2010年の最終興行で、青木真也選手がやってしまいました。

2009年の大晦日興行での出来事は極端なケースですが、青木選手は頻繁に歯に衣着せぬ言動から多くのアンチファンを抱えるファイターです。

アンチファンはいる一方で、もちろん支持するファンもいます。

私は、その支持する側の人間です。青木選手はある意味で軸がぶれないですし、ファイターとしての実績は間違いなく一級品です。その実績を考慮すると、現時点での日本人MMAライト級ファイターで一番強いのは青木選手だとも思います。

それだからこそ青木選手には、世界でもトップを取って欲しいという想いを持っていました。

そんな青木選手を支持する側の私も、先日の大晦日での自演乙選手との試合の結果は、少しお粗末だったと感じています。

青木選手の1RでのK-1ルールにおける自演乙選手との戦いぶりに批判の嵐が吹き荒れています。

個人的にあの戦い方は、スポーツマンシップに乗っ取っているとは決して思いませんが、100%NGという戦い方ではないと思っています。

ただ、だからこそ青木選手には2Rでの確実な勝利が求められていたと思います。

元々、青木選手にはK-1ルールで試合をすること自体に抵抗があったと思います。これは自身が不利云々の前に、思想的な部分のものです。一昨年、川尻選手がK-1ルールで魔裟斗選手と試合をすることに対しても、若干批判的であったと思います。

それだからこそ、青木選手にとって、この試合はどんなプロセスでも良いから確実に勝利を挙げるということが最優先事項であったと思います。

元々K-1ルールで戦うことに批判的であった青木選手にとって、1Rのプロセスなどはどうでも良いことだったはずです。

一方で、万が一にもパンチを貰って、KO負けなどしたら大変だという不安もあったと思います。あのような戦い方は、そういった不安の裏返しかもしれません。

その試合のゴールを明確にした青木選手の軸は決してブレません。青木選手はそれを達成するためのプロセスを非難されることなどは、決して厭わない選手です。ただこのときに青木選手が設定していたゴールは勝利=2Rに持ち込むことだったのかもしれません。

その部分でズレが生じ、あのような惨事を招いてしまったのではないでしょうか。

つまりは広い意味で油断ということですが、一種の不安からの開放感ともいえると思います。

自身が負けるリスクもあり、且つ受けたくもないK-1ルールで行われた1Rが終了した。これでやっと安全な2R目に突入出来ると安堵の想いはあったと思います。

ただ同時に、「万が一にも粘られて時間切れにでもなったら目も当てられないから、早いとこ決着を付けてしまおう。」という焦りもあったかもしれません。

そういった開放感と焦りの入り交じった感情が、あのようば不用意なタックルへと繋がってしまったのかもしれません。

普通に考えれば、あの時点で自演乙選手に残されていた切り札は、青木選手のタックルに膝を合わせることくらいだというのは、青木選手自身にも青木選手陣営にも理解できていたことのはずです。

青木選手もキャリアのある選手なので、陣営も2Rに入るインターバルの際に「あとは普段通りにやれば大丈夫だよ。」程度のことしかいわなかった、もしくはいえなかったのかもしれません。

早く勝利を確実なものにしたかった青木選手の焦りと、2Rに突入したことの開放感が、「自演乙選手のカウンターの膝が来るかもしれない。」という選択肢を、一時的に忘却させてしまったのかもしれません。

それが今回の試合の結果を招いた原因ではないかと想像します。


超一流の選手。例えばヒョードル選手などは決してこのような過ちを犯しませんでした。どんなに相手が自分より格下の相手であろうと、試合では丁寧に、そして正確に相手の息の根を止めにかかります。自身が確実に勝てる手段を的確に判断し、実行しています。

こういったメンタルの部分が、青木選手の今後の伸びしろとなるかもしれません。

青木選手は自演乙選手とのカードが決定する前は、メレンデス選手との対戦が噂されていました。

「青木選手は近年3勝したら1敗するというジンクスがある。ちょうど大晦日の試合は3勝した後だからメレンデス選手にリベンジ出来ないんじゃ!?」と不安の声もありました。

