SRC14のメインイベントは既に騒がれている通り、物凄い死闘でしたね。

戦極の頃から、SRCは大会開催前の期待値があまり高くなくとも、選手達の奮闘によって結果的に期待以上の大会になることが良くある印象ですが、今回もまさにそのケースでした。

ただ、バンダム級グランプリもウェルター級グランプリも良い試合が多かったですし、日沖選手も盤石の強さを見せつけて勝利するなどしましたが、この大会はメインイベントのタイトルマッチが全てといって良い程でした。

他の試合の記憶が吹き飛んでしまう程、メインイベントの死闘はすざましいものでした。

メジャー団体の興行が行われたときに、印象に残った試合の分析などを厚かましくも当ブログにて綴らせていただくことがありますが、今回はそういった試合の分析などは控えたいと思います。

メインイベントにて行われた、三崎選手VSサンチアゴ選手の試合は技術云々を超越した試合でしたし、あの試合における双方のスキルのことについて、何を言っても安っぽくなってしまう気がします。

ただ、この試合は技術云々を超越した中で、格闘技という競技の美しさともいえる部分を体現したものだと思います。

日本格闘技界は現在“不況”といわれています。そんな状況の中で、三崎選手VSサンチアゴ選手は、格闘技の素晴らしさを再認識させてくれるものでした。

「何故、格闘技が好きなの?どんなところが、面白いの?」

メジャースポーツであるサッカーや野球と違い、依然マイナーである格闘技を好きでいると、このような質問をされることは少なくありません。

意外とこれらの質問に答える際に、その場凌ぎの返事をしてしまうことがあります。

「相手を倒すか、まいったさせた方が勝つ図式がシンプルで分かりやすいから。」「男だから、強いものには本能的に惹かれる。」などです。

普段は自分が格闘技を好きな理由などあまり考えないので上記のような答えを出してしまっていますが、今回の三崎選手VSサンチアゴ選手の試合で、何故格闘技が好きなのかを再認識しました。

それは、格闘技が人間に始まり、人間に終わるからです。究極のところ、全ては戦いの場に立つ二人のファイター達に委ねられるからです。ファイター達は、その場でスキルやメンタルの面も含め、良い部分も悪い部分も全てさらけ出さなくてはならないのです。そして、相見える、身体をぶつける相手がいるが故に、お互いの人間の部分が究極的にさらけ出されるのだと思います。

これほどまでに、そこにいる“人間”が明るみに出る競技は類いを見ません。私は、サッカーも好きなスポーツなのですが、勝敗が人間同士の戦いの結末ではなく、ボールの行方に委ねられている部分で、一番好きな格闘技には及ばないのかもしれません。

格闘技の醍醐味、それは極限の状態になったときに、そこに立っている2人の“人間”があらわになることにあると思います。そのあらわになったものが、自分たちの想像を凌駕したときに、それは感動を呼びます。そこで目にする強さは時に美しくも映ります。

それを体感したときに、人は格闘技という競技の魅力から、目が離せなくなるのだと思います。

三崎選手VSサンチアゴ選手の死闘は、“何故、格闘技が好きなのか?”の問いに対して、十分すぎる程の答えを含むものでした。

三崎選手とサンチアゴ選手の再々戦。時を経て実現しても、今回を超える試合をするのは難しいかと思いつつも、どこかで期待してしまう自分がいます。










リョート選手のMMA初黒星や、BJペン選手のライト級の試合での敗北。そして何といっても最後の皇帝ヒョードル選手の総合格闘技における事実上の初黒星。

2010年は絶対王者や無敗だった選手の敗北が目につきます。

ついにアンデウソン選手までもが。。2010年はそういう年なのかという思いが確信に変わる直前でした。

最後の最後でアンデウソン選手が魅せてくれました。ほぼ周囲が政権交代を確信していた中での、逆転一本勝ち。アンデウソン選手がミドル級の王座を防衛し、UFCでの連勝記録を12に伸ばしました。

4Rを通してポイントを取られ続け、UFC初黒星が目前に迫っていた5R 3分10秒での三角による一本勝ち。ここで一本を取って勝つところにアンデウソン選手の絶対王者としての強さが垣間見えました。

アンデウソン選手はあまりメンタルの強い選手だとは思っていませんでした。圧倒的な身体能力や、技術の高さという部分でずば抜けているので、他を寄せ付けない絶対王者のポジションにいるのかと思っていました。

