厚労省は9月11日、平成29年度国民健康・栄養調査の結果を発表しました。この調査は、国民の健康状態や生活習慣、栄養素摂取量を把握するために毎年実施されており、国における健康増進対策や生活習慣病対策に不可欠な調査となっています。今回の調査は高齢者を中心にまとめられ、65歳以上で低栄養の傾向(BMI(体重÷身長2)≦20)のある人の割合は、男性12.5%、女性19.6%。特に、週に1回以上外出していない男性に低栄養の傾向が高くなっています。また、男女とも、たんぱく質の摂取量が多く、体を動かす時間が長い人ほど、筋肉量が多い傾向にありました。

 上記の調査結果は、「フレイル」を予防するポイントが、栄養(食事)・運動・社会参加であることを示しています。「フレイル」とは、加齢に伴って筋力や心身の活力が低下した状態のことで、健康な状態と要介護状態のちょうど真ん中くらいに位置します。

フレイル予防のポイントは食事・運動・社会参加です。まず、食事ですが、主食・主菜・副菜・汁物をバランスよく食べることはもちろん、筋肉のもととなるたんぱく質(魚、肉、卵、大豆等)を積極的にとることが大事です。次に、ウォーキングや筋トレ等の運動を継続的に行います。さらに、趣味やボランティア、就労等の社会参加が非常に重要で、こうした機会の低下がフレイルのきっかけになることが分かってきています。

私は講演等でよく、フレイルの自己チェック法として「指輪っかテスト」をお勧めしています。下の写真のように、両手の親指と人差し指で輪を作り、利き足でない方のふくらはぎの一番太い部分を囲んでみます。これで隙間ができるようだとフレイルのリスクが高いと分かります。

骨太の方針2018は、「予防・健康づくりの推進」を目標に掲げ、「高齢者をはじめとして多様な就労・社会参加を促進し、社会全体の活力を維持していく基盤として、健康寿命を延伸し、平均寿命との差を縮小することを目指す」としています。フレイル(介護)予防により健康寿命が延びれば、高齢者の社会参加の促進につながり、さらなるフレイル予防を実現することができます。こうした好循環の流れを着実にしていくため、今後も国民の皆さまにフレイル予防への関心を持っていただけるような活動をしていきたいと思います。

 

【ご参考】

東京都及び東京都医師会では、介護予防としてのフレイル対策を呼びかけるため、普及啓発冊子「住み慣れた街でいつまでも―フレイル予防で健康長寿―」を作成しています。

「13歳からの社会保障」シリーズの最終回に当たり、今一度、わが国の人口構造の将来推計を見てみたいと思います。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、わが国の総人口は、長期の人口減少過程に入っていて、2029年に人口1億2,000万人を下回った後も減少を続け、2053年には1億人を割り込むと予想されています。こうした中、高齢者人口は、団塊の世代が65歳以上となった2015年に3,387万人、75歳以上となる2025年には3,677万人に達し、2042年に3,935万人でピークを迎え減少に転じると推計されています。最近では、高齢者人口のピークとなる2042年問題が話題になっています。本シリーズではこれまで、少子高齢化の「高齢化」を主に捉え、医療・介護・年金について、互助や自助、応能負担によって何とか乗り切っていこうということを説明しました。

 2042年問題でより深刻なのは少子化です。出生数は、2016年に97万6,978人と1899年の統計開始以来はじめて100万人を割り、今後も減少することが予想されています。つれて生産年齢人口も減少、このままのペースだと2042年には今より2,000万人程度も働く人が減ってしまうのです。生まれた子どもが成長して働き始めるには20年近くの年月が必要であり、少子化対策はまさに喫緊の課題なのです。本シリーズ最終回となる今回は少子化対策について考えたいと思います。

そもそも少子化対策は、「1.57 ショック」を契機として始められました。一人の女性が生涯に生む子供数を示す合計特殊出生率が1989年に1.57まで低下、従来の最低値だった丙午(ひのえうま)1966年の1.58を下回ってしまったのです。ちなみに、出生率が2.07を下回った国は総人口を保つことが不可能になると言われています。

 政府の基本方針を定めた骨太の方針2018では、「少子化という我が国の社会経済の根幹を揺るがしかねない国難を克服する。このため、個々人が希望する時期に結婚でき、かつ、希望する子供の数と生まれる子供の数との乖離をなくしていくための環境を整備し、「希望出生率1.8」の実現を目指す。」と宣言され、施策として「子育て安心プラン」が打ち出されています。

