皆さんは病気にかかったりケガをしたときに医療機関へ行くと思いますが、医療機関はベッド(病床)の数によって、病床が20床未満の診療所と、20床以上の病院に分類されます。診療所はさらに、病床を持たない「無床診療所」と病床を持つ「有床診療所」に分かれます。2018年3月末現在、101,860施設ある診療所のうち、94,715施設が無床診療所、残り7,145施設が有床診療所です。病院は、8,389施設あります。

 医療機関で受療する方法は大きく、外来、入院、在宅診療の3通りあります。

外来…医療機関の窓口で受付をして、診察、検査、処置等を受け、会計を行うという流れです。また、夜間や休日の急を要する診療、救急車で搬送された重症な患者さんの治療等の救急外来診療も外来診療の一つです。診療所は外来主体ですし、病院も多くは外来診療を行っています。
入院…入院するのは、病院の外来で診察を受けて医師から入院が必要と判断された場合、普段から診てもらっている医師からの紹介、救急外来を受診し入院治療が必要となった場合という3つのルートが一般的です。皆さんが入院するときには特に意識していないと思いますが、医療政策を考える上で、入院の機能を病期によって次の4通りに分けています。
高度急性期…集中治療室等で非常に密度の濃い高度な医療を提供する機能です。大学病院をイメージしてもらえば近いと思います。
急性期…急を要する患者さんに対して状態の早期安定化に向けた医療を提供する機能です。救急車を呼んだ場合に搬送される、地域の救急病院等が該当します。
回復期…急性期を経過した患者さんに対して在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能です。
慢性期…長期にわたり療養が必要な患者さん(重度の障害を持った方や難病患者等)が入院する機能です。
在宅診療…患者さんが医療機関に来るのではなく、患者さんのご自宅や施設を医師等医療者側が訪問し、医療を提供するのが在宅診療です。高齢化の進展に伴い、医療機関に通院することが難しい患者さんが増加していること、がんや難病の患者さんで自宅での療養を希望される方が増えていること、などから在宅診療の必要性は年々高まっています。

 非常にラフですが医療提供体制の概要について説明しました。次に、こうした医療提供体制がどのように変化していくか、外来と入院について見ていきましょう。
外来一般外来はかかりつけ医、大病院は紹介患者中心の専門外来

 
「3時間待ちの3分診療」という言葉を聞いたことがあると思います。大学病院に9時の予約を取ったのに呼ばれたのは11時で診察はわずか5分間で終了、なんて経験はありませんか。大病院に患者さんが集中してしまう傾向は以前から問題視されていましたが、ここにきて、大病院は紹介患者さんに対する専門的な診療に特化する方向で改革がなされています。一般的な外来受診(初診)は、かかりつけ医に相談しようということです。かかりつけ医とは、健康に関することを何でも相談でき、必要な時は専門の医療機関を紹介してくれる身近にいて頼りになる医師のことです。日本医師会では、健康管理や重症化予防の観点から、かかりつけ医を持つことを推奨しています。外来診療の役割分担のイメージは上図の通りですが、国は国民の受療行動を変えるため、平成28年度から、大病院における紹介状のない初診及び継続的な診療の必要性を認めない再診について、大病院が一定の定額負担(初診5,000円、再診2,500円)を徴収することを義務づけました。大病院の定義は、本制度の導入当初は500床以上でしたが、平成30年度から400床以上へと拡大されました。議論の中では200床まで拡大するという意見も根強くあり、今後もこうした方向性は強まりこそすれ弱まることはないと思います。
 
入院機能分化の徹底、施設(入院)から地域(在宅)へ
 
入院の方向性のイメージは上図の通りです。非常に分かりにくいと思いますが、簡単に言うと、患者さんの治療の必要性に合わせて病床の機能を分化させようというのです。高度な医療を提供できるベッドに重症でない患者さんが入院しているというミスマッチは医療資源の非効率な使い方なので、それをできるだけ一致させようということです。具体的には、各都道府県で「地域医療構想」という計画が策定されています。2025年の患者数や診療需要に関する推計を基に病床機能の4分類(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)ごとに必要病床数を算出、各医療機関は自主的に調整会議における話し合いを通じて機能を分担します。すでに各地域で調整会議が開催されており、2025年に向けて議論が繰り広げられていきます。
 
