デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念です。

 

 

最近、医療分野におけるデジタルトランスフォーメーション=医療DXが注目を集めています。以下は、骨太の方針2022からの抜粋ですが、昨年までは使われていなかったDXという言葉が3回も登場しています。

●医療・介護分野でのDXを含む技術革新を通じたサービスの効率化・質の向上を図るため、デジタルヘルスの活性化に向けた関連サービスの認証制度や評価指針による質の見える化やイノベーション等を進める。

●データヘルス改革に関する工程表にのっとりPHRの推進等改革を着実に実行する。

●オンライン資格確認について、保険医療機関・薬局に、2023 年4月から導入を原則として義務付けるとともに、導入が進み、患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう、関連する支援等の措置を見直す。

●2024 年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指す。

●全国医療情報プラットフォームの創設

●電子カルテ情報の標準化等

●診療報酬改定DX

●政府に総理を本部長とし関係閣僚により構成される「医療DX推進本部(仮称)」を設置する。

●オンライン診療の活用を促進するとともに、AIホスピタルの推進及び実装に向け取り組む。

 

医療DXを一言でいえば、データとデジタル技術の活用による医療モデルの変革ですが、医療におけるデジタル化の代表は電子カルテです。下表は、電子カルテシステム等の普及状況を見たものですが、電子カルテの普及率は、病院で57.2%、診療所で49.9%にとどまっています。

 

 

こうした状況下、厚労省の健康・医療・介護情報利活用検討会 医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループでは、2019年に設けられた「医療情報化支援基金」を活用した、電子カルテ導入に対する支援が議論されています。

 

 

私は、電子カルテが医療機関の半分程度にしか普及していないのは、経済的な問題に尽きると考えています。電子カルテ投資は、中小病院でも導入時にイニシャルコストが数億円、ランニングコストとして毎年数千万円と、経常利益を上回る費用を要するのが実状となっています。

2000年の介護保険開始時には、国が介護ソフト導入費用を全額補助したことにより、デジタル化が急速に進展しました。医療DXを真剣に推進するのであれば、全額とは言いませんが、7割程度は補助する思い切った政策が求められるのではないでしょうか。電子カルテの導入・標準化が進み、医療機関間の情報共有がなされるようになれば、予防医療の普及や重複・多剤投薬の削減により医療費も抑制されるので、財源を確保することはできると思います。

 

提言 電子カルテの導入・標準化を推進するため、初期投資およびランニングコストの7割程度を国費で補助する仕組みを早急に構築する。

 

骨太の方針とは、「経済財政運営と改革の基本方針」の通称で、国政全般の基本的な方向性を定めたものです。年末の予算編成や税制改正などの重要な政策に反映されます。

 

骨太の方針2022」が6月7日に閣議決定されました。「新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」と銘打たれた今年の骨太は、「世界を一変させた新型コロナウイルス感染症、力による一方的な現状変更という国際秩序の根幹を揺るがすロシアのウクライナ侵略・・・輸入資源価格高騰による海外への所得流出、コロナ禍で更に進む人口減少・少子高齢化・・・」といった難局の中、「社会課題の解決に向けた取組それ自体を付加価値創造の源泉として成長戦略に位置付け・・・経済社会の構造を変化に対してより強靱で持続可能なものに変革する『新しい資本主義』を起動する」と、強い決意を表明しています。

 

骨太の方針2022の中から、医療介護政策に関する部分を抜粋してみます。

 

 

〇男女が希望どおりに働ける社会の構築

●男性や非正規雇用労働者の育児休業取得促進や子育て支援に取り組む。

●仕事と子育てを両立できる環境を整備する。

勤労者皆保険の実現

●家庭における介護の負担軽減のため介護サービスの基盤整備等を進める。

●現場で働く方々の更なる処遇改善に取り組んでいく。

●独居の困窮者・高齢者等に対する相談支援や医療・介護・住まいの一体的な検討・改革等地域共生社会づくりに取り組む。

 

〇医療・介護提供体制などの社会保障制度基盤の強化

機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進める。

かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う。

●地域医療連携推進法人の有効活用

●都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進する。

医師の働き方改革の円滑な施行に向けた取組を進める。

●医療費適正化計画の在り方の見直しや都道府県のガバナンスの強化

 

