遅ればせながら、先月UFC121で行われたヴェラスケス選手VSレスナー選手の感想です。

世間の評価というのは厳しいですね。

UFC121でレスナー選手は、ヴェラスケス選手に1RTKO負けを喫しました。この敗戦を受けて、ネット上ではヴェラスケス選手の強さを讃える一方で、「レスナー選手なんて所詮こんなもの。」、「レスナーは元々過大評価されていただけ。」といった手厳しい意見が目立ちます。

それまでは、「レスナー選手こそがヘビー級最強。」という意見も目立ちましたが、手のひらを返したかのようなレスナー選手への評価。やはり勝負の世界は結果こそが全てということでしょうか。

ヘビー級という階級は、他の階級と比較しても、特殊な階級だと思います。どういった部分で特殊かというと、同階級の中で体格差が生じるといったところです。

ライト級にせよウェルター級にせよ、ミドル級にせよ、その階級で試合をする選手はその階級の規定の体重ギリギリに体重を合わせてきます。元々の骨格の大きさによる少しの体格差は生じるものの、そこで戦う選手同士の体格面でのハンデというのは生まれにくくなっています。(そもそも、そのための階級制ですが。)

一方でヘビー級という階級は、同階級であるにも関わらず、その中での体格差が発生する階級です。UFCではヘビー級の上に、スーパーヘビー級という階級が存在しますが、それでもヘビー級は93kg-120Kgと体重の規定に大きな幅があります。

それ故、ヘビー級では10Kg、ときに20Kgも体重差のある相手と戦わなくてはならない場合があります。

といっても、従来120Kg近い体重を持つような選手は、パワーだけで技術やスタミナがほとんどなかったり、体が大きいだけの見せ物的な選手がほとんどでした。

いくらヘビー級の中で体が大きく、パワーが桁外れでも、格闘技の技術には太刀打ち出来ないという場合がほとんどでした。

格闘技>パワーという概念を定説に持ちながら発展して来たMMAの中で、その既成概念を打ち壊そうとしていた選手の一人がブロック・レスナー選手でした。

レスナー選手はヘビー級の中でも際立つ巨漢の持ち主ですが、“動ける巨漢”として非常に高い評価を受けていました。その上、レスリング全米学生選手権王者という肩書きに裏打ちされたレスリング技術の持ち主でもありました。

ただ、やはりレスナー選手の一番の武器は、ヘビー級の中でも並外れたパワーだったと思います。桁外れのパワーと体格を持っているうえに、動けるので誰も手がつけられない。それがレスナー選手の評価であったと思います。

いくら格闘技の技術があっても、桁違いのパワーがあって動ける者には結局勝てないのではないか。レスナー選手は格闘技>パワーという従来の概念を覆しかねない選手でした。

今回UFC121でレスナー選手が対戦したヴェラスケス選手は、ヘビー級の中では普通の体格の持ち主でした。ヴェラスケス選手がレスナー選手のパワーの前に屈してしまうと予想した人も多かったのではないでしょうか。

ただヴェラスケス選手の打撃の技術、そしてレスナー選手までとはいわないまでも、何とか対抗出来そうなレスリング力などの総合力に期待していたファンも少なからずいたと思います。私もその一人で、特にヴェラスケス選手の打撃力がレスナー選手の牙城を崩すことに期待していました。

試合ではヴェラスケス選手がレスナー選手の猛攻をものともせずに、全ての局面でレスナー選手を圧倒しました。特に試合の流れの中で、ヴェラスケス選手がレスナー選手からタックルでテイクダウンを奪うシーンは驚愕でした。

その他、的確な打撃や、テイクダウンされてからのリカバリーなど、MMAという格闘技のなかで総合的に一流のスキルを見せたヴェラスケス選手の強さには感動すら覚えました。

試合開始からフィニッシュに至までの一連の流れは、タイプこそ違えど、あのヒョードル選手を彷彿とさせるものでした。

ヴェラスケス選手の勝利が告げられた瞬間は、その時見たヴェラスケス選手の総合的な強さに胸が高まったと共に、格闘技の意義が守られたような気がして、少し安堵に似たような感覚を覚えました。


今後更にMMAが発展し、ヘビー級の中で桁外れのパワーを持ちながらも動ける選手がどんどん出てくることになると、この格闘技>パワーと格闘技<パワーの概念が目まぐるしく入れ替わってくるのかもしれません。