 さらに注目すべきなのは、国の政策が施設(入院)から地域(在宅)へと向かっていることです。わが国の医療需要は、団塊世代のすべてが75歳以上になる2025年から2030年頃にピークを迎え、その後減少に転じます。ピークに合わせて病床を整備してしまったら余ってしまうのが目に見えているので、今の病床数で何とか2025年を乗り切ろうという考えです。課題は在宅診療を担う人材の確保です。国が慢性期病床から在宅へのシフトを見込んでいる患者さんを在宅で診るには、全国で在宅医師を5千人以上、訪問看護師は2万人以上も増やさなければならないという試算もあります。

 前回引用した「骨太の方針2018」でも、「地域医療構想の実現に向けた個別の病院名や転換する病床数等の具体的対応方針について、昨年度に続いて集中的な検討を促し…自主的な取組による病床の機能分化・連携が進まない場合には、都道府県知事がその役割を適切に発揮できるよう、権限の在り方について、速やかに関係審議会等において検討を進める…病床のダウンサイジング支援の追加的方策を検討」と、強力に病床の機能分化を進めていく方針を明確にしています。
国民の医療ニーズと提供体制のミスマッチが続いたままだと、医療費抑制のために必要な医療まで保険給付の対象から外されたり、緊急性の高い救急医療を緊急性の低い医療が押しのけたりといった事態を招きかねません。国民としても、こうした事情をよく理解して、一般的な外来はかかりつけ医を受診する、入院に際しても病態に合わせて適切な病院(病床)に移る、といった行動が求められているのです。次回から介護について説明します。地域医療構想と並ぶ国策の柱である「地域包括ケア」とは何なのかを考えていきたいと思います。
 

 「13歳からの社会保障」は今回から各論に入ります。4回にわたって医療と介護について解説しますが、まず全体像を示したのが下図です。

 


 

「保険制度」というのは「お金」の話です。一方の「提供体制」が実際に医療や介護を受けることを指しています。医療と介護の各々について、保険制度と提供体制が整備されています。順に説明していきますが、今回は医療保険制度の概要です。

 

 

 日本では、すべての国民が公的な国民保険に加入し、病気になった場合に誰でも必要な時に必要な医療を保険で受けることができます。これを「国民皆保険」と呼びます。所得や健康状態にかかわらず、原則すべての人が加入し保険料を負担する仕組みで、社会保障制度の根幹を成しています。上図が保険診療の流れです。

 

①保険料の支払い…保険料は所得に応じて計算されます。

②診療サービス(療養の給付)・一部負担金の支払い…病院や診療所(クリニック)に行き、診断・治療を受けます。保険で全額給付されるわけではなく、一部は自己負担で支払います(詳しくは後述)。

③診療報酬の請求…診療報酬とは医療機関が国(審査支払機関)に対して請求できる金額で、診療行為毎に細かく点数(1点=10円)が決められています。

④審査済の請求書の送付・⑤請求金額の支払い…審査支払機関と医療保険者との間で請求金額のやり取りがなされます。医療保険者とは保険料の徴収や保険給付を行う団体の総称で、具体的には、サラリーマンが加入する健康保険組合及び全国健康保険協会(協会けんぽ)と、自営業者や農業従事者等が加入する国民健康保険(市町村が運営)があります。

⑥診療報酬の支払い…最後に医療機関に診療報酬が支払われます。

 

 次に、患者の自己負担について説明します。

 

 

患者の自己負担割合は年齢によって定めがあり、70歳未満は3割、6歳未満(義務教育就学前)は2割です。70歳以上75歳未満は2割、75歳以上は1割ですが、現役並み所得者(年収約370万円)は3割になります。また、自己負担が過重にならないよう、自己負担額を窓口で支払った後に月ごとの自己負担限度額を超えた部分が事後的に償還払いされる「高額療養費制度」があります。例えば、70歳未満で年収600万円の人が100万円の医療費の診療を受けた場合、一旦30万円を窓口で支払いますが、自己負担限度額87,430円(=80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%)を差し引いた212,570円が後から戻ってきます。