〇医療・介護DXを含む技術革新を通じたサービスの効率化・質の向上

●デジタルヘルスの活性化に向けた関連サービスの認証制度や評価指針による質の見える化

オンライン資格確認について、保険医療機関・薬局に、2023 年4月から導入を原則として義務付ける。

●保険証の原則廃止を目指す。

●全国医療情報プラットフォームの創設

●電子カルテ情報の標準化

●診療報酬改定DX

●総理を本部長とし関係閣僚により構成される「医療DX推進本部(仮称)」を設置する。

●医療法人・介護サービス事業者の経営状況に関する全国的な電子開示システム等を整備する。

●オンライン診療の活用を促進する。

●AIホスピタルの推進及び実装に向け取り組む。

救急医療の「東京ルール」では、救急患者が迅速に医療を受けられるよう、地域の救急医療機関がお互いに協力・連携して救急患者を受け入れます。救急隊の医療機関選定において搬送先が決定しない場合に、救急隊と並行して受入先の調整を行う医療機関「地域救急医療センター」が整備されています。さらに地域救急医療センターが行う地域内の調整では患者受入が困難な場合には、東京消防庁に配置された「救急患者受入コーディネーター」が東京都全域で調整を行います。

 

新型コロナウイルス感染症の流行によって、わが国の医療体制の脆弱性が露呈しましたが、とりわけ救急医療の現場で顕著です。

下表は、東京都における救急搬送および東京ルールの運用状況を見たものです。

 

 

2018年

2019年

2020年

2021年

2021.4

~2022.3

救急搬送人員

726,428

731,900

625,639

630,257

656,907

東京ルール

発生件数

7,101

9,264

15,355

22,748

31,269

発生割合

0.98%

1.27%

2.45%

3.61%

4.76%

圏域内受入率

86.1%

85.5%

81.4%

78.0%

69.9%

※東京ルールの数字は、新型コロナ疑い救急患者を除く

 

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う衛生意識の向上や不要不急の外出自粛といった国民の行動変容により、急病や交通事故、負傷等が減り、救急搬送人員全体は減少傾向にあります。

一方、東京ルールの発生件数は、年率5割前後のペースで急増、ここ1年間(2021年4月~2022年3月)は3万件を超え、救急搬送全体に占める割合も5%近くに上昇しています。

見逃せないのが東京ルール事案の圏域内受入率の推移で、新型コロナ前は85%前後あった受入率が直近で70%を割り込むレベルまで低下しています。かねてより東京都医師会副会長の猪口正孝先生が指摘されるように、高齢者が地域の病院で受け入れを拒否され、少し離れた急性期病院に入院した結果、コミュニティに戻るチャンスがなくなってしまう、いわゆる“さまよえる老人”が社会問題となっていましたが、足許でますます深刻化しているのです。

 

こうした中、消防救急車の負担軽減という観点から期待されるのが、病院が保有する救急車(病院救急車)の活用です。

何度かご紹介しましたが、私が南多摩病院を経営している東京都八王子市では、病院救急車が活躍しています。救急搬送される高齢者は軽症であっても、認知症を持つ方の肺炎や骨折、糖尿病患者の尿路感染症等、受け入れ病院がなかなか決まらないという問題があります。そこで2014年12月から、南多摩病院に病院救急車を配備し、自宅や施設で療養する高齢者が病院での治療が必要になったとき、かかりつけ医の出動要請に基づいて市内の病院に搬送する事業を八王子市医師会が始めました。病院救急車には医師や看護師、救急救命士が乗り込んで現地に向かい、かかりつけ医に指定された病院に患者を搬送します。2021年12月までの7年余りで3,075件の出動件数を記録しています。

 

 

このように活用が期待される病院救急車ですが、消防機関の救急自動車保有台数6,329台に比べ、救命救急センター及び2次3次医療機関が保有する病院救急車は1,088台にとどまっています。病院救急車のさらなる普及には人件費や車両整備費、燃料代等の運用コストに対する補助が必要だと考えています。

 

