anemone-baronのブログ -2ページ目

anemone-baronのブログ

落書き小説根底にあるもの!
私の人生は、「存在しなければ、何を言っても正しい」という数学の存在問題の定義みたいなもの。小説なんか、存在しないキャラクターが何を言っても、それはその世界での真実なのだ。

  ゼックスファミリーが神話の粘土板を作り、それを大量に持ってきてくれる。

 住民たちは最初は「おお、すげぇな!」と喜んでいたが、次第に「え、また?」という顔に。

 

ゼックスファミリーは調子に乗ってどんどん粘土板を持ってきてくれるので、倉庫がパンパンになってしまった。

 結局、倉庫が一杯になってしまい、「もう置くとこないしゃぁ!」と困り果てている。

 

これからは、新しい粘土板が来るたびに「も~かんべんせぃや!」と困り顔が見られていた。
 
それでも、グランパ・モルフ が更に追加で新たな粘土板を持ってくる。


 「皆のために、重力と運動の秘密を解き明かす物語を持ってきたぞ!」と。
 


 「ニュートンのリンゴ戦争」の神話
昔々、重力の国と加速の国がありました。「リンゴ戦争」と呼ばれる大競争を始めました。……

 「加速度の妖精フリクション」の神話
加速度の国には、フリクションといういたずら好きの妖精がいました。フリクションは物体が滑らかに動くのを邪魔する力を持っており、常に物事を遅くしようと企んでいました。……

「 ニュートンと重力の逆襲」の神話
重力が統治する世界では、すべての物体が地面に引き寄せられるのが常でした。しかし、ニュートンという若き科学者が、……
 
 住民A「あっあ~ 面白そうですねハハは……これどこに置くよ。おめんち、まだ空きがあるべ」


 住民B「え~!おれんとこ、粘土板積み上げたのベットになっとるぞ~これ以上積んだら、寝る空間がなくなるべ……」


 
 オンタは自分が夢中になって読んだ古典から抜粋した、数学と確率の神秘を解き明かす物語を書いてきた。

 「このピタゴラスの話はね、数学の美しさを教えてくれるんだ。そして、ゼロの概念は、我々の考え方そのものを変える力がある。さらに、確率の神様は、未来は予測できても意味が無いことを教えてくれるんだ」と。
 
「ピタゴラスの逆襲」の神話
昔々、数学界の守護神ピタゴラスがいました。彼は三平方の定理で知られ……
 
「ゼロのゼロス」の神話
数学の神々の中でも、ゼロを守護するゼロスがいました。ゼロスはゼロの概念が……
 
 「確率の女神フォーチュナの賭け」の神話
確率を司る女神フォーチュナは、人々が確率を甘く見ていることにいつも不満を……特に、ギャンブル……
 
 アルトとエリダも次々と話を作って持ってきてくれる。
 
「失われた公式の冒険」の神話
 
……関孝和は伝説の公式を発見した。しかし、この公式はあまりにも強力で、未来を予知できるほどだったため、「この公式は天の秘密をも漏らす危険なもの。人間界には早すぎる」……
 
「重力の織りなす恋物語」の神話
 
……ゼウスは自分の重力でアポロニアを引き寄せようとしましたが、相対性理論によると、彼女の光は重力の影響を受けにくいため、……

「黒い穴(ブラックホール)の秘密」の神話
 
昔、宇宙の果てに住む古代の賢者が、相対性理論を用いて黒い穴の謎を解明しようと試みました。賢者は、黒い穴を通じて異なる宇宙にアクセス……
 
「平方根の探求者」の神話
 
……知恵のおかげで、若者はついに「虚数」という新たな概念を発見した。これにより、負の数にも平方根が存在することが……
 
 住民A「ハハはこれまた沢山……これどこに置くよ。おめんち、空きどうだ。」


 住民C「勘弁してけろや、壁も床も粘土板だらけで家に入ると頭がグルグルしとるわ~」
 


 続くセレナも止まること無く。
  
「希望の光を紡ぐ者」の神話
エリエルという天使は、暗闇を恐れる子供たちに夢と希望を与えるために…… 

「時を超える旅人の星座」の神話
アズラエルという天使は、時間を旅することができました。彼は過去と未来を行き来し……


 フロブも「負けていられない」と酒と宴の神話を誇らしげに住民たちに披露する準備をしていた。


彼の手には、「バッカスの忘れられた醸造所」と「ティプシーと月の宴」の粘土板と酒が……。「ほら、みんな!これぞ生きる喜びだ!」とフロブは語りかけていた。


 
「バッカスの忘れられた醸造所」の神話
昔々、酔っ払いの神バッカスが、天界と地上を結ぶ秘密の醸造所を持っていま……

「ティプシーと月の宴」の神話
ティプシーは、酒を司る神々の中でも特に愉快な性格で知られていまし……
 
 住民D「酒は好きだんげど、粘土板はもういらんがな……」


 住民C「粘土板くっつけて酒樽にするか~」
 


ゾーランは馬車に粘土板を積んで姿を表した。

 

ゾーランは住民たちの前に立ち「私を忘れてはいけません」と哲学に関する様々な神話が記された粘土板を大量に持ってきて「私たちの世界観を豊かにするのは、思考の冒険だ」


 「そしてそれがどのように私たちの世界観を形成しているかについての深い洞察が含まれているのです。」など……
 
「ソクラテスの迷子探し」の神話
……アテナイの市場で、「知っていることは何も知らない」と言い続けるうちに、彼は自分が何を探していたのかさえ忘れてしまい……

「プラトンの理想国家ビルダーズ」の神話
……彼は哲学者王を探しに行きましたが、全員が「哲学の授業が忙しい」と言って断られてしまいます……

「ソクラテスとプラトンの哲学対決」の神話
ある日、ソクラテスとプラトンは「真の知識とは何か」について議論し……

「デカルトの思考停止マシーン」の神話
デカルトは、人々が自分の存在を疑うことの重要性を理解してもらうために、"思考停止マシーン"を発明しまし……

「ウィトゲンシュタインの言語迷宮」の神話
ウィトゲンシュタインは、言語の限界について考えるあまり、文字通りの迷宮に迷い込んでしまいました……
 
「ウィトゲンシュタインの哲学的ゲームショー」の神話
……私たちが使う言葉はゲームのようなもの。ルールに従って使うけれど、その意味は私たちが共有する遊びの中でしか成立しないのだ……

 住民D「な~ぁこれ読んだら、砕いて溶かして家の補強に使うか~」


 住民C「こっそり~粘土掘ったどごにぃ~戻すんのは~どうだぁ~」……
  ︙ 
 ゼックスファミリーが熱心に持ち込んだ多くの神話粘土板は、その熱意に反して、地域Dの住民たちにとっては次第に重荷となっていった。

 神話の数が増えるにつれて、それぞれに関心を持つ時間や空間が住民たちには足りなく、供給が需要を大幅に上回ってしまう例となり、

 

親切心から始めた行為が予期せぬ形で住民たちに負担をもたらす結果となった。
 
 新しい神話が次々と追加されることで、彼らが本当に関心を持つ内容に深く没入する機会が減ってしまうことを何とかしようと、

 

ゼックスは地域Dの住民たちと、「ねんどばん館」(図書館)を立ち上げた!

 でも、これがただの倉庫じゃない。せっかく作るのだから、粘土板に文字を書くための道具も完備されていて、まるで古代のスクライブのアトリエのようだ。
 
 そこで、ゼックスは「ねんどばん館」の管理体制を整えるため、地域Dの住民たちと協議を重ね、選出方法や雇用条件、雇用期間などのシステムを決定した。
 
 その結果、文字のテストや司書の試験など、館の運営に必要な様々なテストを実施することが予定された。
 
 ゼックスは「ねんどばん館」の前に住民たちを集めて、募集要項や雇用内容を記述した粘土板を持ってきた。それを、住民たちは一斉にそれを見つめた。

「ん~だ、これは?」という声が聞こえて、住民の一人が粘土板の内容を読み上げると場の空気が一変した。

 「えぇ、60日間ばけぇ雇うとるげてぇ、まじじゃらのけ!」
 
 「15日分の有給もあっげと聞いたげな、信じらまっか?」という声がも、そして「生活に必要げもんは、みんげでげ出し合うっちゅーげな。これじゃ大変じゃっけげな」という声も。
 
 内容を要約すると「合格すれば、60日間雇用、後15日有給で、その間の生活必需品とその家の農作業や狩猟任務は、他住民たち全員で負担する。テストは30日に一回行う……」等など。
 
 「その間は、農作業や狩猟に行かなくてもええんだな~」
 
 「あんな、60日も働いたらんけ、15日の休みっちゅうても、わしらの日常かえってきっちゃうで。農作業や狩りも手抜きできんで。」
 
 「たしかに、その間には休耕地増えそうだな~、15日の休みもろてるってのは魅力的だべ。うーん、うだどもその時間で何すっか~。」
 

 「っんだな。もし今度うまくいかなくても、30日後にまたチャレンジでけるってのは、すっぱい(失敗)を恐れずに挑戦できるってことだぁ。」

 「15日の休暇があれば、前から気になってた嫁探しの旅にでるべさ。このせいだ、村の外の女も視野に入れてみるかのう。」
 
 「あ~んだな~、ついでにぃ~。おらの逃げたかーちゃんも探してけろやっ」
 
 「あん?おめんとこの嫁っ子、他に男作って出ていったんだんべ。諦めろや。」
 
 「おっと、その前に、どっかに行っちまったうちのばあちゃんを探しに行かにゃならん。最後に見たのは、炭焼き場のあの大きな木の下だったかのう?」
 
などなど……好き勝手に話していた。
 
 このように、住民たちはそれぞれの思いや計画を語り合い、新たな始まりに胸を躍らせていた。
 慣れない文字学習には戸惑いもあるが、その中には新しい可能性や楽しみを見出そうとする前向きな気持ちが溢れてるようだ。
 
 ねんど館では、住民たちが新たに学んだ文字を使って自分たちの神話や日記を書き留めるのに夢中になった。

 もちろん、最初は「あれ、こん字どげぇん書くげとっけ?」とか「あらぁ、また文じぃを間違げちゃうたないの!」といった失敗も多発。

 ある日は「今日、ヤギが逃げ出しちゃって大騒ぎだった話」を粘土板に刻むおばあちゃんがいたり、別の日には「空に見える雲の形を粘土板に記録してみた」(これは文字じゃないです!)なんて若者がいたり。

男達は発酵酒や蒸留酒の作り方を記録したり、特に子どもたちは、新しい遊び場を見つけたかのように、ねんど館に集まり、自分たちで話を作り出すワークショップに興じている。

 そこでは、「羽の生えたカエルの神様」や、「いたずら好きの風の精霊」の話が生まれ、そのたびに笑いの渦が巻き起こる。
 
 でもね、管理人さんは、毎日が大忙し。

 

「皆しゃん、粘土板は丁寧に扱ってくんろ。あと、話の内容があん「まりに奇想天外すぎっと、後世の人が混乱しっちゃうかもしれんよ」

 

と優しく注意しながらも、住民たちの創造力の花が咲くのを楽しんでいた。

 こうして、地域Dには新たなコミュニティスペースが誕生し、人類初の公共施設と共有負担の仕組みが始り、共有の責任と楽しみを分かち合う文化が根付き始めた。
 
 ゼックスファミリーがもたらした粘土板の神話は、住民たちの手によってさらに色鮮やかな物語へと育っていき、「ねんど館」はただの建物ではなく、共同体を一つにする絆となり、未来へと続く大切な遺産となり得るのでした~。(ほんとかよ!)