今までの試合で、時折アンデウソン選手が見せる相手を挑発したり、おどけたりする仕草は、アンデウソン選手の精神力の弱さの表れにすら見えることもありました。

しかし、環境が人を作るのか、絶対王者に長らく君臨しているファイターの精神力は人並みはずれたものでした。

4Rを通じて劣勢に立たされ続け、誰もがアンデウソン選手の敗北を確信していた中で、アンデウソン選手本人だけは、自分の勝利を信じて疑っていなかったように思えました。

4Rと5Rの間のインターバルで、アンデウソン選手は観客を煽るような仕草を見せたようです。この仕草は観客を煽るためではなく、自身を奮い立たせるものだったのかもしれません。

アンデウソン選手は試合後に、脇腹を練習中に痛めて今回の試合出場を医者に止められていたことを明らかにしました。王者であっても、4Rを通じて劣勢に立たされれば、自分の中での言い訳が出来る材料があったが故に、気持ちが折れてしまってもおかしくありません。

最後の最後での、三角締めによる大逆転勝利。

自分の勝利に対する絶対的な執着心こそが、アンデウソン選手が絶対王者たる由縁なのかもしれません。


大金星目前にして敗れはしたものの、ソネン選手の健闘ぶりは見事でした。UFC史上、最もアンデウソン選手を追いつめたファイターということは紛れも無い事実だと思います。

今までUFCでピンチらしいピンチを見せなかったアンデウソン選手をここまで脅かすことが出来たのは、ソネン選手の“レスリング力”によるものだという声が多く挙がっています。

ソネン選手は全米王者に2度君臨したことがあるほどのレスリングの実力の持ち主です。

いとも簡単にアンデウソン選手をテイクダウンしてしまい、決して起き上がらせないレスリング力は超一級品でした。

このソネン選手の“レスリング力”は今回絶対王者を追いつめた一つの要因かと思いますが、ソネン選手がアンデウソン選手を追いつめたのには、もう一つ要因があると思います。

それはソネン選手がアンデウソン選手の打撃を恐れなかったことです。ソネン選手はアンデウソン選手との打撃戦を恐れずに、果敢に挑みました。それによってアンデウソン選手のリズムを崩すことに成功しましたし、タックルにも入りやすくなったと思います。

もし、アンデウソン選手の打撃を恐れて中途半端な距離感で戦っていたならば、ことごとくタックルはかわされていたと思います。

相手の得意分野で敢えて勝負すること。この駆け引きは、特にトップクラスの選手と戦う際には非常に重要になってくると思います。

相手の得意分野を警戒しすぎれば、逆にどんどんと相手のペースになってしまい、結局はその得意分野の技で敗れてしまうか、判定負けを喫してしまいます。もちろん警戒心は必要だと思いますが、相手の得意分野を警戒しつつも、敢えてその得意分野での勝負を仕掛けることで、大きな勝機が見えてくることもあります。

特に相手の得意分野が寝技ではなく打撃の場合、この駆け引きは時に非常に有効に働きます。

少し古い例で恐縮ですが、PRIDEでミルコ選手の打撃を警戒するあまり、結局その警戒心がミルコ選手をリズムに乗せてしまい、最後は打撃によってKOされてしまった選手は多かったと思います。タックルに入ろうとしても、否応無しに遠くからのタックルになってしまうため、ほぼ全て防がれてしまっていました。

逆にミルコ選手を攻略したヒョードル選手は、敢えてミルコ選手の得意分野である打撃で勝負を挑みました。この駆け引きは成功し、終始ヒョードル選手のペースで試合は進みました。

試合後にミルコ選手は「打撃でおされた。」と語っています。自身の得意分野である打撃でおされることがメンタルに与える影響は想像に難くないですし、ミルコ選手自身もあそこまでヒョードル選手が打撃戦を挑んでくるとは思っていなかったはずです。

今回ソネン選手がアンデウソン選手をほぼ攻略出来たのも、1R開始早々から打撃戦を挑み、その駆け引きに成功し、ダウンを奪ったことが大きいと思います。

このダウンによって、アンデウソン選手は自身の得意分野である打撃でも、ソネン選手の攻撃を警戒せざるを得なくなりました。それが影響し、抜群のレスリング力を持つソネン選手は、試合を通じてアンデウソン選手からテイクダウンを奪うことに、ことごとく成功しました。

