6月19日(現地日付6月18日)に行われたストライクフォースで圧巻といいいますか、ホッとさせてくれたのはジョシュ・バーネット選手でしょうか。

ジョシュ選手はここ最近一線から退いていたため、衰えや試合勘を懸念する声もありましたが、そのような不安を一蹴するようなジョシュ選手らしい強さを見せての完勝でした。

今回のロジャース選手との試合を見る限りですと、特に衰えなどはなさそうで、コンディションも良さそうな印象でした。

「相手がロジャース選手だったから」という声も挙がっていますが、相手に本当に何もさせずに勝つというのはなかなか難しいもので、それをやってのけたジョシュ選手の強さはある種の安定感を示すものでした。

ジョシュ選手に対する不安が、一気に期待へと変わった一戦になったのではないでしょうか。

一方で、今大会の大一番であったアリスター選手VSヴェウドゥム選手の試合は観る側にとっても、やる側にとってもフラストレーションのたまる試合となってしまいました。

互いに得意とするフィールドの違うファイター同士の試合であったため、致し方ない部分はあるとは思いますが、PRIDEのミルコ選手VS高田選手の試合を再現するような試合展開でした。

その強さに一部で幻想すら抱かれていたアリスター選手ですが、今回の試合で少しその評価を落とす結果となってしまいました。

アリスター選手がライトヘビー級で戦っていた頃に指摘されていたスタミナ面にも疑問符が出てきました。

私が特に気になったアリスター選手の不安要素は防御面と攻撃面に1つずつありました。

まず防御面ですが、攻められると防御を固めてまっすぐに後ろに下がり、亀の状態になってしまう部分です。

本人は安全策をとってガチガチにガードを固めているのかもしれませんが、ヘビー級であの戦い方は少々危険なような気がします。

特にMMAではガードの際に顔面を覆うグローブも小さいので、ヘビー級の選手のパンチですと、ガードの上からでも何発も貰えばかなりダメージは蓄積すると思います。

アリスター選手は決して打たれ強い方ではないので、今回のように相手が打撃を主としていないヴェウドゥム選手でなければ、危険な状態に追い込まれていた可能性もあると思います。

また、攻撃面ではアリスター選手のパンチが気になりました。

アリスター選手の腕力はおそらく想像を絶するものなので、その腕から放たれるパンチはさぞかし強力なものでしょう。

ただし、腕のみで打つパンチの威力には限界があります。

アリスター選手が放つパンチは、その腕力の自信からか、その場で足を止めて打つフック系のパンチがほとんどです。

体全体を使った、体重をのせたストレート系のパンチが見られません。

腕力のみに頼ったパンチですと、スタミナが切れてくると威力も半減します。

今回の試合で、試合が長引いた際のアリスター選手への不安が醸し出されてしまったのかもしれません。

ノーコンテストとなったミルコ選手との試合をのぞき、アリスター選手の2008年からのMMA戦績は8戦8勝8KOですが、その全てが1Rで勝負がついているものです。

今回の試合でのアリスター選手のパフォーマンスについては、対戦相手のヴェウドゥム選手との相性によるところが大きいと思いますが、次戦以降ではその真価が問われることになりそうです。

個人的には、次戦のアントニオ・シウバ選手にはアリスター選手があっさり勝ってしまうような気がします。

決勝戦でアリスター選手とジョシュ選手と戦うのであれば、ジョシュ選手がアリスター選手相手にどのように戦うのかは非常に楽しみです。
5月29日(日)に日本のメジャー格闘技興行としては、約半年振りの大会となる、DREAM JAPAN GPが開催されました。

大会はやや退屈な試合が続き、試合数が多かったのが裏目に出てしまい、クオリティの高い大会とは言えないものでした。

唯一の救いは、決勝戦で今成選手が期待されていた足関節で一本勝ちを収めたことでしょうか。

所選手が勝ち進み、その過程で山本篤選手にリベンジしたことも、昔から所選手を見ているファンの心には響いたかもしれません。

今回の大会は世代交代というのが一つのテーマになっていました。往来の名選手を、新鋭の若手選手が倒して世代交代を象徴する大会になる可能性もあった大会でした。

結果はご存知の通り、誰一人として世代交代には成功しなかったかたちとなりました。

宇野選手や大沢選手たちが、経験値からの巧さを見せて、世代交代をさせなかったという見方も出来ます。ただ一方で、まだ彼らに何とかされてしまうレベルの新鋭だったという見方も出来ると思います。

特に大沢選手に敗れた大塚選手はバンタム級ですと日本のトップクラスの選手とされています。若手の中での期待値も、かなり大きい方です。

その選手が簡単に一回戦で敗れたということは、結局この階級も世界との差が歴然としていることが証明されてしまったと思います。

「大塚選手が勝たないと意味が無い。」

青木真也選手は大会前に、このバンタム級グランプリに対して、そのように評していました。

一番可能性のある大塚選手のこの結果が、世界との差を如実に表してしまいました。

北米ルールであれば大塚選手が勝っていたのでは?という意見もありますが、ルールの違いで勝ち負けが左右されるような、微妙な差しかなかったということでしょう。

大塚選手には、ある程度差を見せて勝利することが求められていたと思います。

今回のウィッキー選手もしかりです。

宇野選手や今成選手たち、従来の名選手達の活躍がみれたのは嬉しかったのですが、特にバンタム級は他の階級以上に、日本を主戦場とする選手達と、世界のトップファイター達との差を感じてしまった大会でした。