 

前回のブログで、これからは高齢者にも「負担能力に見当たった負担」を求めていくことを述べましたが、今年(2018年)8月から、70歳以上の現役並み所得者について高額療養費の自己負担限度額が引き上げられました(2017年8月にも第1段階の引き上げがなされています)。今年6月に公表された、国の基本方針である「骨太の方針2018」でもこうした方向性が明記されています。少し長いですが引用すると、「高齢化や現役世代の急減という人口構造の変動の中でも、国民皆保険を持続可能な制度としていく必要がある。勤労世代の高齢者医療への負担状況にも配慮しつつ、必要な保険給付をできるだけ効率的に提供しながら、自助、共助、公助の範囲についても見直していく必要がある。高齢者医療制度や介護制度において、所得のみならず資産の保有状況を適切に評価しつつ、「能力」に応じた負担を求めることを検討する。団塊世代が後期高齢者入りするまでに、世代間の公平性や制度の持続性確保の観点から、後期高齢者の窓口負担の在り方について検討する。…」とあります。

次回は、医療提供体制がどうなっていて、今後どのように変化していくのかを考えていきます。そこでも基本的な考え方は、持続可能な国民皆保険制度を確立するために、いかに効率的に医療を提供するか、ということになります。

「科学的介護」とは、自立支援や重症化予防等の効果が科学的に裏付けられた介護を指します。例えば脳卒中の麻痺で自立歩行困難な人にどのような介入をしたら効果があるかというエビデンスを収集・確立することで、利用者の状態に合わせた介護サービスを提供することを目的としています。科学的介護を実現するにはデータを活用したエビデンスを構築することが必要になりますが、厚労省は高齢者の状態や介入に関するデータベース「CHASE(Care, Health Status & Events)」の構築を開始しています。

介護業界でも自主的にエビデンスを検証する動きが出てきています。日本認知症グループホーム協会では、平成29年度老人保健健康増進等事業「認知症グループホームにおけるグループホームケアの効果・評価に関する調査研究事業」を実施、検討委員として私も参加しました。同事業においては、グループホームケアの効果の立証を目的に、認知症の行動・心理症状(BPSD)生活の質(QOL)を検証しました。BPSDの指標にはNeuropsychiatric inventory-Nursing home version(NPI-NH)を用いましたが、入居前の17.22点から3ヵ月後の9.84点へと有意に改善しました。QOLについても、QOL-D短縮版が入居前の25.16点から3ヵ月後の29.21点へと向上しました。今後さらに介護報酬での評価を目指して、どのようなクループホームケアが有効かを検証していく予定です。
未来投資戦略2018では、「自立支援等の効果が科学的に裏付けられた介護を実現するため、高齢者の状態、ケアの内容などのデータを収集・分析するデータベースの 運用を平成32年度に本格的に開始する。これにより、効果が裏付けられた介護サービスについては、次期以降の介護報酬改定で評価する。」と、科学的介護の推進が明記されました。このことは、介護の効率化や質向上、さらに介護費の適正化につながるもので首肯できます。ただ、現場には、チェック項目が客観的に判断しにくいと、人によって評価結果が振れてしまうのではないかという根強い懸念があるのも事実です。介護現場にとって、いかに分かりやすく、負担がなく、公正に判断できるチェック項目を設定できるかが、科学的介護を根付かせる鍵だと思います。この点に関しては、私も政府の厚生労働委員会で問題提起させていただきました。引き続き、同委員会で議論を深めていきたいと考えています。

 

2018年度診療報酬改定において、「オンライン診療料」(1月70点)や「オンライン医学管理料」(1月100点)等、オンライン診療(スマートフォンのビデオ通話機能等を用いた診療)に対する報酬が新設されました。オンライン診療(遠隔診療)自体はこれまでも認められていましたが(診療報酬上は再診料)、今般、独立した1つの項目として評価されました。

