須田悦弘展 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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千葉市美術館で開催中の “須田悦弘展” に行ってきました。
こちらは、現在活躍中の彫刻家・須田悦弘さん (1971年~) の過去最大級の個展です。

須田悦弘さんは、僕の好きなアーティストの一人。
現在活躍されている彫刻家の中でも、
須田さんの実力は、頭一つ・・・いや、二つくらい飛び抜けています。
そんな彼が作り出すのは、

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-《泰山木:花》


こちらの 《泰山木:花》 のような超リアルな花や草の木彫作品の数々。
花弁や葉の質感が、本物そっくりなのは、当然のこととして、
息を吹きかけたら揺らいでしまいそうな、植物のはかなげな存在感までもが、完璧に再現されています。
見つめるだけで、こんなにも心を震わされる木彫作品が、他にあるでしょうか?


しかし、ただ巧いだけなら、須田さんの実力は、単なる神レベルということになります (←?)
彼の実力が、頭二つ分飛び抜けているのは、
そんな自身のリアルな木彫作品を、 「どのように見せるか。」 というところまで、こだわっていることにあります。


例えば、先ほど紹介した 《泰山木:花》
こちらの作品は、実は、インスタレーション作品の一部。
実際は、このような大きな細長い箱の中に収められています。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-《泰山木:花》


正面から見ると、このような感じ↓

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-《泰山木:花》


こちらの中には、一人ずつ入れるようになっており、
奥に設置されている 《泰山木:花》 まで近づくことが出来ます。
(靴を脱いで、入ります)

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-《泰山木:花》


かくして、一人だけの空間で、 《泰山木:花》 と向き合うことになります。
もし、普通に、そこら辺の展示ケースに展示されていたなら、

「あ、リアルな木彫だなァ」

としか感じなかったかもしれませんが。
須田さんの生み出した、この空間の中で、
彼の木彫を観ることにより、その作品から、より多くのことを感じ取れた気がします。

彫刻を完成させて終わり、ではなく、
完成した彫刻作品を、いかに最高の形で観賞してもらうか、そこまで考え抜かれた須田悦弘さんの世界。
これまでの “観る” だけの彫刻から、 “体感する” 彫刻へ。
須田さんの登場で、彫刻界は、一段階先にステップアップしたのではないでしょうか。


ちなみに、今回の須田悦弘展には、
《泰山木:花》 のような大型作品が、5点ほど展示されています。
作品の中で座って観賞する茶室を思わせるタイプの 《睡蓮》 という作品や、
彼の実質デビュー作である 《銀座雑草論》 も、出展されていましたが。
僕的に一番お気に入りなのが、新作の 《芙蓉》 という作品。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-《芙蓉》


内部が全て漆塗りされているため、漆臭いのは、やや難ですが (笑)
その漆臭さを補って余りあるほど、幻想的な空間が広がっていました!

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-《芙蓉》


芙蓉の木彫作品そのものも、もちろん美しいのですが。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-《芙蓉》


漆に映った芙蓉の姿も、また美しい。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-《芙蓉》


いつまでも、ここに居続けたいくらいですが、
一人ずつしか入れないので、あまり長居は出来ません。
(僕が訪れた時は平日で、空いていたから、まだ良かったですが、
会期終了間近の土日に、お客さんがたくさん入った場合、どう対処するのか心配です・・・)


さてさて、こうした大型作品も、須田さんらしい作品ではあるのですが。
僕の中での須田悦弘さんのイメージは、
“超リアルな草や花の木彫作品を、超さりげな~い形で展示する作家さん” というもの。

ヴァンジ彫刻庭園美術館での展覧会 でも、超さりげな~い形で作品を展示していましたが、
今回の千葉市美術館の須田悦弘展でも、
それと同じくらいに、いや、それ以上に、超さりげな~い形で作品を展示しています。


例えば、こちらの展示室。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-須田


巨大な展示ケースの空間は、空っぽです。
しかし、美術展の冒頭で貰う展示リストを見ると、確かに、この部屋に、須田さんの作品があるはずです。

「う~ん。どこだ??」

何もない展示室を、しばらくキョロキョロと見回していると・・・

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-須田悦弘


「!!!!!」

なんとなんと監視員さんの椅子の下に、 《雑草》 という作品が (笑)

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-須田


さらに、この展示室には、もう1つ 《スミレ》 という作品があるのですが。
見つけるのに、リアルに5分もかかってしまったので、皆様にも教えません (笑)

ちなみに、この 《スミレ》 を筆頭に、
7階に展示されている 《葉》 という作品と、
今回は、特別に会場となっている1階のさや堂ホールにある・・・

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-さや堂


《桔梗》 という作品が、 『探すの大変な作品ベスト(ワースト?)3』 です。
宝探しに自信のある方は、是非チャレンジしてみてくださいませ (笑)

探しに探しても見つからない。
そんな時は、監視員さんに尋ねてみましょう。
決して、答えは教えてくれませんでしたが (笑) 、ヒントはくれました。



・・・と、これだけでも十分すぎるほど、
千葉まで通う価値がある素晴らしい美術展なのですが。
“須田悦弘展” と同時開催中の “須田悦弘による江戸の美” が、輪をかけて、素晴らしい美術展だったのです。

こちらは、千葉市美術館のコレクションの中から、
須田さんが展示する作品を選び、なおかつ須田さんの演出で展示している美術展。
これまでの美術展の概念を覆す、アーティストならではの斬新な展示に、思わず興奮していしまいました。

例えば、こちらの展示室。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-浮世絵


一体、何が展示されているのかと言いますと・・・

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-浮世絵  アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-浮世絵


そう。浮世絵です。
一つ一つのケースに、浮世絵が1点ずつ展示されており、
上から眺めるようにして、観賞することが出来るのです。
これまでに数多くの浮世絵展を観賞してきましたが、こんな観賞スタイルは初めて。
ライティングが直接当たることで、雲母擦りのキラキラ感を、強く感じることが出来ました。
ちなみに、このケースは、今回の美術展のために作られたのだとか。
今後も、是非、活用して欲しいものです。


また、千葉市美術館のコレクションと須田作品とのコラボも。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-須田悦弘


この他にも、屏風作品と須田作品のコラボなんかもありましたが、
個人的に一番感銘を受けた 『千葉市美術館コレクション×須田悦弘の彫刻』 の組み合わせが、こちら↓

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-花鳥


長澤芦雪の 《花鳥蟲獣図巻》 の中で雀たちが描かれている部分に・・・

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-花鳥蟲獣図巻


須田さんが木彫で作った米粒が (笑)!!

もはや神がかり的な演出です。
こんな斬新な演出をした須田さんも素晴らしいですが、
それに全面的に乗っかった千葉市美術館も素晴らしいと思います。
星星星
この美術展を観なかったら、絶対に後悔します!
自信を持って、3つ星。




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