「親子で考える税と社会保障入門」リーズでは、人生100年時代を歩むうえで必要となる税と社会保障に関して、親子で考える素材を提供しています。

 

「人生100年時代」という言葉をよく耳にするようになりました。ある海外の研究では、2007年に日本で生まれた子どもの半数が107歳より長く生きると推計されています。

 

 

従来、仕事を中心に考えたライフステージは、学校で学び社会に出て仕事を覚える「教育期」が25歳前後まで、その後60歳で引退するまで続く「仕事期」、退職後の「引退期」に大きく分かれていました。

 

 

ところが、人生が100年となると、60歳くらいで仕事をリタイアして、そのあとは悠々自適に過ごすというのでは引退期が長すぎます。

上図は、「人生100年時代」という言葉が生まれるきっかけとなった「LIFE SHIFTライフシフト」の共著者リンダ・グラットン氏が描いたものです。彼女は、人生100年時代には多くの人が75歳から85歳まで働かなくてはならなくなると予想しています。

「一生働き続ける人生なんてつまらない」と思うかもしれません。リンダ・グラットン氏はせっかく長生きする人生をつらいものにしないために次の3つが重要になると述べています。

①  教育(専門技能を高め、世界中の競合との差別化が必要)

②  多様な働き方(75歳を過ぎても働くことを想定し、独立した立場での職業を考える)

③  無形資産(お金だけでなく、経験や人的ネットワーク等を大切にする)

 

私たちは、これまでの学び方、働き方、人生設計などを見直すことが必要です。個人の意識改革はもちろんですが、税や社会保障といった社会システムも人生100年時代に合わせて改善していくことが求められるのです。

 

いよいよ次回から、社会システムを支える税金の話を始めたいと思います。

「親子で考える税と社会保障入門」シリーズでは、人生100年時代を歩むうえで必要となる税と社会保障に関して、親子で考える素材を提供しています。前回の「平均寿命」に続いて今回は「健康寿命」を考えます。

 

 

「健康寿命」とは、国連の世界保健機関(WHO)が提唱した新しい指標で、平均寿命から寝たきりや認知症など介護状態の期間を差し引いた期間を言います。「平均寿命」は介護を要する期間を含むため、生涯の健康な時期とに大きな開きがあることが指摘されていました。

上図は平均寿命と健康寿命の推移を見たもので、どちらも男女ともに延伸していますが、平均寿命と健康寿命の差は縮小していません。

平均寿命と健康寿命の差は、ざっくり言えば、日常生活に制限のある「不健康な期間」を意味します。その期間は、2019年では男性8.73年、女性12.07年となっています。今後、さらに平均寿命が延びたとしても、健康寿命との差が拡大すれば不健康な期間が延びるだけなので、医療費や介護費の増加により家計や社会保障費に大きな影響が及んでしまうのです。

 

介護が必要になった要因を下図に示してみました。男性は脳卒中がトップで認知症が続きますが、女性は第1位が認知症で2位が骨折です。

どうしたらいつまでも健康でいられるか、考えるヒントになればと思います。

 

 

これまでわが国が長寿社会を実現してきたことを「年齢」から見てきましたが、次回はもう少し幅のある人生の「時期」という観点で考えてみたいと思います。

「親子で考える税と社会保障入門」シリーズでは、人生100年時代を歩むうえで必要となる税と社会保障に関して、親子で考える素材を提供しています。第2回のテーマは「平均寿命」です。

上表は平均寿命の推移を見たものです。「平均寿命」とは、0歳の乳幼児が生存するだろうと考えられる平均年数を指します。

2021年の平均寿命は、男性81.47歳、女性87.57歳で、女性の方が6.1歳だけ長生きです。実は2021年は、新型コロナの流行の影響を受けて、東日本大震災以来のマイナスとなりました。それでも日本は世界トップの長寿国です。

 

よく聞くのは、男性の平均寿命が81.47歳なのだから、現在55歳の僕は81.47-55=26.47年だけ生きる可能性があるという話です。これは間違いです。下表は年齢別の平均余命=今後何年生きられるかを見たものですが、55歳の男性はあと28.36年生きられることになります。

 

