Y子さん 45歳 通院歴:15年 診断名:恐怖症性不安障害(乗物恐怖)

 毎年2回、12月中旬と4月中旬に、Y子さんの予約がはいると、「もうすぐ正月が来るな」「もうすぐゴールデンウィークだな」と気づく。

 25歳の時、電車の中で初めてのパニック発作を体験。通勤が困難となり、退職せざるを得なかった。抗うつ薬と抗不安薬を使って治療が開始され、パニック発作は起こらなくなり、本人の頑張りで、電車にも乗れるようになった。

 私のクリニックを受診したのは、彼女が35歳時、12月中旬だった。主訴は「こんど、主人とその家族とともに、ハワイ旅行に行かなくてはいけない。飛行機が怖いので、私は留守番していたいのだけど、主人は許してくれない。ハワイなんか行っても楽しくもなんともない。出発の1週間前だけど、今から夜も眠れなくなっている。去年が初めてだったけど、むこうでも帰りの飛行機のことを考えると、食事ものどを通らなかった」というものだった。<出発の前日までは、メイラックス1mgをのみ、深夜便の飛行機の離陸1~2時間前に、ソラナックス0.4mg、座席についたら、マイスリー10mg、場合によってはトラベルミン追加、・・・・・・・・ハワイ滞在中はドグマチール50mgを1日2回のむ>と2段構え、3段構えの処方をした。

 そして翌年の4月中旬に来院。「おかげさまで、去年はハワイで楽しく過ごせたし、食欲もあった。今回も同じ処方おねがいします」と。このような会話が10年つづいている。しかし、Y子さんには、くすりを続けることの罪悪感と恐怖感がある。申し訳なさそうな表情と素振りでそうと分かる。先日来院時、<年2回だけ、こういう状況でだけ服用する、と決めていれば、死ぬまでのんでも害(副作用)は全くありません。ただし、飛行機から降りるときの階段は、くれぐれも気を付けてくださいね。ご主人の腕をしっかりと掴んで離さないように>と伝えた。この言葉を今回も再度確認し、Y子さんは帰って行った。

 

*ちなみに、乗物恐怖のために、海外旅行はおろか、国内旅行さえしたことがない、という方は数多くいます。