ヒョードル選手が負けました。

何のアクシデントも不運もなく、ヴェウドゥム選手の三角締めに捕まっての1Rでの一本負け。ヒョードル選手も人間なので、いつか負ける日が来るとは思っていました。ただ6月27日(現地日時26日)がその日になるとは思ってもいませんでした。

また、ヒョードル選手が負ける瞬間として想像していたのは、判定負け、打撃によるTKO負け、もしくはレフリーストップによるTKO負けでした。まさか、サブミッションでヒョードル選手がタップアウトする瞬間を見ることになるとは思ってもいませんでした。

ヒョードル選手の敗北の瞬間は、もちろんショッキングなものでしたが、それほどの焦燥感はありませんでした。一つの時代が終わったとも感じませんでした。

それは敗北を喫した相手がヴェウドゥム選手だったからかもしれません。

この敗戦に関しては、ヒョードル選手が普通に試合をして、普通に負けてしまったという、やけにあっさりとした印象を持っています。

ヴェウドゥム選手は実力のある強い選手ですが、ヘビー級最強のファイターの一人かというと疑問符がつくところです。

今回の敗戦の相手が仮に、ヘビー級最強の可能性があると一部で言われている、アリスター選手やレスナー選手であったら、また印象は違っていたかもしれません。

そういった選手達にヒョードル選手が負ける時は、最強の座を持つ男が、他の一人の選手に最強の座を持っていかれてしまう瞬間です。

ヒョードル選手のいる場で最強の称号が他の選手に移る衝撃は想像に難くありません。

ただ、今回のヴェウドゥム選手はヒョードル選手に勝ちましたが、だからといって最強の座を手に入れたかというと、そうではないと思います。このことが、今回のヒョードル選手の敗戦を受けてファンが抱いている何か煮え切れない感情の原因かもしれません。

では、この試合でヴェウドゥム選手がヒョードル選手から奪ったものは何だったのでしょうか。それは他ならないヒョードル選手の持つ“神話”だと思います。

“ヒョードル選手が油断した。再戦すれば勝てるはず。”

“ヒョードル選手が衰えたのでは?”

“試合間隔が大きすぎた。”

“最近一線級の選手との試合は、やっていないのでは?”

“そもそも、ヴェウドゥム選手との相性は悪いのでは?”

今回のヒョードル選手の敗戦に関して、様々な憶測が飛んでいますが、残ったのは紛れも無い黒星がヒョードル選手に付いたという事実だけです。

ヒョードル選手がまとっていた、“絶対に倒せない”、“無敵”という神話が崩れた瞬間でした。

ヴェウドゥム選手はヒョードル選手の持つ神話にピリオドを打ったのです。


今までヒョードル選手の試合は、ヒョードル選手自身のファイターとしてのパフォーマンス、そしてヒョードル選手の持つ神話がいつまで続くのかという二つの視点で見られていました。

その神話にピリオドが打たれたことにより、これからヒョードル選手はもっと楽な気持ちで、より純粋に自分のために試合に臨めるかもしれません。

格闘技界において、これほどまでの伝説を打ち立ててきたヒョードル選手なので、もし負けることがあれば引退を表明しても非難されないのではないかと思っていました。ただ、現時点で本人には引退する気は毛頭ないようです。

試合直後のインタビューで、ヒョードル選手は以下のようにコメントしています。

“転ばない人間は、立ち上がることも出来ない。”

このコメントからは、再起を誓うヒョードル選手の意思を感じます。

試合においてヒョードル選手は驚異的な精神力の強さを見せます。その持ち前の精神力をバネにこの敗戦を、更に強くなるため、そして更に進化するための糧にして欲しいと思っています。

更に強くなり、進化した皇帝の姿を見れることを期待しています。