歳を取るにつれて少しずつ死亡のリスクをクリアしていくので、生存できる年数が増えるのです。

 

 

平均寿命は生活水準の向上や医学の発展等を背景に延伸傾向を辿っており、日本国民は長寿という人類長年の願いを実現しました。おいおい説明しますが、社会保障の充実のおかげで長寿になったことも忘れてはなりません。

一方で、平均寿命の延びにより高齢者が増加し、高齢化の要因になっていることは皮肉なことです。高齢化は社会保障制度の存立をも危うくしつつあります。私たちは、長寿社会と社会保障制度の両立を目指して政策を考えていく必要があります。

 

次回は、「平均寿命」と対で語られることが増えている「健康寿命」のお話です。

 

私は、小さい頃から税や社会保障に親しんでほしいと思い、子どもに対する税と社会保障教育をライフワークにしています。「親子で考える税と社会保障入門」シリーズでは、人生100年時代を歩むうえで必要となる税と社会保障に関して、親子で考える素材を提供できたらと考えています。ご家族のみんなで議論していただけたら幸いです。第1回のテーマは「少子高齢化」です。

 

グラフは、日本の年齢別人口の推移を見たものです。人口に占める高齢者の割合が増加する「高齢化」と、出生率の低下により若年者人口が減少する「少子化」が同時に進行しています。

 

まず「高齢化」ですが、高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)によって以下のように定義されます。

 

用語

高齢化率

日本ではいつから?

高齢化社会

7%超

1970年に高齢化率7.1%

高齢社会

14%超

1995年に高齢化率14.6%

超高齢社会

21%超

2010年に高齢化率23%

 

2022年度の高齢者人口は3,648万人、高齢化率は29%です。約40年後まで、65歳以上人口はほぼ横ばいで推移する一方で、総人口が減少するため高齢化率は約10%程度上昇することが見込まれています。

 

一方の「少子化」は、数字による明確な基準がありません。「少子化」という言葉が最初に使われたのは1992年度の国民生活白書だと言われますが、そこでは「出生率の低下やそれに伴う家庭や社会における子供数の低下傾向」を「少子化」、「子供や若者が少ない社会」を「少子社会」と表現しています。

2022年度の19歳以下人口は2,016万人ですが、約40年後には1,237万人まで減少します。

 

もう一度よくグラフを見てみると、これまでは高齢者が急増するのが問題でした。ただ今後は、高齢者の数はほぼ横ばいであり、むしろ問題なのは、子どもの数が減る、それに伴って20~64歳の働き盛り世代の人口が急減してしまうことです。このような人口の予測に基づいて、税や社会保障に関する政策も作る必要があります。

 

次回は、高齢化の要因の一つである「平均寿命」について解説します。

国の予算編成の流れを見ますと、6月の「骨太の方針」をベースに、7月に財務省が各省庁の予算策定の目安となる「概算要求基準」を作成、8月末までに各省庁が次年度予算の使い道を提案する「予算概算要求」を財務省に提出します。その後9月から12月にかけて、財務省は各省の要求をヒアリングして予算として盛り込むべきか査定します。12月上旬に経済財政諮問会議で議論する「予算編成の基本方針」を閣議決定、同月下旬には政府予算案が確定され、国会に提出されます。

 

政府は7月29日、「2023年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」を閣議決定しました。

 

 

年金・医療等に係る部分を抜粋すると以下の通りです。

●前年度当初予算における年金・医療等に係る経費に相当する額に高齢化等に伴ういわゆる自然増として 5,600 億円を加算した額の範囲内において、要求する。

●「新経済・財政再生計画 改革工程表」に沿って着実に改革を実行していくことを含め、合理化・効率化に最大限取り組む。

●「基本方針 2021」等における「新経済・財政再生計画」において示された「社会保障関係費については、基盤強化期間においてその実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめることを目指す方針とされていること、経済・物価動向等を踏まえ、その方針を継続する」との考え方を踏まえつつ、その結果を令和5年度予算に反映させることとする。

 

