Yさん、47歳 通院:3回 診断名:デパス依存、対人恐怖症、強迫性障害、

 小学生の頃より確認強迫あり。中学に入ってから友人関係に悩み始めた。大学に進学して間もなく、5か月間入院し森田療法を受けたが、改善が見られず。大学3年から○○クリニック通院。元来の対人恐怖症による症状に加えて「車に乗ると、人を轢いたんじゃないか」という強迫観念も出現。この時初めて、レキソタンのみ処方された。新卒で就職できたもののまもなく退職。症状をレキソタンでまぎらわし、仕事を転々としたという。

 平成23年7月、4年間続いた販売の仕事を退職。以後現在まで就労できず。以来クスリを求めてクリニックを転々とした。

 平成24年4月から○○クリニック通院。平成29年3月まで通院。飲んだ薬は、レキソタン、デパス、ワイパックス、メイラックス、セディール、ドグマチール、ルーラン、ロナセン、ルボックス、ジェイゾロフト、レクサプロ、マイスリー、アモバン、ルネスタ、サイレース、ベルソムラ、デパケンR・・・。これを見るだけで、本人も医者も、いかにクスリに翻弄されたかが分かる。主治医も何とかしようと、手変え品変え、いろいろの処方を試みた。しかし、本人が望むクスリは、デパス(0.5) 6錠とレキソタン(2) 6錠だった

 平成29年3月、当クリニック初診。「家から近いクリニックに通いたい」というのが受診理由。病歴や薬歴をひとしきり訊いた後、やおら、<このお薬手帳から推察するに、あなたはクスリの効果の微妙な違いに対して、次々と注文をだし、若い女性の先生は、あなたの言いなりに少量のくすりを出していた。でも結局は、自分で効果を感じる、デパスとレキソタンだけを飲んでいたみたいだね。そして、デパスの切れ目には、酒を飲むか、ランニング、卓球などやっているみたいだね>と伝えたところ、「先生、よくわかりますね」と、<あなたのような人を何人も診てきましたから>。さらに、<もともとの、対人恐怖や強迫性障害の治療よりも、デパス依存からの脱出をはからないと。まずは、デパスに置き換えるため、メイラックスをだします。前のクリニックでも、もらったことがあったけど、あなたは飲まなかったでしょ。ルーランというクスリは2週間くらい飲み続けると、人に対する敏感さや、視線恐怖をやわらげてくれる可能性があります。そのほかにも、あなたの症状を緩和してくれるものはいろいろあります。でもそれらを、一定量、一定期間、飲んだ経験がない・・・>など伝えた。

 その後、2回受診した。「メイラックスを飲むと、卓球の試合に負けてしまうので、飲みたくない。ジョコビッチのやっているマインドフルネスもやっている・・」など、訳のわからない会話を延々とする。結局、「デパスもらわないと」に落ち着く。4回目の予約が入っていたが、キャンセルの電話があった。「キャンセルさせてください、こちらの事情で通院できないことになりまして。いろいろ有難うございました」と。

 

 もともと善良で、相手の気持ちを考えすぎて悩む方です。私に対してもいろいろ悩んだことでしょう。どんな説明も受け入れられないくらい、今はデパスの離脱症状が酷いのだと想像できる。ここまでくると、薬物依存治療の専門機関でないと無理なのかもしれない。

 

 Yさんが、強迫性障害や対人恐怖症に対して薬物療法を最初に受けた時、抗不安薬のレキソタンしか処方されなかったということが、その後の治療を困難にした。抗うつ薬や抗精神病薬が最初から処方されていれば、デパス依存という厄介な代物を抱え込まなくとも済んだかもしれない。デパスという薬は、即効性があり、強力な抗不安作用を有するがゆえに、その場しのぎにしかならず、あとからその代償を払わなければならないクスリである。