宇野選手は今回は世代交代を挑まれる立場でしたが、若かりし頃は単独でUFCに乗り込み、世界のトップファイターと凌ぎを削っていました。

今回宇野選手はその頃の自分と同じ年代のファイターと戦い、または彼らの戦いを見て、何を思ったのでしょうか。

カナダのトロントで行われたUFC129は、UFC史上最大観客動員数となる55,000人を記録した大会の名に恥じぬ、見所の多い大会でした。

初期のUFCから参戦し続け、47歳にして現役を続けるクートゥア選手の現役最後の試合もありました。

試合の方は、対戦相手だったリョート選手の予測不可能ともいえる飛び蹴りでTKO負けを喫しましたが、登場すれば毎度のごとく大歓声に包まれる会場を見て、改めてクートゥア選手が唯一無二の存在であることを認識するとともに、彼の残した功績の偉大さを実感しました。

もちろん既にクートゥア選手の全盛期は過ぎていますが、試合をすれば過去の選手として痛々しい姿を見せるのではなく、今回もライトヘビー級のトップ選手と1R以上まともに攻防を広げるパフォーマンスを見せました。

これは並大抵の鍛錬で出来るものではなく、クートゥア選手のMMAへの献身は全ての格闘技ファンやファイターの賞賛に値すると思います。

一方のリョート選手は、無敗に黒星がついてからの連敗で、苦しい立場にいましたが、今回の試合で良い勝ち方が出来ました。

ジョン・ジョーンズ選手との対戦が期待されていますが、その期待値を更に膨らませるようなリョート選手の試合が今後観れればと思います。


WECのフェザー級の絶対王者ともいえる存在だったジョゼ・アルド選手も今大会でUFCに初登場しました。

アルド選手の代名詞ともいえるローキックで、対戦相手のホーミニック選手が崩れるのが時間の問題かと思いましたが、ホーミック選手が脅威の粘りをと気持ちの強さを見せました。

アルド選手は、判定で手堅く勝利したものの、5Rになると失速してしまいました。

今まで見たこともないような危ないシーンに追い込まれるような場面もありました。

選手自身のそれまでの経験値から想像できるダメージを与えているのに、相手に思ったようなダメージを与えられていない場合、その選手は根負けしてスタミナを消耗することがあります。

ホーミニック選手のタフネスが、アルド選手の想像や経験値を凌駕したのかもしれません。

また、2Rか3R以降からか、アルド選手が得意のローキックを放つ回数が極端に減りました。試合途中で足を痛めたのかもしれません。

試合後のアルド選手のコメントで詳細を聞いてみたいところです。


本大会のメインイベントとなった、GSP選手VSシールズ選手の試合は、良くも悪くも予想通りの試合展開となりました。

GSP選手がシールズ選手の絶対的な武器とする寝技へと持ち込まれることを避け、徹底してスタンドで勝負するという展開です。

GSP選手のようなコンプリート・ファイターの牙城を崩すには、シールズ選手のグラップリングのような何か抜きん出た武器が有効だと思います。

ただやはりGSP選手はMMAにおけるコンプリート・ファイターといわれるだけあって、バランスよくどのスキルをとってもトップクラスのため、引き出しの多さで敵うのは困難です。GSP選手にとって最も安全圏と思われるフィールドでの戦いを、対戦相手は余儀なくされてしまいます。

今回の試合では、シールズ選手がどのように寝技に持ち込むのかが見物でしたが、特にその秘策とも取れるような動きは無く、終始スタンドでGSP選手のペースで試合が終わってしまいました。

敢えてGSP選手の戦略の裏を取って、打撃戦に応じて、ダウンを奪っての寝技の展開を狙ったのでしょうか。試合後のシールズ選手のコメントからは、そのようなことも伺えます。

また、シールズ選手のセコンドのメレンデス選手からインターバルの間に「もっと、相手を動き回らせろ。」のような指示が飛んでいたような気がします。打撃戦で消耗させ、スタミナが切れたところで、テイクダウンを狙う作戦だったのかもしれません。

いずれにせよ、GSP選手の上手さもあってか、最後までシールズ選手の狙いがわかりにくい試合ではありました。

このシールズ選手の敗北により、同門対決を断固として拒否するシーザーグレイシー・ジムのニック・ディアス選手に、GSP選手へと挑む大義名分は出来ました。

もしディアス選手とGSP選手の対戦が実現すれば、ディアス選手のの変則的な打撃を、GSP選手がどのように対処するのかが見物でもあります。ただ一方で、GSP選手がレスリングでディアス選手を塩漬けにして、あっさり危なげない判定勝ちを持っていってしまうような気もします。