 


キラとトラ、ね、二人はとっても仲良しで、いつも一緒に冒険の話を作ったりしてるの。

この日もね、「クォンタム 君の不確定な冒険」というすごく面白いお話を作ってきたんだよ。


だから、地域Dの広場で、子供たちを集めてその話を聞かてくれるんだ。

広場は、大きな木があって、その木の下にみんなが集まったの。

 

僕たちはわくわくしながら、広場の中央に座り、キラとトラが話し始めるのを待っていたんだ。

おやつの時間も近かったから、お母さんたちが手作りのムカデチップスや羊の脊髄ゼリーなんかを用意してくれて、それを食べながらお話を聞くことになったんだよ。


キラとトラの話が始まったよ。


 昔々、クォンタムっていう、ね、量子の神様がいるんだよ。

この神様ね、宇宙のちっちゃな粒子を動かすのが得意なんだけど、自分がどこにいるのかいつも分かんないの。


だから、宇宙のこの端からあっちの端まで、「自分、どこにいるの?」ってひょこひょこ走り回ってたんだって。

でもね、走るたびに、「速くなった?遅くなった?」って、どれだけ速く走ってるかもさっぱりわかんなくなっちゃって。

「もう嫌だ〜!」ってクォンタムが言いながらもっとビュンビュン走ってみたけど、それでさえもどこにいるのかさっぱり!

そのことを他の神様たちが見てて、クォンタムが次にどこにポンと出るか賭け事を始めたんだ。

「あいつ、次はどこかな?」「俺はブラックホールに一票!」「俺は、 シュレディンガーの箱の中!」ってね、クォンタムが見えなくなるたびにおかしくて。

クォンタムはね、鏡で自分を探そうとしたんだけど、鏡には自分の姿が映らなくて、代わりに変なものがポンポン出てきてくるんだ。

一回は大きなアヒルが出てきて「クヮッ!」って言ったら、クォンタムはビックリして宇宙の反対側まで飛んでっちゃったの。

それからね、クォンタムは自分の影を追いかけて、「ちょっと待ってよ!」って自分自身に叫んで、あちこち走り回るんだけど、それがすごくおかしくて。

でもね、最後には「あれ?僕ってどこにでもいるのかも?」って気づいたんだって。

そしてね、「みんなも不確定性を楽しもうよ。そうすれば、どこにでもいられるから!」って天界の掲示板に書いたんだって。

その話、他の神様たちも笑ったけど、クォンタムのこと、ちょっと尊敬しちゃったんだって。クォンタムのお話、宇宙中のお話になったんだよ。 おわり。


 キラとトラの「クォンタム 不確定な冒険」の話を聞いた村の子供たちは、おやつを食べながら目をキラキラさせていた。

そして、彼らなりにこの話から学んだことを直ぐに遊びの中でで試し始めた。

「僕もどこにでもいられるかな?」と考えた男の子は、自分の影とかくれんぼを始めた。

 

太陽が高くなると影が小さくなって、見つけにくくなるんだけど、「ほら見て!今、どこにもいないみたい!」と大はしゃぎ。友達は「でも、そこにいるじゃん!」と大笑い。

 また別の子供は自作の魔法の杖を作り、「これで僕もどこにでも行ける!」と言い張り、村の中で「テレポート!」を叫びながら、広場から鍛冶場からお庭へと走り回っていました。

 女の子はは、クォンタムの話を絵に描こうと思い立ち、不確定でふわふわしたクォンタムの姿を描た。

 

彼女の絵には、どこにでも浮かんでいけるクォンタムが描かれていて、「クォンタムはきっとこんな感じで宇宙を旅してるんだよ」と友達と話し合っていた。

 最後に、子供たちは「クォンタムごっこ」を始め、誰かがサイコロを振って、出た目に応じてその場で思いついた不思議な力を使って遊ぶことにしました。

 例えば、「”6”が出たから、今、僕は見えないんだ!」とか、「やったー!”1”が出たぞ。僕の速度は無限大!」とか言いながら、皆んなで村中を走り回り、母親たちから「雷神みたいに大騒ぎしないで!」と怒られていた。(あんなおやつを食べてれば、元気も出るだろ笑)

 クォンタムの話を聞いた村の子供たちは、それぞれユニークな方法で話を自分たちの遊びに取り入れ、一日中楽しく過ごし、そして、夜になって星空を見上げながら、「クォンタムもきっとどこかで笑ってるね」と話していた。



キラとトラが子供達の神話を伝えたその日の夜に、 ヴィータ、セレナ、リーラとゾラの四人は、村の女性たちの心をとらえるため、女性専用の神話会を企画していた。
 
この夜、彼女たちは星空の下、男性の姿を一切許さない、女性たちだけの秘密の集いを催した。

 彼女たちが選んだのは、村の郊外、開けた野に広がる一角。ここから見上げる夜空は、星がきらめき、まるで別世界の入り口のように神秘的だった。

女性たちは、日々の忙しさを忘れ、星々の美しさに見とれながら集まってきた。

期待に胸を膨らませる女性たちの間には、わくわくするような緊張感が漂い、彼女たちは普段は語られることのない、女性の視点から描かれる神話に、心からの興奀と好奇心を抱いていた。

村の女性たちは、この瞬間を待ちわびていました。日々の生活で感じる小さな不満や大きな夢まで、全てを忘れて神話に没入できる特別な時間。

彼女たちの間には、共感や感動を分かち合う、見えない絆が生まれていく。

火が焚かれ、その揺らめく光が参加者たちの顔を照らし出します。

 

暖かい光の中、ヴィータたちは準備した粘土板の物語を始めました。

まずは、ヴィータから語り始めた。

ヴィータ「昔々、太陽がいつも温かく照らす平和な国がありました。その国は、太陽の光そのものである天照大神(アマテラスオオミカミ)と、海の美しさを体現した神、瀬織津姫(セオリツヒメ)によって治められていた。」

ヴィータ「この二柱の神々の慈悲深い統治の下、国は常に豊かで、住民たちは幸福に満ちた日々を過ごしていました。」

ヴィータ「しかし、その平和を羨む者が一人いました。鸕野讃良皇女(うののさららのひめみこ)と呼ばれる魔女です。」

村の女性「うののさららのひめみこ…舌噛みそうな名前ね」周りから、「シィー!」

ヴィータ「魔女は一年に一日しか眠らず、その目を天照大神と瀬織津姫の幸せな生活に虎視眈々と狙っていました。

 

魔女はこの国を奪い統治するためにどうしても「天照大神」の名前が必要だったのです。」

ヴィータ「魔女は二人が一緒にいる限り自分の魔力が及ばづ、目的を達成できないことを悟り、二人を切り離すために、天照大神を欺く計画を立て、瀬織津姫が重い怪我を負い、動けなくなったという嘘をつきました。」

村の女性「うののさららのひめみこ!酷い奴ね。目の前に居たら張り倒してやるわ!」

 次はセレナが語り始めた。

セレナ「心配した天照大神は、魔女の言葉に騙され、岩穴に入ると、岩で塞がれて「騙したな!鸕野讃良皇女!」と叫ぶが時既に遅く、閉じ込められてしまいます。」

セレナ「天照大神は肩を落とし「すまない。瀬織津姫」と。」

村の女性たちから「うちの旦那じゃないんだらから、なんとかしなさいよ!神様でしょ」などと天照大神の不甲斐なさにお腹立ちの様子。

セレナ「天照大神がいなくなると、国は暗闇に包まれ、瀬織津姫は深い悲しみに沈みました。」

村の女性たちの顔つきが真剣に成っていく。誰かが「瀬織津姫!騙されちゃだめよ!」

セレナ「その時、魔女はさらに瀬織津姫に近づき、「天照大神は他の女を作り、大神様(おおがみさま)の怒りを買い閉じ込められた」とささやき、彼女の心を苦しめました。」

村の女性の中から憤慨の声が「あ~っこいつ、絶対許さない!」などと言いながら眼の前の草をむしり取って食べてた。

セレナ「そして、「お前が天に登って百万の星座を作れば、大神様は許して天照大神は戻ってくる」という別の嘘を吹き込んだのです。」

セレナ「瀬織津姫は、愛する夫への思いを胸に、天への長い道のりを進みます。」

村の女性の中から諦めの声が漏れ「あ~ぁもう。だから、騙されちゃだだって!」

 リーラが続きを語りだす。

リーラ「日々、星々を繋ぐ作業に身を捧げ、その過酷さに手は荒れ、血がにじむまでになりました。」

リーラ「食を忘れ、体は次第に衰えていくものの、彼女の愛の炎は決して消えることはありませんでした。」

女性の中からすすり泣く声が聞こえてくる。「分かるわ!愛したら負けなの……」
さらには、感情がこみ上げるような声が「ああ、愛のためならどんな苦労もいとわないわ…」


リーラ「瀬織津姫が天に登り星座を作り出すと、魔女は地上の瀬織津姫が祀られている。石像や碑をことごとく破壊することで、瀬織津姫の存在を永遠に消し、天照大神を女性神に変え自分の都合の良い伝説を作った。」

リーラ「鸕野讃良皇女(うののさららのひめみこ)の力は絶大で誰も逆らうことが出来なかった。」

リーラ「百万の星座が完成した時、瀬織津姫は「これで夫は返ってくるのね。」と魔女に問いかけましたが、魔女は冷酷に「ばかな女だ。天照大神は、とっくに岩穴で命を落とした」と告げました。」

女性の中から泣きながら怒りの声も「どうしてそんな、悪魔みたいなこと出来るの~!」と言って持ってたクルミをバリバリっと握りつぶしてる。

セレナ「瀬織津姫はその事実を知り、深い絶望の中で涙を流しながら息を引き取りました。」

ゾラ「彼女の最後の涙は、静かに宇宙を流れ、美しい天の川となり、その川は、二人の愛を永遠に隔てる悲しみの象徴となり、二人の切ない愛の物語は、星々を通じて語り継がれることとなりました。」

