"メタ認知療法"というのは、うつ病や不安障害などの治療を目的として開発された、新世代の認知療法の一つである。

 メタ認知とは、私たちが日常生活の中で浮かんでいる認知(思考)を、より高い視点からコントロールしているもう一人の自分の認知(思考)とも言われています。乱暴なたとえをすると、メタ認知が親分で、通常の認知は子分、親分と子分の属する組織の意思決定をするのは親分で、子分は親分の言われるままに行動する。したがって、親分が病むと組織は悪い方(うつ病や不安障害)に向かい、親分が健康になると組織は良い方に向かう。親分の言いなりの子分を叩いても、その組織を良くすることはできない。組織を良くするには、親分を良くしないとダメ。メタ認知療法では、子分は放っておいて、親分を訓練して組織を良くしようというのです。

 病んだ親分の悪いところは三つあって、

①    脅威となる対象に注意が向きすぎてしまう

②    心配や後悔を繰り返すこと

③    無駄に逃げまわってしまったりすること(回避)

 これらを叩いて、良い親分に変えてやろうというのです。その手段の一つとして、注意訓練技法(Attention Training Technique : ATT)というものがあります。音刺激を使って(毎日1回15分)、注意の集中転換分割を訓練する技法で、注意機能の柔軟性を身につけ、自分の思考や感情に注意が向きすぎる(子分の言動に振り回される)のを改善しようというのです。そして、私が注目したのは、手動瞑想には、その三つの訓練課題(集中・転換・分割)に相当するものが全て含まれている。手動瞑想を習得すれば、いくつかの音源を使わなくとも、いつでもどこでもATTに相当することをやることができるということです。手動瞑想は、悪い(病んでる)親分を良い(健康な)親分に変える訓練技法にもなるのです。患者さんに手動瞑想を導入する際に、このようなメタ認知理論を使って説明してあげると、理解が深まることも多い。理由が分からずにただ手を動かすのではなく、やっていることの意味を分かって(よし、親分を鍛えてやるぞと思いつつ)やる方が動機づけは何倍も上がる。どんな治療法を用いようと、患者さん自身にそれに取り組む意気込みがなければ、効果は期待できない。

 

補足①:『思考は、多くの演奏者を有する大きなオーケストラの活動にたとえることができる。良い序曲を制作するためには、楽譜と指揮者がなければならない。メタ認知は、思考の背後にある楽譜と指揮者である。メタ認知は、認知に適用する認知である。それは、気づきの産物と過程を監視し、制御し、評価する』。・・・(こっちのたとえはスマートです)

                          エイドリアン・ウェルズ著、メタ認知療法より

 

補足②:ATTは、この方法だけで、うつ病や不安障害のみならず、幻聴などを有する精神病性の障害にも有効であるという報告がある。脳科学的には、前頭前野背外側部(DLPFC)の活動を高め、扁桃体の活動を抑えると言われている。ヴィパッサナー瞑想を長年続けていると、このDLPFCの機能に直接影響を与えるとも言われている。