同日開催の経済財政諮問会議で了承された「予算の全体像」では、社会保障分野について次の4点を求めています。

●医療・介護・住まいの一体的な検討・改革等地域共生社会づくりの推進

●マイナンバーカードの保険証利用、マイナポータルの利活用拡大をはじめ、マイナンバーの利活用の徹底的な拡大を通じた医療・介護を始めとする公的給付のDX化

●セルフメディケーションの推進、ヘルスリテラシーの向上、インセンティブ付けなどを通じた、予防・重症化予防・健康づくりの推進、利用者負担見直しを含む介護保険の持続性確保

●給付と負担のバランスの確保、現役世代の負担上昇の抑制、マイナンバーの利活用、後期高齢者医療制度の保険料賦課限度額の引上げを含む保険料負担の在り方等各種保険制度における能力に応じた負担の在り方等の総合的な検討

 

持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。

 

 

先週に続いて医療界におけるSDGsについて、私が理事長を務める(医)永生会の取り組みを紹介いたします。

 

永生会は、東京都八王子市を地盤とする医療介護福祉複合体です。二次救急指定の南多摩病院、回復期・慢性期・精神の永生病院、回復期・慢性期・緩和ケアのみなみ野病院の3病院を運営するほか、クリニック、老健施設、グループホーム、訪問看護・リハ、居宅介護支援、訪問介護等を展開しています。

 

まず、本来業務である医療に関連した、以下のような取り組みを進めています。

〇目標03[健康]

・小児科から高齢者医療・介護までの幅広い医療介護の提供

・病院救急車の活用

〇目標04[教育]

・職員研修の充実

・奨学金制度

〇目標05[ジェンダー]

・健全で明るい職場環境づくり委員会の創設

・コンプライアンスの徹底

〇目標08[経済成長と雇用]

・資格取得に向けたサポート

・健全経営の推進

・職員向けの保育園の運営

・働き方の多様化(時短勤務,再雇用)

・障害者雇用

〇目標09[インフラ、産業化、イノベーション]

・研究開発センターでの取り組み

・MIOカルテ(Medical Information Open Karte)等の ICT導入

・見守り機能付きナースコール(コニカミノルタ社HitomeQ)導入

・ロボット、見守りセンサーの導入

〇目標17[実施手段]

・海外人材の活用、国際交流の実施

 

その他の項目についても、次の活動に取り組んでいます。

〇目標06[水・衛生]

・井水の積極的な活用

〇目標07[エネルギー]

・超小型電気自動車の活用検討

・建物内への採光の工夫

・省エネへの取り組み、LED化等

〇目標08[経済成長と雇用]

 ・病児保育室の運営

〇目標10[不平等]

 ・中国の自治体との地域包括ケアシステムの輸出

〇目標11[持続可能な都市]

・街づくりへの寄与

・地域との共生

・大規模災害時の対応

・できる旅(介護付きリハビリ旅行)の実施

〇目標15[陸上資源]

・高生会府中特養での公共緑地整備

 

まだ実践できていない項目に関しては、たとえば、目標01[貧困]では独居孤独対策や低所得者向けサービス、目標02[飢餓]は農福連携、目標12[持続可能な消費と生産]においては単回使用医療機器(Single-use device :SUD)の再製造にトライしていきたいと考えています。足元で物価高騰が家計を圧迫する中、子ども食堂の開設も計画しています。繰り返しになりますが、以下の提言を述べたいと思います。

 

提言 SDGsが目指す「持続可能な世界」に向けて、医療機関は本来業務である健康・福祉にとどまらず、貧困や平等、環境等の課題にも積極的に取り組んでいこう。

 

持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。

 

 

SDGsの基本理念は次の5つです。

Ⅰ 普遍性…先進国を含め、全ての国が行動

Ⅱ 包摂性…人間の安全保障の理念を反映し「誰一人取り残さない」

Ⅲ 参画型…全てのステークホルダーが役割を

Ⅳ 統合性…社会・経済・環境に統合的に取り組む

Ⅴ 透明性…定期的にフォローアップ

 

わが国では2016年5月、総理を本部長、官房長官・外務大臣を副本部長、全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」が設置されました。

さらに同年9月、行政、民間企業、有識者、NGO等の広範な関係者が意見交換を行う「SDGs推進円卓会議」も設置されています。

 