今年のK-1は試練の年となりましたね。

K-1 MAXは魔裟斗選手が引退を発表してから、「一般層に訴求出来る選手がいなくなったらどうするの?」という不安が以前から囁かれていました。それに追い打ちをかけるように、K-1ヘビー級もスター候補のバダ・ハリ選手の欠場。そしてそのバダ・ハリ選手欠場の穴を埋めようと呼んだ元UFCヘビー級王者アルロフスキー選手のまさかの土壇場での欠場。

バンナ選手も延長戦を受け入れずに試合放棄をしてしまったり、シュルト選手も勝利した相手のカラケス選手に訴えられていたりと、今年のK-1は何かと困難が続きます。

敢えて今年のスター不在のK-1をポジティブに捉えると、“純勝負論”で試合を観戦出来るといったところでしょうか。

K-1ヘビー級、K-1 Maxともに、主催者側の“勝って欲しい”という選手が存在しない状況です。作為的な組み合わせも判定も決勝ラウンドでは無いでしょう。(比較的知名度のあるバンナ選手や、キシェンコ選手は既にリザーブマッチに出場をオファーされているかもしれませんが。。)

楽しみな選手も出て来ています。以前からローキックのキレには定評のあったギダ選手が、実力者のジマーマン選手からド派手なKO勝ちを収めました。

決め手となったカウンターのパンチは、やや偶然的にタイミングが合ってしまったようにも見えましたが、それまでに見せたローキックのキレは健在でした。

今年のK-1ヘビー級の決勝ラウンドでは、シュルト選手VSアリスター選手が実現するのではないかというのが一つの楽しみでしたが、この両選手にギダ選手がどのように絡んでくるのかがもう一つの楽しみになりました。

K-1 Maxの方も、唯一といっても良い程ファンからの注目度の高い、前年度王者のペトロシアン選手が盤石の強さを見せつけました。

ペトロシアン選手が勝つであろうということは主催者も含め大方が予想していたであろうことだと思いますが、キシェンコ選手が敗退してしまった中で、ペトロシアン選手が勝ってくれて主催者は胸を撫で下ろしていると思います。

ペトロシアン選手の精密機械のような戦い振りは格闘技ファンの胸に響いたようですし、主催者側としてもここまで安定的に勝ってくれる選手ということで、非常にプッシュのしやすい選手なのかもしれません。

ただ、ペトロシアン選手は強さは申し分ないのですが、一つだけ不安があります。それはペトロシアン選手の強さが、一般層には伝わりにくいということです。

ペトロシアン選手は勝つために無茶をしません。ここでいう無茶とは、例えばKOを狙いにいく姿勢です。

ペトロシアン選手の実力はもちろん申し分ないので、今後相手選手をKOすることも多々あると思います。ただ、それはあくまで流れの中でKOするのであって、ペトロシアン選手自身はKOや派手な戦い方に執着はないように見えます。

ペトロシアン選手にとって重要なことは結果であって、KOか判定かの過程は彼の美学の中で、さほど重要なことではないのかもしれません。

派手な戦い方をしないペトロシアン選手だからこそ、今後長期政権を築く可能性もあります。長期政権を築いても、分かりやすい試合をする選手であれば、主催者側も万々歳です。

ただし、ペトロシアン選手のような、ある意味玄人受けする選手が長期政権を築くとなると、対戦相手が見つからなく、且つ見つかっても試合が玄人向け過ぎるというジレンマに陥ってしまう不安があります。

これからK-1 Maxの看板をペトロシアン選手が背負っていくに連れて、“魅せる試合”というものも求められて来ると思います。

まだペトロシアン選手は底を見せていない印象もあるので、そういったものを求められて来たときに、どのような試合を見せてくれるのかに期待したいと思います。



昨日のDREAM16をPPV観戦しました。

全体を通して、ややインパクトに欠ける大会だったと思います。良い試合がなかった訳ではないのですが、特にどれも大会ベストバウトといえる程のインパクトは残せなかったと思います。

あまり印象深くない大会となった理由としては、普通に勝つと予想されていた選手が、全員普通に勝ってしまったことが大きいと思います。勝つべき選手が勝ったという部分では、悪くなかったのかもしれません。

そんな大会の中でも試合数の多かったフェザー級の試合で強さを感じさせたのは、小見川選手でした。今まで打撃で主導権を取る展開の多かった小見川選手ですが、今回の試合では新たな面も見せてくれました。

