アメリカの老夫婦の大陸横断ロード・ノベル、といっても
自由になった時間を悠々と楽しむ旅でもなければ、
バケットリストを次々とクリアする旅でもありません。
80歳を超えた夫婦の
妻エラは多数の病気をかかえて杖や歩行器の援けが必要です。
夫ジョンはまだらに発する認知症、幸いなんとか運転できます。
そんな二人がキャンピングカーで、
イリノイ州デトロトからカリフォルニア州アナハイムにあるディズニーランドを旧ルート66を使って目ざします。その距離2,000マイル(3,200km)以上。
ルート66は1985年に廃線。途切れとぎれの旧道を認知症のジョンが専ら運転します。むちゃです。
旅の終わりに / マイケル・ザドゥリアン、小梨 直 訳(東京創元社)
(原題:The Leisure Seeker by Michael Zadoorian)
2009原書刊、2017年和訳刊
お気にいりレベル★★★☆☆
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この旅はそっと出発するしかありません。息子や娘に、あるいは主治医に相談したら反対されるに決まっています。
語り手のエラは、旅のねらいを家のすばらしさを忘れないためと述べています。
このまま長年住みなれた家で二人で暮らし続けたら・・・・。
今後の暮らしで楽しかった思い出を上書きしたくないのです。
ということは・・・・。
もちろん、エラの企ては家族に内緒です。読者にも。
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二人の故郷はデトロイト。自動車で発展した都市です。車関連企業に勤めていたジョンは運転好き。
子どもを連れで旅行費用節約のために手に入れたキャンピングカーで何度も旅行しました。
今回の目的地ディズニーランドにも一度行ったことがあります。
当時使ったルート66の跡をたどると、沿線の町や店はさびれ往年の面影はまばらです。
疾走する若者の車に幅寄せされたり、故障で立ち往生したり、立ち寄った店でジョンが騒ぎを起こしたり、危険な目に遭ったり etc ・・・・。娘と息子が聞いたら、それみたことかと叱られそうなエピソードに事欠きません。
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そんな旅でも、エラに至福の時がふと訪れることがあります。
そっとしておかないとすぐに消えてしまう、
そっとしておいても、ほんのひとときしか浸ることができない懐かしい幸せです。
やがて二人の旅にも終わりがきます。
読者にはその迎え方にさまざまな受け取り方があるでしょう。
それでも二人にとって幸せであることは間違いありません。
エラだけでなく、ジョンもはっきりした頭で明言しています。
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