SDGs推進本部では、SDGsへの貢献を「見える化」することを目的として、 2017年から毎年、政府の施策のうちの重点項目を整理した「SDGsアクションプラン」を策定しています。

 

SDGsアクションプラン2022」の概要は以下の通りです。

●People 人間:感染症対策と未来の基盤づくり

• 6月までの可能な限り早いタイミングで新たな「グローバルヘルス戦略」を策定し、取組を加速する。

• 「女性版骨太の方針」等に基づき、女性デジタル人材の育成や「生理の貧困」への支援、女性の登用目標達成、女性に対する暴力の根絶など、女性活躍・男女共同参画の取組を強力に推進する。

• こども中心の行政を確立するための新たな行政組織を2023年中に設置することも通じ、子どもの貧困対策など、子どもや子育て世代の視点に立った政策を総合的かつ包括的に推進する。

●Prosperity 繁栄:成長と分配の好循環

• 「デジタル田園都市国家構想」の実現を通じ、地域の個性を活かしながら、地方を活性化し、持続可能な経済社会の実現に取り組む。

• これまで進めてきた「SDGs未来都市」に加え、新たに複数の地方公共団体が連携して実施する脱炭素化やデジタル化に関する取組に対しても支援を行うことで、地方におけるSDGs達成に向けた取組を加速する。

●Planet 地球:地球の未来への貢献

• 温暖化対策を成長につなげるクリーンエネルギー戦略を策定し、強力に推進していく。

• 海洋プラスチックごみ対策について、2月の国連環境総会で国際約束作りの開始を目指す。

• 4月に熊本で開催する「第4回アジア・太平洋水サミット」や、「ポスト2020生物多様性枠組」に向けた議論などを通じ、地球環境問題に積極的に取り組む。

●Peace 平和:普遍的価値の遵守

• 第8回アフリカ開発会議(TICAD)も通じ、日本の取組を推進していく。

●Partnership パートナーシップ:絆の力を呼び起こす

• 2023年のSDGs実施指針改定を念頭に、2022年中に幅広いステークホルダーとの意見交換を進め、SDGs達成に向けた取組を加速していく。

• 「日メコンSDGsフォーラム」等を通じ、国内外のあらゆる分野の関係者とSDGs達成に向けた連携を深めていく。

 

 

医療界におけるSDGsを見ますと、ゴール3「すべての人に健康と福祉を」が医療機関の本来業務に直結するため、外来診療や入院治療、糖尿病教育等の予防医療を通じて、地域包括ケアや共生社会の実現に取り組んでいます。

私は、ゴール1「貧困をなくそう」やゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」、ゴール13「気候変動に具体的な対策を」等、医療の本来業務の延長線にない目標にも積極的にアプローチしていくことが重要だと考えています。私が副会長を務めさせていただいている全日本病院協会や東京都病院協会等の病院団体でも、年度事業計画にSDGsへの取り組みを掲げて推進しています。先日も出席した東京都病院協会・診療情報管理委員会において、現在は紙が主流である患者紹介状をいかにペーパーレス化していくかという提案があり、環境問題という観点から資源の削減に取り組んでいくことができそうだと思いました。

 

提言 SDGsが目指す「持続可能な世界」に向けて、医療機関は本来業務である健康・福祉にとどまらず、貧困や平等、環境等の課題にも積極的に取り組んでいこう。

 

政府では、人生100年時代を迎えライフスタイルが多様となる中、お年寄りだけではなく、子どもたち、子育て・現役世代の安心を支えていくため、働き方の変化を中心に据えながら、全世代型社会保障を検討しています。

 

 

2021年11月にスタートした全世代型社会保障構築会議の「議論の中間整理」が2022年5月17日に公表されました。

同会議は、高齢者人口がピークを迎えて減少に転ずる2040年頃を視野に入れつつ、新型コロナ禍で顕在化した課題を含めた短期的課題とともに、中期的、長期的な課題に対して、「時間軸」を持って取り組んでいます。

 