子育て安心プランの柱は次の2点です。

1.待機児童の解消

待機児童解消に必要な受け皿約22万人分の予算を平成30年度~31年度末まで確保。遅くとも、平成32年度末までに全国の待機児童の解消を目標としました。女性の就業率は増加傾向にありますが、1、2歳の子供を受け入れる保育の受け皿不足により対象となる子供の7割以上が待機児童となっているのが実状です。

2.5年間で「M字カーブ」を解消

M字カーブとは、就業率を表すグラフの形状がM字になる現象のことを指しますが、女性が出産等を機に仕事を離れ、子どもの成長後に再就職する人が多いことが主な理由です。この解消のため、平成30年度~34年度末の5年間で約32万人分の受け皿を整備し、女性就業率80%を目指します

そして、具体的な方策として「6つの支援パッケージ」を掲げています。

①  保育の受け皿の拡大

まず、保育の受け皿となる「場所」を増やします。

●高騰した保育園の賃貸料補助(都市部)

●大規模マンションの保育園設置促進

●固定資産税減免の普及

●幼稚園の2歳児受け入れや預かり保育の促進

●国有地、公園、郵便局、学校等の余裕教室などの活用

●家庭的保育の地域共同体の普及

●小規模保育や病児保育など多様な受け皿の確保

●市町村ごとの待機児童解消の取り組み状況の公表

●広域的保育園等利用事業

●地域提携コーディネーターの活用促進

②保育の受け皿拡大を支える「人材確保」

次に、保育士等の育成や職場環境の改善等の「人材面での支援」を行います。

●処遇改善をふまえたキャリアアップの仕組みの構築

●保育補助者から保育士になるための雇用支援の拡充

●保育士の子供の預かり支援推進や業務負担軽減の支援

●市町村における保育人材確保対策への支援

●保育士の就職に向けた働きかけやその取組みの「見える化」

●福祉系国家資格を持つ人への保育士養成課程や試験科目の一次免除

●保育士の退職手当共済制度の継続検討

③保護者への「寄り添う支援」の普及促進

一方、保護者が仕事と子育てをより両立しやすい環境を整えます。

●保護者に向けた、保育コンシェルジュによる出張相談などの支援拡大

●待機児童数調査の適正化

●妊娠中からの保育園等の入園申込みの明確化

④保育の受け皿拡大と車の両輪の「保育の質の確保」

同時に保育の質の確保も図ります。

●認可外保育施設の認可や保育園等の移行促進

●保育士配置基準の維持及び向上

●新たな保育所保育指針の施行

●認可外保育施設の情報の公表および事故報告の義務化

●保育園等の事故防止の取り組み強化

●認可外保育施設等の届け出においてICT化を推進

●災害共済給付の企業主導型保育、認可外保育施設への対象拡大

⑤持続可能な保育制度の確立

子育て安心プランの目玉となる待機児童解消に必要な受け皿確保のために年間2兆円を超える予算を計上しています。

●保育実施に必要な安定財源の確保

⑥保育と連携した「働き方改革」

平成29年10月施行の改正育児・介護休業法に基づいて、保育園等に入れない場合は2歳まで育児休業の再延長を可能とする制度が新設されました。また、男性の育児参加を進める「子育て休暇」も新設され、子育て中の女性がより就業しやすい体制を整えつつあります。

●保育園に入れない場合の育児休業期間の延長

●男性による育児の促進

●ニーズをふまえた両立支援制度の確立

 

少子化対策は次世代育成支援です。すべての子どもたちが健やかに成長するために、出生前から乳幼児期、就学後まで一貫して切れ目なく良質な成育環境を保障することが重要です。社会保障の持続可能性を確かなものとし、日本社会の未来を明るいものにするには、子どもに対する支援が何より大事だと思います。

人間は、幼年期、青年期、壮年期、中年期、高年期という人生の各段階において、様々なリスクに直面します。こうしたリスクをともに支え合い、若い世代の将来への不安を安心と希望に変えることこそが、社会保障の役割であり、本質であると私は考えています。社会保障はいずれの世代にとっても負担ではありません。足元の困難をすべての人で分かち合い、未来の社会に協力し合うために社会保障制度が存在するのだということを述べて、「13歳からの社会保障」を終わりにしたいと思います。

