ブログラジオ ♯62 Perfect Way | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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このスクリッティ・ポリッティも、
当時は相当に評価が高くて、

まさかあんなにすぐ、
名前を聞かなくなってしまうとは
微塵も思ってはいなかった。


Cupid & Psyche 85/Scritti Politti

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なお、どうやら少し前に取り上げた
ウェット・ウェット・ウェットのバンド名が、
実はこの人たちのトラックに
由来しているのだそうである。


どれかは特定できなかったのだが、
だからある意味、やっぱりいわゆる
ミュージシャンズ・ミュージシャンみたいな
存在だったのかもしれないとも思う。


なるほどサウンド・メイキングは
非常に独特で、斬新である。


なんだろうなあ、実はスキマが多いのに、
それを感じさせてこない。


そのうえどのトラックからも
独特の浮遊感が漂ってくる。
なるほどサウンドの全体が
極めて高音域に寄っているのである。

そもそもヴォーカルそのものが、
非常に高い音程で鳴る。


中性的というのもすっかり通り越し、
ほとんどウィスパー・ヴォイスと
形容するしかないくらいである。


そしてこのヴォーカル・スタイルに合わせ、
たぶん音像が、尋常ではないほど
丁寧に作りこまれているのである。


CUPID & PSYCHEを聴く限り、
ドラムが派手に
リズム・キープを担うということがない。


ハイ・ハットなど、ほとんど
鳴っていないのではないかとさえ思う。


実際はところどころ、
ひどく後ろに引っ込んで
刻んでいたりもするのだが、

いずれにせよ、その要の役割はむしろ、
シンセやミュート・ギター、そして
ベースとに任されているのである。


しかもこのベースの使い方が、
非常に特徴的である。


ベースらしい低音を鳴らす場面がめずらしい。
ずっと上の方で弾いている感じ。
しかも音色も随所で徹底的に加工されている。

なるほどこういうサウンドメイキングは
ほかではなかなか見当たらない。


さて、バンドのデビューは
実はなんと81年にまで遡る。


フェアグラウンド・アトラクション(♯29)と
サンデイズ(♯30)の時に名前を出した、

ラフ・トレードというイギリスの
インディーズ・レーベルから
SONGS TO REMEMBERという
アルバムをまずリリースしているのである。


こちらも聴いたはずなのだが、印象は薄い。

ただこの作品からのスマッシュ・ヒット、
The Sweetest Girlが、
当時飛ぶ鳥を落とさんばかりの勢いだった
ヴァージン・レコードの
目に止まるところとなり、

CUPID & PSYCHEの制作へと
繋がったことは間違いがない。


同じくヴァージンからリリースの
サード・アルバムPROVISIONには、


マイルス・デイヴィスが
ゲストで参加したりもしているのだが、

いずれにせよ、80年代に発表された
アルバムは以上の計たったの三枚。
寡作の部類に入るといっていいだろう。


LPの時代は三枚とも聴いたのだが、
CDを買いなおしたのは
結局本作のみだったりもする。


PROVISIONにはどんな曲が
入っていたかも覚えてないなあ。

Best Thing Everってのは、
サントラのみの発表だったか。
あれはなかなからしかったが。



いずれにせよ、だから出来としては、
このCUPID & PSYCHEが
突出しているといっていいのだと思う。


名盤かといわれれば、
トラックのタッチが全体に似通っていて、
やや起伏に欠けてしまっている分、
即座には首を縦に振りかねる部分はある。

それでもこの作品が、あの80年代において
いわばエポックメイキングな
一枚であったことには
たぶん疑いを差し挟む余地はないのである。



で、僕のこのバンドのベスト・トラックが、
今回のPerfect Wayなのである。


アメリカで彼らの最高位を
記録しているのがこれである。

ストリングスっぽいシンセに、
やっぱり音域を高音に寄せ、


ちょっとだけアコギのニュアンスを残した
複雑なギターのプレイが、
この曲の開幕を高らかに告げる。


歌のメロディー・ラインも
他の楽器のパターンもずいぶんと忙しい。
これをコピーするのは無理だよなあ、
なんて話を先輩としていた記憶もある。

ほか、Absolute、Hypnotize辺りも佳曲。

この二曲とオープニングのThe Word Girl、
Pray Like Aretha Frankilnなんて
副題のつけられているWood Beez、
それに今回のPerfect Wayとを併せ、


収録前10曲中計5曲が
シングル・カットされている。

だから、それだけの作品であることは
やっぱり間違いはないのである。



90年代に入り、僕側の都合もあって、
めっきり名前を聞かなくなったなあ、と
今回調べるまで思っていたし、
冒頭にもそう書いてしまったのだけれど、


バンドは99年と06年にそれぞれ、
4th、5thに当たるフル・アルバムを発表し、
その06年には、どうやら来日も
果たしている模様である。

どういう編成でこのサウンドを
ステージで再現したのか、
ちょっと興味深いところではあるが。


最後になったがこのバンド、
中心人物の名を、
グリーン・ガートランドという。


シンガーにしてソングライター、
そしてバンドのサウンドの
中核を担っていたクリエイターである。

もちろん今でもリード・ヴォーカルを努め、
上記のような活動の場面でも、
バンドを率いて頑張っているらしい。



以下、本当は本文にあって
然るべき内容なのだけれど、


今回はトリビア扱い。
ネタはとっくにほぼ尽きているのである。

このスクリッティ・ポリッティという
少なからず変わったバンド名は、
イタリア語で政治的書簡という
意味なのだそう。


音のスタイルと合っている気は
まったくしないが、


カウンシルにせよブロモンにせよ、
政治的な主張を
歌に込めるという点についてだけは、

いわばパンクからの継承を受けた形で、
この時期のムーヴメントを
それぞれに担っていた訳だから、


その意味では極めて
時代っぽかったのかもしれない。



それからアルバムタイトルの方の
CUPID & PSYCHEとは
もちろんギリシア・ローマ神話からの引用。

エロースとプシュケといういい方が、
一番一般的なのだろうか。
これだとでも、ギリシャ・ローマ混淆に
ひょっとしてなってしまうのかな。


その辺りはお手数ですが、
専門の方に御確認下さい。



さてこのお話、
人間の皇女様を見初めてしまった神様が、
夜毎姿を隠して
会いにくるといった内容が出てくる。

一応婚姻はしているのだが、
神様でなければ犯罪ギリギリじゃないか、
という突っ込みは、
まあやはり、自粛対象ではないかと思われる。


とにかく様々な紆余曲折の末、
最終的にこの二人はそれなりの
ハッピーエンドを迎えることになる。



だからここで愛と魂とが結ばれて、
人はそれ以外の様々な、
ある意味ポジティヴな感情群を
手にすることができたのだということである。

いろいろ思うところはあるのだけれど、
やっぱり突っ込みは自粛することにする。


そして、これをこのグリーンが
どこをどのように解釈して、


このアルバムが出来上がってきたのかも、
当時も今も、
正直よくわからないままでいるのである。