提言 消防救急車の負担軽減という政策的な観点から、病院救急車の活用に取り組む医療機関に対して、人件費や車両整備費、燃料代等の運用コストを補助する。

 

地域包括ケア病棟は2014年度診療報酬改定で新設された病棟類型です。厚生労働省によれば、地域包括ケア病棟の役割は「急性期治療を経過した患者及び在宅において療養を行っている患者等の受け入れ並びに患者の在宅復帰支援等を行う機能を有し、地域包括ケアシステムを支える役割を担うもの」とされています。

 

 

(注1)もともと地域包括ケア病棟は、全日本病院協会(猪口雄二会長)はじめ日本医師会・四病院団体協議会が提案した「地域一般病棟」がもとになっている。

(注2)地域包括ケア病棟協会は、3つの機能に加え、化学療法や手術等の「在宅等予定受入機能」を提唱している。

平成29年7月時点と令和2年7月時点の届出病床数を比較すると、地域包括ケア病棟は62,869床から92,829へと3万床近くも増加しており、急性期病棟からのシフトが進んでいます。

 

 

2022年度診療報酬改定では、とりわけ②の在宅療養患者の緊急入院、すなわち高齢者を主体とした慢性期救急が強化されました。

 

 

地域包括ケア病棟は療養病床でも認められていましたが、今回の改定で療養病床は原則95/100の点数を算定、ただし、救急告示あり/自宅等から入棟した患者割合が6割以上/自宅等からの緊急患者受け入れ3月で30人以上のいずれかを満たす場合は100/100の点数とされました。

 

治せる病気は確実に早く治す、治すのが難しい場合はできる限り満足して療養してもらう、というのが30年以上前からの私のポリシーです。2005年に私が大会長で開催した第13回日本療養病床協会全国研究会東京大会において、初めて「慢性期救急」という言葉を使いました。療養病床で救急を受けられるのかという批判はありましたが、私はせめて、療養病床から退院した患者さんが自宅で急変した場合には受け入れたいと強く思ったのです。

 

 

私が副会長を務める日本慢性期医療協会(武久洋三会長)は、慢性期病棟であっても救急指定をとり、積極的に高齢救急患者を診察する地域包括ケア病棟を目指しています。自治体は療養病床を持つ病院でも積極的に救急指定を行う、厚労省には自治体を指導することをお願いしたいと思います。

慢性期病院には急性期病院からの医療ニーズの高い早期転院患者や医療介護ニーズの高い重介護者など様々な方が入院しています。しかし、看護配置は20:1と急性期病院に比べて低く、マンパワーは不足している実態です。せん妄や認知症の対応に関しても様々な取り組みを行っているため、慢性期救急患者の受け入れを常時行っていくことが難しいのも現実です。緊急入院受け入れ率等の基準を設定して、基準を満たせば加配人員に対する予算を付けるなど、慢性期救急に力を入れる病院を支援していくことが、医療政策上も求められているのではないでしょうか。

 

提言1  厚労省は自治体に対して、療養病床を持つ病院が高齢救急患者に取り組む場合、積極的に救急指定を行うよう指導してほしい。

提言2 慢性期救急患者に取り組む病院に対して、緊急入院受け入れ率等の基準を満たせば加配人員に対する予算を付けるなどの支援を実施する。

 

地方公営企業とは、都道府県や市町村等の地方公共団体が住民の福祉の増進を目的として設置し経営する企業を指します。一般行政事務に要する経費が賦課徴収される租税によって賄われるのに対し、公営企業は提供する財貨又はサービスの対価である 料金収入によって維持されています。上・下水道、病院、交通等の事業ごとに経営成績及び財務状態を明らかにして経営すべきものであることに鑑み、事業ごとに特別会計が設置されています。

 

 

2020年度の地方公営企業の決算概要(総務省)から公立病院623事業の決算を見てみたいと思います。

 

 

2019年度

2020年度

対前年比

総収入

52,070億円

55,286億円

+3,216億円

 

医業収入

43,161億円

40,901億円

▲2,260億円

収益的収入への繰入金

6,303億円

6,493億円

+190億円

補助金

231億円

4,926億円

+4,695億円

その他

2,375億円

2,965億円

+590億円

総費用

53,054億円

53,919億円

+865億円

収支額

▲984億円

1,367億円

+2,351億円

 