年金と言うと、皆さんにとってはずっと先の問題だと思うかもしれません。でも、もし公的年金制度がなければ、自分の親が退職して所得がなくなった場合、同居や仕送りで支えなければならないでしょう。親に十分な貯蓄があれば当面の仕送りは不要かもしれませんが、予想以上に長生きするかもしれませんし(今は100歳まで生きるのも珍しくない)、老後までの長い期間に起こる賃金や物価の上昇等の経済社会変動は誰にも予測できません。また、老後を迎える前に、障害により働けなくなり収入を失ったり、死亡して配偶者や子が残されたりするリスクも皆無ではありません。こうした予測できないリスクに対して世代を超えた社会全体で事前に備えるものが公的年金制度であり、その本質は「長生きのリスク」を対象とした「保険」なのです。日本の公的年金制度は、現役世代全員で拠出した保険料を仕送りのようにそのときの高齢者等に給付する賦課方式を採用しています。公的年金は、高齢者世帯の収入の約7割を占めるようになっており、高齢者や障害を持った方の生活に必要不可欠なものとなっています。

公的年金制度は非常に複雑ですが、ここでは2 階建ての仕組みになっていることを押さえておいてください。20 歳以上の人は、大学生やフリーターも含めて全員が国民年金(基礎年金)に加入し、原則として60 歳までの40年間、毎月約15,000 円の保険料を払い込みます。サラリーマンは、厚生年金に加入し、給料の約17%の保険料を会社と自分で半分ずつ払うことで、国民年金の保険料も合わせて拠出したこととなります。高齢になったときは、全員が共通して老齢基礎年金を受け取れるほか、厚生年金に加入していた人は、老齢厚生年金も受け取ることができます。

公的年金制度については、将来的に破綻するのではないか議論がありますが、結論を先取りすれば、年金制度が潰れることはないと考えています。かつては、定期的に将来の給付水準と保険料負担を見直し法律で決めていました。しかし、少子高齢化が急速に進む中で、財政再計算を行う度に最終的な保険料水準の見通しは上がり続け、将来の保険料負担がどこまで上昇するのかという懸念もありました。そこで、平成16年の制度改正において、将来の現役世代の保険料負担が重くなりすぎないように、社会全体の公的年金制度を支える現役世代の負担水準を固定し、給付を自動調整して長期的な財政均衡を図る方式を導入したのです。これをマクロ経済スライドと呼んでいます。このため、今後の社会経済情勢の変化に対応して適時適切な改革を行っていく必要性はあるものの、基本的に年金財政の長期的な持続可能性は確保されていく仕組みとなっているのです。(もっとも、現在受給している高齢者と比較すれば、今後の受給者となる世代の給付水準は下がる可能性があります。)

また、今後、非正規雇用が増え、年金保険料を納めてこなかった人たちが増加することも懸念されています。厚生労働省によれば、国民年金及び厚生年金の加入対象者6,729万人に対して、年金未納者は約225万人と未納率は3.3%となっています。納付率低下(未納の増加)が原因で現行制度が財政的に破綻することはありませんが、将来の低年金者、無年金者の増大によって、国民皆年金制度の本来機能である「すべての国民の老後の所得保障」が十分に機能しなくなるという問題が指摘されています。その観点から、非正規労働者への厚生年金適用拡大や免除制度の積極的活用等の未納対策の強化、基礎年金の最低保障機能の強化(受給資格の緩和等)が喫緊の課題になっているのです。

年金制度の持続可能性を高めるためには、年金制度にとって前提条件である経済の成長や雇用の拡大、人口減少の緩和が重要です。そのためには、高齢者や女性、若者の雇用を促進する対策や、仕事と子育ての両立支援の強化に取り組むことが求められるでしょう。次回、「13歳からの社会保障」シリーズの最終回では、若い世代が安心して子育てできる社会にするにはどうすればよいか、考えたいと思います。

今年3月に東京都目黒区で発生した虐待による死亡事件は記憶に新しいと思います。これを受けて、政府も、骨太の方針2018の中で児童相談所の職員体制や専門性の強化を盛り込み、7月20日には児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策を閣議決定しました。

 児童虐待防止のためにできることを考える上で、まず、児童虐待対応の現状を見てみます。

上図は、厚労省の福祉行政報告から、最近の児童虐待相談対応件数の推移をみたものですが、年率16.4%ものペースで急増、28年度には過去最多の122,575件に上りました。要因別には、児童に対する著しい暴言等による心理的虐待が63,186件と全体の過半を占めています。なお、社会保障審議会の調査によれば、27年度の児童虐待による死亡事例は72件(84人)です。

 

こうした中、私は先日、現場の実態把握を目的として、東京都医師会及び八王子市医師会の先生方とともに都内2ヵ所(北新宿児童相談センター、八王子児童相談所)の児童相談所を視察させていただきました。