ソネン選手がアンデウソン選手の打撃を警戒しすぎて、距離をとって戦っていたら、アンデウソン選手をこれほど追い込むまでには至らなかったと思います。

ソネン選手が果敢に打撃戦を挑んだことが、アンデウソン選手の攻略へと繋がったのだと思います。


この試合ではあと少しのところで惜しくも負けてしまったソネン選手でしたが、試合前のトラッシュ・トークでヒールキャラ的に大会を盛り上げ、試合終了後は素直に負けを認め相手を讃えた姿にプロのファイターとしてのプロフェッショナリズムを感じました。




五味選手の人気は凄いですね。

海外での試合であろうと、国内での試合であろうと、五味選手の試合を見る度にそう感じます。

いかに酷評されていても、結局試合が近づくと格闘技ファンの注目を一斉に集めてしまいます。いまや日本人選手の中での人気面では、桜庭選手をも凌駕しているのではないかと思う程です。

今回も五味選手の試合があるからということで、平日であるにも関わらずスカパーのPPVがつきました。(もちろん岡見選手も参戦するということも大きかったと思いますが。)依然、格闘技のビジネス面においても五味選手は非常に影響力のある選手だということを思い知らされます。


肝心の試合の方でも、今回は五味選手がしっかりと結果を残しました。UFCライト級の強豪タイソン・グリフィン選手に1RKO勝ち。まさにファンにとっては、これ以上ないかたちで、五味選手はUFC初勝利を手にしました。

今回の試合で五味選手は、右フック一発でKO勝ちを収めましたが、ここに五味選手の最大の魅力があると思います。

日本人選手の中で今回の五味選手のような勝ち方が出来る選手は、どの階級を見渡してもそうは見当たりません。一発で勝負を決められるということ、その一発があるからこそ試合をわくわくしながら見ることが出来ること、ここに五味選手のファイターとしての魅力が集約されていると思います。


ただ、少し厳しい目で見ると、今回の試合の結果を受けて“五味隆典選手の完全復活”というのは時期早々のような気がします。

今回はグリフィン選手が果敢に打ち合いに挑んで来てくれました。グリフィン選手がそのような姿勢で挑んで来てくれたからこそ、あのような結果が生まれたと思います。

また、グリフィン選手は五味選手よりもリーチの短い選手です。五味選手は自分よりもリーチの短い選手との打ち合いにはめっぽう強い印象があります。石田選手やパルヴァー選手など自分より小さい選手との打ち合いでも、今まで強さを見せつけてきました。

今回のグリフィン選手も石田選手と背格好の近い選手でした。五味選手の方から踏み込まなくとも、容易にパンチが届く距離で戦えるので、自分の制空権を保ちながら試合を進めることが出来たと思います。

私は依然、この部分に一片の不安を感じています。

五味選手は逆に自身よりリーチの長い選手との打ち合いを苦手としている印象があります。PRIDEでのニック・ディアス選手との試合もしかり、格下ともいえる高身長のゴリアエフ選手にも戦極で不覚を取ったのは記憶に新しいところです。

当たり前のことですが、自分よりリーチの長い相手と試合をする場合、一歩踏み込まなくてはパンチが当たりません。しかし、踏み込むということは相手の打撃をもらうリスクがあります。そのリスクを冒すことへの躊躇か、五味選手は相手のリーチが長くなると踏み込みが少々甘くなる傾向があるように思えます。

前回試合をしたケニー・フロリアン選手も、五味選手よりも背の高くリーチのあるファイターでした。それが影響してか、五味選手のパンチが空を切るシーンが多かったような印象を受けます。そのせいで五味選手もリズムが掴めていなかったように見えました。

五味選手は調子の良い時は、リーチ差を克服して、踏み込んでのパンチを当てることが出来ます。PRIDEでルイス・アゼレード選手をKOした試合がその良い例だと思います。

UFC2戦目となった今回の試合に向けて、五味選手はかなり追い込んで練習をしてきたと思います。初戦と比較して、明らかに筋肉が張っていましたし、体が引き締まっていました。コンディションも良かったと思います。

ただ、幸いにも(!?)今回の試合では五味選手が相手のリーチに苦しむことはありませんでしたし、以前から対応が指摘されているグラウンドへも持ち込まれませんでした。

上記のことは、五味選手自身も自覚していることだと思いますし、それを克服するための練習を積んで来たと思います。

五味選手のUFC次戦の相手はまだ決まっていませんが、次戦では五味選手が自身の弱点をどのように克服してきたのかに、期待を込めて注目したいと思います。