女性の中から泣きながら「あぁ~かわいそうすぎるわ。もうだめ、許してあげて~!漏れそう」
隣の女性が「何が漏れるのよ」と。

 
ゾラ「しかし、地上の神々と人々の心は、天照大神と瀬織津姫の切ない運命に深く触れられました。」

ゾラ「彼らは、二人の愛の物語に敬意を表し、一年に一度、鸕野讃良皇女が眠る短い時間に限り、天と地の間に祈りと祝祭を捧げることを決めました。」

ヴィータ「この祈りの力により、天の川に幻の橋が現れ、二人が再び一日だけ一緒に過ごせるようになりました。それが、愛と繋がりを象徴する七夕の日です。」

ヴィータ「七夕を祝うことで、私たちは今も天照大神と瀬織津姫の永遠の愛に触れ、彼らの愛が時間を超え、どれほどの力を持つものかを再確認します。」
  
ヴィータ「そして、鸕野讃良皇女(うののさららのひめみこ)の血を引く一族は、天の怒りを買い七夕の日は外へ出ることを永遠に禁止されたのでした。」
 
最後はリーラが締めくくります。

リーラ「彼らの愛の物語は、悲しみを越えた愛の力の証として、美しくも哀愁を帯びた調べと共に後世へと語り継がれていくのです。………………おわり」
 
村の女性たちは、瀬織津姫の物語を聞いて心を深く動かされた。
 
 物語が進むにつれ、彼女たちの表情には様々な感情が浮かび上がり、ヴィータの言葉には、初めは期待と興奮があふれていたが、徐々に心配と不安が交錯し、瀬織津姫が天に昇る決意をしたときには、彼女たちの目には勇気と尊敬の光が宿ります。

そして、瀬織津姫の悲劇が語られると、空気は一変し、静寂の中、星空の下で集まった女性たちの目からは、共感と哀しみの涙がこぼれ落ちる。

星々の輝きが彼女たちの頬を照らし出し、涙は星の光のようにきらめき。

彼女たちの反応は、ただの物語を超えたものになっていた。

瀬織津姫の愛と犠牲は、彼女たち自身の心の奥深くにある愛の経験や失失に対する恐れ、そして未来への希望に強く響き渡った。

「こんなにも愛しても、結ばれないなんて……」一人の女性が声を落とし、他の女性たちは頷きながらその感情に共鳴します。

一瞬、彼女たちの間には深い静寂が流れますが、それはすぐに瀬織津姫への敬意と慰めの言葉で満たされます。

そして、彼女たちの心に残るのは、愛の永遠性とその力の大きさでした。瀬織津姫と天照大神の愛の物語は、悲しみを越え、希望と絆の象徴として彼女たちの心に深く刻まれます。

村の女性たちは、物語の終わりに深い溜息をつきながらも、新たな力を得たように立ち上がる。

 瀬織津姫の物語は、彼女たちに愛の不変の価値と、試練を乗り越える強さを教えてくれた。

 そして、この夜、彼女たちは星空の下で新たな絆を結び、互いに支え合うことの大切さを改めて感じるのでした。
 
夜空には、無数の星が織り成す天の川が流れ、それはまるで悲しみを乗り越えた愛の光が、永遠の希望へと続く道を照らしているかのようだった。(おしまい)

 

 

う~ん タイトルなんとか為らないの?

 

 コンビニの朝は早い、と言うか24時間営業しているが。僕は陸連のプロジェクトの仕事もあるし、コンビニは休みにしていたが、予期せぬ店長の森本さんからの一本の電話が、

 

「手伝って……」って連絡があったので、今朝も6:00の早番を手伝うことにした。

 自宅で考え込むよりも、コンビニでのルーティンワークが、思考の整理に一役買っている。商品を並べ、レジを打ち、時にはお客様とのさりげない会話。

 

この無心でこなす作業の後には、不思議と頭がスッキリし、アイディアも湧いてくることが多い。

 仕事を終え、店を出る時、森本さんが「悪かったね。本当に助かったよ。」と言い、お礼にと手渡してくれたのは、なんと向かいのお惣菜屋さんで人気のデラックス鮭弁だった。

 

コンビニ弁当ではないその心遣いに、私は思わず笑顔がこぼれた。

 

「ありがとうございます。ご馳走様です。」と感謝の言葉を伝えながら、自宅へと足を向けた。

 帰路の途中、朝の空気が心地よく感じられ、森本さんの優しさ、そして何気ない日常の中にある小さな幸せを噛み締めていた。

 

コンビニの早朝勤務が、予想外にも私のクリエイティビティを刺激し、日々を豊かにしてくれていることに、改めて気づかされた瞬間だった。

自宅に戻ると、貰った弁当を食べながら、パソコンのメールをチェックする。仕事関係のメールは全部パソコンの方にしている。

 

その中に、先日会った「ブルームエージェンシー」からのメールがあった。


メール文
――――――――――――――――――
……この場を借りて、お忙しい中、彼らを温かく迎え入れてくださり、貴重なお時間を割いていただいたことに心から感謝申し上げます。

 ……私自身が直接お会いしてお礼を申し上げられなかったこと、また、貴重な機会をいただきながら参加できなかったことを深くお詫び申し上げます。……

 辻元と田中からは、打ち合わせの様子や山本様のご提案について、非常にポジティブなフィードバックをいただきました。……
 敬具
 ブルームエージェンシー 住田
――――――――――――――――

 住田さんが打ち合わせに来れなかったことへの謝罪メールだった。

 

ごく普通のビジネスメールだったので特に気にすることもなく、弁当を頬張りながらその他のメールもチャックしていた。

 すると、新たなメールが届いた。件名を見ると「住田杏子」からだった。思わず、「えっ、キョッコ?」と声に出し、口の中のご飯を危うくこぼしそうになった。


メール文
――――――――――――――――
件名:住田杏子です。驚いた?

本文:
”だい(大樹)”、こんにちは。久しぶり。突然のメールで驚かせてしまったかな。

先日はブルーム・エージェンシーの私の部下の辻本と田中が打ち合わせに行ったみたいだね。突然の私の用事で参加できず、本当に申し訳なかったです。

もう何年も会っていないけれど、”だい(大樹)”の描く絵は変わらず素晴らしく、心に響くものがありました。

 

私たちが最後に話したのは、大学二年の時だったかな。あの頃夢見たこと、少しずつ形になっているようで嬉しいです。

 私も、大学出た後アメリカの大学に行ってから今の会社に入って、頑張ってます。あっという間だったね。

また、仕事のことで話があるのだけど、10日後にブルーム・エージェンシーで再度打ち合わせの機会を持てないかと思っています。

 

今度は私も参加するので、日時が合えば教えてください。

お互い、長い間連絡していなかったけれど、ふとしたきっかけで思い出が蘇り、メールを送らせてもらいました。もし良かったら、近況なども教えてほしいです。

キョッコより
――――――――――――――――


 このメールを読んで、初めて「ブルーム・エージェンシーの住田」が、かつての「キョッコ」と同一人物だと知った。


 もうとっくに、結婚などで名字が変わっていると思っていたから、すぐには気付かなかった。

 

文章の端々から彼女の特徴が垣間見える。

 

少し事務的な表現もあるが、どこか懐かしい「キョッコ」の香りが漂っていた。

 その瞬間、僕の心はプロジェクトのことから離れ、「キョッコ」との過ごした日々に引き戻された。

 

久しぶりに湧き上がる感情の波に、ただただ戸惑いながらも、どこか温かな懐かしさと嬉しさを感じていた。

 僕は、壁にかけていた競技用の槍を久しぶりに手にとって庭に出た。やり紐は無かったので、直接握って感触を確かめて、家の前で空に向かって力いっぱい投げ上げた。

 

まるで心の中の何かを解放するかのように。


こんな子供みたいな光景を、庭の花々がまるで微笑んでいるかのように見えた。



 私は、お昼休みを利用して”だい(大樹)”に向けた二通目のメールを送信した後、デスクに戻り、いつものように仕事に没頭した。

 

パソコンの画面に映る無数のデータと対峙しながら、プロジェクトの提案書に磨きをかけていた。

 数字とグラフが織り成す複雑なパターンを解析し、それをわかりやすい提案に変換する作業に集中する中でも、心の片隅ではずっと、”だい(大樹)”からの返信が来ないかという期待がくすぶっていた。

 キーボードを叩く手は機械的に動いていたが、メールの通知音が鳴るたびに、期待と緊張で一瞬手が止まり、画面の右下に表示されるメールアイコンに目をやる。

 ポップアップするメール通知に一瞬で反応し、それが”だい(大樹)”からのものであることを期待するも、実際には業務関連のメールであるたびに、小さな失望とともに仕事に戻る。

この繰り返しの中で、私の心は仕事と大樹への想い、二つの世界を行き来していた。

こんな風に、仕事の中で求められる精度とクリエイティビティに追われながらも、私の心は”だい(大樹)”からの一言を待ちわびていたようだ。

そんな一コマが、遠く離れた大切な人への思いとどう交錯するのか、その微妙なバランスを見つけるのは容易ではない。

しかし、その中にも小さな喜びや発見があることを、この瞬間が教えてくれているようだった。


――――――――――――――――

 

差出人:山本大樹


件名: Re: 住田杏子です。驚いた?

キョッコ、メールありがとう。本当に久しぶりだね。

正直、メールを開いた瞬間は本当に驚いたよ。でも、同時にすごく嬉しかった。お互い、長い時間を経て、こんな形で再びつながれるなんて思ってもみなかったから。

ブルーム・エージェンシーのプロジェクト、辻本さんと田中さんからは聞いていたけど、その主任の住田さんが「キョッコ」だったなんて、全く気づかなかったよ。

メールをもらうまで全然わからなかった。お互い、随分と遠くに来ちゃったけど、でも何かがまたこうして繋がったんだね。

キョッコのアメリカでの学びや、今の仕事の話、すごく興味があるよ。キョッコがどんな風に世界を見て、何を感じているのか、もし良かったらもっと聞かせてほしい。

10日後の打ち合わせ、了解した。スケジュールは開けてあるから(それしか入っていな笑)。

直接話ができるのを楽しみにしている。

後、サンプルも作らないといけないからね。

それと、近況か。僕はね、「はんのう市」と言う田舎で、コンビニや地元の土木工事などをこなしながら、自分の絵を描く日々を送っているよ。あの頃と変わらないかもしれないけど、毎日が新しい発見でいっぱいだ。

長くなってしまったけど、キョッコからのメール、本当にありがとう。また、近いうちに。

大樹より
携帯 080-XXXX-1333
――――――――――――――――



”ある晴れた放課後、高校のグランドでは大樹が一心不乱にやり投げの練習に打ち込んでいた。

 

彼の姿は、力強く、そしてどこか憂いを帯びているようにも見える。

その練習に熱中する彼の姿を、弓道場から出てきた杏子が遠くから静かに見つめていた。

 

道着姿の彼女は、練習後の静けさの中で大樹の姿に目を留め、何かを感じ取ろうとしているようだった。

やり投げの練習を終え、大樹が片付けを始めた時、杏子は静かに近づき「おつかれさん」と声をかける。

 

その声に大樹は振り返り、「おー、キョッコも終わったのか」と心地よい疲労感を帯びた声で返した。

杏子は大樹の手にしていた競技用の槍に興味を示し、軽々とそれを手に取る。「へえ、意外と軽いのね」と驚きを隠せないでいた。

大樹は服を着替えながら、「そうだな。この大きさで、800グラムしかないからな」
 
すると杏子が突然、「ねえ、槍投げと弓道、どっちが強いと思う?」と質問を投げかけた。
 
大樹は苦笑しながら、「はぁ、なんだよその比較は。そもそも弓道は武道で、槍投げはスポーツだろ。そんなの比べようがね~よ」と返した。
 
杏子は挑戦的に、「でもさ、昔はどっちも戦いの道具だったわよね。試しにやってみない?私、弓で200メートル以上飛ばせるわよ。100メートル先の的を当てる勝負、どう?」
 
