カナダのトロントで行われたUFC129は、UFC史上最大観客動員数となる55,000人を記録した大会の名に恥じぬ、見所の多い大会でした。

初期のUFCから参戦し続け、47歳にして現役を続けるクートゥア選手の現役最後の試合もありました。

試合の方は、対戦相手だったリョート選手の予測不可能ともいえる飛び蹴りでTKO負けを喫しましたが、登場すれば毎度のごとく大歓声に包まれる会場を見て、改めてクートゥア選手が唯一無二の存在であることを認識するとともに、彼の残した功績の偉大さを実感しました。

もちろん既にクートゥア選手の全盛期は過ぎていますが、試合をすれば過去の選手として痛々しい姿を見せるのではなく、今回もライトヘビー級のトップ選手と1R以上まともに攻防を広げるパフォーマンスを見せました。

これは並大抵の鍛錬で出来るものではなく、クートゥア選手のMMAへの献身は全ての格闘技ファンやファイターの賞賛に値すると思います。

一方のリョート選手は、無敗に黒星がついてからの連敗で、苦しい立場にいましたが、今回の試合で良い勝ち方が出来ました。

ジョン・ジョーンズ選手との対戦が期待されていますが、その期待値を更に膨らませるようなリョート選手の試合が今後観れればと思います。


WECのフェザー級の絶対王者ともいえる存在だったジョゼ・アルド選手も今大会でUFCに初登場しました。

アルド選手の代名詞ともいえるローキックで、対戦相手のホーミニック選手が崩れるのが時間の問題かと思いましたが、ホーミック選手が脅威の粘りをと気持ちの強さを見せました。

アルド選手は、判定で手堅く勝利したものの、5Rになると失速してしまいました。

今まで見たこともないような危ないシーンに追い込まれるような場面もありました。

選手自身のそれまでの経験値から想像できるダメージを与えているのに、相手に思ったようなダメージを与えられていない場合、その選手は根負けしてスタミナを消耗することがあります。

ホーミニック選手のタフネスが、アルド選手の想像や経験値を凌駕したのかもしれません。

また、2Rか3R以降からか、アルド選手が得意のローキックを放つ回数が極端に減りました。試合途中で足を痛めたのかもしれません。

試合後のアルド選手のコメントで詳細を聞いてみたいところです。


本大会のメインイベントとなった、GSP選手VSシールズ選手の試合は、良くも悪くも予想通りの試合展開となりました。

GSP選手がシールズ選手の絶対的な武器とする寝技へと持ち込まれることを避け、徹底してスタンドで勝負するという展開です。

GSP選手のようなコンプリート・ファイターの牙城を崩すには、シールズ選手のグラップリングのような何か抜きん出た武器が有効だと思います。

ただやはりGSP選手はMMAにおけるコンプリート・ファイターといわれるだけあって、バランスよくどのスキルをとってもトップクラスのため、引き出しの多さで敵うのは困難です。GSP選手にとって最も安全圏と思われるフィールドでの戦いを、対戦相手は余儀なくされてしまいます。

今回の試合では、シールズ選手がどのように寝技に持ち込むのかが見物でしたが、特にその秘策とも取れるような動きは無く、終始スタンドでGSP選手のペースで試合が終わってしまいました。

敢えてGSP選手の戦略の裏を取って、打撃戦に応じて、ダウンを奪っての寝技の展開を狙ったのでしょうか。試合後のシールズ選手のコメントからは、そのようなことも伺えます。

また、シールズ選手のセコンドのメレンデス選手からインターバルの間に「もっと、相手を動き回らせろ。」のような指示が飛んでいたような気がします。打撃戦で消耗させ、スタミナが切れたところで、テイクダウンを狙う作戦だったのかもしれません。

いずれにせよ、GSP選手の上手さもあってか、最後までシールズ選手の狙いがわかりにくい試合ではありました。

このシールズ選手の敗北により、同門対決を断固として拒否するシーザーグレイシー・ジムのニック・ディアス選手に、GSP選手へと挑む大義名分は出来ました。

もしディアス選手とGSP選手の対戦が実現すれば、ディアス選手のの変則的な打撃を、GSP選手がどのように対処するのかが見物でもあります。ただ一方で、GSP選手がレスリングでディアス選手を塩漬けにして、あっさり危なげない判定勝ちを持っていってしまうような気もします。