オンライン診療の利点を考えると、まず、中山間部等で訪問診療に時間がかかる場合、医師の移動の負担が大幅に軽減されます。月に2回自宅まで訪問していた内の1回をオンライン診療にするような使い方が想定されています。また、働き盛りのサラリーマンなど外来に通う時間がない人にとって、自宅やオフィスのパソコンから受診できるメリットは大きいでしょう。生活習慣病等でついつい外来に行かなくなってしまうことも多いですが、手軽なオンライン診療であれば受診頻度の向上も期待されます。

 一方で課題もあります。まず、オンライン診療料の要件をみると、対象疾病が生活習慣病等に限定される上、6ヵ月間の対面診療を経ないとオンライン診療を実施できないとなっています。厚労省の説明によれば、急速なオンライン診療の拡大は医療の質低下につながる恐れがあり、慎重にすべきとの見方もあるため、まずは診療報酬上に乗せることを優先したとのことで、それは十分に首肯できることです。今後、オンライン診療の対象領域を拡げていくには、対面診療と比較してオンライン診療が有意とするエビデンスを収集していく必要があります。また、情報セキュリティも課題です。厚労省は今年3月30日に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を通知、通信環境について「個人情報の保護に最大限配慮するとともに、情報セキュリティに関する対策を講じ、それらを患者・医師・オンライン診療システム提供事業者の三者で合意することが重要」と指摘しています。ただ、患者様や医師がこの指針で情報セキュリティの優劣を見極めるのは困難であり、今後、より分かりやすいチェックリストや、システム提供事業者の優良認定制度等を整備していくことも考えていかなければならないでしょう。

骨太方針2018では「服薬指導を含めた『オンラインでの医療』全体の充実に向けて、次期以降の診療報酬改定における有効性・安全性を踏まえた評価を更に前進させる」、未来投資戦略2018でも「オンライン診療は、本年度診療報酬改定での評価新設及び新たなガイドラインを踏まえ、安全で適切な普及に向け、セキュリティ等の観点 からの実証を実施し、技術的成果についてガイドライン・診療報酬改定への反映を検討する」とされています。医師の働き方改革を進めていくためにもICT活用による生産性向上は欠かせません。引き続き、オンライン診療の動向を注視していきたいと思います。

 

今回は総論編の最終回として、わが国の社会保障制度を守っていくにはどうすればよいかを考えてみます。第3回では、社会保障制度の成功が逆に高齢化による社会保障給付費の増高をもたらし、それを賄う財源は保険料、税金ともに限界にきていることを説明しました。

解決策の一つは社会保障給付費を抑制することですが、そのためには、医療や介護に頼らないように「予防・健康づくり」を推進することが重要です。「健康寿命」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。健康寿命とは、介護を受けたり寝たきりになったりせず日常生活を送れる期間を指します。下図は平均寿命と健康寿命の推移を見たものですが、男性で約9年、女性で約12年間の隔たりがあり、その間は健康的に日常生活が送れていないことになります。健康寿命を延ばす方法は、生活習慣を見直して糖尿病や高血圧を防ぐ、がん検診等で早期発見に努める、高齢者が集まって運動や食事(栄養)をすることのできる場所を提供するなど、様々です。

もう一つの解決策は財源の確保です。第2回を振り返ると、社会保障の財源は、公助(税金)4割、共助(保険料)5割、自助(自費)1割でした。税金の投入はむやみに増やすことはできません。残る保険料と自費負担に関する国の基本的な考え方は、これまでの「年齢別」から「負担能力別」に負担のあり方を切り替えようというものです。例えば、病院の窓口での自費支払は、現役世代の3割から、年齢が上がるにつれて2割、1割と低下していきます。高齢でも現役世代並みかそれ以上の所得や資産のある方には、現役世代並みの負担をお願いしようという考え方です。先述のように健康寿命が延伸すれば、高齢者であっても、意欲や能力がある限り、年齢にかかわりなく働くことができます。働いて社会に貢献するという意欲は、健康寿命をさらに伸ばすことにもつながります。このように、健康寿命の延伸が直接的に医療費や介護費を抑制し、元気な高齢者が働き続けることで社会保障財源に貢献し、その意欲向上がさらに健康寿命を延ばすという好循環をもたらすのです。