エスコベト選手を相手に下になった状態から自身の首を利用してのアームバーで一本勝ち。小見川選手はあらゆる局面でも極める力があることを実証しました。海外のトップファイターとの試合を早く見てみたいと感じました。

高谷選手も持ち味を発揮しての勝利でした。得意のパンチでのKO勝ちも見事でしたが、相手のビービー選手が少し悪い負の連鎖に陥っているようにも感じました。DREAMではまだ勝ち星のない、ビービー選手を相手に、高谷選手が手堅くも、しっかりとKO勝ちを収めたという印象です。

他のフェザー級の試合では、相手を終始グラウンドで抑えつけて判定で勝利をものにする“塩漬け”とも呼ばれる、格闘技ファンからあまり歓迎されない戦い方をする石田選手と宮田選手も、その戦法で手堅く勝利をものにしました。

石田選手に負けてしまったウィッキー選手ですが、完全にタックルに入られるようなシーンはなく、そのタックルを防ぐ技術にアメリカ修行の成果も見られました。石田選手のタックルを防ぎながらも、常に攻撃のチャンスを伺い、隙あらばKOを狙う姿勢が見れました。定評のある石田選手のタックルをあそこまで防ぐ身体能力の高さも魅力に映りました。今後が楽しみな選手です。

一方で宮田選手と戦ったリオン選手は、宮田選手の手堅い戦い方に完封されてしまいました。その手堅い強さから、どの選手も対戦するのを嫌がるといわれている宮田選手ですが、確かにその戦法と手堅さは安定していると思います。

ただ、やはりプロという部分では、もう少し観客を沸かせる部分を見せても良いかと思いました。所選手のように、今回はハンセン選手に敗れましたが、勝っても負けても常に激しい試合をすることを心掛ける意識を少しでも持つことが出来れば、もっと人気も上がるかもしれません。

宮田選手の試合後の、「全部判定勝ちになるかもしれないけど、フェザー級なら誰とやっても勝てる自信がある。」という発言が少し気になりました。


また、フェザー級以外の試合では、桜庭選手がとうとう一本負けを許してしまいました。桜庭選手がタップするシーンを見るのは、少し寂しい印象もありましたが、リアルファイトの舞台で、しっかりと現実の部分が出た試合だと思います。

今回、桜庭選手から一本を奪ったメイヘム選手は、桜庭選手に憧れ続けていた選手です。メイヘム選手のデビュー戦は2001年、丁度桜庭選手がホイラー選手、ホイス選手、ヘンゾ選手、そしてハイアン選手を破ってグレイシーハンターの名を欲しいままにした少し後の頃でしょうか。

メイヘム選手は憧れ続けていた桜庭選手からの一本勝ちに感極まっていました。桜庭和志という選手を世に知らしめたPRIDE創設から数えて、桜庭選手の初の一本負け。いつかは一本で負ける時が避けられないのであれば、その相手がメイヘム選手で良かったのかもしれません。


今回、期待しているからこそ、敢えて苦言を呈したいのが石井慧選手です。急遽決まった試合なので、何かと準備出来ていなかった部分はあるのかもしれませんが、MMAの選手としての意識があまり強く見られませんでした。

相手はミノワマン選手でした。ミノワマン選手が相手だからこそ、石井選手には今回は打撃で行って欲しかったというのが正直なところです。

ミノワマン選手は、キャリアも実績もある選手ですが、怖い打撃を持っている選手ではありません。い20Kgの体重差と柔道での実績の考慮すれば、石井選手はミノワマン選手のテイクダウンも恐れる必要はなかったと思います。

その中で、石井選手は自身の柔道のバックボーンを活かす戦法を選び、手堅く勝ちを狙いにいきました。

もちろんMMAという競技の中での寝技の進化は見られましたが、今後石井選手がMMAの選手として大成していくために一番ネックとなってくるのは打撃の部分だと思います。

どんな手段でもまずは勝ちにいくということは大事なのですが、打撃でいっても大きなリスクはなかったミノワマン選手には、石井選手に打撃で勝負して欲しかったです。自身の打撃の進化を試すのには、ミノワマン選手は良い相手だったのではないでしょうか。

今回石井選手はミノワマン選手に勝利しましたが、MMAで勝ったというよりは、体格差と柔道の貯金で勝ったという印象を受けました。

最近石井選手は、米国の柔道代表選手としてオリンピックに出場したいという発言もしています。

MMAの選手として60億分の1を目指したいと言っていた石井選手の意識にブレが生じていないか、少々心配です。