「いとう呉服店」さんがモデルだった。
日曜 NHK・BSでやっていた『あきない世傳(せいでん) 金と銀』が終わりました。端正なナニワ言葉(あるいは商人言葉)が きちんと使われていて、品格のある時代劇になっていたと思います。そして(小芝風花さんが主役だったせいか)可愛らしさもあって、胸がじ~んと温かくなるドラマでした。
作者は高田郁(たかだ かおる)さん。
『みをつくし料理帖』や、林遣都の『銀二貫』でおなじみですね。
脚本は山本むつみさん。
『八重の桜』や『ゲゲゲの女房』など実績多数です。
その作者・高田郁さんが2022年に書かれた「シリーズ完結への想い(13巻)」というエッセイを、偶然発見しました。それによると、
やっぱりモデルがあったみたいです。なんとなくそんな感じ しましたよね…。三越か?高島屋か?…と思いながら見ていましたが、名古屋の呉服店さんでした。
エッセイを少し引用させてもらいます。
「本シリーズを書きたい、と願うきっかけになったのは、江戸時代中期、名古屋の「いとう呉服店」の第十代店主だった宇多さんを知ったことでした。十五歳で七代目店主に嫁いだ宇多さんは、夫との死別により十年足らずの間に七代目、八代目、九代目と夫婦となり、九代目亡きあと、自ら十代目を継ぐのです。」
事実は小説より奇なり…と言いますが、波乱万丈の事実(歴史)が本当にあったんですね。
ドラマでは主人公の「幸」(小芝風花)は 「五十鈴屋」(呉服店)の3人の兄弟に、順々に嫁ぎます。
長男の徳兵衛(渡辺大)の後妻に、そして長男が亡くなったあと 次男・惣次(加藤シゲアキ)に、さらにそのあと三男の智蔵(松本怜生)に…ドラマを見ながら驚いていましたけれど、実際にあったことなんですね。
たとえば呉服組合みたいなところが よくぞ認めたものだ…と思いますけれど、案外、江戸という時代は今よりもっとずっと融通のきく時代だったのかもしれません。
「買うての幸い、売っての幸せ」 王道をめざす女性経営者を描きたかった
「私が強く心を惹かれたのは、彼女の辿った数奇な運命ゆえではありません。明和五年(一七六八年)に上野にあった呉服商「松坂屋」を居抜きで買い上げたあと、幾度も火災に見舞われますが、店の再建ばかりではなく、被災者支援に力を注いだ、というその姿勢でした。」
「最終巻に、主人公幸のこんな台詞があります。」
「航海には嵐が付き物、この先、幾たびも容赦なく嵐に襲われることでしょう。けれど、何度でも乗り越えてみせよう、と存じます。ひとりではありませんし、一軒でもありませんから」
…ということは、この時代劇、続編がある!ということですね?!
今回は「幸」が智ボンさんと結婚して…というところで終わっていますから、う~ん、次は(何らかの理由で)智ボンさんがいなくなり、ついに自分が店主になって、江戸に店を出す…というストーリーでしょうか? 楽しみに待ってます!
加藤シゲアキさんに殊勲賞
この時代劇に出ていた俳優さん、皆さん好演が光りました。
商いの才を秘めた幸を やわらかく&凛々しく&可愛らしく演じた小芝風花さんをはじめ(…ほかのドラマではあまり感心しないのだけど、このドラマは品があって素敵でした)
舘ひろしさんは こんな枯れた演技ができるんだ~と、今更ながらファンになりましたし、
放蕩息子・長男を演じた渡辺大さんも、読書好きで家を飛び出した三男の松本怜生さんも、それぞれの役柄をすごく立体的に見せてくれたし、何より、次男・惣次を演じた加藤シゲアキさんの上手さには ひっくり返りました。
今回はちょっと嫌な男の役でした。店を引っ張るシッカリ者で、頭も切れるのだけど、居丈高で傲慢…という役どころを、まったく迷いなく堂々と演じていました。声もしっかり出ていました。”声をしっかり出す”こと、”セリフをしっかり言う”ことは、役者として基本の基本!と、わたしは思うのですけれど。今回の声量の豊かさには本当に驚きました。
最終回 「幸」に声を荒げ、手を上げるシーンも迫力あったし、そのあと三男の智蔵を訪ねていくところは傲慢さの中にチラリと影が差して、う~ん、素晴らしい役者ぶりでした。殊勲賞を差し上げたいです、気持ちだけですけれど