2019年度から2020年度にかけての増減額に注目すると、まず、医業収益は、コロナ禍での患者さんの受診控えが影響して、▲2,260億円のマイナスになりました。この減収を大きく上回る補助金が前年比+4,695億円も投入された結果、収支額(民間病院の経常利益)は+2,351億円もの増益になりました。

 

2021年度の決算は集計中ですが、大勢は2020年度と変わらないのではないかと予想されます。

ただ、わが国の経済財政活動が徐々に「Withコロナ」へと転換する中にあって、いつまでも補助金に頼れないこと、患者の受診控えが従前に戻ることを期待できないこと、を考えると、2022年度以降、かつての赤字基調に逆戻りしてしまうとの懸念も拭い切れません(仮に2020年度において補助金収入がなければ、▲2,575億円の赤字という計算になります)。

 

最後の頼みの綱である繰入金を見ると、引き続き、8,000億円を超える高い水準にあります。

 

 

2019年度

2020年度

増減額

収益的収入への繰入金(再掲)

6,303億円

6,493億円

+190億円

資本的収入への繰入金

1,967億円

2,001億円

+34億円

繰入金合計

8,270億円

8,494億円

+224億円

 

地方公共団体は、地方公営企業法に基づいて、一般会計から病院に対して繰り出しを行なっています(会計上「他会計繰入金」と呼ばれます)。この際、総務省から地方公共団体に対して繰出基準(項目と繰出額の計算例)が示されていますが、あくまで例示に過ぎず、地方公共団体が基準を超えて繰り出しを行なうことが可能になっている点に留意しなければなりません。

 

地域医療構想ワーキンググループ等の会議において「調整会議で公立・公的病院への補助金の種類や金額、その資金使途等が公開されていないことが多い」との意見が出ています。病院団体等からも公立病院への繰入金の仕組みがよく分からないとの声をよく聞きます。

公立病院への繰入金について、金額の計算方法、個別医療機関ごとの金額(周産期や精神等の内訳)等を分かりやすく公表する仕組みが必要だと感じています。また、周産期や精神等の政策医療ではなく、一般医療(地域包括ケア病棟等)の赤字が繰入金によって補てんされているケースもあると聞いており、そうした場合、一般医療は民間医療機関にシフトさせるべきではないかと考えています。

私は、2019年3月13日の厚生労働委員会をはじめ、2021年2月26日の予算委員会第五分科会(当委員会での質問によって公立病院への繰入金が2018年度で8,266億円に及ぶことが国会で初めて明らかにされました)、2021年4月6日の総務委員会等の場で、公立病院への繰入金の明確化、公立病院と民間病院の役割分担について訴えてきましたが、改めて次の提言をしたいと思います。

 

提言  公立病院への繰入金の資金使途、特に一般医療の赤字補填に提供されている繰入金の金額を明確にする。一般医療については、公立病院しか存在しない地域は別にして、イコールフッティングにより民間病院へ優先的に担ってもらう。

 

2020年度には、親から暴力を受けたり辛いことをされる虐待に関する相談や、いろいろな事情で学校に通うことができない子ども(不登校)が過去最高を記録しました。コロナ禍で悩んだり苦しい思いをしている子どもや若者もいます。また、生まれてくる子どもの数がすごく減っています(少子化)。少子化が続くと、これからの社会を支える人が減っていくことになり、社会全体を支えることが難しくなるのではないかということが心配されています。

そこで、子どもに関わる取り組みや仕事を、日本の社会の中心において(こどもまんなか社会)、子どもの目線で、子どもの権利を大切にして、すべての子どもがそのいのちを守られ、自分らしく健やかに安心して過ごすことができるように、政府は「こども家庭庁」という国の新しい組織を作る方針を出しました。

 

政府は、「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」(令和3年12月21日閣議決定)に基づき、令和4年2月25日に「こども家庭庁設置法案」及び「こども家庭庁設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案」を閣議決定し、第208回通常国会に提出しました。

