ジャンク品をネットオークションで捜していたとき、キーワード『日立』
で検索した商品の中に『パディスコ GFXO(TRK-5050)』というラジカセ
の中古品を見つけました。
商品の写真を見ると、相当古い製品らしく武骨なデザインだけど、造りの
しっかりした製品を思わせる外観で、状態も良さそうだったので興味を
そそられました。
出品者の「商品説明」には次のように書かれていました。
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FM AM SW 3波共受信確認済みです。
カセットテープは何故か動きません。
外観は経年のわりにはキレイかと思います。
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“カセットテープが動かないラジカセ”=“ラジオ”?
半年ほど前から「大きなスピーカーを装備して、電灯線で動作する音質の良い
ラジオが欲しい」と思い、それとなく捜していた所だったので、その要求に
ピッタリではないかと考え、製品の詳細を調べてみました。
ネットで検索したら、『初期ラジカセの研究室』 というホームページに
“昭和49年から55年までの日立のカタログ” がアップされていて、その中の
昭和49年(1974年)12月版~昭和51年2月版にこの製品が掲載されていました。
『Lo-D D-3500』とほぼ同時期に製造、販売されていたようです。
そのカタログによると、この製品の主な仕様は次の通り
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<パディスコ GFXO (TRK-5050)の仕様> (カタログから抜粋)
●2IC、トランジスター16石
●12cmφダブルレンジコーンスピーカー
●実用最大出力2,300mW(EIAJ 10%)
●電源DC:6V (単一×4)、AC100V 50/60Hz、カーアダプター(別売りD-70使用)
●大きさ 幅39.2×高さ21.9×奥行9.8(cm)
●重さ 3.8kg
★キャリングケース(別売りL-5050 \2,800)もございます。
¥42,800(本体・付属品とも)
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(“16石”という表現が懐かしい!)
スピーカーの形式と大きさに音の良さが期待できそうです。
出力もラジオとしては大きめです。
トーンコントロールは、高音(TREBLE)と低音(BASS)が個別に調整できる
本格的な構成になっているようです。
ということで、やや古すぎる感は否めないけど、私の捜していた『ラジオ』の
要求仕様を満たし、オークションの開始価格も予算の範囲内の妥当な額だった
ので、とりあえず開始価格で入札してみました。
なぜか他に入札者が居なかったので、そのまま開始価格で落札!
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商品着荷時の荷姿です。
段ボールが少し変形しているけど、十分な量の緩衝材が詰められていたので
商品の破損などはありませんでした。
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開梱して商品を取り出しました。
全体に埃をかぶったように少し白けています。
オークションの中古品には電源ケーブルが付いていない物も多いけど、
これには添付されていました(純正品ではなさそうですが)。
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上面パネルです。
出品者の商品説明の通り標準装備のワイヤレスマイクは無くなっているけど、
ロッドアンテナやキャリングハンドルは原形を留めています。
ツマミやボタン類も欠品や破損している所はありません。
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パソコン用のクリーナーシートなどで磨いてやったら、光沢が出るくらい
綺麗になりました。
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出品者の商品説明の通り、ラジオはFM、MW、SWの3波共、正常に受信
できるけど、カセットはモーター音が聞こえるだけで動作しません。
元々『ラジオ』として使うつもりなので、問題なし!
『ラジオ』としては実用上ほとんど問題が無いので、居間のテレビ(まだ
ブラウン管テレビ)の上に置いて、主にMWを、特に『NHKラジオ第1放送』
を中心に毎日聴くようになりました。
1ヶ月ほど経って、電源スイッチの接触状態が良くない事に気がついて、
修理(接点の洗浄)を試みる事にしました。
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裏のカバーを開けたところです。
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回路基板が2枚実装されていて、左の基板の下にはスピーカーが、
そして右の基板の下にはカセットのメカが実装されています。
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電源スイッチが実装されている右側の基板の取付ビスを外して、部品が
見えるように基板を裏返しました。
配線の長さに余裕がないので、この不安定な場所から動かせません!
