日本の抗不安薬処方ランキングを調べてみると
① デパス (35%)
② リーゼ (8%)
③ ソラナックス (7%)
④ セルシン (6%)
⑤ メイラックス (5%)
⑥ レキソタン (5%) となっている。
不安障害やうつ病の治療に、常用薬として抗不安薬を使う場合、メイラックスしか使用しない理由は、以前のブログ(*ベンゾジアゼピン系抗不安薬使用の実践(2)*)で紹介しました。短時間型のデパスやソラナックスを長期間連用すると、早期に薬物依存を生み出してしまうからです。
それでは、抗不安薬を“頓服薬”(不安を強く感じた時や恐怖突入用)として使う場合、どの薬が最も適しているのだろうか。
ある精神科クリニックの医療情報サイトには、『頓服薬はいざというときに、すぐに効いて、しっかり効いてくれないといけません。そうでないと、屯服薬の役割をはたしてくれません』と書いてある。即効性があり、高力価(抗不安作用が強い)のものを推奨している。これを文字どおりに解釈すると、デパスにいきつくしかない。その結果が上記の表に現れていると思う。また、もう一つの要因として、筋弛緩作用が強いデパスは、緊張型頭痛や肩こりに効くことから、内科医や整形外科医が安易に処方することが多い、とも言われています。内科や整形外科では、頓服薬としてではなく、1日3回の常用薬として処方されることが多い。
私は、頓服薬としては、ソラナックスしか使いません。原則としてデパスはつかいません。その理由は、両方を飲んだことのある患者さんに訊いてみると、「私にはデパスが合います、すぐに効いてくるのが分かるし、気持ちよくなります(デパスの筋弛緩作用による?)」と。それでは、ソラナックスはどうかと訊くと「効くには効きますが、パッとしません (気持ち良いと感じる人はあまりいない) 私にはデパスのほうが合ってます」と答える人が多い。つまり、良く効くと感じるデパスは、ソラナックスに比べると、はるかに精神依存をきたしやすいのです。頓服薬の使用が1か月に数回で済む人であれば、私もデパスを使います。しかし、不安障害やうつ病の人たちの頓服回数は、月に数回では済まず、徐々に回数が増え、やがて連用するようになってしまうことが多いんです。すぐ効いてくれて、気持ちよくなるのだから、使わない手はないでしょう。こうして、頓服薬がいつの間にか常用薬となってしまい、薬物依存を生むことになってしまいます(常用薬になってしまうと、ソラナックスでも同じです)。
薬物依存への発展を防ぐには、<多少効きが遅くても、気持ち良くはならなくても、末永く効いてくれるものの方がいいでしょう>ということを、患者さんに十分理解してもらって、「自分には合ってる」デパスではなく、合わないソラナックスを飲んでもらうことです。それを分かってもらうには、何回もこのやり取りを繰り返す必要があります。もともと、ソラナックスしか飲んだことのない人にとっては、こんなに効く薬はなく(実際の力価も高い)、「地獄で仏に会いました」とさえ言うのですが。
さらにもう一歩進んで、頓服薬として、メイラックスを使えるようになればベストです。患者さんに訊くと「効いてくるのも、効いているのかも、よく分かりません。でも、効いているんだと思います」と。<当然効いています。1時間以内には効いてきて、2~3日間は効いてくれていますよ>とは、何度でも繰り返し伝えます。初期治療の段階で、治療期間が長くなることを見越して、どんな抗不安薬を選択するかは、とても重要です。最初にデパスを処方する医者は責任重大です。常用薬になってしまうと(数年後が多い)、取り返しのつかない場合が出てくることがあります。抗不安薬の使用は、短距離走ではなく、マラソンを完走するつもりでないといけないんです。
デパスやソラナックスを“頓服薬”として使う場合の、正しい使い方については、*不安障害における“頓服薬”とは*を参照してください。
次回は*デパス依存のケース*を紹介する予定です。
もうひとつ、*デパスは出しません*も参考になるかもしれまでん。
補足:最近の抗不安薬処方ランキングは以下のように変わっているそうです。
① デパス (17%) ・・・減っています!
② ワイパックス (17%)
③ レキソタン (15%)
④ ソラナックス (14%)
⑤ メイラックス (12%) ・・・増えています!
⑥ リボトリール (7%)
⑦ セパゾン (7%)
⑧ リーゼ (6%)