のために試合に臨めるかもしれません。

格闘技界において、これほどまでの伝説を打ち立ててきたヒョードル選手なので、もし負けることがあれば引退を表明しても非難されないのではないかと思っていました。ただ、現時点で本人には引退する気は毛頭ないようです。

試合直後のインタビューで、ヒョードル選手は以下のようにコメントしています。

“転ばない人間は、立ち上がることも出来ない。”

このコメントからは、再起を誓うヒョードル選手の意思を感じます。

試合においてヒョードル選手は驚異的な精神力の強さを見せます。その持ち前の精神力をバネにこの敗戦を、更に強くなるため、そして更に進化するための糧にして欲しいと思っています。

更に強くなり、進化した皇帝の姿を見れることを期待しています。