議論の中間整理」の中から地域共生社会に関する部分をご紹介します。

〇課題と目指すべき方向

●孤独・孤立や生活困窮の人々が地域社会と繋がりながら、安心して生活を送れる「地域共生社会」づくりに取り組む。

●「住まい」をいかに確保するかは、老齢期を含む生活の維持にとっても大きな課題。制度的な対応も含めた検討が求められる。

〇今後の取り組み

ソーシャルワーカーによる相談支援、多機関連携による総合的な支援体制。分野横断的な取組を進める。

●住民に身近な地域資源を活用しながら、地域課題の解決のために住民同士が助け合う「互助」を強化。

住まい確保の支援のみならず、地域とつながる居住環境や見守り・相談支援の提供も含め検討。その際には、空き地・空家の活用やまちづくりなどの視点も必要。

 

6月7日に閣議決定された「骨太の方針2022」における地域共生社会に関する記述も見てみます。

●重層的支援体制整備事業など市町村における包括的支援体制の整備を進めるとともに、コロナ禍によって顕在化した課題等に的確に対応するため、生活に困窮する者への自立相談支援等の強化を図る。

●認知症施策推進大綱に基づき、認知症サポーターが地域で活躍できる場の整備等認知症の人や家族に対する支援を推進するとともに、第二期成年後見制度利用促進基本計画に基づき、成年後見制度を含めた総合的な権利擁護支援の取組を推進する。

●障害者の就労や情報コミュニケーション等に対する支援、難聴対策、難病対策等を着実に推進する。感染症による不安やうつ等を含めたメンタルヘルスへの対応を推進する。

●性的マイノリティに関する正しい理解を促進するとともに、社会全体が多様性を受け入れる環境づくりを進める。

●地域と学校が連携したコミュニティ・スクールの導入を加速するとともに、夜間中学の設置、医療的ケア児を含む障害のある子供の学びの環境整備、障害者等の様々な体験活動やこれを含む生涯学習を推進する。

●ユニバーサルデザインの街づくりや、交通事業者の接遇向上、高齢者障害者等用施設等の適正な利用の推進などの「心のバリアフリー」の取組を進めるとともに、利用者負担の枠組みも活用した鉄道等のバリアフリー化を推進する。

●独居の困窮者・高齢者等に対する相談支援や医療・介護・住まいの一体的な検討・改革等地域共生社会づくりに取り組む。

 

「議論の中間整理」で強調された「住まい」は「骨太の方針」にも盛り込まれました。一方、地域共生社会の実現で役割が期待される「ソーシャルワーカー」は記載されませんでした。

 

地域共生社会に関する厚労省内の担当は社会・援護局であり、地域共生社会の構成要素である地域包括ケアシステムについては老健局が管轄してきました。

私はこれまで再三主張しておりますが、老健局や社会・援護局といった組織の垣根を越えて、全世代型の医療・介護・福祉による街づくりを展開していくべきである。そのためにも地域共生社会基本法のような指針が必要だと考えています。

 

提言1 高齢者同様、小さなお子さん、障害や精神科疾患を持った方、孤独・孤立・引きこもり、貧困で悩む方も含めた地域共生社会を実現するため、厚生労働省の中に横断的な組織を設置する。

提言2  全世代型の医療・介護・福祉による街づくりに向け、地域共生社会基本法を制定して国の指針を明確にする。

 

少子化社会対策白書は、少子化社会対策基本法第9条に規定する「少子化の状況及び少子化に対処するために講じた施策の概況に関する報告書」であり、政府から毎年、国会に提出されます。

 

 

政府は6月14日、令和4年版の少子化社会対策白書を閣議決定しました。今回の少子化社会対策白書では、冒頭、少子化対策の現状が分析されています。

令和2年(2020年)の出生数は、84万835人となり、過去最少を記録しました。

合計特殊出生率は1.33と、前年比0.03ポイント低下しています。合計特殊出生率とは、1人の女性が出産期と想定した15歳から49歳までに産む子どもの平均的な人数を指します。年齢構成の違い等を取り除いた指標であり、過去のデータや海外との比較が可能になります。合計特殊出生率は2005年に1.26で底を打った後、団塊ジュニアが出産適齢期に入ったために2015年の1.45まで上昇していましたが、それ以降は再び低下傾向に転じています。

 

最近の政府の少子化対策は下図の通りです。

 