こども家庭庁のイメージは下図の通りです。

 

 

こども家庭庁の役割は次の通りです。

・小学校就学前のこどもの健やかな成長のための環境の確保及び小学校就学前のこどものある家庭における子育て支援に関する基本的な政策の企画及び立案並びに推進

・子ども・子育て支援給付その他の子ども及び子どもを養育している者に必要な支援

・こどもの保育及び養護

・こどものある家庭における子育ての支援体制の整備

地域におけるこどもの適切な遊び及び生活の場の確保

・こども、こどものある家庭及び妊産婦その他母性の福祉の増進

・こどもの安全で安心な生活環境の整備に関する基本的な政策の企画及び立案並びに推進

・こどもの保健の向上

・こどもの虐待の防止

いじめの防止等に関する相談の体制など地域における体制の整備

こどもの権利利益の擁護(他省の所掌に属するものを除く)

 

こうした中、総務省は5月4日、「我が国のこどもの数」を公表しました。それによれば、2022年4月1日現在、日本における15歳未満の「子ども」の数は1,465万人で41年連続の減少となり、総人口に占める「子ども」の割合も11.7%と48年連続の減少を記録しました。

 

 

少子化に対しては国も様々な施策を講じてきていますが、それでも合計特殊出生率が1.36まで低下するなど厳しい状況が続いています。一億総活躍関連の会議等でも発言してまいりましたが、私は、子ども1人の出産に1,000万円の手当を支給する(地方移住して子育てする場合はプラス1,000万円)くらいの思い切った支援策を検討するべきではないかと考えています。年間の出産数が100万人まで増加しても予算は10兆円程度であり、日本の将来に向けた根幹的な投資と考えれば決して過剰とは言えないのではないでしょうか。

 

提言 子どもを産むモチベーションを上げる観点から、子ども1人の出産に1,000万円の手当を支給する。実際の導入に際しては、1人目、2人目、3人目で段階的に金額を引き上げる、100万円程度でスタートして効果を検証する等の工夫を凝らすことで、まず制度をスタートさせることを優先する。

 

(ご参考)

欧米の主要国の中で、経済的支援が最も手厚いと言われているのがフランスです。下図は、第1子誕生、2年後第2子誕生のケースを見たものですが、第2子が誕生する2年後には、フランスでは約71万円、日本では12万円と、約59万円の差が生じています。

 

 

財政制度等審議会は、財務省の審議会等の一つで、予算や決算をはじめとする国の財政について審議を行う財務大臣の諮問機関です。いくつかの分科会が組織されていますが、財政制度分科会は、国の予算、決算及び会計の制度に関する重要事項を所掌しています。

 

 

4月13日に開催された財政制度分科会では社会保障が議題として取り上げられ、その中で「新型コロナ感染症への対応」が議論されました。

 

下表は、新型コロナ感染症について、これまで医療提供体制等の強化のために行われた支援策をまとめたものですが、合計で約16兆円の国費が投入されました。

 

 

こうした支援策は医療機関の経営状況にも影響を及ぼしていますが、見逃せないのは、公立病院と民間病院とで大きな差が出ていることです。

財務省の資料によれば、民間病院の損益率は、2019年度の1.8%から、2020年度はコロナ関連補助金を含む数字で2.3%と若干の増収となっています(補助金を除くと0.1%と収支トントン)。

これに対し、公立病院の経常利益は、2019年度に▲1,000億円程度の赤字だったが、2020年度には1,000億円を超える黒字に転じており、財務省の言葉を借りれば「従前と様変わり」となっているのです。

 

 

公立病院に対しては、平時でも年間7,000億円前後の繰入金が投入されています。私はかねてより、公立病院は民間病院では難しい医療を担うべきであると主張してきました。第8次医療計画(2024年度から2029年度まで)や地域医療構想の中で、新興・再興感染症対応をどのように取り込んでいくか、公立と民間の役割分担をどうすべきかを考えていかなければなりません。その際の考え方として次のような提言をしたいと思います。

 

提言1 感染症対策を含めた政策医療の提供体制について、診療アウトカムや費用対効果等の指標に基づいた議論を行い、自治体が政策医療を公立病院からも民間病院からも公募できるようなイコールフッティングの仕組みをつくる。