施設見学で感じたのは、児童相談所においてもっとも重要なのはスタッフの人材育成だということです。スタッフのスキルアップを図ることによって、連携が上手くいき、人材不足の問題も解消するのではないでしょうか。また、一時保護所については、子どもたちのプライバシーに関わるので、議員(公務員)として私が代表して見学させていただきました。施設内では様々な配慮がなされていますが、それでも多様な環境で育った児童を同じ場所で保護することの難しさを感じました。虐待等に関する特命委員会」において、一時保護所における「①外出できない、②男女間の交流がない、③プライベートは話さない」という3つのルールについて、人間関係の構築のためにもう少し自由度を増す必要があるのではないかとの意見が挙がりました。この点、実態として、②については、性的虐待を受けた子どももいるため、男女間の交流はセンシティブにならざるを得ないという事情があるようです。③については、非行歴のある子どもが非行を自慢することで、別の子どもを非行に引き込んでしまうケースもあり、一律のルールを敷いているとのことです。現場の方々も悩みながら、できるだけ保護されてきた子どもたちにとって良い環境となるよう、心をくだかれているということがよく分かりました。

意見交換では、現場のスタッフの方々から、「病院から児童相談所への通報は非常に重いものが多い」「病院から通報しても、どのような対応が行われたか病院への連絡がないまま次の受診日になることもある」「通報先については一応、児童相談所は重い案件、子ども家庭支援センターは軽い案件という線引きはあるが、ボーダーで悩ましい案件も多く、学校の先生や養護教諭も悩んでいる」「子ども家庭支援センターと児童相談所で受ける案件のレベルにミスマッチがあり、両者の役割分担を明確にする必要がある」といった様々な意見が出ました。医療機関の役割では、受診時に早期発見し行政につなげていくことが何より重要です。医療機関と児童相談所の連携の仕組みを正確に学ぶために、学生教育だけでなく、研修医や開業医、勤務医に対しても医師会等を通じて学習機会を提供していく必要があると思います。家庭復帰や子どもの未来をサポートするために、我々医師に何ができるのか、今後も医師会等で真剣に考えていく必要があります。

児童虐待については、児童相談所だけにとどまらず、外国人の子どもへの対応、SNSの弊害、チャイルドデスレビューなど、乗り越えなければならない課題が山積しており、引き続き「虐待等に関する特命委員会」等での議論を深めていきたいと思います。

 

介護提供体制を考える場合、国の医療と介護に関する政策の根幹となる地域包括ケアシステムの構築が最重要課題となります。地域包括ケアは、2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書を受けて制定された持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律において、地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制と規定されています。

上図は地域包括ケアの「植木鉢」理論といわれるもので、すまいとすまい方を地域での生活の基盤をなす「植木鉢」に例えています。各住民が生活を構築するためのベースとなる「土」が介護予防・生活支援で植木鉢に満たされます。栄養分を含んだ土があって初めて、専門職の提供する医療」「介護」「保健・福祉といった「葉」が機能を発揮します。そして、これらの植木鉢と土、葉は「本人の選択と本人・家族の心構え」という「皿」の上に成り立っています。ここから分かるのは、地域包括ケアとは「地域のチームプレイでケアを必要とする人を支えるプラットフォーム」だということです。医療や介護を必要とする方は相対的に高齢者に多いので、地域包括ケアというと高齢者が主体となるものだと考えられがちですが、障害のある方や子供、その家族等も含めてお互い支え合う、地域の基盤が地域包括ケアだと思います。

団塊世代のすべての方が75歳以上になる2025年を目途に地域包括ケアの構築を目指していますが、下図のような姿が想定されています。

国策の方向性は医療から介護へ」、「病院・施設から地域・在宅へという流れですが、それは介護保険制度の枠内で完結するものではありません。介護ニーズと医療ニーズを併せ持つ高齢者を地域で確実に支えていくためには、訪問診療や訪問看護、訪問リハビリテーション等の在宅医療が不可欠です。自宅だけでなく、高齢者住宅やグループホーム、介護施設に暮らしていても必要な医療が適切に提供されなければならず、かかりつけ医の役割が重要になります。時々入院、ほぼ在宅と言われますが、在宅療養している人が急病になった場合にすぐ入院できるベッドは欠かせません。