大樹は呆れたように言った、「おい、冗談じゃないよ。槍投げの世界記録だって98メートルだぞ。もし100メートル先の的に当たったら、それは世界新記録だよ。インターハイどころの騒ぎじゃないぞ!」
 
杏子はからかうように、「へえ、意外と飛ばないのね」と言った。
 
大樹は少しムッとしながら、「何が、”意外と飛ばないのね”だよ。バカじゃね?」
 
二人の会話はいつもこのように弾んでいた。

 

心の奥底には伝えたいことが山ほどあったが、言葉にする勇気が出ずに、心の中にしまい込んでしまう。

 

じゃれ合うような会話と態度でそれを隠している。ほろ苦いやり取りが、時間が経過しても二人の心の記憶に残る。

その夕暮れ時のやりとりが、グランドでの小さなドラマとなり、あの頃の甘酸っぱさを彩っていた。二人にとって何時もの光景が、特別な色彩を帯びた青春の一ページとなり時が流れてもその思い出は心の奥深くに残り続けた。

大樹の投げる槍の軌跡と、杏子の放つ矢の飛ぶ姿は、彼らの未言の感情を写し描き出しているようで、その瞬間、瞬間が美しい思い出として心に刻まれていく。

互いに競い合いながらも、本当はもっと深い繋がりを求めている――そんな複雑な心情が、夕暮れのグランドを柔らかな夕日で包み込んでいた。


じゃかいも、デカすぎだろ。しかも調理じゃね~し。
 


 夜が深まる静寂の中、マンションの自室で、私は「山本大樹」の名刺を手に取り、彼がかつて描いてくれた自分のデッサン画を眺める。


と、心がふわりと軽くなるような感覚に包まれる。一方で、名刺の文字が私の心に小さな波紋を作り、幼い頃の記憶が蘇ってきてそれが鮮明になればなるほど心が動揺し、私自身もその感情の突然の強さに戸惑っている。


”杏子と大樹は保育園から高校まで同じ町で育った幼なじみ。大樹の実家は食堂を、杏子の実家は工務店を営んでおり、二人の家族は商工会議所を通じて深い交流があった。

幼い頃から、忙しい両親に代わって、彼らはお互いの家で夕食を共にしたり、時にはお風呂を借りるなど、まるで兄弟姉妹のように過ごしてきた。

大樹は杏子の家族から「大(だい)ちゃん」と呼ばれ、杏子は大樹の家族から「キョッコちゃん」と愛称で呼ばれるなど、二人はただの友達以上の、家族同然の絆で結ばれていた。

 

そのため、二人は自然と「大(だい)」「キョッコ」と呼び合う仲だった。"


「”だい(大樹)”と最後に会ったのは、もう10何年も前。大学二年の時何を話したっけ、お互いの将来の夢について話し合ったっけ。

 

優しい笑顔が今でも目に浮かぶ。」そんなことを思い出しながら、私は自分でも理解できないほどの感情の動きに戸惑っていた。

 

今まで全力で突っ走ってきた自分に急ブレーキがかかったような感覚に陥っていた。

「なぜ、こんなにも心がざわつくのだろう。ただの懐かしさなのか、それとも……」心の奥底からわき上がる何かしらの特別な絆のようなものを感じ、自分自身の感情に驚いていた。

 

一瞬で過去の記憶が色褪せず、むしろ鮮明になるほど、心の波紋は揺れ動いていた。



”春のある日、中学校の部活を終えた杏子と大樹は、彼らがよく立ち寄るコロッケ屋の前で話し込んでいた。

 

杏子は弓道着を身に纏い、大樹は背中に投擲用の槍、ターボジャブを担いでいる。

 

夕暮れ時に二人を柔らかく照らす太陽の光が、ほっこりとした日常の幸せを感じさせていた。

暖かな夕日が二人を照らし、日常の小さな幸せを感じさせる一瞬だ。杏子は、来年の進学計画について大樹に問いかけた。「ねえ大、来年進学でしょ、どうするの?」

大樹は肩をすくめて答える。「俺まだ一年あるじゃん、考えてないよ。」彼はまだ中学2年生。進学のことを考えるには少し早いと感じていた。

しかし、杏子はもう中学3年生。彼女にとっては進学を考えるタイミングだ。「私は今年なのよ!あんたより学年上なんだから、ちょっとは考えてよ」と杏子は焦りを込めて返す。

大樹は少し困惑しながらも、「俺は出来悪いから、地元の公立しか選択肢ないけど、キョッコは成績いいから私立でしょ?」とやんわり杏子を励ますようなからかうような話し方をした。

しかし、その言葉に杏子はちょっと立腹し、思わず大樹の足を踏みつけて、「ばぁ~か」と言って小走りで去っていった。

その瞬間、大樹の手からは、彼が楽しみにしていたコロッケが地面に転がり落ちる。

「あ~!コロッケ落としたじゃね~か!何だよ」と大樹は少し憤慨しコロッケを拾おうと前のめりになると、背中のバックからターボジャブがコロッケの上に落ちてきた「あ~もう!」といいながら夕日でシルエットになる杏子の背中を見送っていた。

二人は同じ年に生まれたが、杏子が2月、大樹が5月生まれで、学年では杏子が一つ上になる。この微妙な年齢差が、彼らのやり取りにユニークなスパイスを加えていた。”



「今の”だい(大樹)”はどんな人生を歩んでいるんだろう。結婚は?、恋人は?昔の私たちのように、ずっと変わらぬ友情を大切にしてくれる人が彼のそばにいるのだろうか。」心の中でそっと問いかけるていた。

 しかし同時に、過去の記憶を美化しすぎていないかという不安もよぎる。「もしかしたら、”だい(大樹)”は私のことなど、とうに忘れているのかもしれない。」

 

そう考えると、急に心が痛んできた。だが、その痛みさえも、過去への未練と今の私との間で生まれる新たな感情の一片に過ぎないのかもしれない。

 この混じり合った感情の中で、私はただひとつ確かなことを感じていた。それは、「”だい(大樹)”との再会が、それは何よりも特別な瞬間になるだろう」という期待と、自分のわずかながらの希望だった。

 時計を見るといつの間にか23時に成っていた。深夜に差し掛かる部屋の中で、私はふと決意を固め、気を取り直した。

 プロジェクトの打ち合わせの意味も兼ねて、そしてどこか私自身の好奇心を満たすために、「山本大樹」の現在の活動についてリサーチすることに決めた。ノートパソコンを開き、SNSやインターネットを通じて彼の足跡を辿り始める。

 検索エンジンに彼の名前を打ち込むと、画面には今の彼の写真やのアート作品、展示会の告知、そして多くの人々からの称賛のコメントが次々と現れた。

 彼がどれほどの才能を持ち、多くの人々に影響を与えているかが垣間見られる彼の作品の一つ一つに目を通すうちに、かつて共有した時間の中で見た彼の情熱、創造性が蘇ってくる。

 雑誌のインタビューの記事があった。彼の言葉からは、アートを通じて世の中とどう関わっていきたいか、自身の表現への深い思いが伝わってきた。

彼の成長した姿、変わらぬ情熱に心打たれながら、私は彼が今どんな思いで作品を創り続けているのか、ほのかな尊敬と共感を覚えた。

 時計の針が夜更けを指し示す中、私の目は画面に釘付けになり、彼の現在を知ることで心は少しずつ満たされていく。

しかし同時に、彼と直接対話し、彼の声を聞き、彼の目を見て彼の思いを直接感じたいという願望も強くなっていた。

 打ち合わせの日までにはまだ時間がある。このリサーチを通じて感じたこと、彼の作品から受けたインスピレーションをどう活かすか、どう彼と再び繋がれるか、心と頭はそれらの思考でいっぱいになった。

そして、夜は更けていく中で、私は前に進むための新たな一歩を踏み出そうとしていた。


”杏子が本に没頭する姿は、幼い頃から彼女の日常の一部だった。暇を見つけては物語の世界に飛び込み、現実を忘れるほどである。

その読書愛は、ある日、お風呂での読書中に熱中しすぎてのぼせ、緊急搬送されるほどの一幕も。

 

このハプニングがきっかけで、彼女の父親は自身が師範で趣味である弓道を杏子に勧め、杏子は読書と弓道、二つの世界に魅了されていく。
 
杏子の読書人生における転機は、中学1年生の時に訪れた。地元の図書館で手に取った小室直樹氏の「ソビエト連邦崩壊」がきっかけで、小室氏の熱狂的なファンになり彼の本をお小遣いで片っ端から買って読んでいた。

なんと、小室氏の歴史学論文集や政治学論文集はたまた、法学論文集まで、その後は他の学者の社会科学や自然科学、宗教、哲学書など世界の大きな仕組みを知ることが喜びだったようだ。
 
このように学問に熱中する杏子も、大樹同様に学校の授業には集中しないタイプだったが、大樹と違う所がそれでも成績はクラスでトップを維持するという、大樹とは異なる才能を持っていた。

中学3年の時に、担任から名門私立進学校への進学を勧められるが、杏子が選んだのは大樹が言った公立高校だった。

杏子自身は、「進学校も公立も、どちらも授業を真面目に聞くタイプではないし、好きな本を読めればそれでいい。お金も掛からないし。それに弓道部があるし。」という現実的な理由を両親に説明していた。

そんな彼女の言葉に、両親も納得せざるを得なかった。

高校では大樹は陸上の槍投げ部の選手で、杏子はで弓道部で汗を流していた。

 

小さい時から何時も一緒に遊んでいたので、高校生になっても当たり前の様に親しい友人として時間を共有していた。”



 夜更けの静寂が部屋を包み込む中、私はノートパソコンの前に座り、心を落ち着かせながらメールを書いていた。

名刺に記された「山本大樹」という名前と、彼がかつて描いた自分のデッサン画を交互に見つめながら、過去の記憶と現在の情感が交錯する。

 

忘れられなかった特別な絆を思い出していたが、画面に向かいながら深呼吸をして、キーボードを打った。

 今は、大樹へのメールは、ただの業務連絡を伝えることにした。

メール文
――――――――――――――――――
 先日は、本私の急用により「和洋画材の森本部長様」の打ち合わせに参加できず、代わりに辻元と田中が参加させていただきました。

 この場を借りて、お忙しい中、彼らを温かく迎え入れてくださり、貴重なお時間を割いていただいたことに心から感謝申し上げます。

 また、私自身が直接お会いしてお礼を申し上げられなかったこと、また、貴重な機会をいただきながら参加できなかったことを深くお詫び申し上げます。

 辻元と田中からは、打ち合わせの様子や山本様のご提案について、非常にポジティブなフィードバックをいただきました。

 山本様の作品に対する情熱やビジョンを聞き、私も大変感銘を受けました。今後、このプロジェクトを通じて、山本様との更なるご協力ができますことを楽しみにしております。

 改めて、先日は大変お世話になりました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 敬具

 ブルームエージェンシー 住田
――――――――――――――――
 


 ゼックスは、地域Dに「文字」と「神話」を与えるミッションを進める事にした。

 