自演乙選手との対戦が発表され、まさか青木選手が敗北を喫するなど予想した人は、ほとんどいなかったと思いますが、皮肉にもジンクス通りの結果となってしまいました。

敢えてポジエィブに捉えると、ジンクスが実現してしまった相手がメレンデス選手ではなく、青木選手の本業ではないミックス・ルールで戦った自演乙選手で良かったのかもしれません。

ファイターは試合で勝つことでしか、自身の泥を落としていくことは出来ません。

青木選手には、今後勝ち星を重ね、今度こそは「3勝すると1敗する。」のジンクスを払拭して、世界のトップファイターへと駆け上って欲しいと思います。

依然、日本MMAライト級のトップであることには変わらないので、期待を込めて。









※新年、明けましておめでとうございます。2011年もどうぞ宜しくお願い致します。

2010年は12月30日、12月31日と立て続けに格闘技の大規模な年末興行が行われました。

12月30日のSRC16、12月31日のDynamaite!と両大会を会場観戦しましたが、両大会の格闘技というコンテンツを比較した際に、クオリティには相当の差があったのではないかというのが率直な感想です。

純粋に強さを競うという格闘技の本質的な視点で見比べた際に、結果としてSRC16のコンテンツの方が遥かにクオリティの高いものでした。(Dynamite!の会場の方が埋まっていたのは、格闘技ビジネスの抱えるジレンマでしょうか。)

Dynamite!の方は、これといって印象に残った試合はなく、SRC16の好試合の一つ、前田選手VS金原選手に及ぶような試合もありませんでした。

SRC16の方も、午前中から興行が開始するという前代未聞の長時間興行ということで、開催前は不安の声も囁かれていましたが、その声を吹き飛ばすような熱戦が繰り広げられました。

SRC/戦極はファイターのパフォーマンスのおかげで、期待値を上回る大会になるケースが多いような印象を持っています。

まさに今回もそのケースでした。

SRC16の後半戦は特に面白い試合が多かったのですが、当然最も印象的だった試合は日沖選手VSサンドロ選手のタイトルマッチです。

日沖選手とサンドロ選手が繰り広げた試合内容も素晴らしかったのですが、日沖選手の見せた、まさに"This is MMA"を体現するような、芸術的ともいえるスキルに感銘を受けました。

もともと日沖選手は“打・投・極”全てが高いレベルで出来るという定評のある選手でしたが、サンドロ選手との試合はまさに総合力での勝利であったと思います。

立ち技・寝技ともにバランスよく出来る選手は、特徴が無く、時に圧倒的に打撃の強い選手や、寝技の極めの強い選手よりも魅力的に映らない場合があります。

ただ日沖選手がこの日に見せた総合力は、その一線を遥かに凌駕するものでした。

パンチ力という部分ではサンドロ選手よりも不利であった打撃では、テクニックで互角以上に渡り合い、グラウンドになってからは流れるような寝技の展開。

これは文字通り“総合格闘技”における強さを見せつけるものであり、“バランスの良い選手”と“総合格闘技の強い選手”を明確に差別化するものでもありました。

これぞ総合格闘技というものを見せつけた日沖選手の強さは、残酷なまでに鋭く、且つ美しくもありました。

一方で幾度となく窮地に立たされながらも、決してギブアップをせず、最後まで勝負を捨てなかったサンドロ選手にも真のファイターの姿を観ました。

2010年の締め括りに、このような試合を見せてくれた両者に御礼を言葉を捧げたい次第です。


試合後に控え室に戻る日沖選手と握手をしてもらう機会がありました。

日沖選手もやはりサンドロ選手を相手に満身創痍でチームメートに肩を借りながらの退場でした。顔もかなり腫れ上がっていました。それにも関わらず、握手を求めるファン全員に丁寧に対応し、一人一人の顔をしっかりと見ながら「ありがとうございました。」と力強く答えていました。

本当に素晴らしいファイターだと思いました。

今後の更なる日沖選手の飛躍を応援したいと思います。

先週の土曜日にK-1 GP 2010 Finalを会場観戦してきました。

優勝こそ逃しましたが、2010年のK-1決勝ラウンドの主人公の座はピーター・アーツ選手が持っていきました。これに関しては、多くの人が同意見だと思います。

今年で40歳という年齢にも関わらず、長らくK-1の第一線で戦い続けているアーツ選手に思い入れのあるファンは多いと思いますが、決勝ラウンド1回戦のアーツ選手VSモー選手の煽りVで、今大会のアーツ選手に対して更に感情移入してしまったファンは多かったと思います。