提言2  公立病院への繰入金の資金使途を明確にし、一般医療については、公立病院しか存在しない地域は別にして、民間病院へ優先的に担ってもらう。

 

政府では、人生100年時代を迎えライフスタイルが多様となる中、お年寄りだけではなく、子どもたち、子育て・現役世代の安心を支えていくため、働き方の変化を中心に据えながら、全世代型社会保障を検討しています。

 

 

2021年11月にスタートした全世代型社会保障構築会議の第4回会議が2022年4月26日に開催されました。

同会議は、政府が6月に取りまとめる予定の「骨太の方針」への反映を視野に、中間整理案について議論しました。

中間とりまとめのベースとなる「議論の整理」から、地域共生社会と医療・介護・福祉をご紹介します。

 

〇地域共生社会づくり

●多様な困難に陥っている方に対するソーシャルワーカーによる相談支援や、多機関連携による総合的な支援などにより、地域住民が地域で安心して生活を送ることができるようにすることが重要。

●今後、独居の困窮者・高齢者等の増加が見込まれる中にあって、医療・介護・住まいの在り方を一体として考えていく必要。

●ハードとしての住宅の提供のみならず、地域とつながる居住環境や見守り・相談支援の提供をあわせて行うことも重要。その際、空き地・空き家の活用やまちづくりの視点から各地方自治体において地域の実情に応じた対応を検討することが重要。

 

〇医療・介護・福祉サービス

ICTの活用により、サービスの質の向上、人材配置の効率化などを進めることが重要。

●電子カルテ情報及び交換方式等の標準化を進めるとともに、健康診断等で得られる個人の医療情報を、自分で管理・活用することができる将来像を見据え、個人・患者の視点に立ったデータ管理の議論も重要。こうした取組は、効率的な医療の提供や、患者の利便性の向上にもつながるとともに、創薬などの研究開発の促進にも資する。

●医療・介護提供体制改革などの社会保障制度基盤の強化については、「地域完結型」の医療・介護サービス提供体制の構築を進めるとともに、地域医療構想の推進などこれまでの骨太の方針や改革工程表に沿った取組を着実に進める必要。また、コロナ禍で顕在化した課題や得られた教訓も踏まえ、機能分化と連携の視点を一層重視した医療提供体制等の改革を進める必要。

 

これまで厚労省では、老健局が地域包括ケアシステムを管轄し、高齢者を対象とした医療と介護による街づくりを目指してきました。一方で社会・援護局は地域共生社会を担当し、障害を持った子どもや精神疾患の方、孤立・引きこもり等、あらゆる世代を対象としてきました。

私は再三主張しておりますが、老健局や社会・援護局といった組織の垣根を越えて、全世代型の医療・介護・福祉による街づくりを展開していくべきである。そのためにも、地域包括ケア基本法ないし地域共生社会基本法のような指針が必要だと考えています。

なお、政府が一億総活躍社会・人生100年時代・全世代型社会保障を掲げ、こども家庭庁の創設を決定するなど、高齢者に対する施策が手薄になっているのではないかとの声をよく聞きますが、政府・自民党は医療・介護・福祉の充実を通して年齢を重ねても安心して暮らしていける社会を目指す姿勢に変わりはありません。

 

 

提言1 高齢者だけでなく、小さなお子さん、障害や精神科疾患を持った方、孤独・孤立・引きこもり、貧困で悩む方も含めた地域共生社会を実現するため、厚生労働省の中に横断的な組織を設置する。

提言2  全世代型の医療・介護・福祉による街づくりに向け、地域共生社会基本法を制定して国の指針を明確にする。

わが国の自殺者数は、2009年には年間32,845人でしたが、10年ほど減り続け、2019年には20,169人とおよそ3分の2にまで減少、1978年から始まった自殺統計で過去最少となりました。

 

 

厚生労働省と警察庁によれば、自殺者数は2020年に前年比3.7%増とリーマンショック直後の2009年以来11年ぶりに増加に転じ、2021年も前年比+0.35%と下げ止まり傾向を強めています。