 介護提供体制について言えば、24 時間いつでも訪問できる定期巡回・随時対応サービス、訪問・通い・泊りのニーズに柔軟に対応できる小規模多機能型サービス、認知症高齢者への初期段階からの対応や生活支援サービス、地域の拠点となる介護施設、空き家の有効活用による高齢者向け住まい等、地域の事情に応じて整備していくことが重要だと思います。人口密度が低い過疎地域では、様々な介護サービスを集中させて効率化を図るといった工夫も必要になるでしょう。なお、地域包括ケアを支えるサービスを提供していくためには、介護職員等の人材確保が肝要であり(2025年に34万人不足との推計)、処遇の改善やキャリアパスの確立、介護ロボットの導入等を着実に進めていく必要があります。

介護保険制度は、2000年にスタートした最も新しい社会保険制度です。介護保険導入の背景には、高齢化の進展に伴い、要介護高齢者の増加や介護期間の長期化など介護ニーズが増大、 一方、核家族化の進行や介護する家族の高齢化など要介護高齢者を支えてきた家族を巡る状況も変化し、従来の老人福祉・老人医療制度では対応できなくなったことがあります。このため、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして、1997年に介護保険法が成立、2000年に施行されたのです。これにより、従来は市町村から医療と福祉別々にサービスが提供されていましたが、利用者が自らサービスの種類や事業者を選び、しかも一つのプランで医療と介護を総合的に受けることが可能になりました。

 介護保険制度の仕組みを見てみましょう(下図)。

介護保険への加入者(被保険者)は、①65歳以上の者(第1号被保険)と、②40 ~64 歳の医療保険加入者(第2号被保険)とに分けられます。加入者は市町村(保険者)に保険料を支払います。介護が必要になったら要介護認定を申請しますが、軽い方から要支援1,2、要介護1~5の7段階に認定されます。65 歳以上の者は原因を問わず要支援・介護状態となったきに、40 ~64 歳の者は末期がんや関節リウマチ等が原因で要支援・介護状態になった場合に、介護を受けることができます。介護サービスは、一定期間入所する施設系、自宅から通う通所系、自宅まで来てもらう訪問系など数多くの種類があります(下表)。

サービスを利用した場合、原則1割をサービス事業者に自己負担で支払います(残り9割は市町村からサービス事業者に支払われます)。

 介護保険制度は導入から17年を経過しましたが、その間、何度か改正されてきました(下表)。平成17年には予防重視型システムへの転換のため要支援者に対する予防給付が新設されました。23年には地域包括ケアの推進が打ち出されました(地域包括ケアについては次回説明します)。26年には予防給付のうち通所介護と訪問介護が介護保険から市町村が行う「地域支援事業」に移行されたほか、一定以上の所得のある利用者の自己負担が2割に引き上げられました。さらに直近29年の改正(施行は30年4月)で特に所得の高い層の自己負担割合が3割に見直されました。介護保険は受けたサービスに応じて利用料を支払う「応益負担」が原則ですが、一部に所得に応じた応能負担が採用されてきています。

介護保険制度は、その創設から17年が経ち、サービス利用者は制度創設時の3倍近い600万人超に達し、介護が必要な高齢者の生活の支えとして定着しています。その一方で、高齢化の進展に伴い、介護費用の総額は約10兆円に及び、制度創設時は3,000円未満だった保険料も現在は 5,000 円を上回り、2025 年度には 8,000 円を超えることが見込まれています。団塊世代が75歳以上となる2025年や、団塊ジュニア世代が65歳以上となり高齢者数がピークを迎える2040 年も見据えれば、財源と人材をより重点的・効率的に活用する仕組みを構築することで、制度の持続可能性を確保していくことが求められているのです。

皆さんは病気にかかったりケガをしたときに医療機関へ行くと思いますが、医療機関はベッド(病床)の数によって、病床が20床未満の診療所と、20床以上の病院に分類されます。診療所はさらに、病床を持たない「無床診療所」と病床を持つ「有床診療所」に分かれます。2018年3月末現在、101,860施設ある診療所のうち、94,715施設が無床診療所、残り7,145施設が有床診療所です。病院は、8,389施設あります。