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基板にズームイン。
左端の黄色楕円内のスライドスイッチが電源(SELECTOR)のスイッチです。
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90°右側に回って、スライドスイッチにズームイン。
上面パネルのレバーと連結するための黒いプラスチック製の部材がスイ
ッチに取り付けられていて、レバーの操作に連動してスイッチノブを
動かす構造になっています。
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連結用のプラスチック部材を取り外しました。
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元の位置に戻って、スライドスイッチ本体にズームイン。
密閉タイプじゃないので、接点に接点復活剤が直接届きそうです。
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接点復活・保護剤『ケイグ デオキシット DN5 (CAIG DeoxIT DN5) 』の
5%スプレー液をスライドスイッチの接点に直接スプレーして、スイッチ
ノブを前後に数回スライドさせました。
これで電源スイッチの修理は完了だけど、最初から動作していない
カセット部の事がふと気になり、ちょっと調べてみる事にしました。
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基板の右側にカセット部の裏側が見えます。
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カセットのメカ部にズームイン。
手前の右端にモーターがあり、一番奥のカセット操作ボタンの手前に
キャプスタンプーリー/フライホイール、そしてその間にリール駆動系
中継用のプラスチック製プーリーが2個あります。
しかし、それらを結ぶゴムベルトが完全に無くなっているようです。
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少しアングルを変えてズームイン。
それぞれのプーリーに、ゴムベルトの残骸がこびり付いています。
「もしかしたら、ゴムベルトを付け替えるだけで直るのではないか?」と
いう淡い期待が湧いてきました。
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モーターとモータープーリーです。
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手前の丸い大きな金属がキャプスタンプーリー/フライホイールです。
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アングルを変えて撮影。
右の2つのプーリーがリール駆動系の中継プーリーで、シャーシー裏側の
アイドラーに繋がって、録音/再生、早送り、巻き戻しの各動作に応じて
個々のアイドラーを経由して、対応するリールを駆動するようです。
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モータープーリーをモーターから取り外しました。
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プーリーを取り外したモーター本体です。
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溶けてモータープーリーにこびり付いているゴムベルトの残骸を
爪楊枝や、無水エタノールに浸した綿棒でクリーニングしました。
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(少しピンぼけですが)モータープーリーがとても綺麗になりました。
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モーターのシャフトに元通りに取り付けました。
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キャプスタンプーリー/フライホイールの軸受金具を取り外しました。
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キャプスタンプーリーも無水エタノールに浸した綿棒などで清掃。
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リール駆動系の中継プーリーも同様に清掃しました。
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ゴムベルトは、先日の“カセットデッキ『 Lo-D D-800 』の修理” で
『広正エレクトロニクス』 から購入し使用した残品の中の“No.43”が
偶然にもピッタリ適合しました。
ただし、“No.43”のサイズは広正エレクトロニクスの製品リストでは
『 95mm(直径)×1.0mm(幅)×130mm(折径) 』となっているけど、私の
実測値は『 80mm(直径)×0.8mm(幅)×130mm(折径) 』でした。
但し“No43”は現在『sold out(売切れ)』状態になっています。
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指で軽くモータープーリーを回してみたら、他のプーリーも回転しました。
この状態ではモーターの電源が入れられないので十分な確認はできません。
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キャプスタンプーリー/フライホイールの軸受金具を取り付けました。
これでカセット部の修理は完了のはずです。
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先のスライドスイッチの載った基板を裏返して元の位置に取り付けて、
スイッチの連結部材と操作レバーをビスで締め付けて連結しました。
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本体の裏カバーを取り付けて完成です。
電源スイッチの接触不良は完全に直りました。
ボリュームの接触不良(ガリオーム状態)が少しあったけど、
左右に数回グリグリ回してやったら、回復しました。
カセット部は、ゴムベルトを付け替えた事によって再生、早送り、巻き戻し
の各動作は一応正常に動作して、音も出るようになりました。
しかし、再生中に時々巻き取りリールが止まってオートストップしてしまう
事があり、早送り動作はどこかが空回りして止まってしまう場合があります。
また、巻き戻しは終点でオートストップが効きません(仕様?)。
ということで、『カセットプレーヤー』としては不完全な状態です。
今は修理する元気は無いし修理できる自信も無いので、最初の思惑どおり
『ラジオ』として使用する事にしました。
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最後に、私が10年以上前から愛用している2台のポータブル型ラジオ
『SONY SRF-R800V』(左)、『SONY SRF-M100』(右)と並べてみたけど、
思った以上に大きさが違うことに驚きました。
スピーカーの大きさで比較すると、SONY SRFの"約3cmφ"に対してGFXOは
"12cmφ"なので、直径で4倍、面積で16倍にもなります!
今後は、パディスコGFXOを居間に置いてメインのラジオとして使用し、
他の2台は、屋外用、屋内の移動時用、就寝時の睡眠導入用、非常時用
などに使い分けて愛用していくつもりです。
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<参考サイトへのリンク>
カセットデッキ『 Lo-D D-3500 』の修復 - Part1
カセットデッキ『 Lo-D D-800 』の修理-Part1
『初期ラジカセの研究室』>昭和49年から55年までの日立のカタログ
『初期ラジカセの研究室』(TOP)
広正エレクトロニクス㈱
-完-