長編小説「思春期白書」 45~浮気性~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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帰宅して間もなく、母さんが買い物に出掛けた。この運の良さに舞い上がりたい気持ちを抑え、僕は窓の傍に聞き耳を立て、自転車が走り去る音を確かめる。サザエさんばりに「財布を忘れた」だの「買い物メモを忘れた」だのそそっかしい人だ。ここは慎重に事を起こさなければ。

 

体内時計がアラームを鳴らすと、勉強机の1番下の扉を開けた。ここは漫画雑誌、主にコロコロコミックの保管場所、BL雑誌を忍ばせるには最適である。木を隠すなら森の中。サイズや分厚さも似たようなものだし、万が一母さんが開けてしまったとしてもひとつひとつに目を通すことは無いだろう。まあ、制服姿の美男子が抱き合う表紙、目に入ってしまえば一発KOってとこだけど、鍵が掛けられる収納場所が無いのなら仕方ない。下手に衣類や布団に忍ばせる方が明らかにリスキーだ。

 

誰も居ないのをいいことに、行儀悪く畳にゴロンと転がり、物語の内容もそこそこにページを捲った。内容自体に大した興味は無い。というより、じっくりと読み進める時間的余裕が無い。あの女子高校たちがキャーキャー喚きながら盛り上がった場面に辿り着くのが最優先だ。

 

(あった!)

 

クリリンの部屋で読んだのと比べりゃ刺激は少ないが、表紙の2人がキスから徐々に絡み合うシーンに息を呑んだ。パタパタと上下に動かしていた足も止まった。

 

耳を舌が這い、小柄な青年が悶える。放課後の教室という背景が重なり、たまらない卑猥さに僕の下半身は窮屈に脈を打った。

 

机に仰向けに寝かされ、小柄な青年は程よく筋肉の付いたバスケ部の同級生の愛撫を受け、躊躇の類はもはや無い表情だった。シャツを羽織っただけのありのままの姿、股間はぼやかしたように描かれているが、無垢な性の僕には充分な刺激だ。彼と同じように仰向けに体制を変え、口内に覆われる股間を横目に、僕は自らのそそり立った勃起を解放した。それがどのような心地良さなのかは計り知れないけど、射精までの時間はさほどかからなかった。虚像に僕を重ねる。どれだけ現実とは逆行するものだろうと、妄想の中じゃ自由だ。その自由が射精を促したのだ。瞬時に風船が膨らむヘリウムガスみたいに。

 

 

自転車のブレーキが鳴り響くまで、物語を追ってみる。10人は軽く越える漫画家の作品たち、好きなタッチの絵もありゃ、逆も然り。特に、新人作家の短編は僅か6ページにも関わらず、ページが勿体無いと思うほどに酷かった。ユリちゃんたちもスレイヤーズなんかを真似てイラストを描いているが、そっちの方が上手だ。まあ、犬を書けば馬と間違われるような画力の僕が言えた立場じゃないけどさ。

 

しかし…どの物語もやはり現実とは掛け離れた世界。特に、従兄弟同士の恋愛とか、教師と生徒とか、生徒に手を出しゃ犯罪じゃねーか…「純愛」と括る辺りに軽く憤りを覚えたが、それを掘り下げた先にあるのは、結局、羨望だ。どれだけ惹かれようとも相手が男じゃ伝えることはおろか、友達に相談さえ出来ない僕の感嘆による羨望と嫉妬。どちらかといえば嫉妬の方がバランス的には多い、ただでさえ卑屈な性分が余計卑屈さを増す気がして…悪夢から飛び起きるように本を閉じた。

 

 

夕方、桑原から電話があった。電話越しに漏れ伝わる冷徹な温度が体感にも影響するなら喜ばしい限りだが、残念ながら気怠さに拍車を掛けるだけ。とっとと扇風機の回る部屋に戻りたい。

 

「何か用?」

「用が無きゃ電話しちゃいけないの?」

「色々と忙しいんだよ。用が無いなら…」

「花火大会どうするの?」

「花火大会?」

 

壁のカレンダーを確認すると、毎年恒例の地元の花火大会が来週に開催されるのを思い出した。地元とはいえ、自転車を使っても30分以上は掛かるし、誰かに誘われなきゃ見に行くことは無いけど。

 

「皆で行くつもりなんだけど、あんたも来る?」

「皆って?」

「皆は皆よ。クリリンにユリちゃんに田村先輩に…もれなくキシモンも着いてくるでしょうね」

 

(ユリちゃん!?)

 

「当然でしょ」とでも言いたげな面倒臭そうな声に紛れるその名前を耳が拾い上げた途端、切り立ての髪がチクッと突き刺さるような痛みが走った。

 

「どうする?別に無理にとは言わないけど」

 

もれなく着いてくるキシモンの暑苦しい顔面を思い浮かべながら、僕は「行く」と上ずった声で返事した。断ったってあの男が強引にさらってくのは目に見えてる。どうせまた「クリリンと2人きりになる作戦」に巻き込まれ…これ以上考えるのはよそう。余計暑苦しくなりそうだ。

 

「じゃあ、時間と場所決まったら連絡するから」

 

いくら桑原が千里眼的能力を発揮したって、さすがにこの上ずりの理由までは読み取れない。ツーツーと虚しく響く受話器に耳を押し当てたまま、僕は「参ったなあ…」と呟いた。呟くべき台詞は少し違うかもしれないけど、それ以外の言葉は思い浮かばなかった。

 

「電話、誰からだったの?」

「友達。来週の花火大会に誘われた」

「そう。良かったわね、楽しんでらっしゃい」

 

鼻歌なんか響かせ、総菜の天ぷらを盛り付ける母さんの呑気さに、僕は肩をすくめた。中学生には中学生なりの重い荷物があることをこの人は知らない。大人は皆、そうだ。自分たちの子供の時代を忘れたかのように、「子供は気楽でいい」とかほざく。こういう大人にはなりたくない。だけど、反発心とは裏腹に、なりたくない大人への階段を着々と上るのも確かだ。

 

ユリちゃんにいっくんにヒロ。僕の恋とやらはこれほどまでに浮気性なのか?不倫で騒がれる芸能人の記者会見を頭に過ぎらせ、部屋へ戻る。チクチク痛む胸が兄ちゃんの名前を微かに呼んだ。

 

そんな自分は…やはりズルい。

 

 

(続く)

 

 

 

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