 医療機関で受療する方法は大きく、外来、入院、在宅診療の3通りあります。

外来…医療機関の窓口で受付をして、診察、検査、処置等を受け、会計を行うという流れです。また、夜間や休日の急を要する診療、救急車で搬送された重症な患者さんの治療等の救急外来診療も外来診療の一つです。診療所は外来主体ですし、病院も多くは外来診療を行っています。
入院…入院するのは、病院の外来で診察を受けて医師から入院が必要と判断された場合、普段から診てもらっている医師からの紹介、救急外来を受診し入院治療が必要となった場合という3つのルートが一般的です。皆さんが入院するときには特に意識していないと思いますが、医療政策を考える上で、入院の機能を病期によって次の4通りに分けています。
高度急性期…集中治療室等で非常に密度の濃い高度な医療を提供する機能です。大学病院をイメージしてもらえば近いと思います。
急性期…急を要する患者さんに対して状態の早期安定化に向けた医療を提供する機能です。救急車を呼んだ場合に搬送される、地域の救急病院等が該当します。
回復期…急性期を経過した患者さんに対して在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能です。
慢性期…長期にわたり療養が必要な患者さん(重度の障害を持った方や難病患者等)が入院する機能です。
在宅診療…患者さんが医療機関に来るのではなく、患者さんのご自宅や施設を医師等医療者側が訪問し、医療を提供するのが在宅診療です。高齢化の進展に伴い、医療機関に通院することが難しい患者さんが増加していること、がんや難病の患者さんで自宅での療養を希望される方が増えていること、などから在宅診療の必要性は年々高まっています。

 非常にラフですが医療提供体制の概要について説明しました。次に、こうした医療提供体制がどのように変化していくか、外来と入院について見ていきましょう。
外来一般外来はかかりつけ医、大病院は紹介患者中心の専門外来

 
「3時間待ちの3分診療」という言葉を聞いたことがあると思います。大学病院に9時の予約を取ったのに呼ばれたのは11時で診察はわずか5分間で終了、なんて経験はありませんか。大病院に患者さんが集中してしまう傾向は以前から問題視されていましたが、ここにきて、大病院は紹介患者さんに対する専門的な診療に特化する方向で改革がなされています。一般的な外来受診(初診)は、かかりつけ医に相談しようということです。かかりつけ医とは、健康に関することを何でも相談でき、必要な時は専門の医療機関を紹介してくれる身近にいて頼りになる医師のことです。日本医師会では、健康管理や重症化予防の観点から、かかりつけ医を持つことを推奨しています。外来診療の役割分担のイメージは上図の通りですが、国は国民の受療行動を変えるため、平成28年度から、大病院における紹介状のない初診及び継続的な診療の必要性を認めない再診について、大病院が一定の定額負担(初診5,000円、再診2,500円)を徴収することを義務づけました。大病院の定義は、本制度の導入当初は500床以上でしたが、平成30年度から400床以上へと拡大されました。議論の中では200床まで拡大するという意見も根強くあり、今後もこうした方向性は強まりこそすれ弱まることはないと思います。
 
入院機能分化の徹底、施設(入院)から地域(在宅)へ
 
入院の方向性のイメージは上図の通りです。非常に分かりにくいと思いますが、簡単に言うと、患者さんの治療の必要性に合わせて病床の機能を分化させようというのです。高度な医療を提供できるベッドに重症でない患者さんが入院しているというミスマッチは医療資源の非効率な使い方なので、それをできるだけ一致させようということです。具体的には、各都道府県で「地域医療構想」という計画が策定されています。2025年の患者数や診療需要に関する推計を基に病床機能の4分類(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)ごとに必要病床数を算出、各医療機関は自主的に調整会議における話し合いを通じて機能を分担します。すでに各地域で調整会議が開催されており、2025年に向けて議論が繰り広げられていきます。
 
 さらに注目すべきなのは、国の政策が施設(入院)から地域(在宅)へと向かっていることです。わが国の医療需要は、団塊世代のすべてが75歳以上になる2025年から2030年頃にピークを迎え、その後減少に転じます。ピークに合わせて病床を整備してしまったら余ってしまうのが目に見えているので、今の病床数で何とか2025年を乗り切ろうという考えです。課題は在宅診療を担う人材の確保です。国が慢性期病床から在宅へのシフトを見込んでいる患者さんを在宅で診るには、全国で在宅医師を5千人以上、訪問看護師は2万人以上も増やさなければならないという試算もあります。

 前回引用した「骨太の方針2018」でも、「地域医療構想の実現に向けた個別の病院名や転換する病床数等の具体的対応方針について、昨年度に続いて集中的な検討を促し…自主的な取組による病床の機能分化・連携が進まない場合には、都道府県知事がその役割を適切に発揮できるよう、権限の在り方について、速やかに関係審議会等において検討を進める…病床のダウンサイジング支援の追加的方策を検討」と、強力に病床の機能分化を進めていく方針を明確にしています。
国民の医療ニーズと提供体制のミスマッチが続いたままだと、医療費抑制のために必要な医療まで保険給付の対象から外されたり、緊急性の高い救急医療を緊急性の低い医療が押しのけたりといった事態を招きかねません。国民としても、こうした事情をよく理解して、一般的な外来はかかりつけ医を受診する、入院に際しても病態に合わせて適切な病院(病床)に移る、といった行動が求められているのです。次回から介護について説明します。地域医療構想と並ぶ国策の柱である「地域包括ケア」とは何なのかを考えていきたいと思います。
 