彼らの文化と認識の枠組みを豊かにすることを目指し、神話のアプローチは、理不尽と思われる神話の中から、人々が自らテーマを見出し、哲学的思考へと発展させることを促す事が狙いだ。

 ゼックスファミリーが夕食を囲みながら、地域Dに与える神話と文字について熱心に討論していた。

ゼックスは宇宙羊の肉を頬張りながら「

 

神話ってのは、理不尽なもんだ。でもその中から、人間は自分たちのテーマを見つけ出し、哲学へと発展させていくんだよ(´~`)モグモグ」と説明していた。

 リーラが興味深げに尋ね「それで、私たちはどんな神話を伝えるつもりなの?」

 ゼックス「うちの星にもあるだろ、神様が全宇宙を作り、星をつくり、生命を作ったって話。(´~`)モグモグ」

 オンタ 「膨大な文献があるけど全部伝えるつもり?」

 ゼックス「いやいや、触りの一部分でいいんだよ、後は勝手に人間が都合のいいように附加ていくから。(´~`)モグモグ」


 ゾラが皮肉を交えて「なんか何時も火をつけてほっとくパターンみたいね。」

ヴィータも少し心配そうに「文字や神話を簡単におぼえてくれるかしら。」

 ゼックス「大丈夫、覚えた者に褒美を与えることで覚えたほうが得だと思わせるのさ。(´д`)ゴックン」

 ゼックス「そこで皆んなで、いろんな神話を考えて上げようと思う。文字に関してはオリメに考えてもらうのがいいかな。」

オリメ(AI)「ピ……分かりました。初期の人類に適した。文字を過去の資料を元に考えておきます。……」

ファミリー達は好き勝手に、新たな神話創造に向けて言い合っていた。

ゾラは夢見るような声で言い「私たちが作る神話は、ロマンチックで切ないものがいいわ。恋人たちが月明かりの下で誓い合うような…」

オンタは即座に反論します。「でもさ、神話って言ったら、やっぱり男女のドラマじゃない? 禁断の愛とか、悲劇の恋とかさ。」

リーラは理知的に笑いながら「それもいいけど、私は生命の創生についての神話が聞きたいな。どのようにして最初の生命が誕生したのか、その神秘を物語にしたい。」

キラとトラは眉をひそめながら言いました。「でもね、数字がないと、物語が生きてこないよ。僕たちが作る神話には、数学も織り交ぜないと。宇宙の法則を解き明かすような…」

ゾーランは深くうなずきながら付け加えました。「神話には哲学的な深みが必要だよ。人間の存在の意味とか、宇宙の秩序について考えさせられる話。」

などなど、皆んなその気になって、適当なことを言ってはしゃいでいる。

 ゼックスはこの創造的な混沌を見て、満足げに微笑みました。

 

「よし、それじゃあ各自で考えた神話を形にして、オリメに粘土板に記入してもらおう。そして、地域Dの住民たちに発表して、どんな反応があるか試してみよう。」

 ファミリー達は、それぞれが抱える熱い想いを刻む作業に取り掛かりました。

 

彼らの間の楽しげなやりとりは、新たな神話創造の冒険への、わくわくするような序章の様な遊んでるような。

  


 まずは言い出しっぺのゼックスが宇宙創生の神話を作った。やはり神話はここから始まらないと。セックスは物語が書かれてる粘土板をもって、地域Dの住民を集めて語り始めた。

 地域Dの広場に住民たちが集まり、静かな期待感が空気を包み込んだ。ゼックスは中央に立ち、手には粘土板がしっかりと握られている。

彼の周りには、様々な年齢の住民たちが半円を描くようにして座り、熱心な眼差しで彼を見つめている。

「かつて全てが無であった時、とてもとても寂しがり屋の神様がいました。神様はひとりくしゃみをしてしまいました。すると、その力のあまり、ひと粒の光が空間に飛び散ってしまったのです。

「おおっと!ごほん、ごほん、ごめんなさいっ!」

しかしその咳払いが、さらなる大爆発を引き起こし、星々や惑星がバラバラと生まれていきました。

 

神様は光アレルギー反応で目が腫れあがり、自分が生み出した宇宙に近づけなくなってしまいました。

自分が無心でくしゃみをしてしまった結果の惨状を見ることすらできませんでした。

困った神様は、目の腫れを冷やすためにいくらかの水を集めました。

 

しかしその量が多すぎ、宇宙に大洪水が起こってしまい、作られたばかりの惑星が流されてしまうハメに。

神様は手慣れぬ水切り作業に余計な力を入れすぎ、思わず大きなおならをしでかしてしまいます。

 

このおならのガスエネルギーによって、惑星たちはお尻からビュンビュン飛び散らされてしまいました。

「ああっ、ごめんなさい!うーん、どうしよう...」

やむなく神様は、おならで飛び散った惑星たちを管理するため、星の精霊たちを創り出しました。

 

この精霊たちは、神様のくしゃみでばら撒かれた光の粒子を集め、おならで飛び散った惑星に輝きを取り戻させる役目を持っていました。

ある日、一つの精霊が光の粒子を集め過ぎてしまい、その結果、予想外に明るい新しい星が誕生しました。

この星は「太陽」と名付けられ、宇宙のナビゲーションとして、航海する宇宙船にとっての目印となり、また、おならからのガスが集まって全てを吸い込むブラックホールも出来てしまいました...。終」

 ゼックスが宇宙創生の神話を熱弁すると、地域Dの住民たちは最初は口あんぐりとしていましたが、話が進むにつれて、その表情は一変していった。

 神様のくしゃみから始まり、おならで星が飛び散るというストーリーに、最初は信じられないという顔をしていた住民たちは、次第に笑いをこらえきれなくなって。

 一人がポツリと、「神様もおならするんだね」と呟くと、それが合図となったかのように、住民たちの間で大笑いの渦が巻き起こりました。

子どもたちは「おならでGO!」と言いながら、「ビュンビュン飛び散る星」の真似をしながら走り回り、大人たちも笑いながら「俺もくしゃみで宇宙を創れるかな?」とジョークを飛ばし合います。

住民の一人が、真面目な顔で言いました。

 

「神様も大変だな。光アレルギーにおならで星を散らばせちゃうなんて。でも、そのおかげで太陽ができたんだもんね。ありがたい話だよ。」

更に別の一人が、「ブラックホールって、おならから生まれるんだ。次におならする時は気をつけないと」と茶化し、これには周りも大うけでした。

 ゼックスはこの光景を見てにんまりとして、「神話ってのはね、こんな風にして人々の心を和ませ、笑顔をもたらすものなんだよ」と心の中でつぶやきました。

 地域Dの長老が最後に言いました。「ゼックスさんの話はいつも面白いね。今日からこの星には、くしゃみとおならで星ができるという素晴らしい伝説が加わったよ。これから子どもたちにも語り継ごうじゃないか。」

(おいおい、良いのかそんな事で……汗)

 神話が終わる頃には、地域Dの住民たちはすっかりゼックスのファンになっており、彼らの間では「くしゃみとおならの神話」が新たな笑い話のタネとして、長く語り継がれることになったのだ。
 


次にグランパ・モルフの神話が出来上がった。

 グランパ・モルフが語り始めると、彼の声は夜の静けさを切り裂き、聞き入る人々の心に直接響き渡る。彼の話す神話のシーンは、言葉を超えたイメージとして、聞き手の想像の中で vividに描かれる。

「昔々、光と闇の国が隣り合わせに存在していた。


これがまた非常に奇妙な関係で、光の国には、エレナという女神がいました。
 
彼女は光を操ることができ、その美しさは言葉に尽くせない。

 

しかし、彼女の光は少々変わっていて、観測者によって色が変わるという特性を持っていた。

 一方、闇の国にはモルクスという、いたずら好きの神がいました。

 

モルクスはエレナの光に興味津々で、常にその光を自分の国に持ち込もうと画策していた。

ある日、モルクスはエレナの光を盗む計画を実行に移しましたが、ここで「量子の絡れ」が起こり彼が光を盗んだ瞬間、光は「重ね合わせの状態」になり、同時に存在しているかのように闇の国と光の国の両方に現れました。

 これにはエレナもモルクスも大混乱。

 

エレナは自分の光が見えるはずがないのに見えてしまうし、モルクスは盗んだはずの光がまだ光の国にあることに頭を抱えました。

さらに、この光は観測する者の意識によって色が変わるのですが、その色は人によって全く異なり、中には「透明」と言い張る者もいました。

 これがどういうわけか、光と闇の国の間で「何色が最も美しいか」という大議論を引き起こし、結局、それぞれが見たい色を見ることに落ち着いた。

その後、エレナとモルクスはこの奇妙な現象を利用して、光と闇の国を結びつける虹橋を作ることに成功した。

 この橋は、見る人によって色が変わる不思議な橋として、両国の象徴となりました。

そして人々は学んだ。世界は観測する者によって変わる。

 

矛盾して見えるかもしれなが、それでいいのだと。光も闇も、全部ひっくるめてこの不思議な世界の一部なのだから。」

グランパ・モルフが粘土板の文字を使って、神話を熱心に語り終えた時、人々の反応はまさに様々のようで、

 

一部は「光の橋を渡ってみたい!」と興奮しながら話し合っていたり、「透明な色ってどげん色だ?」と首をひねる者もいた。

一人の男性が口を挟んだ。「わがった。”重ね合わせ”って夜の営みのことだんべ、」

隣りにいた男も手を叩いて「あ~ぁそうか!そりゃぁ”モツレ”とるがな~。おめんとこカミさんわけ~から、毎晩重ね合わせでモツレとるがな~ガハハハ。」

「いやっまてよ”盗みに入る”って夜這いだんべ。」

「だから、あっちにもこっちにも自分のガキが出来たってことか……」

グランパ・モルフはこの様子を見て、「……まっいいか……」。

 

人々の素朴な疑問や、それぞれが自分の理解の範疇で神話を解釈する姿は、まさに彼が伝えたかった「世界は観測する者によって変わる」という教訓そのものであったのでほっといた。


(次回は少し美しい神話を作ります……(♡ᴗ͈ˬᴗ͈)⸝  たぶん)
 

部下:辻本 恵美(女)、田中 聡(男)

 僕が良く利用している、大手画材店「株式会社和洋画材」からの紹介で、陸上競技イベントのポスター制作を任されることになった。

 

このイベントは陸上連盟が主催し、全体を総括する広告代理店の担当者との初対面も兼ねた打ち合わせが和洋画材の会議室で行われる予定だ。

 和洋画材の部長、森本さんと僕は、打ち合わ前に少し時間があったので、会議室でコーヒーを飲みながら談笑していた。


なんと森本部長は、僕がアルバイトをしているコンビニの店長の弟さんだった。森本さんたち兄弟とはそれぞれに長い付き合いがあるので、この偶然には本当に驚かされた。

 