2020年5月29日に閣議決定された第4次となる新たな「少子化社会対策大綱」は、「希望出生率1.8」を実現するため、①結婚・子育て世代が将来にわたる展望を描ける環境をつくる、②多様化する子育て家庭の様々なニーズに応える、③地域の実情に応じたきめ細かな取組を進める、④結婚、妊娠・出産、子供・子育てに温かい社会をつくる、⑤科学技術の成果など新たなリソースを積極的に活用する」の5つの基本的な考え方を明示しました。

 

 

2020年12月15日に閣議決定された「全世代型社会保障改革の方針」では、長

年の課題である少子化対策を大きく前に進めるため、不妊治療への保険適用の早急な実現、待機児童の解消に向けた新たな計画の策定、男性の育児休業の取得促進といった少子化対策がトータルな形で示されました。

 

こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」(2021年12月21日閣議決定)に基づき、2020年2月25日に「こども家庭庁設置法案」が通常国会に提出されました。こども家庭庁においては、これまで内閣府や厚生労働省等に分散していたこども政策の司令塔機能を一本化し、各省より一段高い立場から、少子化対策を含むこども政策について一元的に企画・立案・総合調整を行うことになります。

 

 

少子化に対しては国も様々な施策を講じてきていますが、それでも合計特殊出生率が1.33まで低下するなど厳しい状況が続いています。目標として掲げる希望出生率1.8は1984年(1.81)以降、実現できていません。

一億総活躍関連の会議等でも発言してまいりましたが、私は、子ども1人の出産に1,000万円の手当を支給する(地方移住して子育てする場合はプラス1,000万円)くらいの思い切った支援策を検討するべきではないかと考えています。年間の出産数が100万人まで増加しても予算は10兆円程度であり、日本の将来に向けた根幹的な投資と考えれば決して過剰とは言えないのではないでしょうか。

 

提言 子どもを産むモチベーションを上げる観点から、子ども1人の出産に1,000万円の手当を支給する。実際の導入に際しては、1人目、2人目、3人目で段階的に金額を引き上げる、100万円程度でスタートして効果を検証する等の工夫を凝らすことで、まず制度をスタートさせることを優先する。

病気やけがで医療機関に入院したときは、療養の給付とあわせて食事の給付が受けられます。一般的な入院時食事療養費は1食640円ですが、平均的な所得の方の自己負担額(標準負担額)は460円です。

 

物価の上昇が止まりません。下図は2020年を100とした時の消費者物価指数の推移(総務省)ですが、2022年5月の総合指数は101.8、食料品が102.6、電気代に至っては117.8まで急上昇

しています。

こうした物価高騰を受けて、病院給食が採算悪化に見舞われています。

現在、1日当たりの入院時食事療養費は640円/食×3食=1,920円ですが、1994年に1日1,900円で制度が導入されて以来、1997年に消費税対応(3%→5%)で1,920円になったものの、25年間ほとんど変わっていません

さらに、2006年度診療報酬改定において、1日当たりから1食当たりの算定に変更されたほか、特別食加算が引き下げられた(350円/日→76円/食(228円/3食))ため、大きな影響を受けました。例えば夕食を食べずに退院した場合、従来は1日分1,920円を請求できましたが、2006年度からは2食分1,280円しか請求できなくなりました。下図は食事療養費の合計額を見たものですが、2006年には約2割も減少しました。

レストランやファストフード等では、食材や光熱費の上昇分を販売価格に転嫁することで利益を維持することが可能です。これに対し、医療機関の場合、公定価格である入院時食事療養費を自らの判断で上げることができず、コスト上昇分がそのまま利益を圧迫しているのです。

診療報酬改定では毎回、病院団体から入院時食事療養費の引き上げが要望として出されていますが、食事療養費のアップは国の財政面に与える影響が大きいということで見送られてきています。

足許の物価上昇による打撃は大きく、次回診療報酬改定まで待たずに何らかの対策が必要である、との要望が日本病院団体協議会四病院団体協議会からも出ています。

 

入院中の食事は、低栄養の回避はもちろん、患者さんの満足度を向上させる大きな要素です。政府の「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」の下、「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」等を活用して、病院給食の質を維持するよう、政府や自治体に求めていきたいと思います。

 

提言 物価高の中でも病院給食の質を維持できるように「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」等を活用する。