 「13歳からの社会保障」は今回から各論に入ります。4回にわたって医療と介護について解説しますが、まず全体像を示したのが下図です。

 


 

「保険制度」というのは「お金」の話です。一方の「提供体制」が実際に医療や介護を受けることを指しています。医療と介護の各々について、保険制度と提供体制が整備されています。順に説明していきますが、今回は医療保険制度の概要です。

 

 

 日本では、すべての国民が公的な国民保険に加入し、病気になった場合に誰でも必要な時に必要な医療を保険で受けることができます。これを「国民皆保険」と呼びます。所得や健康状態にかかわらず、原則すべての人が加入し保険料を負担する仕組みで、社会保障制度の根幹を成しています。上図が保険診療の流れです。

 

①保険料の支払い…保険料は所得に応じて計算されます。

②診療サービス(療養の給付)・一部負担金の支払い…病院や診療所(クリニック)に行き、診断・治療を受けます。保険で全額給付されるわけではなく、一部は自己負担で支払います(詳しくは後述)。

③診療報酬の請求…診療報酬とは医療機関が国(審査支払機関)に対して請求できる金額で、診療行為毎に細かく点数(1点=10円)が決められています。

④審査済の請求書の送付・⑤請求金額の支払い…審査支払機関と医療保険者との間で請求金額のやり取りがなされます。医療保険者とは保険料の徴収や保険給付を行う団体の総称で、具体的には、サラリーマンが加入する健康保険組合及び全国健康保険協会(協会けんぽ)と、自営業者や農業従事者等が加入する国民健康保険(市町村が運営)があります。

⑥診療報酬の支払い…最後に医療機関に診療報酬が支払われます。

 

 次に、患者の自己負担について説明します。

 

 

患者の自己負担割合は年齢によって定めがあり、70歳未満は3割、6歳未満(義務教育就学前)は2割です。70歳以上75歳未満は2割、75歳以上は1割ですが、現役並み所得者(年収約370万円)は3割になります。また、自己負担が過重にならないよう、自己負担額を窓口で支払った後に月ごとの自己負担限度額を超えた部分が事後的に償還払いされる「高額療養費制度」があります。例えば、70歳未満で年収600万円の人が100万円の医療費の診療を受けた場合、一旦30万円を窓口で支払いますが、自己負担限度額87,430円(=80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%)を差し引いた212,570円が後から戻ってきます。

 

前回のブログで、これからは高齢者にも「負担能力に見当たった負担」を求めていくことを述べましたが、今年(2018年)8月から、70歳以上の現役並み所得者について高額療養費の自己負担限度額が引き上げられました(2017年8月にも第1段階の引き上げがなされています)。今年6月に公表された、国の基本方針である「骨太の方針2018」でもこうした方向性が明記されています。少し長いですが引用すると、「高齢化や現役世代の急減という人口構造の変動の中でも、国民皆保険を持続可能な制度としていく必要がある。勤労世代の高齢者医療への負担状況にも配慮しつつ、必要な保険給付をできるだけ効率的に提供しながら、自助、共助、公助の範囲についても見直していく必要がある。高齢者医療制度や介護制度において、所得のみならず資産の保有状況を適切に評価しつつ、「能力」に応じた負担を求めることを検討する。団塊世代が後期高齢者入りするまでに、世代間の公平性や制度の持続性確保の観点から、後期高齢者の窓口負担の在り方について検討する。…」とあります。

次回は、医療提供体制がどうなっていて、今後どのように変化していくのかを考えていきます。そこでも基本的な考え方は、持続可能な国民皆保険制度を確立するために、いかに効率的に医療を提供するか、ということになります。

「科学的介護」とは、自立支援や重症化予防等の効果が科学的に裏付けられた介護を指します。例えば脳卒中の麻痺で自立歩行困難な人にどのような介入をしたら効果があるかというエビデンスを収集・確立することで、利用者の状態に合わせた介護サービスを提供することを目的としています。科学的介護を実現するにはデータを活用したエビデンスを構築することが必要になりますが、厚労省は高齢者の状態や介入に関するデータベース「CHASE(Care, Health Status & Events)」の構築を開始しています。