 第1回で社会保障制度が国民相互の支え合いを本質としていることを述べました。働く意欲のあるすべての人が働くことができる社会を目指し、高齢者や障害を持った人が支えられる側、現役世代が支える側という従来の考え方を乗り越えて、支える側に回る人をできるだけ増やしていくことが、持続可能な社会保障制度を実現する道だと考えています。次回からの各論編では、医療、介護、年金の順に、各保険制度の概要と提供体制について説明していく予定です。

新聞やニュースで「働き方改革」という言葉を聞いたことがあると思います。今回は番外編ということで、今なぜ“働き方”を改革しなければならないのかを考えてみたいと思います。国全体の経済は、生産年齢人口×労働生産性で決まります。生産年齢人口というのは働き手のことで、今後急速に減少することは前回確認しました。となると、日本の活力を維持していくには労働生産性を上げなくてはなりません。一般に労働生産性は、労働者1人当たりの国民総生産(GDP)で表されますが、日本の労働生産性は先進国の中で最低レベルにとどまっています(下図)。

国が進めている働き方改革のメニューは多岐にわたりますが、生産性向上という観点で言うと、まず「長時間労働の是正」です。すべての企業がというわけではありませんが、これまでの日本では、サービス残業等により労働者に無理を強いることで何とか乗り切ってしまうという風潮があったのは事実です。これに対し今般の改革で、時間外労働について、原則「月45時間、年間360時間」の上限規制が導入されます。時間外労働に対する規制が強化されれば、企業経営者もイノベーションによる効率化を図るなどして生産性アップを図る方向に舵を切ることが期待されます。また「多様で柔軟な働き方の実現」もあります。高度な専門業務に特化してスキルを磨きたいといったケースにおいて、成果型労働制の一種である「高度プロフェッショナル制度」が創設されます。育児や介護等の事情に応じて、労働者が各自の始業時刻と終業時刻を自由に決められる「フレックスタイム制」も使いやすく見直されます。若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、誰もが能力を発揮し、生きがいを感じることのできる「一億総活躍社会」を目指して、国は働き方に関する仕組みづくりを進めていきます。

 

 働き方改革は一方で、働く人の労働意識改革でもあります。皆さん、大人になったら働くのだということを漠然と認識していると思います。これまで日本社会では、大学卒業とともに就職し、組織のメンバーとして定年まで働き退職するという「メンバーシップ型」の働き方が王道でした。しかし、これからの時代は、一度身に付けた知識や技術で長い間働き、収入を得るという見通しが立ちにくい時代になります。そこでは、個々のプロジェクトに対して都度最適な人材が割り当てられる「ジョブ型」の働き方が主流になってくると言われています。わが国の未来を担う皆さんにおいては、変化を恐れず常にチャレンジするマインドと、生涯を通じて自らの能力に磨きをかけていく姿勢を持ち続けてほしいと願っています

日本は今、人類史上で類を見ない人口の少子高齢化を経験しています。下のグラフは年齢別の人口推計を表していますが、出生数の減少(=少子化)を受けて日本全体の人口がマイナスとなる中にあって、65歳以上の高齢者人口は2040年頃まで増加を続け、つれて高齢化率(高齢者/全人口)は上昇の一途を辿ると予想されています。すでに今でも4人に1人が高齢者という状況ですが、2035年頃には3人に1人が高齢者になるのです。

人口高齢化は多くの国民が長生きできるということであり、人類の夢だった長寿社会を実現したことにほかなりません。そしてこれに大きく寄与したのが実は社会保障制度であり、誰でも適切な医療と介護を受けることができることが国民の寿命を延ばし、年金による所得保障が生涯にわたって生活を支えてきました。しかし皮肉なことに、社会保障制度の成功が高齢化をもたらし、医療費や介護費の増高から、一転して今度は社会保障制度そのものが危うくなっているのです。年金、医療、介護等の社会保障給付費は足許で120兆円を突破しています。この給付を賄うための保険料負担は増大を続け、現役世代の生活を圧迫しています。若い世帯の生活が厳しいので、子どもを産むのを抑制しているという見方もあります。もう一つの財源である公費のかなりの部分は国債(国の借入金の一方式)等で調達されるため、日本の借金は昨年末時点で1,085兆円とGDP(国民総生産:国内で1年間に生産される商品やサービスの総計)の2倍を超える規模に達してしまっています。こうした事態を国の資料等では「社会保障制度の持続可能性が問われている」と表現したりします。