こんなに世間は狭いのかと、改めて感じ入った。ズボラな僕は、今日の打ち合わせの代理店さんがどこかも知らなかった。

 10:30ピッタリに代理店さんの男女二人が会議室に入ってきた。代理店の方と森本部長は以前から面識があるので、ひたしく挨拶を交わして、僕は少し緊張しながら名刺交換をした。


名刺を見ると「ブルーム・エージェンシー・ Inc(BAI)大手の広告代理店だ。」と心のなかで囁いた。

女性の方から挨拶をしてきた、「始めまして、ブルーム・エージェンシーの辻本と言います。」「始めまして、田中と言います。」

「今回、森本部長さんから紹介いただいた、山本大樹と申します。よろしくお願いします」などと堅苦しく挨拶をした。
 

 挨拶が終わると、森本部長が「今日は住田君は来ないの?」

辻本さんが慌てて「すみません。住田は急用が出来てしまいまして、森本部長には改めてご挨拶に伺うとのことで、今回は田中と二人で参りました。」

「いや、別にそんな堅苦し事言わなくったっていいんだよ。そっか住田君に会わせたかったな~っと思っいただけ」森本部長はそう言ってコーヒーを口ん運んでた。

 

僕は二人の会話を聞きながら「住田?もう一人お偉いさんが来る予定だったんだ。」と大して気にもとめていなかった。

その後、代理店の方々から全体のブランやイメージなどを聞きながら、僕は、二人の似顔絵を描いていた。

 

一通り説明が終わると、森本部長さんは、辻本さんと田中さんの方を見て「後は任せたから、山本君と話してくれ。」と言って席を立った。

 森本部長が席を立った後、代理店の二人は少しホッとした感じで眼の前の冷めたコーヒーを口に運んでした。


僕は画材バックから、数枚絵を取り出して二人に見てもらった。実際の絵を見てもらったほうが、メールや写真を見せるより印象がはっきり分かると思ったので、重かったけど持参してきたてた。

「これは、パステル、こっちは油絵、アクリル画で、これがCGです。」


辻本さんはそれぞれの画を手に取り「へ~実際に見ると印象がぜんぜん違うものなんですね。どれも素敵です。」


男性の田中さんも「見比べると、やっぱりCGって、何か空気感が無いと言うか、温かみに欠けると言うか…結構違いますね。」まじまじと見比べていた。

 

「でも、ポスターだと直しとか変更とか有ったりするからCGの方が楽なんでしょうね。」

僕は笑いながら「そうゆう仕事のときはそうですね。でも今回はレイアウトは別の方がやりますから。気が楽です。」

 打ち合わせが終り、二人が帰社する時、「あっ、これ差し上げます。少しラフですけど」僕は二人の似顔絵を渡した。

辻本さんが驚いて「え~!素敵。私こんな美人じゃないですけど。嬉しい!帰ったら皆んなに自慢しちゃお。」と少女の様に弾んでいた。

田中さんも「いつの間に描いていたんですか~、あっあの時てっきりメモってると思っていた」

 

「俺、こんな知的な顔してないけど、ありがとうございます。お見合い写真代わりに使わせてもらいます。」と冗談まじりに笑って喜んでくれた。

 僕は森本部長に挨拶をして和洋画材を出て、まだお昼前。せっかく都心まで来たんだから、久しぶりにミニシアターでも観てから帰ろう。

ブルーム・エージェンシー

 ブルーム・エージェンシーに戻った私は、上司からの急用を済ませた後帰社すると、事務所がいつも以上に活気づいているのを感じた。

 

どうやら、田中さんと辻本さんが和洋画材での打ち合わせから戻ってきたらしい。辻本さんが手に持つ紙に皆が集まり、賑やかな声が飛び交っている。

「見てみて、これ、打ち合わせのときに描いてくれた似顔絵よ!」辻本さんは得意げに紙を振り、他の同僚達も「すごくいいね、ちゃんと特徴を捉えてる。でも、ちょっと美化しすぎじゃない?横に並べてみようよ」と笑いながら提案していたりしていた。

 私が「ただいま」と言いながらデスクに向かうと、周りの皆が一斉に「主任、お疲れ様です!」と迎えてくれた。 

 

「主任、急な用事があって大変でしたね。大事な打ち合わせだったのに」と田中さんが同情してくれる。

「ま~、それも仕事の一環よ。とにかく無事に片付いてよかったわ」と応え、椅子に腰掛けた私は、好奇心が先走り、「今日の打ち合わせはどうだったの?アーティストの方はどんな人?」と辻本さんと田中さんに尋ねた。

「それが、ね、何と言ったらいいのかしら…山本さんって、なんだか周りを暖かなオーラで包み込むような雰囲気があって、話し方もすごく柔らかいの。それに、見た目もハンサムで、32歳で独身って言ってたわよ……」

私は少し呆れ気味に、「はいはい、分かったから、森本部長のオススメだから仕事もちゃんとしてるでしょう。でも、作品のサンプルはもらってこなかったの?」と尋ねた。

田中さんが「あ、そうだった!」と言いながら、「主任が急用で来られなくなったから、カラーコピーをいくつかもらってきました」と言って、コピーされたサンプルと名刺を私のデスクの上に置いてくれた。

「主任、実際の絵を見ると全然違うんですよ。吸い込まれるような、変ですけど、飛び出してくるような」

私が彼らの話を聞きながら名刺を手に取り、「山本大樹」という名前を目にすると、心のどこかで「もしかして、あの大樹?」という思いがよぎった。

 辻本さんが話した彼の特徴を聞き、「主任、これ、山本さんが打ち合わせの時に描いてくれた私たちの似顔絵なんですよ」と、辻本さんが嬉しそうに見せてくれた似顔絵には「Yamamoto」とサインがしてあった。

「これは、間違いなく“大(だい)”ね…」と心の中でつぶやきながら、長い間心の奥深くにしまい込んでいた記憶が甦ってくるような感覚に襲われた。

私は、似顔絵を手に取りながら、長年忘れていたあの頃の情景が目の前に広がるような感覚に包まれていた。

車窓

 都内から自宅に戻る夕暮れの特急電車の中で、僕はひとり小さな打ち上げを楽しんでいた。売店で買った冷えたビールを片手に、窓外の流れゆく景色に目をやる。時々、眩しい日差しが差し込んでくる。

 後は10日後にブルーム・エージェンシーの担当者と陸連の方との顔合わせ。それまでおおよそのサンプル画を描いておく必要がある。代理店の方はメールでやり取りするとのことだったので、それまでは、自宅にこもって創作活動に性を出かっと考えていた。

 車窓と言うキャンパスでは、薄紅色に染まり始めた空の下、都市の建物が次々と後ろへと流れていく中、動きを止めた雲が静かに空に浮かんでいる。

その雲たちは、まるで時間さえ凍りつかせてしまったかのように、穏やかに、しかし堂々と佇んでいる。

僕の心は、この移ろいゆく景色と、永遠の静寂を纏う雲との対比に、何とも言えない感慨深さを覚えながら、ビールの冷たさとともに、この瞬間の静けさを噛みしめていた。


 夕暮れが迫る街並みを背にして、私たちはクライアントとの長引いた打ち合わせを終え、疲れた足取りでオフィスを後に。辻本さんと私は、今日はもう遅いしそれぞれの自宅に直帰することした。

「相変わらず難題をぶつけてくるお客さんですね。主任は平気なんですか?」辻本さんは少し驚いたような顔で私に尋ねた。彼女の声には打ち合わせで感じたプレッシャーがまだ残っているようだった。

「あの程度なら、いつものことよ。相手以上の準備をしてれば何にも臆することはないわ。」私は笑いながら答えた。

 そして、ふと時計を見て、もうこんな時間かと思い、「それよりも少し遅くなったけど、どっかでご飯しない?おごってあげる。」

辻本さんの顔が明るくなり、「わーい、今月ピンチだったから助かります!」と嬉しそうに言った彼女の明るい反応に私も心が少し和む。

「でもね、皆んなには内緒よ。規則違反になるから。」私は少し顔を寄せて小声で念を押した。

「わかってますよ。憧れの主任とご飯食べるなんて、しあわせすぎます!」辻本さんは目を輝かせながら言った。彼女のこの言葉が、疲れた心にほっと一息つかせてくれる。

私たちは、周りを気にしながらも、親しげに話をしながら、近くの居酒屋に足を運んだ。

 

店の温かい灯りが、夜の訪れを告げる街。この一日の終わりに、ふたりで過ごす食事は、仕事の疲れを忘れさせてくれる時間になりそうだった。
 
 彼女(辻本恵美)は私より6つ下の26歳、入社して4年、入社当時から、何時も笑顔が印象的で社内だけでなく取引先でも人気がある。


 今日のクライアント方も「彼女(辻本さん)は来ないの?」と尋ねられたことがあったので一緒に来てもらった。

 

彼女は何時も周りを明るくしてくれる能力があるみたい。とにかく回りを和ませてくれる特殊な能力が備わっているかのようだ。勿論、仕事もちゃんとできる。
 
 プレッシャーが高まる状況でも、忙しさが極まる時でも、彼女だけは常に笑顔で頑張ることで雰囲気を和らげてくれる存在。

 

正直なところ、私自身には彼女が自然と持っているそうした才能が少し羨ましいく思う。


 彼女は食べながら喋ることも止まらない。化粧品の事、ファッションの事、美容院やダイエットの事などとにかくなんでも出てくるのが、私は楽しかった。
 
「ねぇ、主任の今日着ているジャケット、OLD ENGLAND(オールドイングランド)でしょ。いいな~大人っぽくて、10万でも買えないですよね」

 彼女はファッションにも詳しく「OLD ENGLAND、Brooks Brothers、Brooks Brothers……イギリス系のブランドって何か大人の品がありますよね~いいな~。ニューヨク系のPaul Stuartも品がありますよね。そんなスーツが似合う女になりたい!」

「何言っての。辻本さんだって十分似合ってますよ。それに私なんかよりずっと可愛いし。こっちが羨ましわ。……」
 
 お酒も少し飲んでいたので、彼女との会話で仕事の緊張感からもほぐれてきた頃。


「主任はお休みの日とか何しているんですか?弓道をやってるのは知ってますけど、他は?」
 
「そ~ね~。本を読んだり、ネットで興味のある論文を見たり、ピコとおしゃべりしたりかな~」私が答えると、


「えっビコ?」彼女が首をかしげた。
 
「インコなの、オキナインコって種類で少し大きめなんだけど、おしゃべりが上手なのよ」
 
彼女は少し考え様子を見せて「ねぇ主任は、彼氏とかいないんですか?」
 
 私は少し驚いて「う~ん。居ないわね~」少し考えて「ほしいような時もあるけど、面倒くさいかな~。仕事の事だけでも精一杯だからね。」

「え~っもったいないな~。頭は切れるし、美人だし、スタイルいいし。持てない要素が無いのに……」

 私はチョットだけからかってあげようと思って、「でもね、ジ・ツ・ワ。結婚したことはあるのよ」

 彼女はびっくりして「えぇ~!」と大きな声を上げ、慌てて口をふさいで。

 