今大会のハイライトは、何といってもアーツ選手VSシュルト選手だったと思います。アーツ選手の見せた“人間力”の部分に胸が熱くなりました。

アーツ選手が今回シュルト選手を下したことは、本当に凄いことだと思います。改めてアーツ選手の偉大さを感じました。

さらにいうと、シュルト選手は韓国大会でのホンマン選手との不可解な判定を除いては、K-1の試合でアーツ選手以外には負けていません。

今のところ、K-1のリングでシュルト選手を倒した選手はアーツ選手しかいないのです。

アーツ選手は過去のトーナメントではダメージの蓄積などもあり、シュルト選手に2敗していますが、ワンマッチでは一度も負けていません。

2008年の大会で「シュルト選手が王者のままではK-1がつまらなくなる」とアーツ選手がシュルト選手との対戦を直訴したのは記憶にまだ新しいところでしょうか。アーツ選手が「シュルト選手には絶対に勝つ。」と心に決めた試合では、必ずシュルト選手に勝利しています。

今大会でもアーツ選手は、勝ち上がればシュルト選手と対戦することになることを想定していたと思います。

試合後のインタビューでもアーツ選手は「今回はシュルトに勝つことが一番大事なことでした。」「彼はチャンピオンだし、みんなが一番強いと言うからです。」と語っています。

アーツ選手は今までシュルト選手を倒して来たときと同様に、必ず勝たなくてはという強い意志を持ち、見事にそれを今大会でも成し遂げました。

アーツ選手が今大会で、シュルト選手に勝った要因は大きく分けると3つあると思います。

1つ目はアーツ選手の自信です。アーツ選手は過去2度のシュルト選手とのワンマッチではいずれも勝利しています。今大会の一回戦でアーツ選手は、ほぼ無傷でモー選手に勝利して準決勝に勝ち上がりました。

ワンマッチのような万全の状態でシュルト選手との対戦に臨めるということで、過去の勝利経験から来る自信がアーツ選手の気持ちを後押しした部分があると思います。

2つ目は勝ち方に拘っていなかったことです。どんなに泥臭くとも不格好でも良いから、とにかく勝つことへの執念がアーツ選手には見られました。特にKOも狙ってはいなかったと思います。昨年のバダ・ハリ選手はKOを狙いすぎてシュルト選手に返り討ちにあってしまったような印象もあります。

アーツ選手には、距離をつめて相打ちになっても一発でも多く自分のパンチとキックをシュルト選手に試合終了まで叩き込むというがむしゃらさを感じました。

そして3つ目ですが今大会で首相撲からの膝蹴りが禁止されたことです。これが一番大きな要素かもしれません。シュルト選手は長身であるが故に、懐に潜り込まれると弱いと指摘されています。

ただ、シュルト選手の首相撲からの膝蹴りが相手に致命傷を与える凶器となるほど強力なので、うかつに相手は懐に飛び込めないのです。

今大会から掴んでの膝蹴りが禁止されたことになり、アーツ選手のように前に出られるファイターにとって、シュルト選手の懐に入りやすくなりました。シュルト選手に対して距離を詰めることのリスクが軽減されたことで、顔面へのパンチも当て易かったのかもしれません。


ただ、いくら首相撲からの膝蹴りが禁止されたとはいえ、シュルト選手がどのファイターにとっても脅威の存在であることに変わりはなく、今大会でアーツ選手がシュルト選手を倒したことは偉業といえると思います。

今までアーツ選手しかK-1でまともにシュルト選手を倒していないという事実が、その凄さを物語っています。

今大会のアーツ選手の体の仕上がり具合からも、もしかしたら最後になるかもしれない今回のトーナメントへの強い意気込みを感じました。

シュルト選手の打撃に顔を腫らしながら前進する姿には、ただただ感動を覚えるばかりでした。

アーツ選手のトーナメントへの出場は今回が最後になる可能性はありますが、引退するのはもう少し先になるようです。

ワンマッチでのアリスター選手へのリベンジを望むのは、アーツ選手にとって酷なことであり、ファンの我がままでしょうか?