男女別にみると、男性が12年連続の減少なのに対し、女性は2年連続の増加となっています。

 

 

自殺の多くは多様かつ複合的な原因及び背景を有しており、様々な要因が連鎖する中で起きていると言われます。2021年は前年と比較して、経済・生活問題、家庭問題、その他、勤務問題が増加する一方、健康問題、学校問題、男女問題は減少しました。

 

 

自殺対策において、「ゲートキーパー」の存在が注目されています。ゲートキーパーとは、自殺の危険を示すサインに気づき、適切な対応(悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る)を図ることができる人のことで、言わば「命の門番」とも位置付けられる人のことです。

自殺対策では、悩んでいる人に寄り添い、関わりを通して「孤独・孤立」を防ぎ、支援することが重要です。1人でも多くの方に、ゲートキーパーとしての意識を持っていただき、専門性の有無にかかわらず、それぞれの立場でできることから進んで行動を起こしていくことが自殺対策につながります。

 

私は、ゲートキーパーが普及しないのは、ゲートキーパーになると24時間365日神経を研ぎ澄ましている必要がある点が大きいと思います。ゲートキーパーにも個人の生活がありますし、精神的に負担になりすぎないようゲートキーパーをフォローする仕組みを考えていくことが重要です。

また、忘れてならないのは、残された家族や関係者のフォローもしっかり行うことです。そこで私からの政策提言です。

 

提言1 「自殺総合対策大綱(平成19年6月8日閣議決定)」で重点施策の一つとしてゲートキーパーの養成が掲げられているが、例えば、複数のゲートキーパーが交代で担当する、電話だけでなくメールでのやり取りも活用して時間的な余裕を確保するなど、ゲートキーパー自身が孤立しないようにチームで自殺企図者を支える仕組みを盛り込む。

提言2 自殺で残された家族や友人等の関係者のケアやサポートを国の施策として制度化する。

 

〇相談窓口

●厚労省・こころの健康相談統一ダイヤル

電話0570-064-556(おこなおう まもろうよ こころ)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/kokoro_dial.html

●いのちの電話

電話0570-783-556(なやみ こころ)

https://www.inochinodenwa.org/

●よりそいホットラインつなぐ

電話0120-279-338(つなぐ ささえる)

https://www.since2011.net/yorisoi/

 

国は「地域共生社会」の実現を基本コンセプトに掲げ、「ニッポン一億総活躍プラン」(2016年6月2日閣議決定)や、「『地域共生社会』の実現に向けて」(2017年2月7日「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部決定)に基づいて、その具体化に向けた改革を進めています。

 

 

地域共生社会」とは、制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を目指すもの、と定義されます。

 

 

地域共生社会と似た概念として「地域包括ケアシステム」がありますが、これは、地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した生活を送ることができるよう、医療、介護、介護予防、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制(医療介護総合確保推進法2014年)と定義されています。


 

もともと高齢者から始まった地域包括ケアシステムが対象を拡げながら地域共生社会に発展したと捉えることもできますが、私は下図のように、地域共生社会というコンセプトがあり(地域共生社会には法的規定がありません)、それを支える制度として、地域包括ケアシステム、障害者自立支援制度生活困窮者自立支援制度地域子ども・子育て支援制度がある、と理解するのが正確で分かりやすいのではないかと考えています。

 

2019年12月26日に公表された、地域共生社会推進検討会「最終とりまとめ」では、「国等による財政支援は、介護、障害、子ども、生活困窮等の各制度における関連事業に係る補助について、一体的な執行を行うことができる仕組みとすべき」とされました。

私は国会議員時代、個別制度ごとの「縦割り行政」の弊害を訴え続けてきましたが、老健局と社会・援護局とがクロスすることはなかったと感じています。そこで、以下のような提言をしたいと思います。

 

提言1 高齢者だけでなく小さなお子さん、障害や精神科疾患を持った方、孤独・孤立・引きこもり、貧困で悩む方も含めた地域共生社会を実現するため、厚生労働省の中に横断的な組織を設置する。

提言2  全世代型の医療・介護・福祉による街づくりに向け、地域共生社会基本法を制定して国の指針を明確にする。