瞑想の成果は自分では気づきにくいものです。ところが、「これまで、こんなことできなかったのに、どうしてできたのかしら」といった、自分の行動の変化に気づくことがあります。たまたま、2週間前の同じ日に診察をした、M子さんとN子さんが、偶然にも同じような体験を語ってくれました。
M子さん、56歳、通院歴6年、パニック障害、広場恐怖症、瞑想歴:1年3か月
彼女には、遠距離の電車に一人で乗れないという乗物恐怖があり、実家に帰る時には娘さんを同行させる。
この日の診察のなかで、「・・・その日はプールだったので、親友の誘いを断りました。今までは何をおいても断らなかった。その日は、ちょっと用事があるのでといって、初めて断れた。娘がびっくりして、どうしたのお母さん(親友に会いに)行かないの、といってた。どうしてか、そのこと(断ったこと)に悩まなかった」と。
N子さん、64歳、通院歴10年、身体表現性障害、広場恐怖症、瞑想歴:1年3か月
彼女も一人で遠出をするのが苦手で、(実家に帰省するために)飛行機に乗ることを10年近く避けている。
2か月前、「娘や嫁に対しても、ありのまま、そのままでいいんだ。そのままの自分を出せるような感じになれた」と言っていた。
この日の診察のなかで、「苦手な友人の誘いを断りました。ずっと今までは、断らなかった。幼なじみだし、遠くからきてくれるので悪いから。断るのが面倒だから断らなかった。どうして断れたのか不思議です。断ってスッキリしました」と。
二人とも主症状は軽快していて、主婦としての日常生活に支障はない。これまで「親しい友人の誘いを断れない」というような悩みを聴かされたことはなかった。しかし、この二人には、他者への過剰な配慮(相手の気持ちを考えすぎてしまう)があると私は感じていた(社交不安障害レベルではないにしても)。
この日の二人の発言は、瞑想の習慣化(1年3か月間、1日15分~30分の手動瞑想を継続)による成果が、日常生活における行動の変化となって表れたものだと私は思う。また、この二人に共通する社交不安障害の傾向が改善したのではないかとも思う。しかし二人は、これが手動瞑想の成果だとは気づいていなかった。「・・・どうして断れたのか不思議です・・・」「どうしてか、そのことに悩まなかった・・・」と言うのだから。<今まで断ることができなかった親友の誘いを断ることができた、というのは瞑想の成果かもしれませんよ。前もって私が、「親しい友人の誘いを断れない」というような相談を受けていたら、親友だったら都合が悪くて断ることなどなんとも思わないんじゃない、試しに一度断ってみたらどうですか、と月並みなアドバイスをしていたでしょう。でも、そんな相談を受けたことありませんよ。初めて聞く話です>と返した。すると二人とも、怪訝そうな顔をしていた。
従来型の認知行動療法では、まず、「誘いを断ると、相手に嫌われるんじゃないか。もう誘ってくれなくなるんじゃないか」といった、過度な心配に基づく認知のゆがみを洗い出します。次に、断ることによっても親友関係に傷がつくことはない、といった合理的な認知への修正をはかり、敢えて断るという行動へ恐怖突入してもらいます。しかし、行動を言葉(思考)で変える、ということはとても難しいことなんです。彼女たちも頭では(言葉では)、親友関係に傷がつくことなどないと分かってはいたけれど、“心配や後悔”をしたくないために、断わるという行動を回避してきたのだろうと思います。しかし今回二人は、「誘いを断ると嫌われる・・・」というような思考、断ることによって生ずる“心配や後悔”などの感情から、一瞬のうちに(自分でも気づかない速さで・無意識に)離れることができたから、断ることができたのです。
認知(思考)や行動の変化を、言葉を介さないで直接行う、というのが新世代の認知行動療法(マインドフルネス認知療法)の特徴です。二人は、悩んだり不安を感じたりすることなく自然に断れたというのだから、これこそ本物の成果だと思う。意識して行動が変わるのではなく、無意識のうちに行動が変わることこそ、本物の成果と言えるのではないでしょうか。
参考:『マインドフルネス認知療法』、『新世代の認知行動療法』、『メタ認知療法と手動瞑想』、『自分では気づきにくい瞑想の成果』