「大スクープ!月も海に落ちそうなくらいの驚き。ねっね、誰と、聞かせて、教えて、絶対喋らないから~お願いします。」

 私は微笑みながら、「それはね、6歳の時に近所の男の子と両親の前で。」


「な~んだ。おままごとの事ですか~ぁ。驚いて損した。」彼女は拍子抜けした様子。

 「そう、驚かせてごめんね。でも、そんな子供の頃の約束があるのよ」と笑いながら話を締めくくった。

 辻本さんの明るさは、私が日々のストレスに対処するのを助けてくれる。彼女との会話の中で、私は仕事のプレッシャーを忘れ、笑顔になることができ、彼女と話していると、私ももっとポジティブになれるような気がする。

 楽しかった。辻本さんとの夕食も終わり二人はそれぞれ帰宅していった。


 私は、自宅に戻り明日の仕事の書類を整理した後、明かりを消すとピコが「おやすみ、おやすみ」と声をかけてくる。

 

私も「おやすみ」と返してベットに入った。今日はお酒も少し入っていたのでゆっくり眠れそうだ。

やがて、私は気づかぬうちに眠りに落ち、夢を見ていた。それは子供の頃に体験した結婚式の夢だ。

どこで行われていたのかは定かではないが、小さな私がある男の子と一緒に、「王子様とお姫様」の物語を演じているようだった。

 



その男の子は真剣な表情で「ねえ、キョッコお姫様、僕と結婚してくれる?」と提案した。

私はその純粋で遊び心あふれる提案にすぐに心を動かされ、「うん、いいよ」と素直に答えた。

その場で、私たちは小さなベンチに腰掛けて、お互いに結婚の約束を交わした。

夢の場面が変わり、多くの椅子が並べられた部屋にいた。その部屋はなぜか懐かしく、見慣れた場所のようだった。

そこには三人の大人がおり、そのうちの一人は私の若い頃の母親であることが分かった。三人はとても楽しそうに笑っていた。

そして、私たち二人は椅子の上に立ち、「あなたはキョッコを永遠に愛することを誓いますか?」と尋ねられる。男の子は力強く「はい、誓います」と答えた。

次に私に向けて「キョッコは、彼を永遠に愛することを誓いますか?」と尋ねられると、私は少し照れくさいながらも「はい、誓います」と答えた。

その瞬間、大人たちは私たちの頭上から花びらや枯れ葉のようなものを降らせてくれた。

母親は「あら、大変、お父さんにも見せないと」と言って、三人は大笑いしていた。


 夜が深まり、部屋は静寂に包まれていた。私は、ふと目を覚ますと、まるで無意識のうちに涙を流しているかのように感じた。

 

薄暗い部屋を、ほのかに照らす常夜灯の光が、静かに時間が流れていく様子を物語っている。ピコも寝ているようだ。

 夢から覚めた私は、一瞬、現実と夢の境界が曖昧になったような気持ちになっていた。

 

小さな約束が心のどこかでずっと私を支えていたのかも。しかし、現実の世界では、そのような純粋な約束は簡単には守られないことも知っている。

 私の視線は、部屋の片隅にある本棚へと自然と向かう。

 

そこには、博士号取得時の写真が大切に飾られている。その写真の横には、特別なものがあった。それは、弓道着を身にまとった私の姿を鉛筆で丁寧に描いたデッサン画だ。

 この絵と写真は、私の人生の重要な瞬間を刻んだ宝物で、部屋の中で静かに自分の存在を語りかけてくる。

 

私は、涙の理由を考えないように振り切って、もう一度布団の中に潜り込んだ。

 

 部下:辻本 恵美(女)、田中 聡(男)
 
 私は、ブルームエージェンシーに勤めるマーケティングディレクターとして今回、地方自治体の教育委員会から非常に意義深いプロジェクトを任された。
 
 この仕事は、モデル市を設定して小学生と中学生の学業成績の個別分布を解析し、より効率的で効果的な教育制度を設計すること。

 

このプロジェクトには、ただ成績を向上させるだけではなく、すべての生徒が公平な教育を受けられるようにするという、社会的な意義が込められていた。
 
プロジェクトの初期段階で、私たちは地方自治体の教育委員会の会議室に集まっていた。部屋は緊張感で満ちており、私の前には教育委員会のメンバーやモデル学校の校長先生方が座っていた。

「住田さん、私たちが望んでいるのは、ただの数字上の改善ではありません。」教育委員会の委員長、鈴木氏が話し始めた。


 「私たちは、すべての生徒が平等に質の高い教育を受けられるような制度を望んでいます。それには、学業成績だけでなく、生徒一人ひとりの家庭環境にも目を向けなければなりません。」

 私は深く頷きながら答え

 

「理解しています。私たちも、生徒の家庭環境が学業成績にどのように影響しているかを詳細に分析するつもりです。例えば、母子家庭や共働きの家庭、収入格差や障害を持つ生徒のサポート体制など、多様な背景を把握することが重要だと考えております。」
 
 鈴木氏は続けて、深刻な表情で強調した。

 

「そして、我々が直面しているもう一つの大きな課題は、教職員の負担軽減です。現在、教員は多岐にわたる業務に追われており、その労働環境は決して良いとは言えません。」

 

「教育を一般の職業として確立させるためにも、教務作業の効率化を図り、彼らの負担を軽減する必要があります。」
 
 私は鈴木氏から挙げられる問題点に耳を傾けながら、これらの要点をメモに取り、同時に頭の中でどのようにアプローチしていくべきかを考え始めた。

 

確かに、教職員の作業効率化は、ただのデータ分析以上のアプローチが必要であることを認識していた。
 
 それらの重要性を踏まえ、私たちはさらに具体的な情報収集の方法を検討し最終的に、教育現場の生の声を集めるため、WEB上にアンケートを設置することに決定。

 各学校の先生方に、日常の教務作業で直面している問題点や、効率化を図るために求められるサポートについての意見を記入してもらうよう依頼した。

 このアンケートは、教育委員会との初会合から数日後に公開され、全市の小学校と中学校の先生方にメールでリンクが送られた。

 回答期間は2週間と設定し、可能な限り多くの先生方の声を集めることを目指し、このアンケートを通じて、教員の日々の業務における具体的な課題や、改善を望むポイントが明らかになることを期待していた。

 その後、会社に戻りプロジェクトチームの部下達に私は指示を出していた。
 
 「辻本さんは、教育委員会と先生方から各ヒアリングの趣旨をまとめて。」

 「それと、田中君は、委員会から得た情報を基に、家庭環境と学業成績の関連性を分析してみて。成績と収入の相関関係と因果関係を明確に。特に、学業に影響を与えうる家庭の客観的な情報に注目して。」
 
 田中君は待ってましたとばかり意気揚々に「分かりました、主任。このプロジェクトは、私たちにとっても新しい挑戦ですね。全力で取り組みます。」

 部下の辻本は今回の提案書を整理しながら、「ねぇ主任、このプロジェクトは元々、文部科学省の内部プランの一環として立ち上げられた物でしょう。国が直接手を下すべき案件だと思うんですが。」
 
「確かにね。だけど、実情としては、詳細なデータ分析に必要な生データを持っているのは地方自治体各自で、文科省には大枠のマクロデータしか集約されていないの。そのため、省内では個々の学生や学校の詳細にわたる分析を実施することができないのが現状なのよ。」
 
 私はパソコンで作業しながら「それにね辻本さん!データ分析の専門的ノウハウも省内には乏しい。このような詳細な分析と専門知識を持ち合わせているのは、実は民間企業の方が圧倒的に優れているのよ。」

田中君が話に割り込んできて自信げに「そこで文科省は、民間の力を借りて具体的な分析と提案を行うことに決めた。って事さ。ただ、予算少ないけどな。」
 
辻本さんはため息を付いて「それにしても、気の長い仕事ですね~商品マーケやイベントの様に”ハイ、これで終わり!”って訳じゃないもんね」
 


 数日後、プロジェクトの途中、チーム内での緊張が高まる一幕があった。部下の田中君が、学業成績と家庭環境のデータ分析に苦戦していることが発覚。

 

データの膨大さと複雑さに圧倒され、彼は何度も夜遅くまで残業を続けていようだった。
 
 夜21時ごろ、私は次回の報告書の整理が終り帰ろうとすると。田中君がひとりで暗いオフィスに残って作業しているのを見かけて「田中君、もうこんな時間だよ。大丈夫?」声をかけると、彼は疲れた表情で顔を上げた。

「すみません、主任。このデータ、どうにもこうにも...」彼の声には挫折感が滲んでいた。
 
「もう今日は帰りなさい。大丈夫!なんとかなるから」と慰めて帰宅させた。


 翌日、私はチーム全員を集め状況を共有することにした。「みんな、田中君が一人で抱え込んでいる問題は、チーム全体の問題よ。私たちはチームとしてこれを乗り越えましょうね。」
 
皆んなは優しく「なんだよ。言ってくれればいつでも手伝ってあげたのに」とチームメンバーたちは一致団結し、田中君をサポートするために力を合わせ始めていった。
 
データ分析のエキスパートである辻本さんが、田中君にデータ処理のテクニックを伝授。

 

「ここの統計関数はCONFIDENCE.T を使うよ。スチューデントの T 分布を使用して、母集団に対する信頼区間……」
 
また、デザインを担当している佐藤さんは、報告書の視覚化を効果的にするためのアイデアを提案してた。「

 

ここは、分布の統計図表を使うと分りやすいと思うよ、視覚的な情報は、文字だけの情報よりも記憶に残りやすいから……」

この協力の結果、プロジェクトは大きな進展を見せ、分析作業がぐっとスムーズに進むようになりそして、ある朝、田中君が嬉しそうに報告してきた。

「主任、やりましたよ!家庭環境と学業成績の関連性、明確な傾向が見えてきました!」彼の顔は達成感でいっぱいだった。

 その日の午後、私たちは小さな成功を祝うためにオフィスで小さなパーティーを開きました。チームメンバーたちが笑顔でお菓子を分け合いながら、この先のプロジェクトの成功を誓い合った。
 
「皆んなさん。ありがとうございました。ほんと自分が勉強不足でスイマセン。」
 
 主任としての私は田中君を称えながら全員を称えた。
 
「この統計資料は、多分、誰も見たことが無い位の素晴らしい内容だわ。十分、社会科学の論文として投稿しても恥ずかしくない出来よ。私が太鼓判押します。」
 
 この一連のやり取りを通じて、私たちのチームはただの同僚以上の強固な絆で結ばれることになり、それぞれの専門性を活かしながらも互いを尊重し、時には互いの負担を軽減するために手を差し伸べ合い、チームとして一丸となって目標に向かうことの重要性の大切さを改めて実感した。
 