介護業界でも自主的にエビデンスを検証する動きが出てきています。日本認知症グループホーム協会では、平成29年度老人保健健康増進等事業「認知症グループホームにおけるグループホームケアの効果・評価に関する調査研究事業」を実施、検討委員として私も参加しました。同事業においては、グループホームケアの効果の立証を目的に、認知症の行動・心理症状(BPSD)生活の質(QOL)を検証しました。BPSDの指標にはNeuropsychiatric inventory-Nursing home version(NPI-NH)を用いましたが、入居前の17.22点から3ヵ月後の9.84点へと有意に改善しました。QOLについても、QOL-D短縮版が入居前の25.16点から3ヵ月後の29.21点へと向上しました。今後さらに介護報酬での評価を目指して、どのようなクループホームケアが有効かを検証していく予定です。
未来投資戦略2018では、「自立支援等の効果が科学的に裏付けられた介護を実現するため、高齢者の状態、ケアの内容などのデータを収集・分析するデータベースの 運用を平成32年度に本格的に開始する。これにより、効果が裏付けられた介護サービスについては、次期以降の介護報酬改定で評価する。」と、科学的介護の推進が明記されました。このことは、介護の効率化や質向上、さらに介護費の適正化につながるもので首肯できます。ただ、現場には、チェック項目が客観的に判断しにくいと、人によって評価結果が振れてしまうのではないかという根強い懸念があるのも事実です。介護現場にとって、いかに分かりやすく、負担がなく、公正に判断できるチェック項目を設定できるかが、科学的介護を根付かせる鍵だと思います。この点に関しては、私も政府の厚生労働委員会で問題提起させていただきました。引き続き、同委員会で議論を深めていきたいと考えています。

 

2018年度診療報酬改定において、「オンライン診療料」(1月70点)や「オンライン医学管理料」(1月100点)等、オンライン診療(スマートフォンのビデオ通話機能等を用いた診療)に対する報酬が新設されました。オンライン診療(遠隔診療)自体はこれまでも認められていましたが(診療報酬上は再診料)、今般、独立した1つの項目として評価されました。

オンライン診療の利点を考えると、まず、中山間部等で訪問診療に時間がかかる場合、医師の移動の負担が大幅に軽減されます。月に2回自宅まで訪問していた内の1回をオンライン診療にするような使い方が想定されています。また、働き盛りのサラリーマンなど外来に通う時間がない人にとって、自宅やオフィスのパソコンから受診できるメリットは大きいでしょう。生活習慣病等でついつい外来に行かなくなってしまうことも多いですが、手軽なオンライン診療であれば受診頻度の向上も期待されます。

 一方で課題もあります。まず、オンライン診療料の要件をみると、対象疾病が生活習慣病等に限定される上、6ヵ月間の対面診療を経ないとオンライン診療を実施できないとなっています。厚労省の説明によれば、急速なオンライン診療の拡大は医療の質低下につながる恐れがあり、慎重にすべきとの見方もあるため、まずは診療報酬上に乗せることを優先したとのことで、それは十分に首肯できることです。今後、オンライン診療の対象領域を拡げていくには、対面診療と比較してオンライン診療が有意とするエビデンスを収集していく必要があります。また、情報セキュリティも課題です。厚労省は今年3月30日に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を通知、通信環境について「個人情報の保護に最大限配慮するとともに、情報セキュリティに関する対策を講じ、それらを患者・医師・オンライン診療システム提供事業者の三者で合意することが重要」と指摘しています。ただ、患者様や医師がこの指針で情報セキュリティの優劣を見極めるのは困難であり、今後、より分かりやすいチェックリストや、システム提供事業者の優良認定制度等を整備していくことも考えていかなければならないでしょう。

骨太方針2018では「服薬指導を含めた『オンラインでの医療』全体の充実に向けて、次期以降の診療報酬改定における有効性・安全性を踏まえた評価を更に前進させる」、未来投資戦略2018でも「オンライン診療は、本年度診療報酬改定での評価新設及び新たなガイドラインを踏まえ、安全で適切な普及に向け、セキュリティ等の観点 からの実証を実施し、技術的成果についてガイドライン・診療報酬改定への反映を検討する」とされています。医師の働き方改革を進めていくためにもICT活用による生産性向上は欠かせません。引き続き、オンライン診療の動向を注視していきたいと思います。