では、どうしたら社会保障制度を守っていけるのか。第4回では、国がどういう方向性で政策を打ち出していくのか、日本国民はどのような自覚を持って生きていけばよいのか、持続可能な社会保障制度への処方箋を考えていきたいと思います。その前にもう一度、冒頭のグラフを見てください。15~64歳人口を生産年齢人口と言いますが、この層の人口が急減し、2060年には4,418万人と現在の6割以下にまで落ち込むと推計されています。社会保障制度全体の方向性を考える前に、次回は番外編として、限られた働き手で最大限の生産性を実現するにはどうすればよいか、「働き方改革」という視点から考えてみます。

病児保育とは、保護者が就労している等、子どもが病気の際に自宅での保育が困難な場合、病院・保育所等において病気の児童を一時的に保育することを指します。最近では、病児の自宅に訪問するサービスもあります。この病児保育、現場からは全く足りていないという声が多く聞かれます。病児保育に関する民間団体が未就学児を持つ共働き世帯と一人親に対して行ったアンケートをみますと、子どもの発病時の対応として多い順に「母親が仕事を休む」63%、「祖父母にあずける」25%で、「病児保育を利用」はわずか3%にとどまっています。
こうした病児保育の受け皿不足の背景には、経営的に成り立ちにくいという事情があります。病児保育は季節によって利用に繁閑差が大きいうえ、急な回復によるキャンセルも多く、需要が安定しません。人材不足の中で必死に職員を揃えても、余ってしまうケースが発生するのです。
政府も手を拱いているわけではありません。平成29年12月8日に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」の中で、「子ども・子育て拠出金を0.3 兆円増額する。法律に定められた拠出金率の上限を 0.25%から 0.45%に変更し、0.3 兆円の増額分は、2018 年度から実施する『子育て安心プラン』の実現に充てる」としています。病児保育についても、年間受入人数を現在の2.5倍に当たる150万人まで増加させる目標を2年間前倒しするとともに、1市区町村当たり年間2,000人という枠も外し原則全員分の補助金を出せるようにします。

今後の課題は具体的な方法論ですが、私は、シェアリングエコノミーの発想によるスペースやマンパワーの有効活用を提案したいと思います。スペースについては、例えば医師会立の診療所は夜間・土日の急患対応が主体で平日の昼間は空いているところが多く、そこを活用する。また、病院の小児病棟にあるプレイルーム等の一部を使うことも考えられます。医師が近くにいることの安心感は大きいと思います。マンパワーの点は、看護師、病児保育の教育を受けた保育士等を市区町村で登録しておき、必要な時に、必要とする診療所や病院に、必要な人数を派遣できるようにする、そうした仕組みを作ることはできないでしょうか。このような趣旨のことを、3月の厚生労働委員会で質問させていただき、厚労省からも前向きの回答をいただきました。

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子育て安心プランは地域に密着した事業です。ここにきて、地域住民の方や市区町村、地区医師会等が一緒になって病児保育をどうやって確保していくかを議論する動きが出てきています。私が病児保育への関心を深めたのも、先般の東京都医師会地区医師会長連絡協議会において、大森医師会の荒井俊秀会長が問題提起されたのがきっかけです。国としても、現場の悩みや要望に真剣に耳を傾け、本当に役立つ知恵を出していかなければと、改めて肝に銘じました。

第15回 期待される再製造SUD

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SUD(Single-use device:単回使用医療機器)とは、1回限り使用できることとされている医療機器を指します。