 社内外からの温かい協力も得ながら「仕事は人である」と……つくづく思っていた。

 この仕事を経て、部下達はただのマーケティング部ではなく、社会に貢献する力を持ったプロフェッショナルとしての自分達を再発見したようだった。

 

データを通じて、教育のあり方を少しでも改善できるかもしれないという希望を持ちながら、新たなデータの大海原を泳ぎ続けていた。

 

 

 朝の光がマンションの窓を通して部屋を照らし始めると、私は一日の始まりを迎える。

 

オキナインコのピコがケージの中でさえずり、その声が私に「今日も頑張ろう」という気持ちをくれる。

 

朝食を済ませ、スーツに袖を通し、ブルーム・エージェンシー・ Inc(BAI)での一日が始まる準備をする。
 


 オフィスビルのガラス張りのドアを押し開け、足早にロビーを横切ると、エレベーターで数階を上がり、ブルームエージェンシーの広々としたフロアに足を踏み入れる。

 

朝日が大きな窓から差し込み、オフィス全体を柔らかい光で包んでいる。

 私は、いつものように自分のデスクに向かう代わりに、今日のアジェンダを手に会議室へと進む。今日の議題は、新しいキャンペーンのデータ分析結果の共有。

 

私の手がけるプロジェクトは、データサイエンスを駆使して消費者の行動を予測し、より効果的なマーケティング戦略を立てること。部下たちが集まり、私はプレゼンテーションを始める。

「このキャンペーンで、我々は特定の顧客セグメントに焦点を当てました。データ分析により、そのセグメントが最も反応を示すメッセージングとチャネルを特定できました。」

 

画面には複雑なグラフと数値が映し出され、私はそれらを丁寧に説明する。質疑応答の時間になると、全員からの質問に答え、ディスカッションを深める。

 

私の目指すのは、チーム全員がデータを理解し、それを基に戦略を練ることができる環境を作ることだ。
 
 私、住田杏子32歳、プリンストン大学で統計経済学の博士号を取得した後、自分のキャリアをマーケティングの世界に捧げることを決めた。

 

その学位は、ただの肩書きではなく、データを読み解き、その背後にある物語を見つけ出す能力の証だ。

 私の部屋には、その博士号取得時の写真が飾られており、毎朝それを見るたびに、私が選んだ道への自信と責任感が新たになる。

 

私が博士号を取得した理由は、単に高度な学術的成果を追求するためだけではない。

 

それは、複雑なデータを解析し、新しい洞察を生み出す力を身につけ、それを実社会の問題解決に応用するためだった。


 しかし、日本の多くの企業では、PhD取得者が持つこのような能力の価値を見出し、適切に活用する方法をまだ模索している段階にある。
 
 ブルームエージェンシーを選んだのは、守りよりも攻めの姿勢を持つ組織で、自分の能力を存分に試せると感じたからだ。

 

トップクラスの会社も魅力的だったけれど、No.3のこの場所こそが、私にとっての挑戦の舞台となった。

 私がデータサイエンスをマーケティング戦略に取り入れる提案をした当初、理解を得るのは容易ではなかった。

 

PhD取得者としての私の視点やアプローチは、従来の方法とは異なっていたため、受け入れられるまでに時間が必要だった。

 しかし、粘り強く提案を続け、誰も手を付けられなかったその領域で、私は自宅でも休むことなく作業を続け、入社当時から2年の時を経てようやく認めらる用になっていた。

 今、私は日本の企業におけるPhD取得者のポテンシャルを解き放つことの重要性を改めて感じている。

 

データサイエンスを取り入れたマーケティング戦略は、この会社では私が提案し、実現させたもの。

 

データ分析自体の難しさよりも、データの収集と処理の方法を会社に根付かせることが真の挑戦だった。

 私の両親はいつも自分のことを心配していて、時々「結婚」などと言ってくる。女性としての生き方も色々有っていい。今は、仕事に没頭している自分の方が断然好きだ。
 
 データ分析は私の剣、マーケティング戦略は盾。競争の激しいこの業界で、私たちのエージェンシーをトップに押し上げるため、私は常に全力を尽くしている。

 休日には弓道場で過ごす事が多い、私にとってはリフレッシュの一環。

 

仕事のプレッシャーから離れ、自分自身と向き合う貴重な瞬間だ。弓を引くという 所作の中で、静寂と心が洗われるようだ。
 
 私の父は小さな町で工務店を営んでおり、弓道7段の街の名士。私も大学まで弓道を続け、四段を持っている。

 

時々、都内の弓道場に足を運び、弓を引くことで心を整える。父から受け継いだこの技術は、私にとって仕事のストレスを忘れさせてくれる貴重な時間だ。

 オフィスでは昼食を取りながらも、頭の中は次のプロジェクトのことでいっぱい。

 

食後はクライアントとの電話会議。彼らに最新の分析結果を共有し、キャンペーンの方向性について意見を交わす。私の提案がクライアントから高い評価を受けると、心の中で小さな勝利を祝う。

 夕方になると、今日一日の成果を振り返り、次のステップを計画する。部下が一日の終わりに報告を持ってくると、それに目を通し、フィードバックを与える。

 

私たちの仕事は終わりがない。常に次へのステップを考え、改善を重ねていく。

 オフィスを出る時、私は達成感と疲労感の両方を感じながらも、明日への期待を新たにする。この日々の積み重ねが、ブルームエージェンシーを業界でのさらなる高みへと導く。

 私は自分の選んだ道に誇りを持っている。挑戦することの喜びと、成果を出すことの満足感は、私にとって何物にも代えがたいものだ。

 確かに、女性としての「普通の」生き方からは少し外れているかもしれない。だが、仕事に情熱を注ぐことで、自分自身を最も表現できている。これからも、自分の能力と情熱を信じて進んでいく。

 私の生活は、一見、充実しているように見えるかもしれない。だが、常に高い目標を追い求め、多くの責任を背負う中で、心の平穏を保つのは容易ではない。

 ピコのさえずり、弓道場での一射、それらは私の心を静め、日々の戦いに必要な力を与えてくれる。自分のルーツと現在の自分をつなぐ、そんな存在に頼っているかもしれない。

 

 

 

朝日がゆっくりと地平線から昇り始めるその瞬間、川のほとりで静かに風景画を描き始めていた。

 僕の前に広がるのは、朝露で濡れた草花と、遠くに広がる静寂に包まれた森林の風景。キャンバスを川岸にしっかりと立て、周囲を包む自然の一部となるよう心を静める。

柔らかな朝の光がキャンバスを照らし、自分の影がぼんやりと川面に映る。

 筆を手に取り、目の前に広がる美しさを形にしようとする。

 風が髪を優しく撫で、森林から漂ってくる土と木々の香りが感覚を刺激する。

 この瞬間、時間がゆっくりと流れるのを感じながら、彼は全ての音――川のせせらぎ、木々のざわめき、遠くで聞こえる鳥の鳴き声――に耳を傾ける。

スケッチを始める僕の手は、自然から受け取ったインスピレーションをもとに、自由に動き出す。

 心の中は、描かれる景色と一体化していくようで、その瞬間、純粋な創造の喜びに満ち溢れてる。

 キャンバス上に広がる色彩は、ただの風景を超え、僕の内面から湧き出る情感の表現となる。

このひととき、自分自身と深く向き合う貴重な時間だった。

 僕がこの川のほとりで過ごす時間は、アーティストとしてのアイデンティティを再確認し、新たな創作活動への意欲を高めるもの。

 心は、この穏やかな自然の中で見つけた平和と、描くことへの無限の愛によって満たされていく。

 
 僕が絵を描き始めたのはいつからか、自分にもはっきりした記憶はない。しかし、自分にとって絵筆を持つことは、まるで呼吸をするように自然なことだった。

 中学の授業中、僕の注意は教室の四隅に向けられていた。

 

黒板に向かう先生の横顔、同級生たちのさまざまな表情、窓の外に広がる風景――これらすべてが、僕のB4サイズのノートに緻密に描き出されていった。

 特に楽しかったのは、黒板に書かれた文字や数式を風景として捉え、それらを彼の創造的な視点からアートワークに変換していく作業だ。

 数学の授業では、複雑に絡み合う数式が幾何学的なパターンや抽象的なアートに変わり、英語の授業では、文章解釈がビジュアルストーリーへと昇華された。

中学の頃、僕のこのユニークな才能は先生方にも知られるようになった。

注意をしようとした先生も、僕のノートを覗き見ては、その驚異のディテールとオリジナリティに言葉を失ったものだ。

 ある数学の先生は僕のノートを見て、「これはなかなか精巧なメモだ」と笑って言ったことがある。



 実際、僕のノートには授業の内容が細かく記されていたけれど、それは文字ではなく、僕なりのビジュアルで描かれていたから、授業を理解するのにはあまり役立たない。

 だけど、その創造力は誰もが認めてくれた。

 絵を描くことは、僕にとって単なる趣味や遊びを超えたもの。それは僕自身を表現する手段であり、自分の考えや感情を形にする過程だった、そんな気がする。


授業中に描いた落書きから始まった僕のアートへの情熱は、時を経て僕の人生に色を加え、僕のアイデンティティの一部として育っていた。
 
 そう、アイデンティティといえばもう一つの存在証明として、僕は、なんとなく他の奴らとは違うものに挑戦したくて、ジャベリックスロー、つまり槍投げに手を出した。

 

槍のかわりに70センチのターボジャブを投げる競技だ。

周りからはちょっと変わっていると思われてたかもしれないけど、僕にとってはただ単に「珍しいから」という理由以上のものがあった。
 
 県大会に出場するものの、成績はいつも中堅で終わってしまう。けれども、僕はそれでもジャベリックスローを続ける。


 それは、ただの成績や結果以上のものをこのスポーツから得ていた。
 
 投げるたびに、自分の中にある何かを超えようとする挑戦。

 

そして、ターボジャブが空を切り裂く瞬間の爽快感。これらがにはたまらなく魅力的だった。

 さらに、僕の心にはもう一つ、不順な動機があった。それは、ひそかに憧れていた女子が弓道部に所属していたことだ。

 彼女の弓を引く姿は、とても印象的でその集中力と美しさに心惹かれていた。

 そんな彼女に対抗するため、また少しでも彼女に近づくため、不順にもジャベリックスローに更に熱中するようになる。

 彼女に匹敵する何かを自分も持ちたい、そんな少し子供っぽい競争心が僕を駆り立てたんだ。ま~あるあるだよね。

 中学の文化祭でスポーツデモンストレーションが行われることになった。僕はいいとこを見せようと、こっそりと特訓していた。

 

デモンストレーションの日、晴天だった。

 僕はこれまでで最高の一投を放つ。ターボジャブは美しく空を舞い上がり、まるで意志があるかのように空を舞い、僕の想いと共に高く、遠くへと飛んでいった。
 
 その瞬間、彼女の目が僕に注がれているのが感じられた。

 彼女も、僕の一投を見ていたんだ。

 僕は内心で小さな勝利を喜んだ。

 それは僕のジャベリックスローへの情熱だけでなく、彼女への淡い思いが成し得た奇跡のような瞬間だった。