不安障害には、パニック障害、社交不安障害、強迫性障害、全般性不安障害、特定の恐怖症、PTSD・・・などがあります。病院や診療所で不安障害の治療として薬が処方される場合、毎日服用する“常用薬”のほかに、“頓服薬”(不安時、不穏時、不眠時・・・)があります。それに使われる薬のほとんどが、短時間型のベンゾジアゼピン系抗不安薬といわれるものです。デパス、ソラナックス、ワイパックス、レキソタン、リーゼ・・・などがこれにあたり、乱用すると依存に陥る危険がある薬です。
一般的に、“頓服薬”というのは、『食後など決まった時間ではなく、発作時や症状のひどいときなどに飲む薬』(便秘時、頭痛時、狭心発作時など)、のことをいいます。しかし、不安障害やうつ病においては、ほとんどの場合、“恐怖突入時・頓服”を意味します。ところが、医師から『発作時や症状のひどい時に飲んでください』と指示されたら、患者さんの方は、「朝起きたら気分が悪かったので」「主人の話を聴いていたら、憂うつな気分になったので」「考え事をしていたら急に心臓がドキドキしたので」「不安になりそうな気がしたので」「急に悲しい気持ちになって涙が出てきたので」「外出から帰った時に、なんとなくフワフワしたので」・・・といった理由で頓服回数が増え、毎日服用するようになる。するとそれはいつの間にか、“頓服薬”ではなく“常用薬”になってしまっています。毎日出現するような症状を治めるのは、“頓服薬”ではなく、毎日決まった時間に服用するくすり、“常用薬”の役目です。頓服薬が常用薬になってしまうと、薬物依存に陥る危険が出てきます。不安障害やうつ病においては、常用薬として使われるのは、抗うつ薬、気分安定薬、非定型抗精神病薬、長時間型抗不安薬などで、短時間型の抗不安薬は原則として使われません。
不安障害やうつ病の治療においては、依存の危険がある、短時間型のベンゾジアゼピン系抗不安薬(デパスやソラナックス・・・など)は、日々みられる症状の軽減としてではなく、恐怖突入用としてのみ使うことが大原則です。恐怖突入用とは、苦手な状況(電車やヒコーキに乗る、会議の前、苦手な人に会う、会食する・・・など)に突入する際、1~2時間前に(飲むタイミングは個人差がある)、不安感があってもなくても、突入前にあらかじめ飲んでおくもののことです。飲むことによって、予期不安(「途中で具合が悪くなったらどうしよう」)が抑えられ、苦手な状況に突入する勇気がもらえます。さらに、突入中の不安も軽減するので、成功体験(「突入してみたら、大丈夫だった」)を得る確率が格段に上がります。突入に失敗すると、回避傾向(「怖くて、もう二度とチャレンジしたくない」)が強くなり、再挑戦することがとても難しくなります。突入するからには、成功体験を積み重ね、やがては薬なしでもやれることを目指したいものです。突入を目的としての頓用薬を使用することは、積極的な(前向きな)チャレンジであって、「薬は癖になって止められなくなると困るから」といって回避してしまうことより、不安障害の治療が進展したことを意味します。薬を飲んで突入する→薬の量を減らして突入する→薬を飲まないで突入する、と段階的にグレードアップしてゆけばいいのです。デパスやソラナックスなどを使っても、恐怖突入用に限定していれば(使用する状況を決めておき、それ以外では使用しないことを徹底していれば)、薬物依存に陥る心配は全くありません。週2回以上の突入を繰り返していたら(通勤電車など)、依存ができる前に薬はいらなくなります。
一方、月に1~2回とか、1年に数回程度しか突入状況がない場合でも(ヒコーキに乗る、学会発表する、結婚式のスピーチをする、父母会に出席する、美容院に行くなど)、回避しないで突入することを優先するべきです。突入頻度が少なければ少ないほど、慣れ(脱感作)は生じにくく、薬なしで突入できるようになるのは難しいのですが、<頓服薬は、時間をかけて自然にやめられればよい>という気長なスタンスを、お勧めします。<飛行機には一生に何度も乗るわけではないし>、<美容院に行くのは、ふつうは2か月に1回程度だし>・・・、<無理をして、*薬をやめなくたっていいじゃない(過去ログ)*>と。<結婚式や送別会でお酒をいただくのと同じでしょう>、<そうしないと、生活の質が落ちて、人生が楽しくなくなります>と伝えています。
例外として、恐怖突入用としてではなく、不安症状の軽減のために、頓服薬としてソラナックスなどを使わざるを得ないことがあります。そういう場合は、使用頻度が1週間に1~2回、月に10回くらいまでに限定することが必要です。私は毎回の診察で、<ソラナックスは、どんな時に使いましたか?>と訊いてチェックすることにしています。頓服回数がそれ以上に増えるようなら、常用薬を見直す必要があります(抗うつ薬を増量する、一時的に長時間型のメイラックスに置き換えるなどの対処)。
このブログを書きながら、<これからソラナックスを出す時には、“不安時・頓服”ではなく、“恐怖突入時・頓服”、と書いて処方しよう>という反省の念が、おじいちゃん先生の頭をよぎりました。診察時、頓服薬の使い方を口で説明するだけでなく、処方箋上も正しく書かねばならないと。
** 頓服薬としてよく使われる、*デパスとソラナックスの違い*、また、 私が提案している、メイラックスを頓服薬としての使う方法については、*抗不安薬使用の実践(3)*を参照ください。