今年1月、産学官の連携によって、使用済SUDを再利用する「再製造SUD」 を新しい産業として育成することを目的に、「単回医療機器再製造推進協議会」が発足しました。再製造SUDに関しては、厚生労働省が2017年7月に法令整備を行い、SUDを医療機器製造販売業者がその責任のもとで適切に収集、分解、洗浄、部品交換、再組立て、滅菌等の処理を実施することで、再び使用できるようにする(再製造)新たな仕組みを創設しました。そのポイントは以下の3点です。これに伴い、再製造SUDの品質、製造管理、トレーサビリティの確保等に関する基準が新設されました。
【新たな制度のポイント】
 1.再製造SUDを製造販売するためには、医薬品医療機器法に基づく製造販売業許可を必要とする。
  2.再製造SUDは、元々のSUD(オリジナル品)とは別の品目として、製造販売承認を必要とする。
  3.再製造SUDに係る医薬品医療機器法上の責任(安全対策、回収等)は、再製造を行った製造販売業者が担う。
 

単回医療機器再製造推進協議会は、再製造SUDの推進に向けて4つの目的を掲げています。
(1)医療製品の有効利活用:質の高い医療を持続させるために限られた資源を有効に活用します。
(2)安全性:現在の再製造SUDは、「病院が独自の判断でSUDを滅菌して再使用している」のが実状です。安全性や性能が保証されず、感染や医療の質低下につながるリスクがあります。厚生労働省は再使用禁止の通達を再三にわたって出してきましたが、大きな改善を見ていないため、今回の法制化に踏み切りました。
(3)環境保全:医療機関からのゴミの量を減らすことにもなります。医療機関は廃棄物を有価で処理しているため、ゴミ削減はコスト低減にも資するものです。
(4)経済性:再製造SUDはオリジナル品の5~7割の価格であり、医療機関にとって材料費削減、国全体では医療費削減につながります。
再製造SUDは世界的な潮流です。以前は海外でも日本と同様、病院で洗浄・滅菌したSUDを再使用することで問題が頻発していたそうです。米国では2000年以降、FDA米国食品医薬品局が再製造SUDに関する安全基準・承認基準を整備しました。欧州全体では2017年、医療機器に厳格な品質・安全性の管理を求めた医療機器の新規制が制定され、その中で再製造SUD関する項目が盛り込まれました。
 
(資料)国際医療福祉大学大学院・武藤正樹教授の講演資料より

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病院の独自判断によるSUDの滅菌使用は感染予防・性能保証の観点から行うべきでないことは明白でしょう。再製造SUDの制度は整いました。あとは国内でいかに普及させていくかです。SUDの市場規模は約1.5兆円と言われています。業界関係者の話ではSUDの約1割が再製造に適するそうです。仮に製造原価を半分にできたとすれば750億円の医療費削減につながります。
再製造企業や医療機関、治療を受ける患者様のご意見・ご要望もお聴きしながら、国としてどのようなフォローアップが可能なのか、真剣に考えていきたいと思います。

第14回 病床偏在と医師偏在

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医師の働き方改革の議論とも関連の深い「病床偏在と医師偏在」について見てみたいと思います。

下の図は、人口10万人当たりの病床数(2016年10月1日、医療施設調査)と、医師数(2016年12月31日、医師調査)を、都道府県別に並べたものですが、かなり似通った傾向が示されています。

病床偏在については、地域医療構想で、各構想区域における将来の医療需要(入院)を推計し、医療機関の自主性により2025年の地域ごとの病床数を調整していこうとしています。一方、医師偏在対策のベースとなる医師需給推計は、あくまで全国ベースの総数を推計したものです。そのため、医師の地域偏在の場合、まず各地域における医師の必要供給量から不足分をどうするか、といった議論になっています。

医師偏在についても都道府県別の需要を推計することはできないでしょうか。地域医療構想のデータを活用するとともに、不足している精神病床や外来のデータの充実を図れば、十分に可能だと思います。地域別、機能別、科別、年齢別そして、男女別の医師の将来需要が明確になれば、それを基に、専門医制度や医師の働き方改革の議論もより深化するでしょう。

地域医療構想、医師偏在対策、専門医制度、医師の働き方改革と、医療供給体制を巡る改革は目白押しですが、それぞれが密接に関わっており、各検討会を超えて議論・検討していくことが肝要だと思います。